第十四話:空座の主
天界の最上層に位置する「聖域円卓」。
そこには、世界の理を司る十柱の神々が鎮座していた。
万物を統べるゼウス。
太陽を抱くアマテラス。
英知のアテナ、神速のヘルメス。
冥府を統べるハデスに、大海の主ポセイドン。
日本神話の祖たるイザナギとイザナミ。
絶対的な一神ヤハウェ。
そして、宇宙の根源たるアメノミナカヌシノカミ。
その凄まじい神気の中心に、かつて空席だったはずの「黒い椅子」が一つ、重々しく顕現していた。
「……面白い。数多の神々がその座を争い、誰も座れなかった『第十一の座』。そこに、人間の血にまみれた『出来損ない』が手をかけるというのか」
ハデスが、冷たい鎌の刃を弄びながら嘲笑う。
「ハデス、無礼ですよ。彼は私とゼウス様の血を引く者。……同時に、人間界で『愛』という不確かな理を学んだ、新たな変異体なのですから」
アマテラスが静かに諭すが、その瞳は期待よりも、試練を課す親としての厳しさに満ちていた。
「理屈はどうでもいい。……俺は、あんたたちと肩を並べに来たんじゃない」
ゼルが色葉の手を引き、円卓の結界を土足で踏み越える。
その瞬間、ヤハウェから放たれた「絶大的な威圧」がゼルの肩に数万トンの重圧としてのしかかった。
「……ッ!」
「跪け。神の座とは、奪うものではなく、選ばれるものだ」
ヤハウェの無機質な声が響く。
「跪くのは……お前らの方だ」
ゼルの能力**『感情の終着点』**が、円卓に満ちる神々の「傲慢」と「静かな殺意」を強制的に吸い上げ始めた。かつてないほど巨大な負の感情。それがゼルの重力魔法を変質させる。
「黒き雪の舞う日にて……極致・重力崩壊」
ゼルの周囲に舞う雪が、光さえも飲み込む漆黒の結晶へと変わる。
ヤハウェの圧力を、ゼルはその身で受け流すのではなく、さらに大きな重力で「圧し潰し返した」のだ。
「俺が座るのは、あんたたちの仲間になるためじゃない。……色葉や、スイやジン、リア……そしてアルテミス。俺の隣にいるこいつらが、『神の子』なんて言葉で縛られずに笑える世界に変えるためだ!」
ドォォォォン!!
円卓の中央に、第十一の椅子が深く沈み込み、固定される。
ゼルは色葉を隣に立たせたまま、その漆黒の椅子に深く腰を下ろした。
「天導ゼルだ。……この席は、今日から俺の『理外』が支配する」
神々の沈黙。
ゼウスが、不敵に口角を上げた。
「……よかろう。理外の王、天導ゼル。ならばその椅子、己の血で守り通してみせよ。……まだ一席、空いているのだからな」
その瞬間、ゼルの隣に立つ色葉の首筋の刻印が、微かに光を放った。
それは最後の空席――「第十二の座」が、彼女を呼んでいる合図だった。




