81 古谷 佳子という女
「彼方……」
父さんのスマホに着信が入った事で席を外した父さんの後に、由佳里母さんもトイレに向かっていたはずなのだが、嫌な予感を感じて陽愛達を祖父母に任せて父さんの部屋に向かったところ、父さんだけでなく由佳里母さんも父の部屋にいたのだ。
「由佳里母さんはどうしてここに?」
「トイレに行った帰りに勝次さんの声が聞こえて、気になって聞き耳を立てていたの。 陽愛達は?」
「陽愛達はじいちゃんとばあちゃんに任せてる。 それで父さん、何があったんだ?」
「お前にも関わるから話した方がいいな。 実はお前を産んだ母、美里を殺した女で服役中の古谷 佳子が脱獄したんだ」
「何だって!? あいつが!?」
嫌な予感が的中してしまった。
俺を産んだ母親の桂川 美里を崖から突き落として殺した自己中の女の古谷 佳子が刑務所から脱獄したと父さんから教えられた。
「あの女、前の妻の美里を殺しただけでなく、高校時代に由佳里の姉をいじめて自殺に追い込ませたらしい」
「母さんの……お姉さんも!? あいつが関わってた!?」
「ええ、その女の名前を聞いた時、私も思い出したの……。 姉がいじめられていたのに両親が何度掛け合ってもあの女が教育委員長の父を持つ影響で隠蔽されたの」
「ひでぇな……」
「美里の場合は私の後輩の紗蓮という小梅崎家の娘が助けた事で事なきを得たが、由佳里の姉の場合は助けてくれる相手がいなかったようだ」
前の母さんも中学生の時にいじめられたが、花蓮の母親の紗蓮さんが助けに入ったことで事なきを得たが、由佳里母さんの姉は紗蓮さんみたいな人がいなかったらしい。
だから好き勝手にいじめては、周りに脅しをかけて隠蔽させたのだろう。
『いじめなんてなかった』と。
「奴の狙いは、私達の今の住処をめちゃくちゃにすることと、彼方……お前の命だ」
「俺の!?」
「ああ、奴は美里が産んだ子供であるお前を殺すつもりで、執念で脱獄したそうだ。 看守を気絶させてまでな」
「そこまでするのか……!」
あの女が今度は俺を殺そうとしてきたのか。
父さんから聞いた話でしか知らないが、奴は自分以外の者が幸せになる事は許さないという歪んだ考えを持っているようで、父さんも狙っていたのだが、当の父は美里母さんを選んだ。
それが気に食わないから、あの女は美里母さんを崖から突き落として殺したのだ。
「裁判で懲役刑と慰謝料を勝ち取った事と、知り合いの女性が看守をしている刑務所に服役させたのだが、奴は6メートルの電流が仕込んだ壁をロッククライミング感覚で強引によじ登って脱獄したようだ」
「最悪すぎる……! それですぐに戻るのか?」
「いや、今の我が家には私の友人の刑事たちが見張りをしてくれるようだ。 すぐに捕まえられるようにな。 看守を気絶させたりしたんだ。 加重逃走罪は確実だ」
「その刑事さん、信頼できるのか?」
「もちろんだ。 私の友人だからな。 彼も何としても捕まえると息巻いてたからな」
「それならいいが……」
父さんの友人が刑事をしているらしく、その人達が今の俺達の住処を見張ってくれるようだ。
いささか不安ではあるが、今は信用するしかない。
「ともかく、今はこの実家で楽しく過ごそう。 あまり暗い顔をしてると陽愛達に心配されるだろうしな」
「ああ、そうだな。 陽愛達の為にここに来たんだし」
「そうね。 食事もまだ終わってないし、戻りましょう」
「竜也や紗蓮にも念のため連絡しておくよ。 友人がしてくれてるとは思うが」
「ああ、花蓮が巻き込まれる可能性があるからか」
「そういう事だ。 さぁ、戻って陽愛達と戯れて癒されよう」
「そうね」
あの女……、古谷 佳子の脱獄の話を聞いて冷静になれなかったが、今は父さんの友人の刑事さんを信じ、俺達は陽愛達と戯れる事で癒しておこうと考えた。
一応、祖父母にもこの話はしておいたが、念のため祖父母のパイプを使うという。
しかし、2日後に花蓮から着信があり、その女が逮捕されたという話を聞いて安堵したのはいいが、捕まえた経緯を聞いてドン引きしてしまったのは言うまでもない。
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