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空を飛べなかったから、旅することを選びました  作者: 海坂依里
第3章「本当はずっと不安だったけど、あなたが隣にいてくれたから夢を見れた」
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第3話「繋ぐ」

「シスカさんと、また外で食事をすることになったら、もっともっと幸せになってしまいますね」

「カレット」


 シスカさんが、テーブルの上にある食べ物を私が取りやすいように引き寄せてくれる。

 そんな気遣いをしてくれるシスカさんのことを凄いと思うし、そんな気遣いのできる彼女のことを私はとても尊敬する。


「世の中には、もっともっと美味しい物があるの」


 さっき会ったばかりの人とか、そういうことは関係ない。


「いっぱい食べよう? いっぱい稼ごう」

「はいっ」


 私は、私の居場所をくれたシスカさんのことを大切に想いたい。


「私はシスカ」

「よろしくお願いします、シスカさん」

「よろしく、カレット」


 名前で呼ばれるっていう、くすぐったさを恥ずかしいと思ったことがある。

 でも、名前を呼んでもらえると、その魔法のような音は一気に距離が縮まったような感覚を与えてくれる。


「くすっ」

「ふふっ」


 精霊使いと名乗ることを許された途端、こんなにも素敵な展開がやってくるなんて誰も想像していなかった。

 想像できないことが起きたからこそ、二人きりという特別な空間を与えてくれた精霊たちに感謝したい。


「今度は、私からシスカさんの手を引きたいなと……」

「カレット? どうかした?」


 陽が落ちる時刻までやって来ると、窓向こうの世界が新しい景色を私の視界に運んでくる。


「ああ、光精霊が夜道を照らす明かりになってくれる時間……」


 世界は、月と星の灯りを頼りに生きていくしかできなくなる。

 それだけ深い闇が訪れる時間帯がやって来るのに、光精霊と契約を結んだ精霊使いは夜を照らすために行動を始める。


「って、カレットの街にも、光精霊の灯りがあるはず……」

「お城っ!」

「城ねっ!」


 お城と叫んだのは、私。

 城だと叫んだのは、精霊石で眠っていたはずのピア。

 私が窓向こうの景色に目を奪われたのは飛び交う光精霊の美しさに感動したからではなく、遠くに物語に出てくるようなお城が現れたからだった。


「お城って、お姫様が暮らしている場所ですよね!」

「国営都市じゃないんだから、お姫様がいるわけないでしょう」


 さっきまでシスカさんと過ごす時間を気遣ってくれていたとは思えないくらい、ピアは辛辣な言葉を投げつけてくる。


「だって、あんな立派なお城に誰が住むっていうんですか」

「……お金持ち」

「うっ」


 私は水の[[rb:専門職社 > オリエル]]が置かれている街、アクアズフロウトから出たことがないから無知なところがあるのは認めよう。でも、ピアの返しも碌な返しではないなと思った。


「ヒントは、あれかな」


 シスカさんが、城を囲っている薄暗そうな雰囲気の森を指差す。

 何も怖いことは起こらないとは思うけれど、一人では足を進めることができそうにないくらい光が少なく見える。


「光精霊が、森の中には入らない……」


 森だけは、薄暗いままでいい。

 森に光はいらないと言わんばかりに、光精霊は街を照らすことに勤しんでいく。


「あの城に近づかせないためか」


 ピアの言葉を受けて、私は立ち並ぶ木々を通り越して、森の先に佇む城を視界へと入れた。

 空まで続くんじゃないかと思わせるくらい高い塔が併設されていて、何か大切なものを守っているような印象さえ与えてくる。


「……やっぱりお姫様」

「多分、違うわよ」


 私の心臓は、きっといくつあっても足りないくらい。

 それくらい世界は感動と驚きに満ち溢れていて、心臓がドキドキすることもたくさん待っているんじゃないか。大きな期待が膨らんでいくのを感じる。


「あの城は、陽の専門職社(オリエル)

「……専門職社(オリエル)!?」


 私とピアの声が、重なった。

 一言一句違えることなく、重なった。


「もともと貴族が住んでいた城を、陽の専門職社(オリエル)が買い取ったの」

「買い取った……って、その巨額の富はどうしたのでしょうか……」


 水の専門職社(オリエル)は、レンガを積み上げて建てられた極々一般的な建物と造りは同じ。

 一方の陽の専門職社(オリエル)は、貴族が住んでいたという言葉通りの豪華絢爛さを誇っていた。


「国営都市は残ってるけど、貴族階級はなくなったから安く買えたんじゃないかな」

「貴族階級は廃止されても、世の中にはお金持ちという人たちが存在していると思うんですけど……」

「水の専門職社(オリエル)って、貧乏だったのね……」

「ピア!」


 まさか貴族が住んでいた城を、そのまま専門職社が買い取ってしまったという事実に唖然としてしまった。

 世界は精霊の存在があるからこそ成立しているとはいっても、ここまで賃金格差があるとは思ってもいなかった。


「ってことは、明日は、あの城に行くってことね」

「夢が膨らみますね」


 水の専門職社(オリエル)の悪口は、ここまで。

 まるで舞踏会が開催されるような城に向けて、私とピアは夢を馳せる。


「無事に辿りつけたら、ちゃんと治療はしてもらえるんだけど……」


 しっかりもののシスカさんが、なぜか判断に困るような表情をしていた。


「ピアの戦力だけで、あの森の中に入っていく勇気ある?」

「え?」

「光精霊が寄りつかない森ってことは、入ってくるなって意味でもあるの」

「って、森を通らなかったら、城まで辿り着かないじゃない!」


 森の中では何が出てくるか分からない恐怖があるということを、シスカさんが遠回しに教えてくれる。

 初めましてと恐怖が混ざり合って、やっぱり私の心臓は嫌な汗をかき始める。


「だから、来るなってこと」

「どうやって、陽の専門職社(オリエル)に依頼するのよ……」

「陽精霊の精霊使いが街に出てきたところを突撃する」

「え?」


 心臓を落ち着かせていく。

 自分の右手を心臓に当てて、落ち着け、落ち着けって心臓をなだめていく。


専門職社(オリエル)に所属する人たちだから、悪い人たちはいない。困っている人に、力を貸してくれるってことは保証するけど……」

「それなのに、専門職社(オリエル)には来るなと……」

「そういうこと」


 お城で開催される舞踏会なんて、夢のまた夢ということらしい。


「……何を守りたいのでしょうか」


 ぽつりと呟いた一言。

 何も可笑しなことは口にしていないと思っていたけれど、私の一言はシスカさんとピアの注目を集めた。

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