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吾輩の前世は猫である。  作者: スーツマン
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第一章 01話 吾輩は転生者である。

 ー…ラ。…トラ。ー


聞き覚えのある声に耳を傾けそっと目を開く。


 ートラ。また…会えたね。ー


 ご主人様…!

「ご、ご主人!」

 ご主人は微笑みながら語りかけてきた。


 ーあなたを一人残して行くことが怖かったの。ー


 ー早くに両親を亡くした私にはあなただけが家族であり、心残りだった。ー


 「ご主人。私もどうやら死んだようです。愛するご主人を失う私に、もう生きる気力は残されてはいません。」

 私の言葉にご主人は少し戸惑い、悲しみながらも安堵したような表情を見せた。


 ー…変な気分ね。…フフッ。飼い猫とお話をするのなんて。夢のようだわ。ー


 ー私はずっとあなたのことが知りたかったの。ー


 「私もです。ご主人!…もっとここでお話しを…!」


 ご主人は私の言葉を遮り、虚な目をしながら俯き私に語りかけた。


 ー…私とあなたはこの先向かう道が違うの…。ー


 「ご、ご主人。…それは一体どういう意味…。」

私は気がついた。何もない真っ暗な空間。足元には、ご主人と私とで隔たれたそれぞれの光輝く道。

 私とご主人はここでお別れなのだと、表しているかのような。

 「ご主人…。…うっ…。うう!」

私は涙を堪えることができなかった。


 ー心配しないで私はいつまでもあなたのそばにいる。あなたの『ここ』に…。ー


 ご主人は胸を指さしニコリと笑ってみせた。


 ー…じゃあ行かなきゃ。…元気でね。ご飯の食べ過ぎには気をつけてね…!ー


 ご主人は道を歩き出し粒子となり消えて行った。

 ご主人…ミカに、来世で幸せが降り注ぎますように。私はそう願い道を歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〈イーリス帝国はずれの村にて〉

 

 「…クレアよ!頑張るのだ!!」

 心配そうな面持ちで声を掛ける猫耳を持つ獣人族の男。彼は今まさに、生命史上最も神秘的かつ偉大な光景、出産を目の当たりにしている。

 「うぅッ!!…はぁッ…!!」

 これまた猫耳の獣人族の女性が、汗を滲ませ、懸命に生まれてくる命に全力で向き合っている。


 「…お、奥様!!生まれました!!元気な男の子ですよ!」

 若いメイドは生まれたばかりの赤子を抱き抱え、母親にそう伝えた。


 「この子の名前はトラ…。この子に大いなる我等が神、イリス様のご加護が、どうか在らん事を…。

 赤子の両親を祈った。


 もうお気づきだとは思うけど、この子が俺。つまり前世は猫ちゃんのトラ。

 理由はわからないが俺は転生し、2度目の人生を得たのだ。

 猫として生き。猫として死ぬ。そんなごくごく平凡な事で終わる事なく、2度目の人生を手に入れた。猫としてではなく。

 かといって、人でもなさそうだ。両親は二人とも猫耳に尻尾のついた、いわゆる獣人。きっとケモナーのご主人がいたらこの姿を見て、興奮すること間違いなしだ。

 

どうやらここはイーリス国のはずれポタ村。俺のご両親、父のベンガス、そして母のクレアはこの村の領主をしている。いずれは二つ上の兄が跡取り、俺は魔術師に育てられるとのことだ。


 俺達一族、アンブルー家は代々帝国に仕える魔術師を輩出する、帝国随一の名家のようだ。


 今日で俺は五歳となる。

 前世の記憶がある。…と言っても前世は猫なので成長スピードはその辺の赤子となんら遜色はない。

 その辺の子供と違うことは、俺は生まれた時から身体能力が人の数十倍は高いということ。

 「え、そんな事?」と、思うかもしれないが俺達、猫魔種において身体能力が高いということはこの上なく珍しい事なのだ。猫魔族とは本来魔術に特化し成長した姿。魔術に不要となった強固な肉体は、その進化の過程で退化を果たしたのだ。両親は魔術師として育てたかったので、俺のこの身体能力を特別視はせず従来通りの修練を俺に積ませた。


 俺のこの能力が花開いたのは、ある日の模擬戦闘の際である。

 

 その日俺は他の子供達と、鍛え上げた魔術を競い合う戦闘を行なっていた。

 子供達は魔術を駆使し、相手を戦闘不能にさせるか、降参させるかでその優劣を競っていた。

 遂に俺の番だ。

 相手は炎の魔術を得意とした男の子であった。

 「両者前へ!…アンブルー家、トラ!…マーカー家シャルン!それではこれより戦闘を開始する!」

 「…おい!お偉い貴族の息子さんよー!…戦闘なんかできるのかー?どうせ大した修行もしてないんだろ!?」

 シャルンが挑発をしてきた。

 「なんだこの餓鬼。」と思ったが、俺も前世は猫とは言え子供じゃない。優しく嗜めてやるか。

 「…その貴族の息子に負けたら笑い者だね。」

 「それでは!始め!!」

 開始のゴングと同時にシャルンは炎の初期魔術、ファイアーアローを放った。

 「俺の魔術はその辺のガキとはちげぇぞ!!」

 炎の矢は勢いよくこちらに迫ってきてはいるが、特段私は焦りを感じてはいなかった。

 「おいおい!早く避けねえとマルコゲになんぞ!!」

 俺は右手で炎を叩き消した。

 「…これが本気じゃないよね?」


 大人を含め周りの人達は皆驚き声も出せなかった。

 シャルンは一瞬戸惑ったものの、直ぐに二つ、三つとファイアーアローを放った。

 「た、たまたまだ!な、なめんじゃねぇ!」

 俺は呆れながらその矢を同じようにかき消した。

 「…はぁ。つまらない。」

 「…お、俺の魔術が…!………う、うぇぇぇぇん!!」

 お、驚いた。シャルンの奴ギャン泣きだ!余程ショックだったのだろう。

 「…し、勝者…アンブルー家トラ!」

 

 家に帰ると兄上が駆け寄り嬉しそうに話しかけてきた。

 「やったな!トラ!!今日の模擬戦闘勝ったんだって!!?さすが俺の弟だぜ!!」

 二つ上の兄フォールドはこの上なくブラコンだ。

 「フォル兄!勝ったよ。なーんか弱い魔術だったよ!魔術で対処しなくても手で叩いたら消えてしまうほど!」

 フォールドは驚いたものの流石だ!と褒めてくれた。

 夕食の際、戦闘を見ていたベンガスは恐る恐る聞いてきた。

 「…な、なぁトラよ。本当に無傷なのか?」

 「…?怪我はないですよ!お父様!」

 「そ、それならよい!…だが、初めて見たぞ。魔術を素手で掻き消すなど…。」

 ? そんなに難しい事なのか?

 「そうなのですか?お父様。今までの授業中、魔術を喰らって怪我をしたことがないので、てっきり弱い魔術では傷もつかないのだと思っていました。」

 アンガスは意表を突かれた表情で笑って答えた。 

 「これは驚いた!きっとトラのその驚異的な身体能力によるものなのだな!」

 「父上!私の弟はやはり天才なのですよ!」

 フォールドの一言で家族一同が大きな笑い声に包まれた。


 それから五年経ち、俺は十歳になっていた。

 勿論魔術の研鑽をやめてはいない。


 森で一人魔術の修行をしている時だった。俺はアンガスに呼び出され家に向かった。

 「トラよ。わしは今までお前を帝国お抱えの魔術師にするべく修行をさせてきた。」

 アンガスは今や、帝国にとってなくてはならない将校となっている。

 「お前を今日呼んだのには訳がある。」

 「何でしょう。父上。」

 「…帝国にある魔術学園に行く気はないか?」

 学校!?前世でもあったやつか!行ったことはないが、ご主人がよく学校時代の友達と遊びに行くと何度か言っていたな。

 「……。…父上。最近では一人魔術の修行をしていても、限界があると感じています。」

 「うむ。」

 「ですから…是非とも帝国の学園に行かせてください!」


 魔術を学ぶため。この世界について知るため。

 俺はイーリス帝国魔術学園に入学することにした。


 

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