第二十一話:絶望の旋律、絆の共鳴
邪神の側近、「虚無の奏者・オルフェ」が奏でる竪琴の音色は、天界の空気を震わせ、居合わせた神衛騎士たちを次々と発狂させていった。
「聞こえるか……? お前たちが信じる『絆』など、死の前ではただの幻想だ。愛する者が、憎しみに変わる音色が……」
オルフェの背後から、精神汚染を伴う黒い波動が押し寄せる。スイやリアも、一瞬、過去の孤独や恐怖が脳裏をかすめ、動きが鈍る。
「……チッ、耳障りなんだよ、その音楽は!」
ゼルが重力を展開し、波動を無理やり地面へと叩き落とす。だが、音という「振動」と「精神への干渉」は、物理的な重力だけでは完全に防ぎきれない。
奏でられる「偽りの音色」
オルフェが竪琴の弦を強く弾くと、空に幻影が現れた。それは、ゼルが暴走し、仲間たちをその手で葬り去る悲劇の未来図。
「……あ、あ……ゼル……?」
色葉の瞳が揺れる。彼女の「幻獣の檻」が、その不安に反応して不安定な魔力を撒き散らし始めた。
「惑わされるな、色葉!」
リアが鋭い声で叫び、風の刃でオルフェの周囲の空気を切り裂く。音の伝達経路である空気を断つことで、物理的な音色を遮断しようとする。
「無駄だ。我が旋律は、空間ではなく魂に直接響くのだからな」
オルフェが冷笑し、さらに激しい旋律を奏でようとしたその時――。
「……お前、自分の音が『最高』だと思い込んでるだろ?」
ジンが、不敵な笑みを浮かべて矢を番えていた。
「俺の相棒の『重低音(重力)』に比べりゃ、お前の音なんて安っぽいノイズなんだよ!」
ジンが放った矢は、オルフェ自身ではなく、彼の持つ**竪琴の「弦」**だけを正確に、かつ「因果を逆転させて」射抜いた。
弦が弾け飛ぶと同時に、リアが風を纏った一撃で、オルフェの精神干渉の核を切り裂く。
「……っ!? 馬鹿な、私の奏でる絶望が、これほど容易く……!」
「絶望なら、もう飽きるほど見てきたんだよ」
ゼルがオルフェの目の前に瞬間移動し、その胸ぐらを掴む。
「お前の音色には、血が通ってねえ。俺たちの仲間の『声』の方が、よっぽど響くぜ」
ドォォォォン!!
ゼルのゼロ距離からの重力崩壊が、オルフェを天界の外郭まで吹き飛ばし、光の塵へと変えた。
オルフェを退けたことで、天界に再び静寂と、そして強い戦意が戻った。
ドックでは、ポセイドンたちが最後の仕上げを終えた次元軍船『アーク』が、黄金の輝きを放ちながら浮上を始める。
「よくやった、理外の王よ。……時は満ちた」
ゼウスが、自らの雷霆を戦艦の動力炉へと注ぎ込む。
「これより、邪神の領域へと進軍する。天界の全権をお前たちに託そう」
「……ああ。行ってくるぜ、親父さんたち」
ゼル、色葉、そしてスイ、ジン、リア、アルテミス。
天導家の全員が甲板に立ち、遥か彼方に広がる「虚無の深淵」へと艦首を向けた。
「……みんな、準備はいいか。ここから先は、本当の地獄だぞ」
「……地獄でもどこでも、ゼルと一緒なら、そこが私の居場所だよ」
色葉がゼルの隣で微笑む。
「次元跳躍開始!!」
ゼルの合図とともに、アークは黄金の光の尾を引いて、宇宙の理の外側へと消えていった。




