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第五十話 暗礁

 アンジュは納得できない。

 だから、死者たちから逃れるように再び屋上に上がって、しきりにAIに問いかけつづけている。

 少しでもその手がかりを掴《つか》もうとして。


 AIはその質問に答える。


『結論:既存《きそん》の医学モデルでは説明不能』と。


 当、王国AIクオンタムは、この無差別大量死の原因として以下を否定します。

・爆発物、衝撃波。

・毒物、ガス、電磁《でんじ》パルス。

・放射線事故。

・既知《きち》の魔術、精神干渉系《せいしんかんしょうけい》も含《ふく》む。



 要するに、原因不明ということだ。



 この大量死《スリープデス》の異常特徴をAIは、律儀に、きちんと列挙していく。



 1・全被検体《ぜんひけんたい》で損傷《そんしょう》パターンが完全一致しています。

 2・脳破壊の起点《きてん》が神経活動の中心であること。

 3・睡眠状態でなければ起こり得《え》ない破壊形態です。



「……つまり、たまたま睡眠時だった、というのではなく、眠(・)っ(・)て(・)る(・)と(・)き(・)を(・)狙(・)わ(・)れ(・)た(・)、っていうこと?」


「そうです」


 AIは断言した。

「これは、脳を物理的に壊《こわ》した事件ではありません。脳の機能そのものを狙って破壊した事件です」


 脳の機能そのものを狙って?


「どういうこと?」

 怒りを含んだ声でアンジュがさらにたずねる。


「仮説モデルを申し上げます。あくまでも仮説です」

 AIは念を押した。

「断定するには、幾度も申し上げた通り、まだまだ試料《しりょう》が少なすぎますので、考えられる暫定的《ざんていてき》な仮説モデルだと思ってください」


 それからAIクォンタムは慎重に自分の推理を並べた。



 仮説A:未知の高次魔術。

「もうほとんど魔術領域は極《きわ》められたはずだが、魔国はさらにそれを上回る破壊力があるハイブリッド魔術を考案したとする説だった。


『睡眠中、意識が乖離《かいり》するタイミングで、脳内の神経同期状態が外部因子と共有振動させます』


 結果、神経活動が一斉に臨界崩壊《りんかいほうかい》。

 頭蓋で覆われているためそのエネルギーの逃げ場がなく、頭蓋内で内部破裂した。


「つまり、頭蓋という閉鎖系の中でそれが生じたために、圧力釜が内部から爆発したような状態になったということです」


「……圧力釜」


「釜の中に、爆竹ほどの火力のものを入れ、蓋をして爆発させたとしたら、たとえその火力は小さくても破壊的な効果を及ぼすということです。頭蓋内は閉鎖系ですから」


(なるほど)



 仮説B:集合夢干渉《しゅうごうむかんしょう》型魔術。

 夢を利用しているという説。


『REM、レム睡眠時の夢ネットワークを媒介《ばいかい》にして、共通の何かが、全被検体《ぜんひけんたい》、この場合は睡眠している者に接続する。接続された脳が同時に破壊される』


「そんなこと可能なの?」


「理論上は可能ですが、媒介媒体《ばいかいばいたい》が不明です」


「そうよね」


「王国民全員に、しかも生後まもない嬰児《えいじ》や幼児にまで媒介、つまり通用するような媒体が必要になりますから」


「赤ちゃんの夢の中にまで何かが現れるのは不可能ということ?」


「果たして、人生記憶のない産まれたばかりの嬰児が夢を見るのか?という議論は、置いておくとして、個人夢ではなく共同夢、それも王国民限定で、王国民だけに、そのような夢を見させるのはほぼ不可能ということです」


「……」



 早くも暗礁に乗り上げてしまった。


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