第9話「別れ」
ミロは鳥の声で目を覚ました。
焚き火は消えている。
空はよく晴れていた。
「じいさん」
呼ぶ。
ジンは少し離れた岩の上に座っていた。
景色を見ている。
「何してるの?」
ミロが隣へ行く。
ジンは遠くを見たまま言った。
「いい景色だと思ってな」
丘の向こうに森が広がっている。
川が光り、その向こうには山々が見えた。
確かに綺麗だった。
「今まで見た中で一番?」
ミロが聞く。
ジンは笑う。
「旅人にそれを聞くか」
ミロも少し笑った。
しばらく景色を眺める。
風だけが吹いている。
やがてジンが言った。
「ミロ」
「ん?」
「わしはここで旅を終える」
ミロは意味が分からなかった。
「終える?」
「そうだ」
「この村に住むの?」
ジンは首を振る。
「違う」
それだけだった。
ミロは黙る。
胸の奥がざわつく。
本当は分かっていた。
第7話の夜。
第8話の山道。
ずっと気付いていた。
でも認めたくなかった。
「まだ歩けるじゃん」
思わず言う。
「少しならな」
「じゃあ歩こうよ」
「歩ける」
「だったら!」
声が大きくなる。
ジンは静かに聞いていた。
怒らない。
否定もしない。
「ミロ」
その声は優しかった。
「旅に終わりがあるから、歩く意味がある」
ミロはうつむく。
納得なんてできない。
でも。
ジンはずっとそういう旅人だった。
しばらくして。
ジンは立ち上がる。
そしてミロの背中を軽く叩いた。
甲羅型バッグが小さく揺れる。
「それはお前のものだ」
ミロはバッグに触れる。
「……うん」
「オカリナもな」
ミロは笑った。
少しだけ。
「じいさん」
「なんだ」
「ありがとう」
初めてだった。
ちゃんと伝えたのは。
ジンは目を細める。
そして頷いた。
「こちらこそ」
風が吹く。
草が揺れる。
ミロは顔を上げる。
もう泣いてはいなかった。
「じゃあな」
ジンが言う。
「うん」
それ以上の言葉はなかった。
必要もなかった。
ミロは歩き出す。
一歩。
また一歩。
振り返りたい気持ちはあった。
でも振り返らない。
背中には甲羅。
腰にはオカリナ。
ジンから受け取ったものがある。
しばらく歩いたあと。
ミロは立ち止まる。
オカリナを取り出す。
そして吹いた。
ヒュゥ――。
まだ少し下手だった。
でも。
今までで一番まっすぐな音だった。
風が音を運ぶ。
遠くの丘まで。
その先まで。
ミロは再び歩き出す。
旅は続く。
今度は一人で。
だけど。
独りではなかった。




