第五話 ささやかな回復魔術
姉に似た女。
「混乱しないように少しずつ説明するから」
そう言っている。
姉にそっくりなその女性が細く白い手をひと振り。
床に散らばっていた破片がふわっと浮き上がる。
ビデオを逆回ししたみたいに元の位置に収まっていく。
鏡が戻ってしまった。
「ささやかな回復魔術よ」
女は言っている。「子供だましみたいなものだけど——いまのわたしの魔術はこの程度」
修復された鏡の中の自分を見ながらつづけている。
「あなたがいた世界だったら、鼻風邪を葛根湯で治すみたいなものなのよ」
葛根湯?
「でも、これは違う。わたしを通して、見たでしょう? こんなことまでするなんて、あいつら絶対に許せない」
許せない。
憤っていたのは、あの大量死のことなのか?
あれは自然現象ではなくて……、
何かの、誰かの仕業?
まさか。
わからなすぎる。
いくら探しても、おれの体は、どこにもなかった。
声も出せない。手も動かせない。
あるのは、女性の視界と、彼女の感覚だけ。
顔を洗えば冷たい水の感触が伝わる。
怒ればその怒りが胸に広がる。
でも、おれはどこにいる?
そのとき鏡の端で何かが動いた。
フワフワした尻尾が、ひょこひょこと出口の方へ消えていく。
あのリスだ。
彼女はそれを見ても何も言わなかった。
奇妙にも思っていない様子。
代わりにドアの向こうから声がした。
「ねえ、お腹すいた」
小太りのマスコが、汚れた丸メガネのまま、サヤカの手を引いて立っていた。
おれはようやく少しホッとした。
マスコはマスコだ。手を引かれているサヤカも変わらない。
「ラブリーたちもお腹すいてると思う」
「チョーお腹すいた」
やつぎばやにマスコがそう言ってくる。
「ラブリーは———」
彼女は言葉に詰まっている。
同じ閉鎖ユニットの子。ラブリーたちは起きて来ない。
あの暴れ狂うセイも、ご飯を犬のように皿を床に置いて食べる習慣が抜けない四足のコウタも、起きて来ない。閉鎖ユニットのみんなも、開放ユニットの子たちも、みんな起きて来ない。
それをどう知らせたらいいか、わからせたらいいか、姉の安寿に似た彼女は言葉に詰まってしまっている。
(……あの子たちまで、、、、亡くなっちまった)
そうなのか?
ほんとに、そうなのか?
身体がないのに震えが来た。




