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第五十六話 国民消滅 

「……わたしだって、くだらないことで笑ったり泣いたり怒ったりして、次の日になったらそんなこと忘れて、……また泣いたり怒ったりする生活に戻りたいよ」


 顔を歪《ゆが》めたまま俯《うつむ》いてしまって、

 アンジュはもうこの時点で満身創痍《まんしんそうい》だったけれど、とにかく混乱の中で、ここからの脱出計画が練られた。


 問題は、敵側のドローン監視だった。

 なぜここに、八王子のはずれの高尾山近くのこんな病院に、わざわざドローンが派遣されているのか。生存者の「匂い」を嗅ぎつけて?

 それならなぜ、アンジュを待ち構えていたように、あのファ美魔の駐車場にあの構造体が待ち構えていたのか?


(あらかじめマークされていたとしか思えない)


 なぜマークされていたのか?


 血筋だ。

 それしかなかった。

 王国をもし根絶やしにするつもりなら、その正式な血統を根絶やしにすること。


 ———そこで、いまさら言っても仕方ないことだけど、問題がひとつ生じた。

 アンジュ自身の存在だった。

 アンジュが一緒である以上、ドローンは付き纏《まと》ってくる可能性が高い、と脱出計画についてAIは言う。

「血筋のため?」

「それもありますが、何よりあの構造体との……」

 クォンタムは言葉を濁した。


 アンジュはタグ付けされている可能性が極めて高い。

 コンビニ前で、思わず後先も考えずに格闘してしまったために、アンジュはタグ付けされている可能性が濃厚という。派手にやってしまったから、おそらく「要注意人物」として監視対象となっているだろう。それに加えて獣人兵とのこと。三体も投入してきたということは、すでに様子見を越えている。

 合わせて、もし血筋であらかじめ監視対象になっていたとしたら———。


 その懸念をどうするか?ということだった。


            *


「この病院の監視カメラ、ハッキングされてるかどうか、わかる?」

 アンジュはあらためてAIにたずねた。

「侵入は何度か試みられていますが、いまのところ防御されています。侵入検知システムは正常に働いていますので、いまの段階では彼らに内部の情報は伝わっていないはずです」

「はず?」

「こうなった以上、工作員を潜入させてくる可能性はあるということです。おそらくバグ認定されはじめているでしょうから。それに、もう蝿が」

 忍蝿からすでに蝿使いを通してその情報はオルマン側に伝えられているだろう。

 それと同じことを、魔国がやっていないという保証はない。


 アンジュは激しく頭をめぐらせた。

「でもいまはまだ彼らにとっては瑣末事《さまつじ》です。大きな仕事を成し遂《と》げたあとですから」


 大きな仕事。


「これからおそらく、まず作業部隊がやってくるでしょう。災害復興と称して」

「なぜ?」

「インフラ維持です。発電所、港湾、飛行場、そして軍関係。それを魔国管理下にする。そうなったらどうなると思います?」

「……実質的には植民地」

「そうなりますよね」


 それで初めて知ったのがこの国の住宅事情だった。

 日本国内だけでなく環太平洋沿いに王国が広がっていて、いまは民主化されているがかつては植民地同然だったために、周辺属国からの資源や資材が豊富に流れ込んでいたのだ。そのために独身寮とかでもオートロック、冷暖房バッチリ、地震対策とかも完備している「オートハウス」と呼ばれている住宅システムが、一軒家もマンションも国の補助もあってほぼ例外なく普及しているらしいのだ。

 屋上から、しかも夜だけ周囲を見渡しただけだからわからなかった。おれが後にしてきた日本より住宅的にはずっと進んでる感じ。


            *


 そういう住宅《マイホーム》から逃れて、あのとき以来外部から訪れてきた者たちは四人。

 鹿子明日香と、ツーブロック佐山、ロン毛サラサラ内田の学生二人。

 そして山夜ソジュン。


「上から読んでも下から読んでもヤマヤです。どうぞよろしく」


 あのときのコンビニ服から着替えて、もう後のことは知りませーんとチャリで家に戻ったものの、静かすぎる両親の寝室が恐ろしくて、アンジュを頼って病院に来たらしい。


 彼は除外していいだろう。

 なぜって、アンジュがコンビニに行くまでは向こうから接触してきたわけではなく、あのときの対応だって、ネームも含めて、ただの学生バイトだったのだから。

おまけに彼は、家で飼っているというキュルルンまで連れて来ている。


 そう、あのときコンビニに現れた変成動物だ。

 キュルルン、キュルルンと鳴くからそう呼ばれているらしい。

 彼いわく、変成動物というとみんな怖がるけど、きちんと食事を与えて飼育環境を整えてやれば猫や犬より飼いやすいという。

「この子は二代目なんですけどね」

 青い毛がふさふさしていて顔がムニュッとしている小さなキュル子(メスらしい)を肩に乗せて院内をうろうろしている。


 では、明日香はどうだろう。

 あの屋上でのアンジュの危機を、大事にしている本まで投げ入れて助けてくれたし、ここの屋上からも見える神社の娘であることはわかっている。


 では、佐山と内田の二人は?

 いちおう解剖に協力してくれているし、しかも、彼ら二人組は学生だ。学生証と体内IDの証明付き。



 

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