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夢と星空  作者: Social Club
Season 2:彩華零落編
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第十一話:愛別離苦の果て、重力と虚無の衝突

月が狂おしいほどに輝く天空の庭。地上から数千メートル、空気が極限まで薄く、静寂が支配するその場所で、天導ゼルと紅月色葉は対峙していた。


「……色葉」


ゼルの声は震えていた。能力『感情の終着点』が色葉の心を読み取ろうとするが、返ってくるのは色彩を塗りつぶした「真黒な虚無」と、触れるものすべてを拒絶する「絶対的な孤独」の奔流だった。


「遅かったね、ゼル。私はもう、君が知っている『紅月色葉』じゃない。組織は私を世界の再構築のための『核』にしたんだ。汚れきったこの世界を、一度無に還すためのね」


色葉が静かに手を掲げる。その背後の空間が歪み、漆黒の魔力から巨大な「獣」の四肢が這い出してきた。

能力:『零の理、幻獣の檻』


「……壊して。ケルベロス、リヴァイアサン」


色葉の呟きと共に、虚無を纏った幻獣たちが咆哮を上げる。三首の巨犬・ケルベロスが地を駆け、大気を泳ぐ巨大な水竜・リヴァイアサンが天空を覆った。

「魔法が食われる……!?」


ゼルは得意の雷を刀に纏わせ迎え撃つが、ケルベロスの吐き出す漆黒の炎に触れたそばから、魔力が霧散していく。色葉自身も漆黒の剣を手に、幻獣の巨体の隙間を縫うように超高速の刺突を繰り出した。


「はぁぁぁぁッ!!」


ゼルは刀を振り抜き、リヴァイアサンが放つ高圧の虚無水を真っ向から斬り伏せる。しかし、斬った先から空間が削り取られ、刀身が薄く磨耗していく。実体を持たぬ虚無の力に対し、物理的な干渉はあまりに分が悪い。


「ぐ、あぁッ!!」


背後から迫ったケルベロスの牙がゼルの肩を深く抉った。回避が間に合わない。色葉の剣がゼルの脇腹を鮮やかに裂く。ただの傷ではない。傷口から「存在の消失」が始まり、組織が腐るのではなく「消えて」いく感覚。再生すら拒む絶望的な攻撃だった。


「ゼル……苦しいなら、もう戦わなくていい。私が、全部終わらせてあげる」


色葉の攻撃は苛烈を極めた。彼女が歩くたびに、天空の庭の美しい大理石は黒い穴に食われ、崩壊していく。ゼルは逃げることしかできない。**『感情の終着点』**で先読みしようとしても、彼女の感情そのものが「自死」に近い純粋な破壊衝動に向かっているため、予測が黒いノイズに埋もれてしまう。


絶体絶命。崩壊する庭の端、断崖を背に追い詰められたゼルは、膝をつき、血を吐きながらも笑った。


「……ふざけるな。……わかるよ。お前が俺に向けるこの『感情』……死にたいくらい苦しくて、誰かに助けてほしくて……何より、俺を忘れたくないっていう、めちゃくちゃに熱い塊が伝わってきて、胸が張り裂けそうなんだよ!!」


覚醒:赤方変移せきほうへんい

ゼルの咆哮と共に、彼の内に眠っていた「理外」の力が真に覚醒を始めた。

周囲に舞う雪が、黒から深い「深紅」へと色を変える。それは彼がこれまでの旅で仲間たちに向けてきた絆と、色葉への執着が混ざり合った、命の輝きそのものだった。


「……お前が全部を消す『虚無』なら、俺は全部を背負う『重力』だ」


ゼルは刀を鞘に納め、色葉に向かって真っ直ぐに歩き出した。


「な……っ!? 来ないで、壊れちゃうよ……!」


色葉が全幻獣を一点に集束させる。ケルベロス、リヴァイアサン、そして天空に現れた巨大な鷲の幻獣が融合し、最大出力の消滅光線を放った。


能力:『黒き雪の舞う日にて』――極致解放。


ゼルが足を踏み出すごとに、周囲の空間がミリ単位で圧縮され、極大の重力場が形成されていく。放たれた消滅の光ですら、ゼルの放つ重力の歪みに捉えられ、光の波長が極限まで引き伸ばされて深紅に染まった。


「――『赤方変移』。お前の絶望も、その光も、俺の重力がすべて飲み込んでやる」


ゼルは虚無の幻獣たちが放つ圧力を、その身一つで押し潰しながら突き進む。幻獣たちが彼を噛み砕こうと飛びかかるが、ゼルの「絶対重力圏」に触れた瞬間、その実体は強引に物質化され、数トンの圧力を受けたかのように大理石の床へと叩きつけられ、砕け散った。


「あ……ぁ……」


色葉が震える手で黒剣を振り下ろす。だが、ゼルはその刃を素手で掴んだ。手の平が虚無に削られ、骨が見える。それでも、彼は決して離さない。


「捕まえたぞ、色葉。もう二度と、一人にはさせない」


ゼルは色葉の首筋にある洗脳の刻印を睨みつけた。触れた対象の重力を操るこの能力は、今や物理的な重さだけではなく、「運命の質量」すらも操作していた。


「……神の血も、組織の理も関係ねえ。俺は、俺の意志でお前を救う!!」


ゼルが色葉に触れた瞬間、天空の庭の全重力が、彼女の「洗脳」と「暴走する魔力」だけに一点集中した。

パリンッ、と空間が割れるような乾いた音が響き、色葉を縛っていた呪いの刻印が粉々に砕け散る。幻獣たちは悲鳴を上げて虚空へ消え、黒い霧が晴れた。


同時に、ゼルの『感情の終着点』が爆発的な輝きを見せた。

彼にははっきりと伝わっていた。色葉の心の奥底に、自分でも正体のつかつかめない、けれど誰よりも大切で、誰にも渡したくない「何か」が渦巻いていることを。


(……なんだ、この感情は)


かつて経験したことのない、熱く、苦しく、けれど愛おしい衝動。

それは「友情」と呼ぶにはあまりに重く、「執着」と呼ぶにはあまりに清らかな、名前のつかない熱だった。

崩壊した庭の中心で、ゼルは力尽き、色葉の膝の上で倒れていた。魔力も体力も、文字通りすべてを使い果たした。


「……ぜ、ル……?」


瞳にかつての優しい色が戻った色葉が、震える手でゼルの血まみれの顔に触れる。


「……私、……ごめんなさい……! 私、ずっと君に……言いたかったことが……でも、それが何なのか、私にもわからないの……」


「……ああ。俺もだ。……この胸の奥にある、お前への『これ』が何なのか……さっぱりわからねえ」


ゼルは掠れた声で笑った。

その感情が「恋」であると気づくには、二人はまだ若く、あまりに不器用だった。

けれど、言葉にできないからこそ、その想いは何よりも強く彼らを繋いでいた。


「……色葉。……帰るぞ。俺たちの家に」


「……うん。……うん!!」


空席だった『No.0』。

そこに座るべき少女を連れて、ゼルは静かに瞳を閉じた。

胸に抱いた、正体不明の「特別な想い」を、大切に抱えたまま。

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