第9話「物語の結末は誰も知らないからこそ」【ステラ視点】
「ねえ」
喋り疲れたカレットを部屋に運ぼうとすると、彼女のパートナーである精霊のピアが毛布を持って姿を現した。
「私を置いて、盛り上がりすぎ」
ピアが、いつ精霊石の外に出てしまったのか。
私もカレットも、それに気づかないくらい互いの話に夢中になっていたということらしい。
「カレットに触らないで」
カレットに触れようとすると、ピアがそれを阻んでカレットを運ぶのは自分の役目だと言ってカレットを抱きかかえる。
人間の私がカレットを運ぶよりも、随分と安定してカレットを運ぶことができるピアがとても頼もしく視界に映る。
「何? その嬉しそうな顔」
「しっかりとした絆で結ばれているなら、何も問題はないなって」
「当然でしょ? 私はカレットのパートナーなんだから」
カレットを運ぶ際、ピアが持って来てくれた毛布が廊下に落ちてしまわないように配慮する。
「でも」
ピアの声が弱くなり、彼女の中から自信が失われたのだとすぐに分かった。
「カレットの異世界転移の話は本物でも、カレットが昔は小鳥だったとか……」
「信じられないのも無理はない」
私たちが生きる世界に、どんな願いでも叶えられると噂に聞く魔法は存在しない。
私たちが生きる世界は、人間と精霊が手を取り合って成立する術しか残されていない。
「カレットの話、全部信じなくてもいいと思う」
「…………」
「カレットだって、自分の話を信じてもらうことの大変さを知って……」
「私は! カレットの話を信じられなかったのに、あなたがあっさりとカレットの話を信じたってことが許せないの! 悔しいのよ!」
そんなに大声を出して感情を曝け出してしまうと、ピアが抱えているカレットを床に落としてしまわないか心配になった。
けれど、絶対に落としたりはしない。絶対に彼女のことを守るという意志をピアから感じた私は、再び毛布番の役割を果たす。
「……シスカは、カレットのご主人様じゃないの?」
ピアの問いかけを繰り返すまでもなく、ピアが何を言いたいかってことはなんとなく察している。
自分が、カレットを異世界に転移させた魔女だったんじゃないかっていう可能性を秘めているってことを。
「私は答えを持っていない」
宿屋の中に視線を向けたり、すれ違う人や精霊たちに目を向ける。
やっぱり私が生きている世界に魔法と呼ばれていた力は存在せず、人と精霊が手を取り合って協力し合う世界に自分が存在していることを自覚する。
「そうね……、前世の記憶を引き継ぐ方が珍しいわよね」
「前世持ちになれるものならなってみたいけど」
前世の記憶を引き継いでいる人間がいないわけではない。
前世持ちと呼ばれている人たちが存在する世界だと噂には聞いていても、それは自分に該当しない。
そもそも前世の記憶を持っていたところで、今を生きる自分に何ができるのかって言われたら想像することすら難しい。
「けど? 何?」
「私がカレットのご主人様だったとしても、カレットの一時の喜びにしかならないんだろうなって」
「…………話が難しいわ。けど、シスカが前世の記憶を持って生まれ変わったところで、カレットは喜ばないってこと?」
人間って、難しい生き物だとピアは私に向かって言葉にした。
「素直に再会を喜べばいいじゃない」
私とピアが交わしている話は、あくまでたとえ話。
カレットと私に、なんらかしらの繋がりがあったんじゃないかっていう話。
たかが妄想に過ぎないのに、ここまで話が盛り上がるとか……あながち自分の前世は間違っていないのかなっていう妄想が広がっていく。でも。
「その再会は、精霊使いとして今を生きていくカレットには不要かもしれない」
まだ出会って一日そこらしか経っていないカレットのことを考える。
これが人を想うってことなのかとか、初めて抱く感情に戸惑う。
精霊と共に生きていくことができればいいって思っていた自分に変化が訪れているのを感じていると、ふとピアが抱えているカレットの寝顔が目に入った。
彼女が安らかに眠ることができていて、酷く安堵した自分がいるのはやっぱり前世が影響しているのかもしれない。
「その考えだけは、間違ってるって指摘してあげる」
カレットが宿泊する部屋の扉を開くと、ピアは私に一礼して部屋の中へと入った。
そして、カレットを寝心地の良さそうなベッドの上へと運ぶ。




