03話 誘拐されたのである。
魔術学園に入学し一月が経った。
慣れない環境にしばらくは不安も持っていたが、杞憂に終わった。
学園では魔術における基礎中の基礎から応用まで、幅広く学ぶことができる。改めて一から魔術に向き合うと、やはり面白いものだ。
「…あ!トラくん!!」
そういえば一人友達が出来たな。
「…ティアか。今日はどうしたんだ?」
彼女は賢王アンドラスの一人娘。今は魔術の勉強をしにこの学園に通っている一人の生徒だ。
前世と違い、魔術だの剣だのなんでもありな世界では、女性とはいえ力をつけ最低限の防衛技術を身につけなければならない。賢王の娘なら尚更である。
「もちろん今日も放課後特訓してくれるでしょ!?」
「またー??…別にいいけど…。」
「やったぁ!!!」
最近ではティアの魔術を俺が見てあげることになっている。彼女が扱える魔術はせいぜい中級まで。威力は大したものだが、魔術師の格を決めつけるものはやはり使える魔術のクラスだ。
そんなわけで放課後彼女の魔術の特訓を行なっているってこと。ま、暇だしね。
「…そんなことよりトラくん聞いたことある?」
「…?何を?」
「ゴルゴン三姉妹のことよ。」
ゴルゴン三姉妹。かつての大戦の際、魔族の王と結託をし暴虐の限りを尽くしたとされる伝説の三姉妹。その後大戦が終結に向かったが、ゴルゴン三姉妹は魔族と決別しひっそりと身を隠し、今尚血に飢えている。ゴルゴン三姉妹が怖いなら夜は家にいる事!なんてクレアがよく言っていたっけ?要はただの御伽話だ。
「ゴルゴン三姉妹ってあの?いるわけないってー」
俺は笑いながら話を聞き飛ばしていた。
「それがね!この前帝都に捕えられた魔族がゴルゴン三姉妹の名を語ったらしいの!」
「…ほう。」
「…。なんでも、ゴルゴン三姉妹、魔蛇女派によりまもなく世界は混乱に至る!って。」
悪の組織的ポジションねぇ…。ご主人が生きていたらさぞかし、鼻を鳴らしながら興奮する話だろう…。
「…トラくん?どうしたのニヤニヤして。」
「うぇ!?ああ…なんでもない!」
いかんいかん!冷静に!
「…ところでさ、そのゴルゴン三姉妹の目的って何なのかな。」
「…わからないわ。ただ一つ言える事は間違いなく人類の敵よ。」
「そうか、俺としては何事もなく、獣人として生きて獣人として死ねればそれでいいんだが。」
「…そうね。私も何も起こらない事を願うわ。」
その思い虚しくも翌日ティアは誘拐された。
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イーリス帝国の中心。玉座に鎮座する白髪の男。かつての大戦にて不戦協定を結んだ五賢帝が一人賢王の子孫なのである。
「…陛下。恐れながら状況を説明させて頂きたく思います!」
重厚な鎧に身を包んだ線の太い中年の男は、彼が陛下と呼ぶ男に敬意を表しながら宣言した。
「…よかろう。」
「はっ!…イーリス帝国魔術学園にてゴルゴン三姉妹魔蛇女派の残党と思わしき魔族により、…ティア様は誘拐されたとのことです…。」
深い沈黙の後、ため息混じりの声を吐露させた。
「…で、あるか…。」
「も、申し訳ございません!…我々が警護にあたっていながらこんなことに!」
「それについては今咎めることでは無い。…至急ティアを捜索するのじゃ!」
『ハッ!!!』
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ティアの誘拐は魔術学園中で知れ渡れ、当面の間授業は中止、生徒は安全の為寮にいるように!との事だ。
「…よし!助けに行くか!」
薄暗い牢にてらてらと揺れる蝋燭が今にも消えそうで、私は心が落ち着かない。
身体の後ろ側で両手を魔術により縛られ、魔力を使うことができない。そして牢の向こうでは蝙蝠のような魔族がこちらを睨み付けている。
「…目が覚めたか。」
「…貴方は魔族ですね…!?」
「ふっ……そうだ。ゴルゴン三姉妹魔蛇女派、コリン様だ。」
聞き覚えのある言葉に強烈な怒りが込み上げる。
「貴方達の目的はなに?もう大戦は終わっているのよ!」
「貴様如きが知っていい事ではないわ!」
男は立ち上がり私を見下した。
「貴様はこれより我が主、魔神メドゥーサ様の依代となる!」
「…何を言っているの?」
「そのままの意味だ。メドゥーサ様がこの世に顕現なされば!世界はまた我等魔族の物になる!」
「…私は、賢王の娘よ!こんなことしてタダで済むと思っているの!!?…戦争になるわよ…!」
お願い!…解放して!
「関係がない。我等は現魔王となんら関わりがない。同じ種族なだけで仲間だとは思ったことがないわ!」
「…くっ!」
「コリン様!一人の獣人が侵入をしており、現在対処中であります。」
配下と思わしき魔族がコリンに伝令をしに駆け足で来たのだ。
「そうか…。獣人か…。使えるやもしれん生かしてここに連れてこい!」
「御意!」
配下は急ぎ足でこの場を後にした。
「…獣人…?……まさか!トラくん!!」
何ともまぁ雰囲気のある場所だ…。帝国の外、平原を超えた先にある、河川の脇の洞窟の奥。遠すぎるだろ。
湿っぽいし、カビ臭い。
こんな所に閉じ込められているなんて可哀想で仕方ない。さっさと助けてやろう。
『侵入者か!!』
声のする方に目をやる。
「この場所がどんなとこか知っててやってきたのか??」
「いいや、知らないね。とりあえずここに閉じ込められている姫様を助けにきただけだし。」
「呆れた…。貴様のようなガキに何ができるのだ。」
「うーん。魔術のなら得意だよ、人より。」
「獣人には一つ大きな欠点がある!…それは肉体の脆さだ!魔術に特化した獣人は尚のこと!我等魔族の敵ではない!」
「…やってみるかい?」
「っく!後悔するがいいぞ!!猫風情がっ!!!」
お前が後悔してろ。灰になるその瞬間までな。
炎超級魔術 業炎!!!




