1_19.
レナ、まだかしら。
暗闇の中、遠くから聞こえる喧騒に気がおかしくなりそうだ。
その喧騒も少しずつ近づいてきている。
侯爵様がいない間にこんなことになるなんて、この家を守るってみんなで決めたのに私は何もできない。
レナや他のメイドさんたちだってきっと戦っている。
何もしていないのは私だけだ。
足音が近づいてきた。
走っている。
おそらく 2人分だ。
もうここまで襲撃者は来たのだろうか。
怖い...。
急に足音が止まり、ガタッと音がした。
強い光が入ってきて目がくらみそうになる。
「ラナ、大丈夫か!?怪我は!?」
人一人が座るにも余裕のない空間。
通路は続いているものの、どこに行きつくかもわからずレナを待ってその場で立っていた私は、急に入ってきた人に驚き、その衝撃に耐えられずふらついてしまう。
そんな私を力強く抱き止めたのは公爵様だった。
「ラナ!?大丈夫か!?」
「あ...大丈夫、です」
「そうか...よかった...」
なんで、なんでここに公爵様がいるんだろう。
なんで私を抱きしめているんだろう。
なんでそんな風に私の名を呼ぶのだろう。
混乱する頭の中、妻子持ちの人がこんな風に他の女性を抱きしめてはいけないと言おうとしたのに、私の涙は止まらず唇が震えて情けない声が出るだけだった。
多分私は長い間泣いていたのだろう。
その間公爵様はずっと私の背中を撫でていてくれて、その手の優しさと温かさがとても心地よかった。
「ラナ、落ち着いたか?とりあえずここを出よう」
公爵様は少し体を離してそう言った。
公爵様の高そうな服は私の涙と鼻水で汚れていて、申し訳なくて目をそらした。
いや、違う。
私が目をそらしたかったのは、まだ離れたくないって、そう思ってしまった自分の心だ。
言うことをきかない体に鞭打って外へ出た。
そこにはレナがいて、少し涙の混じった嬉しそうな顔で笑っていた。
私が無事で嬉しかったのだろうか、そうだったら嬉しい。
「ラナ様、ご無事で良かったです。ラナ様に隠れていただいた後、緊急事態を知らせる魔道具を動かしたのです。そうしたら、大慌ての旦那様が転移魔法でこちらへやってこられたのですよ。そのまますごい気迫で襲撃者を倒してくれました。いや、ちょっと違いますね。ごうも...、ん、質問をするためにとらえてくれました」
「レナ、言い直してくれたところ悪いけれど、ちゃんと聞こえているわ。ところで公爵様、奥様の所へ行かなくて良いのですか?お子さんだって、行ってあげないと可哀想です!」
「...子供はいない。そもそも子供ができるようなことはしていない」
「でも!だとしても奥様のもとへ行ってあげてください!!」
「いや、妻はここにいるのだが...」
「ここ...?はっ、まさか!?レナ、あなたが!?」
「そんなわけない」
「そんなはずありません」
「ではどちらへ...。あ、まさか、そんなこと...奥様は普通の人には特異体質なのですね!?そんな奥様を愛す旦那様、素敵です!!」
「そんなわけあるか!!...まあいい、この話は時間がある時にゆっくりしよう。今日は疲れただろう?しっかり休め」
「はい、旦那様素敵です!!推します!!」
さっき胸がドキドキしたのはきっと、知り合いの伯爵嬢の言う"推し"というやつに対する感情だ。
はぁ〜、分かってすっきりした!
私はいまだに気づかない。
それが、恋心 だっていうことに。
次話より、旦那様目線の2章にうつる予定です。
ラナちゃんとの出会いから...
3章からは、またラナちゃん目線に戻すので、そちらもお楽しみに!!




