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第十二話 ファ美魔

 確かに、看板には「ファミマ」の文字があった。

 ただ、おれの知っているファミマではなかった。


 薄いブルーと緑の明るい看板ではなく、黒い下地に紫の模様がとぐろを巻いている。

 漢字で大きく『ファ美魔』と書かれ、その下に小さく英語の Family Mart が添えられていた。



 ファ美魔?



 自動ドアの横に、ステッカーが貼ってある。

『式波《しきは》端末使えます。

 公給券 取扱店

 式災 認定避難拠点(小規模)』


 式波。

 ここでも「式」だ。


 安寿はサヤカの手を引いたまま、躊躇《ちゅうちょ》なく中に入った。

「いらっしゃいませー」という機械音声が流れる。

「すいませーん、どなたかいらっしゃいますか」


 すると奥から、すごい勢いでディープパープルの制服を着た店員が出てきた。

 高校生くらいの男子だった。

 金属バットを握っている。


「お客さーん! 無事なんですか!? ゾンビとかじゃないですよね!?」


 安寿は少し呆れたように、でも安堵した顔で首を横に振った。


「変成動物が急に活気づいてるらしいんですよ。いつもは山の中にしか出ないのに、昨日の夜中から急に大量に出てきたって。おれ、もう帰ります。絶対帰ります」


「夜中から……」


「相棒が風邪で休んでて、ひとりだったんです。明け方まで誰も来なくて。店長にも電話したけど出ないし。七時までだったから、まあいいかって思ってたんですけど……」

 彼は性急に息を吐いた。

「そういえば、いつもは近隣のお百姓さんとかが、朝マックのついでにサンドとか缶酎ハイ買いに来るんですよ。世間話して、おでんとかコロッケ大量に買って帰っていく。いいお客さんなんです。なのに、明け方前から、誰も来ない。ひとっこひとり、現れない」


 店内は、普通のコンビニのようで、普通ではなかった。

 おでんコーナーの湯気は立っている。

 棚には商品が並んでいる。


 なのに、空気がどこか違う。


 安寿はおでんの鍋をちらりと見てから、店員にお願いした。

「何か、食べられるものをください。温かいものがいい」


 店員は金属バットをレジ横に置き、急いで動きはじめた。

「はい、わかりました。……あの、本当に、外は大丈夫なんですか?」

 安寿は答えなかった。

 ただ、サヤカの手を握り直して、窓の外の朝の光を見ていた。


 誰も来ない朝。

 変成動物が動きはじめた夜。

 この店もまた、すでに「こちら側」の論理で動いていた。

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