第2話「平和な世界で迎える朝」
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拝啓 魔女様
私は今、人間と精霊が共存しながら生きている世界で生きています。
人間は、自分たちには無い力を必要としたらしいです。
自分たちの生活を豊かにするための力が欲しかった。
その願いを叶えてくれたのは魔女様ではなく、自然界を生きる『精霊』と呼ばれる存在でした。
彼女らは人間という種族に力を貸してくれました。
何故なら、この世界を生きる人々は精霊が生きる自然界を大切に育ててくれたから。
精霊は、その恩を返すことにしたそうです。
魔女様。
「どんな人生を送れば、魔女様は笑ってくれますか?」
元 白い小鳥より
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届かない手紙を、書き貯める。
どんなに力を込めて筆圧を濃くしても、書いた文字は時の流れと共に薄れてしまう。
それを、ほんの少し残酷だと感じた。
でも、薄れていく文字に感謝の気持ちと、大きな幸福を感じられるほど、私は深い眠りに身を預けることができるようになった。
「カレット! カレット! 起きて! 起きなさいっ!」
「ん~……」
戦争の最中だったときは、いつ死んでも可笑しくない状況でどうしても眠りが浅かった。
私が羽を痛めた原因となった銃弾から逃げ回ることも、銃声の音に怯えることもない平和な世界で今日も深い眠りの世界へと誘われていく。
「もう少し……寝かせてください……」
平和な世界で生きることを許された私は、二度寝という幸福を覚えてしまった。
温かくて柔らかな布団に身を預ける幸福感は、ますます心地よい気分へと誘ってくれる。
「何時だと思っているのかしら」
聞き慣れた声が、私のことを呼ぶ。
でも、その聞き慣れた声が、不機嫌そうな低音だということに私はまだ気づいていない。
「何時って……まだ朝……です……よ」
ふかふかのベッドというものは、どうしてこんなにも人を安らかな気持ちにさせてくれるのか。
こんなにも人を熟睡させてくれる寝具が揃っている世界で、私は落ち着いた睡眠を経験させてもらう。
「本当に、まだ朝だと思っているの?」
瞳を開くと、そこには宙を浮くことを当たり前に思っている黒いもふもふが。
「ピア……おやすみなさ……」
「これが最後の警告よ」
まるで物語の中に登場するような、魔女の相棒として活躍する艶やかな黒い毛並みの猫が私の身体を揺さぶってくる。
「起きなさい、起きなさい、起きなさいっ!」
彼女の手には、小瓶が一つ。
小瓶の中には光り輝く金色の石と、私と大切な人を繋ぐ唯一の白い石が一個ずつ。
石と石がぶつかり合い、石が転がる度に小瓶と石が触れて音を鳴らす。
本来なら不快に聞こえる音かもしれないけど、その音が気にならないくらい私の意識は遠く彼方へと追いやられている。
「大切な物でしょ?」
うっすらと視界に入る真白の石は、魔女様が持たせてくれた。
私が戦争のない平和な世界に転移する際に、きっと役に立つからと。
今日も魔女様と私を繋ぐ唯一の石が、この世界に存在することに安堵する。
「この時計が見えていたら、返事なさい」
眠たい目を擦りながら、なんとか懐中時計が示す時刻を見ようと身体を起こす。
「まだ二時……深夜に寝て文句を言われることはなぃ……です……ね……」
再び瞼が閉じかけている私は身体を横にして、眠りの世界へと向かおうとした。
二度寝というものは、どうしてこんなにも心惹かれるものなのか。
「カレット」
彼女なりの重低音の声が聞こえてきたかと思うと、彼女は部屋のカーテンを勢いよく開けた。
そして、誕生日の贈り物としてもらった懐中時計は人質に取られてしまった。
彼女は窓の向こう側に懐中時計を投げ捨てようと、時計を左右にゆらゆらと揺らして私を脅してくる。
「これの、どこが深夜なのかしら?」
朝の光が窓から差し込み、部屋の中は陽の光の恵みを受けて、きらきらとした輝きをもたらす。
あまりにも眩しすぎて、目を閉じていても太陽の恵みを感じ取れるくらいの光の量に驚かされた。
「あ、さ……?」
想像していた以上の太陽光が私に襲いかかり、あらためてもう一度目を擦る。
開いた瞳で、彼女がカーテンを開けてくれた先の窓の外をよーく見る。
「朝じゃないわ、今は昼の二時」
夢の中にいたはずの私は、その言葉をきっかけに現実の世界へと引き戻された。
「お昼……」
「自分の目で、時計の針を確認すること」
真っ黒な毛並みの彼女は、大きな瞳でわたしの飼い猫の顔をじっと見つめてくる。
「そうですか、お昼……って、朝はどこにいったんですか」
さっきまで眠かったはずなのに、人間心の底から驚くと一気に覚醒するものだと学ぶ。
「起こしてくれて、ありがとうございます!」
始めから懐中時計を窓の向こう側に投げるつもりなんてなかった彼女は、懐中時計が傷つかないようにゆっくりとテーブルの上に置く。そのゆったりとした動作に憧れを抱きつつも、寝坊をした私に穏やかな時間を過ごす資格はない。
「急ぐので、ピアも準備をお願いします」
「はいはい」
「着替えは覗かないでください」
「忠告する暇があったら、さっさと支度しなさい」
ベッドから飛び起きて、クローゼットの中から適当な服を引っ張り出す。
都会に住むお嬢様なら服装にもこだわるべきかもしれないけど、私が最も優先すべきは動きやすさと快適さ。異世界から来た私のために用意してくれた服を着るために、ボタンへと手をかけたときのことだった。
「…………」
一分一秒でも早い方がいいのは分かっていても、私は自分に備わった左右五本の指を毎朝飽きることなく視界に入れてしまう。
(今日も、私は人間……)
指を曲げて、指を伸ばして、指の曲げ伸ばしを繰り返す。
服に袖を通すという人間ならではの行動ができている自分に、いちいち感動しながら部屋を飛び出す準備を整える。
「……ピア」
「ん? 待っててあげるから、早く支度……」
着替え終わった私は、空中を心地よさそうに浮遊するピアを手招く。
「カレット? どうしたの?」
不思議そうに私の顔を覗き込んでくれる彼女。
覗き込んでくれるってことは、彼女は私のことを心配してくれているということ。
幼い頃から、彼女に構ってもらうのが私は好きなようだった。
「少し感傷的になっちゃいました」
彼女が、今日も私の隣にいてくれることが嬉しい。
だから、私は大丈夫って笑みを彼女に向ける。
あなたがいてくれるから、今日も私は強くいられる。
口角を上げて、何も起きていないよって強い気持ちを笑顔に込めていく。




