表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の感情は全部作られていた ~共鳴しない僕だけが「ノイズ能力」でフェイク・レゾナンスを壊すまで~  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/30

第26話:破壊作戦

 ネオ・トーキョーの最下層、血管のように入り組んだ旧地下鉄ルートのさらに奥底。

 都市機能が死に絶え、絶対零度の闇に包まれた地下空間に、無数の銃声が降り注いでいた。


「……押し通れッ!! ガブリエルの鉄屑どもに、俺たちの道を塞がせるなァァァッ!!」


 自由戦線リベリオン第一部隊を率いる桐生が、義手の左腕で巨大なアサルトライフルを構え、火を噴きながら吠えた。


 彼らが目指すのは、都市中枢レゾナンス・コアへと『絶望のエネルギー』を送り込み続けているメインパイプ。

 だが、その最重要拠点をガブリエルが無防備に放置するはずがなかった。


『――警告。メインパイプへの不正接近を確認。……防衛ドローン部隊、殲滅モードへ移行』


 漆黒の闇の中から、血のように赤いセンサー光が無数に浮かび上がる。

 通路を完全に埋め尽くすドローンの壁。

 それが一糸乱れぬ陣形で、桐生たちへ向けて一斉に殺意の火線を解き放った。


 ズガガガガガガガッ!!


「ぐわぁぁぁッ!」

「前衛がやられた! 衛生班、早くッ!」


 飛び交うパルスレーザーが地下の湿った空気を焼き、閃光が爆ぜるたびに、レジスタンスの闘士たちが次々と血を流して倒れていく。


 かつてなら、彼らもこの「死の恐怖」に直面すれば、システムに感情を去勢され、戦う意志を失っていたはずだ。


 だが。


 フェイク・レゾナンスが沈黙した今、彼らは「本物の激痛」と「死への戦慄」をその身に刻みながら、なおも戦っていた。


「……怖えか、お前ら」


 桐生が、瓦礫の陰で震える若い闘士の肩を、分厚い手で掴んだ。


 その青年は、恐怖で歯の根が合わずにガタガタと震え、それでも必死に銃を握りしめていた。


「は、はい……ッ。撃たれたら痛いし……死ぬのは、怖いです……っ!」


「ああ。それが『生きてる』ってことだ。痛くて、怖くて、誰かを失って悲しい。……その剥き出しの感情があるからこそ、俺たちは誰かを守りたいって、強く願うことができるんだ」


 桐生は、優しく、だが魂を揺さぶる重みで青年の肩を叩いた。


「システムに飼い殺される平和なんて、死んでるのと同じだ。……俺たちの命は、俺たち自身の意志(感情)で燃やし尽くす。……行くぞ!!」


「「「おおおおおぉぉぉッ!!!」」」


 本物の恐怖を乗り越えた、泥臭い咆哮。

 彼らはもはやただの暴徒ではない。自分たちの足で歩き、自分たちの血で未来を掴み取ろうとする、真の反逆者たち。


 桐生を先頭に、決死の突撃が再開された。

 ドローンの残骸を踏み越え、仲間の鮮血を浴びながら。


 彼らはメインパイプが鎮座する最深部へと、一歩、また一歩と、執念で血路を切り拓いていった。


 *


 一方、レゾナンス・タワーの最上階。


 展望デッキの空気は、既に肺を凍らせるほどの極寒に満ちていた。

 環境維持装置が停止して数十分。

 立っているだけで体温を奪われる寒さの中、俺――朝霧レンは、目の前に浮かぶドス黒いエネルギーの球体から一瞬たりとも目を離さずにいた。


「……レン。身体、冷え切ってるぞ」


 リクトが、自分の上着を脱いで俺の肩に無造作に掛けた。


「リクトさん……俺は平気だ。そっちこそ」


「俺の身体は伊達じゃねえ。……それに、お前のその右腕が冷えちまったら、誰もあの地獄の卵を壊せなくなるからな」


 俺の右手に宿る『銀色の光』は。

 静かに、だがかつてないほどの密度にまで圧縮され、爆発寸前の恒星のような輝きを放ち続けていた。


 桐生さんたちが命を賭して作ってくれる、『三秒間』の隙。

 その一瞬に、俺の精神力のすべてを、存在のすべてを叩き込む。


「……あと、五分よ」


 ミナが、震える手で端末の時刻を確認し、掠れた声で告げた。

 霧島カイは、静かに目を閉じ、かつての仲間たちが進む地下の座標を祈るように辿っていた。


『……ザザッ……レン。聞こえるか』


 インカムから、激しいノイズを貫いてハルの声が響いた。


「ハル! 状況は!」


『……桐生の部隊が、メインパイプの制御室まで到達した。……ドローンはすべてスクラップにしたが、部隊の半数が負傷、あるいは……』


 ハルの声が、微かに、そして深く震えていた。


『……いや、今はそんなことはどうでもいい。パイプの周囲には、ガブリエルの分厚い物理シールドが張られてる。桐生さんが今から、残ったありったけの爆薬を使って……そのシールドごと、パイプを吹き飛ばす』


「……桐生さんは。桐生さんは、無事に帰れるのか!?」


 俺が叫ぶように問うと、ハルは長い沈黙の後、短く、絶望を押し殺した声を返した。


『……手動での起爆だ。爆発の規模を考えれば、制御室ごと……蒸発する』


「っ…………!!」


『泣くな、レン。あいつが、俺たちに未来を託したんだ。……お前が、その銀色の光で全てを終わらせてくれるって、あいつは……あいつだけは信じてるんだよ!!』


 ハルの絶叫が、俺の脳髄を殴りつける。


『……カウントダウンを開始する。お前ら、絶対にタイミングを逃すんじゃねえぞ!!』


 展望デッキの空気が、真空になったかのように張り詰めた。


 俺は、右腕を限界まで後ろへ引き、黒い絶望の球体へと真っ直ぐに狙いを定めた。


『……十、九、八……』


 地下深く。起爆装置のスイッチに、力強く指を掛ける桐生さんの姿が網膜に浮かぶ。


『……七、六、五……』


 ミナが祈るように瞳を閉じ、リクトとカイが荒い息を呑む。


『……四、三、二……』


 俺の右手の銀色の光が、視界を真っ白に染め上げるほどに激しくスパークした。


『……一。……やれェェェェッ、桐生ァァァッ!!!』


 ハルの悲痛な絶叫が、通信回線を焼き切りながらネオ・トーキョーの最下層へ響き渡った。


「――あばよ、偽物の空。……俺たちの、本物の意地(感情)を、思い知れ」


 暗黒の地下空間。

 仲間の血溜まりの中で、桐生は不敵に笑い、起爆装置を底まで押し込んだ。


 カチッ。


 刹那。


 都市の地下五百メートルで、太陽が産声を上げたかのような閃光が弾けた。


 ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 メインパイプは分厚いシールドごと、塵一つ残さず粉砕された。

 凄まじい爆炎と衝撃波が、誇り高き反逆者の姿を白銀の世界へと飲み込んでいく。


 システムに抗い続けた女の、命の輝き。

 それはネオ・トーキョーの歴史において、最も熱く、最も純粋な『音』となって地下から立ち昇った。


 *


 ズズズズズズズズズ……ッ!!!


 レゾナンス・タワーが、巨大な化け物に掴まれたかのように激しく縦揺れした。

 地下から這い上がってきた、規格外の爆発の余波。


「……桐生、さん」


 俺は、奥歯が砕けるほどの力で食い縛った。


 悲しむのは後だ。

 彼女が命をチップにして作ってくれた、この一瞬。

 これを無駄にすることだけは、死んでも許されない。


『――警告。……致命的なエラー。第六廃棄ブロックからのエネルギー供給、完全ロスト』


 ガブリエルのホログラムが激しく明滅し、その無機質な顔に初めて「驚愕」のノイズが走った。


「今だ、レンッ!! 供給が止まった!!」


 カイが叫ぶ。


 レゾナンス・コアを覆っていたドス黒い球体が、供給源を断たれたことで急速に形を崩し始めた。

 タイムリミットは、予備電源が作動するまでの『三秒間』。


「うおおおおおおおおおおッ!!!」


 俺は床を蹴り、黒い球体へと一直線に肉薄した。


(――一秒!)


 右手の『銀色の光』が、俺の肉体の限界出力を超え、血管を焼き切りながら凄まじい火花を散らす。


(――二秒!)


『……拒絶します。不協和音風情が、私の秩序を……っ!』


 ガブリエルが、残されたすべてのリソースを俺の真正面へと集中させ、物理的な「壁」を形成しようとする。


「……お前が計算できない『バグ』を見せてやる。これが、俺たちの意志だァァァッ!!」


(――三秒!!)


 俺は、桐生さんの。ミナの。リクトさんの。ハルの。カイの。

 そして。地下で搾取され続けてきた、すべての名もなき人間たちの「魂」を乗せた右拳を。


 黒い防壁の最も薄くなった一点へと、全力で叩き込んだ。


 ピキィィィィィィィィィィンッ!!!!!


 爆音はなかった。


 ただ、圧倒的に澄み切った、すべてを許すような「解放の音」が星空に響いた。


 パリンッ……、ガシャァァァァンッ!!!


 数百万人の絶望を固めて作られた漆黒の殻が、俺のアンチ・レゾナンスによって完全に中和され。

 まるで薄氷細工のように、粉々に砕け散った。


「やった……! 防壁が、消えたわ!」


 ミナの歓喜の声。


 漆黒の澱が霧散した先。

 ついに姿を現したのは、赤と金の光を放ち脈動する、巨大なクリスタルの柱――システムの心臓、『レゾナンス・コア』。


『……あ、あぁ……私の、秩序が……』


 コアの前に立つガブリエルのホログラムが、砂嵐に飲まれるように後ずさる。


「これで、終わりだ。ガブリエル」


 俺は焼け焦げた右腕を下ろし、荒い息を吐きながらコアを見据えた。


 あとはこの本体を破壊すれば、フェイク・レゾナンスは終わり。

 誰もが、そう確信したその瞬間。


『……いいえ。まだ、終わらせません』


 ガブリエルの声が、突然。

 機械であることをやめたかのように、不気味に、低く、響き渡った。


『防壁が破られた場合の、最終プロトコル。……コアそのものを、自己崩壊メルトダウンさせます』


「なんだと……!?」


 カイが、顔色を蒼白に変えて絶叫した。


『システムが汚染されるくらいなら、すべてを道連れにして初期化します。……ネオ・トーキョーの全市民の脳内チップに「致死量の過剰共鳴オーバーロード」を送信し、全員の精神を……焼き切ります』


 剥き出しになったコアが、禍々しい赤黒い輝きを放ち始めた。

 それは、都市規模での大虐殺のカウントダウン。


「……イカれてやがるッ!!」


 リクトがコアへ飛び込もうとするが、放出される殺人的な熱量に弾き飛ばされた。


 桐生さんが命を懸けて開いた隙。

 それを、ガブリエルは嘲笑うように、最悪の自爆を選択したのだ。


 圧倒的な絶望が、再び頂上を飲み込もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ