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第二十三話 サバイバル その2

 まさに、死にゲーだった。


 死にゲーは、その名の通り、死ぬことが当たり前のゲーム。

 おれたちの、向こうの世界でのことだけど、ほとんどのやつらがやってた普通のゲーム。

 おれも一時ハマってた。


 で、死にゲーの基本はなんだった? ということになる。


(こんなときにゲームの話なんかするなと怒られそうだけど、まあ聞いてくれ)


 死にゲーの教訓。

「死んでもそれを学んで、次に活《い》かすこと」

 それだ。


『死を活かすこと』


 もしおれが、リス野郎の言うように一(・)度(・)死(・)ん(・)だ(・)と(・)し(・)て(・)、あの時の学びはなんだったろう?


 人間いつ死ぬかわからないというのは、あのようにして亡くなった爺ちゃんの言い草だったけど、まさかあのときおれ自身が死ぬとは思ってもいなかった。

 誰だってそうだろう。

 自分が死ぬとは思っていない。


 しかしこの霊状態を考えると、そうだとしか思えない。


 だからとりあえず、冷静に振り返ってみる。

 六階か四階か一瞬迷って、その迷いが足を踏みはずすことに繋がった気がする。

 確かにいま思い出してみると、リス野郎が現れたのはそ(・)の(・)後(・)なのだった。


 足を踏みはずして階段の踊り場に激突した後、だったのだ。

 意識が飛んで真っ白になったところへ、あのリス野郎がひょいと顔を出した。


 だから(認めたくないけど)実際には、あいつがいようといまいと、おれは足を踏みはずして階段から転げ落ちた可能性は高い。


 もしそれで死んだのなら無駄死にだ。

 つまり事故ってやつ。

 無価値なまま死んで物体に戻った。

 それだけのこと。


 上に行くか、下に駆けつけるか、一瞬迷ったあのときだって、

 振り返れば研修のとき、

「一目惚《ひとめぼ》れ」していた岩井かすみさんが、あれの前に、たまたま同じように階下の内科で夜勤していたことをおれは知っていたからだった。


(そう、知っていたのだ)


 勤務に入る前のエレベーターで一緒になって、「最近どうしてますぅ?」とか、かすみさんの方から話しかけてきて、おれは舞いがっているのに「……まあまあ、っすかね」と、もう少し愛嬌《あいきょう》よくすればいいのにボソッと答えてしまった。


「大変でしょう? 閉鎖ユニット」


 かすみさんはおれが被虐待《ひぎゃくたい》でも特に酷《ひど》い閉鎖ユニットの担当になっていることを知ってくれていたのだ。


 だからもう心の中は有頂天クラブになっちまった。

 そしたら彼女の様子を訊く間もなく職員用エレベーターが四階に着いた。


「頑張ってくださいねえ〜、わたしも今夜は夜勤なんですよぉ」

 彼女は明るく小さく手かなんか振ってくれちゃって、あのとき別れたのだ。


 なのにおれってやつは、好きなら好きで告ればいいのに、うじうじ、どうせおれなんか駄目だよなとかそういう感じで自分のこと「無価値」だと認定していた。

 自己認定「無価値」


 でもやはり、諦《あきら》めきれない。

 うじうじ。

 なぜもっと接近できないのだろう。

 同じ夜勤なんだから、ちょっと用事があったみたいにして内科に行くことだってできる。

 それが頭にあった。

 こびりついて鋲打《びょうう》ちされてた。


 ———だから、一瞬迷ったのだ。


 おれの恥ずかしがり屋というか、

 女性のことになるとグジュグジュしてしまう性格がブレンドされてしまって、

 このままダッシュして、「どうしましたぁ?」とか駆け付けるのはいかにもだし、

 ちょっとあからさま過ぎないかとか、

 いやいや緊急なんだから駆け付けて当然じゃんとか、

 おれがいきなり現れたら彼女はどういう反応を示すだろうかとか、

 ものすごくいろんなことが頭の隅をよぎってしまって、

 それが一瞬の足の運びの迷いに出た。


 あのときを振り返って説明すると、そうなる。


(てことはつまり、おれのせいなのか?)


 誰のせいでもない。

 自業自得の四字熟語なのか?


 ———そこで、お待たせしました、死にゲー思考が登場するのだ。

 

 死を活かすこと。

(では、次に中ボスに対したとき、おれはどうしたらいいのか?)ということだ。

 かすみさんは、もちろん敵ではないけど、こちらでも「かすみさん」なのだ。

 つまりおれは、再挑戦できるということ。

 死を活かすことができるのだ。


1、まず慌てないこと。

2、自分の足元を見て、無用な期待を抱かないこと。

3、そのまんまの自分をぶつける。もしこの霊状態を脱することができて、三日後に実体化できたらなら、   ありのままの自分を見てもらって、正式に「お付き合い」というか、そういうものからはじめる。


 そうなのだ。

 考えてみれば、ビッグチャンスじゃないか!

 死体だらけのビッグチャンス!!!


            *


 ———なところへ、

 咲坂さんが、

 眠ってはいけないと放送で言っていた本人が、

 あろうことか、

 こっくりと寝落ちしてしまっっていたのだった。



 静かだと思ったら!


 アンジュが慌てて駆け寄って手を伸ばし、彼を揺り起こした。

「寝ちゃダメ!」

 思わず声が出てその小太りな体を揺さぶる。


 電流を通されたみたいに、いきなり小太りな咲坂が飛び起きる。

 椅子からずり落ちそうになる。


「あっ! ヤバい! 寝ちゃったおれ? 寝ちゃった?」

 頭をかきむしって眼をしばたいている。


 彼は寝落ちしたのだ。


(それなのに……)


            *


 眠っても大丈夫、なのか?


 ひとり、またひとりと、用心しながら仮眠した。


 誰も死にはしなかった。

 大丈夫らしい。


 館内放送でおそるおそるそれが共有された。


 みんな疲れていて、すごいイビキをかいて眠りの底に落ちていった。

 アンジュも仮眠した。

 かすみさんんも、眼を閉じた。

 サヤカはアンジュから離れず、ほとんど不眠症だったから、いつもだったら起きているのに、プレイルームのカーペットの上で横たわっているアンジュの傍に自分も小さな体を横にして、アンジュが被っている毛布の中に潜り込んで、一緒に寝た。

 たがいに指を絡ませ合って。


 マスコも倉田ママと寝ている。


 思い思いの形で、残っているスタッフが眠りについた。


 ひとときの休息だった。


 眠(・)り(・)の(・)中(・)に(・)は(・)何(・)も(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 ———では、

 あ(・)の(・)と(・)き(・)亡(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)ひ(・)と(・)た(・)ち(・)は(・)、な(・)ぜ(・)死(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)?


 


 


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