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第八話 環太平洋王国日本


 眠ること。


 普通寝るときに、もう目覚めないかもとか、そんなの考えないだろう。

 朝になったら目覚めるとわかっているから眼を閉じられる。もしこのまま目覚めないかも、とか思ったら、それはもう安眠ではなくなってしまう。

 怖くて寝てなんかいられない。


 ———だから。

 「とにかく寝るな!」


 情報が少なすぎて、共有するのはそれしかなかった。

 それだけでおれには、超無理、限界、ギリ。


            *


『速報です! 速報です』

 手に持っているスマホが、いきなり地震警報みたいにぶるぶる震えて告げはじめる。


『王国安民局(NSN)発』


 1、眠ってはいけません。死んでしまいます。

 2、王国中で同じことが起こっています。

 3、壊滅状態になってしまいました。

 4、安全であることを確認できるまでは、当分どこからも助けは来ません。


 繰り返します。

 眠ってはいけません。


(ここだけじゃない?)


 意味がわからない。

 王国って何?

 慌《あわ》てまくって打ち間違えたとか。

 スマホの緊急速報のそこには『環太平洋王国日本』という名が記されていたのだ。


 姉に似た彼女は立ち止まったまま院内の冷えた空気の中で深くため息をついている。

 一度、二度。


 左手に温かな感触が触れた。

 おかっぱ頭のサヤカだった。

 いつの間にかそばに来て、彼女の手を握っている。


「お外は危ないから」と言い聞かせても、首を振る。

 サヤカが首を振るなんて、めずらしい。

 自分から指を絡《から》めてくる。

 しっかりと、握っている。


 その感触が、女の手を通しておれにも伝わってくる。



 しっかりと伝わってくる。



 どうなっているのか。

 向こうでは、こうではなかった。

 おれがサヤカの手を握っても、サヤカはただ握られているだけだった。自分から絡めてくることはなかった。

 なのに、このサヤカは違う。

 女性の手に、自ら指を絡《から》めている。 


 信頼されている。

 その温かさで、わかった。

 彼女はサヤカに信頼されている。

 

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