02話 入学試験である。
この十年間俺は一人コツコツと魔術の習得に明け暮れていた。
まず王道の炎魔術、水魔術、風魔術、土魔術、光魔術。闇魔術は……難しかった…。自宅にある魔術書には闇魔術以外は細かに記されていたが、存在をほのめかす記述はあるものの、闇魔術だけは記載が載っていなかったのだ。習得が難しいためなのか、闇魔術自体今では扱う者も少なくなっているからなのかはわからないが無いのだ。
しかし、基本の属性魔術。そこから無数に広がり、組み合わされた魔術により、この歳にしては数多くの魔術を扱えるようになっていった。
今日はアンブルー家にとって大事な日だ。
兄のフォールドは12歳となり、領主となる為遠い親戚貴族の家に、領主の勉強をしに旅立ち。弟である俺は魔術師となる為、魔術学園、イーリス帝国魔術学園に入学する為この家を出るのだ。
兄は領主となる為、あまり魔術を熱心に勉強しなかったが、その分算学、政治学、文学等、領主に必要な知識を豊富に持っている。
「坊ちゃま。そろそろ出発の時刻が近づいてまいりました。」
俺が生まれる時に、母クレアの出産を献身的に支えたメイドが今では俺の身の回りの世話を全て行ってくれている。
「あぁ、今出るよ。」
「忘れ物はないか?」
父アンガスは心配性なのか、この質問を朝からかれこれ5回している。
「ご心配なく父上。それでは行ってまいります。」
「私はお前が自ら魔術師になることを願ってはいるが、人生はお前だけのものだ。誰に何と言われようと他に何か素晴らしい物を見つけたのなら、それを優先することも良いだろう。」
一族のメンツもあるだろうに…。出来た人間だ。
「ありがとうございます!父上!必ずや立派な魔術師となって戻ってきます!」
「うむ!頑張るのだぞ!」
こうして俺は生まれて初めて領地の外に足を踏み入れ帝国へと続く道を歩き始めた。
そうそう、これは家を出る際アンガスから聞いた話だが、この世界には五賢帝と呼ばれる王がそれぞれ国を治め世界の均衡を保っているらしい。
賢王アンドラスが治める人の国、フルムット王国。
獣王リオンダーリが治める獣人の国、イーリス帝国。
海王ポセイオンが治める海族の国、海中王国ネプラ。
霊王アーベロヌスが治める精霊達の国、プネブマ連邦国。
そして、魔王サタンが収める魔族の地、魔界。
今回俺が向かっているのは獣王リオンダーリが治めるイーリス帝国だ。
なんでも、それぞれの国の王は1000年前の大戦にて神イーリスのもと不戦協定を結び、それから1000年平和の時代が訪れたとの事だ。
イーリス帝国に繋がる道は一本で、迷う事なく夕暮れ時には学園に到着した。
明日は入学試験。今日は気合いを入れる為いつもより早く寝ることにする。
〈イーリス帝国魔術学園〉
総勢500名はいるであろう受験者の中から100名まで絞られる入学試験。この日の為に入学を希望する者達は修行を積み、己の魔術に磨きをかけてきた。
「しっかし…辺りを見回しても獣人しかいないなぁ。」
「それではこれより入学試験を始める!試験は三つ!魔術試験、体力試験、そして筆記試験だ!」
会場からざわめきが起こった。
「おい…体力試験なんて聞いてねぇぞ。」
「魔術師に体力なんかあっても意味ねぇだろ!」
魔術試験、体力試験はともかく問題は筆記試験だな…。勉強なんてしたことねぇって。前世猫だし。
「体力試験について懐疑的な意見を持つ者もいるだろうが、魔術師に体力が必要ないなど愚の骨頂である!もし体力が無ければ魔術を放つことすら困難を極める!」
「受験者番号21番!フォゴ前へ!」
魔術試験はその名の通りおのおのが得意の魔術を放ち、10メートル先の対象物にぶつける。といった試験だ。対象物には特殊な魔術陣が施され、魔術の効果を分散させ消滅させる作用があるようだ。
「次!受験者番号22番!アンブルー前へ!」
ようやくか。
「あれは、アンブルー将校の息子か。」
「合格は固いだろうな。」
どうやら世間ではアンブルー家を知らぬ者は少ないらしい。
「それでは試験を開始する!初級魔術を対象物に放て!」
「はい。わかりました。」
初級魔術か。サクッとファイアーアロー放って終わらそう。
「ファイアーアロー!」
直径50センチ程の火の矢は目標物目掛け、光の如く直進し、いとも簡単に目標を破壊して見せた。
「…は…ッ?……ご、合格だ…。」
試験官は狼狽えてはいるが、こんなの誰でもできるだろ。俺はそう思っていた。
順当に試験は執り行われていった。
この日最も会場の人々の関心を奪ったのは…。
「ご、合格だ…。……………これが初級だと…。」
「ありがとうございます。」
キラキラとした光沢が眩しい赤毛の長い髪を持つ少女、彼女の名はティアである。
「これが初級だっていうのか…!?」
「あ、俺しってるぞ!あの子賢王の一人娘の!」
「…まさかティア・アンドラスか!」
彼女の放った光初級魔術、シャインボールにより対象物は消滅。文字通り粉々になっていたのだ。
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「続いて体力試験をおこなう!」
受験者の顔が皆、心なしか引き攣って見える。
体力試験ではシンプルに走り込みだ。魔術学園の庭を永遠に、その体力尽きるまで走り抜く。一周は10km。
引き攣って見えていた顔は気のせいなんかではなく、この試験では二周目をいかずバッタバッタと受験者が倒れていった。
15周目を終え、残る受験者は45名。
皆、疲労で意識が朦朧としている。
平気な顔をしているのはティアともう一人、トラだ。
30周目を迎えた時には二人だけの時間となった。
「…あ、貴方!なかなかやるわね…!!はぁ…はぁ!」
「ん?そう?ありがとう。」
ティアは少し苦しそうだ。
「ま、魔術師が、こ、ここまで走れるなんて凄いことなのよ…!」
「そっかー。昔から体力だけは取り柄だったからねー。」
「ま、まけて…たま…。」
言い終わる前にティアは床にへばりついてしまった。
「体力試験終了!続いて筆記試験に移る!!」
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吾輩は馬鹿である。学はまだ無い。
どうしたものか第一問からわからないぞ。
りんごが一個1銀貨。ぶどうは3銀貨。りんごを3つ、ぶどうを4つ買うといくらになるか…だと!?
ええっとりんごは1銀貨でぶどうが3銀貨…。りんごは3つだから合わせて4銀貨になって…ぶどうは4つだから…ええっと…ええっと…
ショートしてしまった。
そこから俺は試験終了まで放心状態に陥ってしまった。
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三つの試験の合計点にて成績は決まり上位100名が晴れて、入学となる。
「それではこれより試験結果、及び成績優良者の発表を行う!呼ばれたものは速やかに前に来るように!!」
「首席!…ティア・アンドラス!」
「次席!…フューズ・グランド!」
「3席!…トラ・アンブルー!」
無事名前を呼ばれた。しかも成績優良者だ。
まぁ後から結果を見たら筆記試験は0点だったけど…。
その後無事に10席まで呼ばれ、試験結果に喜ぶ者、悲しむ者、さまざまであった。
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翌朝、いつもより早く目が覚めてしまった。
きっと今日が楽しみなのだろう。
魔術学園、初授業なのだから!
つづく




