第十九話:孤高の証明、神々の沈黙
天界の評議会「聖域円卓」では、強大すぎるゼルの力を危険視し、彼を幽閉すべきだという議論が紛糾していた。
「奴の力は邪神を惹きつける。あれはもはや守護者ではない、天界を壊滅させる種火だ」
ヤハウェの冷徹な断定に、評議会は凍りつく。
その様子を影で聞いていたアルテミスは、作戦会議の場で拳を握りしめ、天導家の面々に提案した。
「ゼル様。……次の邪神との戦い、天界の軍勢を一切借りず、私たちだけで挑みませんか? 誰の助けも借りずに圧倒的な力を見せれば、あの老害……失礼、神々も認めざるを得なくなるはずです!」
「……俺たちだけで、か。いいぜ、神様に借金を作るのも癪だからな」
ゼルは不敵に笑い、仲間の目を見た。スイ、ジン、リア、そして色葉。彼らの瞳に迷いはなかった。
天界の外郭、虚空の裂け目から現れたのは、邪神の幹部、「終焉の断罪者・タナトス」。
無数の黒い刃を操り、触れるものすべての「概念的な寿命」を強制的に削り取る死の神だ。
「……神々の援護もないのか。見捨てられたか、理外の王よ」
タナトスが嘲笑い、巨大な黒い鎌を振り下ろす。その一振りで空間が腐食し、後方で監視していた神衛騎士たちが恐怖に身を竦ませた。
「見捨てられたんじゃない。……俺たちが、お前を一人で片付けると決めただけだ!」
ゼルの咆哮とともに、戦闘が開始された。神々の援護がない分、彼らの連携はかつてないほど鋭さを増していた。
ジンが「因果の矢」でタナトスの刃の軌道をミリ単位で逸らす。
リアがその隙を突き、嵐のような速度で懐へ飛び込み、神殺しの剣を叩き込む。
スイが絶対零度の障壁を築き、死の波動が色葉に届くのを一分一秒たりとも許さない。
アルテミスが月光の守護を全開にし、仲間の微かな疲労すら瞬時に癒やし続ける。
「……な、何だ、この動きは!? 神格化もしていないただの人間どもが、なぜ私の鎌を凌駕する!?」
タナトスが驚愕する。
ゼルは**『黒き雪の舞う日にて』**を、攻撃ではなく「仲間の重力負荷をゼロにし、タナトスの質量のみを無限に増大させる」精密な空間操作として展開していた。
「……色葉、仕上げだ!」
「……うん。おいで、私の家族! 『零の理・月蝕の魔狼』!!」
色葉が虚空を掴む。召喚された魔狼はタナトスの「死の概念」そのものを物理的に喰らい尽くし、その存在を世界の理から消去していく。
「……ば、馬鹿な……。たかが数人の『出来損ない』たちが、神の軍勢すら凌ぐ力を……!」
「……俺たちは出来損ないじゃない。……俺たちは、天導家だ!!」
ゼルの重力が臨界点を突破し、タナトスを事象の地平線の彼方へと押し潰した。
静寂が戻った戦場。遠くから監視していた神々は、言葉を失っていた。神々の助けを一切借りず、自分たちすら手こずる邪神の幹部を、完璧な連携で葬ってみせたのだ。
ゼルたちが神殿に帰還すると、そこにいたのは冷たい蔑みの視線ではなく、神々による「全権の礼」だった。
「……見事だ」
最初に口を開いたのは、厳格な法を重んじるアテナだった。
「認めざるを得ません。彼らはもはや『守られる対象』ではなく、我らと並び立つ『世界の守護者』です」
ポセイドンも三叉槍を静かに下ろし、ゼウスが玉座から立ち上がった。
「天導ゼル、そしてその仲間たちよ。お前たちの力、そして絆が邪神を凌駕することをこの目で確かめた。……これまでの非礼を許せ。今日この時を以て、天界全軍はお前たちの指揮下に入ることを許可する」
「……へぇ、物分かりがいいな」
ゼルは肩をすくめるが、その瞳には仲間への誇りが満ちていた。
こうして「天導家の新世代」は、ついに全神々の承認を得て、邪神の本拠地へ挑む権利を手にしたのである。




