16話:ギルド
(でかっ!)
活動拠点を確保することに成功した要は、昼前には早々と街へと繰り出した。
まずは当初の目的だったハンターになるべくハンターズギルドへと足を向けた。
場所がわからずミストに聞いたところ、ざっくりと方向だけ教えられ「行けば分かる」の一言と共に送り出されたのだった。
(確かにこれは来ればすぐわかるな……)
周囲のほかの建物とは一線を画す巨大な建物がそこにはあった。
高さもかなりあるが、その倍以上ありそうな横長の建物で、レンガのような造りの赤い壁にクリーム色の屋根。
どことなくブルータリズムを髣髴とさせるような建築様式だった。
建物の大きさだけでなく、そのしっかりした造りは、国がそれだけ討伐に力をいれているということだろう。
正面の入り口には頭上に大きく『国立魔物討伐民間依頼斡旋所』の文字が掲げられていた。
(舌噛みそうな名前だな……)
設立当初は『国立魔物討伐員詰め所』という名前だった。
それでも結構長いと思うのだが、国民からの依頼を受けるようになった際、何を思ったのか『国立魔物討伐民間依頼斡旋所』と内容を後ろにくっつけただけという暴挙に出た。
案の定この長ったらしい名前は国民に全く浸透せず、魔物の討伐を行う者が集う場所、ということで『ハンターズギルド』と呼ばれるに至ったのだという。
そのせいか職員ですら正式名称を覚えていない者もいる。
入り口をくぐると室内は広い円柱状になっており、奥のカウンターでは従業員らしき人たちが目まぐるしく動き回り忙しそうにハンター達の相手をしていた。
室内の中央には、剣を掲げ背に翼を背負った勇ましさを表したような女性を象った大きな白い彫像が置かれている。
驚いたのは室内の広さもあるが、その雰囲気だ。
「今三人です!あとお一人いかがですかー!」
「魔術師志望の方いませんかー!お試し期間有りで仮パーティーです!」
「女性限定パーティーですー!これから始める女性同士一緒にやりませんかー!」
「前衛志望の方いませんかー!僕と一緒に戦いませんかー!」
広い室内の一角では、皆が揃って大きな声をあげて呼び込みのようなものが行われていた。
(なんだこりゃ。パーティーの勧誘みたいだけど)
ハンターはパーティーを組むのが常識。
しかしパーティーを組むとなれば、まずは同じランクのハンターを探さなければならない。
実力が同じ程度でなければ互いの足を引っ張ることにもなるからだ。
それは命の危険を増すことにもなる。
ある程度のランクになっているものは殆どがパーティーを組んでいるし、街中では人が多すぎて誰がハンターなのか、ランクはどれ程なのかもわかりにくい。
見つけることができても、ハンターになっているのならば既にパーティーを組んでいる場合が多いだろう。
ならばどうするか。ハンターになる為ギルドを訪れたところを勧誘するのが一番効率的だ。
同種の人間が集まればそれだけ情報も密になる。場合によっては勧誘をせずともその場に集った者でパーティーを組むことも出来るだろう。
登録に訪れたのならば間違いなく同じ青銅になるし、初めからパーティーを組めるならば色々と交流を持てる。
それだけ連携もとりやすくなるし、仲間の動き・クセなどがわかれば、より安全マージンは増すだろう。
(大学のサークル勧誘みたいだ)
まだ年若そうな男女が、大きな声をあげて勧誘する様を見てそんな感想を抱く。
「登録はどこだろ」
パーティーを組む予定の無い要はその勧誘をスルーしてまずは登録をしようと受付を探す。
カウンター内では、男性はブラウンのスーツのような服、女性は同じくブラウンのメイドのような服を着て、全員が胸に一輪の白い花をつけていた。
あれがギルド職員の制服なのだろう。しかし広いカウンターには受付や登録などの文字は無く、どこでどうすればいいのかさっぱりわからない。
「ちょっとそこのあなた。もしかして初心者ですの?」
声をかけられたほうを向けば、金色に所々赤くなっている腰まである少しウェーブのかかった髪、そしてルビーのような紅い目をした女性……というにはまだ若そうな、綺麗な女の子が立っていた。
その紅い目と顔つきは、自身の意志の強さと自信を表出するかのようにキリっとしている。
服装も活発そうな印象に違わず、胸元の見えるインナーの上から銀の意匠が施されたクリーム色のショート丈の長袖を着て、下は動きやすそうなショートパンツを履いていた。
「俺のことかい?」
初対面の相手にあえて『俺』と言ったのは、見た目だけでなく喋り方も変えたほうが良いと思ったからだ。
普段の要ならばまずしないであろう喋り方。少々男っぽく、あくまで素っ気無い態度をすることで向こうに興味を持たれない様にしようと考えた為だ。
あまり男っぽくして粗暴なのも人としてどうなのか、とちょっと心苦しく思ったので、そっけない態度を取ることで妥協案とした。状況が状況だからと割り切ることにしたのである。
ちょっと素っ気無くしただけで心苦しく思ってしまうあたりに要の人の良さが垣間見える。
「そうですわ。入り口でそんなぼーっとしてたら誰だってそう思います」
「それもそうか。確かに今日登録に来た初心者だ。ついでに聞きたいんだけど登録ってどこですればいいんだい?」
「どこでも大丈夫ですわ。暇そうな人に話しかけて登録なさいな」
「それはどうも」
そんな訳で、心苦しく思いながらもわざと素っ気無く簡単な礼を言い、カウンターに向かおうと踵を返したところを再度呼び止められた。
「ちょっとお待ちなさいな。まさかと思って声をかけたのですけれど、あなたがその身に纏ってる魔力……本当に初心者ですの?」
(この子、魔力が見えるのか)
突然聞かれた質問に、驚きの感情をなんとか押し殺す。
早速エルサリアから貰った腕輪が役に立ったようだ。
これでも相当に抑え込んでいるのだが、この反応を見る限りそれでもかなりの魔力になっているようだ。
(もしもと思って魔力を出来るだけ抑え込んでて正解だったなぁ)
「そうだよ。これから登録するって言っただろ」
「ふぅん……」
要の返答に何を思ったのか、値踏みするように視線を上下させられて、なんだか居心地の悪さを感じてしまう。
「なんだい急に。人をじろじろ見るのはあまり褒められた趣味じゃないと思うぞ」
「あなた、良かったらあたしとパーティーを組んであげてもよろしくてよ」
オブラートに包んだ要のささやかな抗議の声を華麗にスルーした彼女。
それよりも問題は今の彼女の発言だった。
「は?」
「だから、この私があなたとパーティを組んでさしあげるといっているのです」
「あー……なんだかわからんが間に合ってる」
「私の誘いを断るだなんて……もしかして既にパーティーを組んでいらっしゃるの?」
「いや、ちょっと事情があって暫くは一人で活動するつもりなんだ。それに名も名乗らないで話を進めるお嬢さんを相手してるほど暇じゃなくてね」
これは我ながら嫌な言い方だと思った。
なんだかトラブルの香りがして、気分を害させてでも早々にこの子に立ち去って欲しかったのだ。
「あなた、私のことを知りませんの? まぁいいですわ。わたくしはラズベラ。ラズベラ=フォード=アナリスと言いますの」
が、当の本人は要が心を痛めつつも繰り出したジャブを再度華麗にスルーした。
耐性があるのか、本当に気付いていないだけなのかはわからないが。
ふと視線を感じて周囲を見渡せば、何故か多数のハンター達が二人を遠巻きに見つめていることに気付く。
(なんだなんだぁ?)
その視線と表情からにじみ出る感情。それは疑惑。
「あいつラズベラを袖にしたぞ。なにもんだ?」
「たまたま会話が耳に入ってたんだが、どうやら今日登録に来た初心者らしい」
「初心者に声かけたってのか? それもこれから登録するってとこのド新人に?」
「なんでも魔力が凄いみてぇだな。ラズベラが驚くってことは相当なんじゃねぇか?」
「ほぉ、あの紅い眼から察するに火に恵まれてるのか。髪に発現してないとこをみるとそんなに能力があるようには見えないが」
「ラズベラも火だからな。自分と同じ属性を持ってる奴から強い魔力を感じたんで何者なのか気になったってとこだろ」
「見たこと無い服だな。ラズベラが気にかけるほどの魔力を持っておきながら初対面ってことはよその国か村にでも住んでたのか?」
「どっちでもいいさそんなの。久しく新人で有望株は見なかったからなー。あいつの顔覚えておくか」
「それよか誰とも組んでねーなら、今から唾つけといたほうがいいんじゃねぇか?」
「バカかおめー。いくら魔力が凄いったって、俺らだって銀ランクになるのに何年かかったと思ってんだ。経験の無いやつなんて足手まといになるだけだろ」
「ラズベラはあんだけ若くても銀ランクの実力者だぞ。それがパーティーメンバーとしてド新人のあいつを勧誘しようとしてることの意味がわかるか?」
「そこが腑に落ちねぇんだよなぁ。いくら魔力が凄いったってド新人をパーティーにいれたところで足手まといにしかならないと思うんだが」
「何か思うところがあるんだろうさ。俺にもわからんがな」
「なんだなんだ!? 俺のラズベラちゃんが男になびいただと!?」
「「「お前は黙ってろ」」」
(なんかしょっぱなから凄い目立ってるんですけどー!?)
聞こえてくる会話から察するに、このラズベラと名乗った女の子は結構な有名人らしい。
感情を表出させず、あくまで落ち着き払った様に見える要の立ち姿は、周囲から聞こえてくる会話などどこ吹く風……のように見えて内心冷や汗ダラダラである。
初心者がこれだけ話題の中心にいきなり放り出されれば、どういうことだと右往左往することだろう。
むしろ動転したり無駄に感情を出さないあたりが、初心者ながらハンターとして常に冷静な判断を下せる人物なのだろう、と評価を微妙に上乗せして目立たせるという逆効果を生み出していた。
「ラ、ラズベラさん。悪いけど君とパーティーは組めないんだ。そもそもまだ登録すらしてないし、俺には他人の命を預かるなんてことできない」
「そうね……無理強いするようなことじゃありませんし、わかりましたわ。気が変わったらいつでも声をかけてくださいまし」
「気持ちだけ頂いておくよ」
それだけ言うと、周囲の視線から逃げるように、あくまで平然とした様子でその場を立ち去る。
その後姿をその場に立ったまま見つめ続けるラズベラに、周囲で状況を伺っていた者が声をかけるも、その視線はカウンターに歩いていく漆黒の男を見つめ続けていた。




