第2話 リンク
「兄さん!木の裏にいるよ!」
ベゼがりんと響く声で盗賊がいる場所を伝えてくれる。俺自身も分かっていたので、ベゼと同じ結論あることも合わさり、予想が確信に変わる。敵の姿は見えないが、それは俺の戦闘の上ではなんら障害にならない。位置さえ分かっていれば、俺の攻撃は必ず通る。
「了解。任せて」
俺は剣を振り上げると、腰を低くしてグッと溜めを作り、跳躍して盗賊との距離を詰める。
木の裏に着地すると、ギョッと体勢を崩した盗賊と目があった。
俺との距離は約2m、剣が届く距離ではないが、俺は迷わず剣を振るう。
ブンッと空を切るような音を残し、森自体のピタリと音が止んだ。正確には止んだ、というより止めた、と言うべきだろうか。
「ぐっ、一体どうなってる…っ?!」
盗賊が自分の足元を見ると、太い蔓が足に巻きつき離れなくなっていた。まるで森全体が盗賊に意識を集中させているかのように、葉さえも音1つ立てずに静まり返っている。
「去れ」
俺は出来る限り威厳を放つような口調で短く言い放つ。
「断る。俺たちはお前の能力を利用したくて来たんだ」
明らかに不利なはずの盗賊の上から目線な言葉に、どこか不穏なものを感じながら冷たい口調で言い返す。
「黙れ、今すぐ去らないのならこの森の養分となってもらう。」
言いながら養分ってなんだよ……と自分でも思ったが、盗賊は冷や汗を浮かべ初めている。極力剣でのぶつかり合いは避けたいのだ。俺は相手が動けないのは分かっていながらも、一応少し距離を離す。しばらく睨み合いが続いていたが、ふと盗賊が視線を外すとニヤリと笑い、俺に忠告をするかのように話しかけて来た。
「このまま睨み合いをするのも勝手だが、果たしてそのままでいいのかな?」
「はぁ…このまま去ればよかったものを、多少手荒なこと…」
諦める様子のない盗賊に、俺は実力行使で多少黙らせようとした。しかし、俺が言い終わるまえに盗賊がポケットからなにかの玉を取り出すと、俺の足元に投げつける。次の瞬間、瞳を焼くような明るさに目を奪われ、何も見えなくなった。
「しまった!」
今まで足音を消して移動して来たのだろう。いつのまにか背後へとやってきた2人目の盗賊はゼベに斬りかかろうとしていた。
「なんてね」
俺は剣の柄を逆手に持つと、槍投げの要領で体を絞り盗賊めがけて投げつける。森と意識を共有していた俺は、剣を投げられる射程圏内に2人目が来るまで待っていた。目は見えなくとも、敵は視える。
「当たるかよ!」
2人目の盗賊はとっさに身をかわす。盗賊の服を掠めた剣は、そのまま近くの木に深く突き刺さった。
「はっ、武器がなくなっちまったが大丈夫かい?」
盗賊は煽るように聞いてくる。全くもって問題ない。むしろ当てる気は最初からないのだから。
盗賊がこちらに意識を向けてくれたおかげで、背後に突き刺さった剣に対する注意を怠ったようだ。剣が突き刺さった木は、意思を持ったように幹を震わせ、盗賊めがけて幹を横薙ぎに振り抜いた。
「ぐはぁ………っ!」
幹はそのままの勢いで盗 もう1人まで巻き込むと、そのままバネのように体制を戻す。当然幹にぶつかった2人の盗賊も一緒に持ち上がっていき、止まる力のない2人はそのまま空の遥か彼方へとぶっ飛んでいった。
「ホームラン!」
ゼベが無邪気にガッツポーズを取っていた。
「ふっ…今回も余裕の戦いだったな」
俺はゼベに笑いかける。
「兄さん、足震えてますよ」
ゼベに指摘され、バッと足に木の枝を集めて隠した。
「全く、もう何回も撃退してるんだからそろそろなれたらどうです?」
ゼベがクスクスと笑いながら言ってくる。そんなこと言われても怖いものは怖い。今までは王国の人たちが盗賊の相手もしていてくれたのだが、1ヶ月前に突然盗賊の相手は出来ないから撃退は任せるとの手紙が来た。何でも、親父との誓約書には次代の警護は含まれていないとのこと。ふざけるなよ王国め、次の《点検士》の時は落とし穴でも作ってやろうか、と考えて悪い笑みを浮かべていた。
「帰りましょ、今日の夕食はビーフシチューなんです!」
手をパンパンと払いながら、ベゼは花のような笑顔を浮かべていた。今回は新作料理のようだ。そのせいかどことなくソワソワしながら俺に帰りを促す。
いつの間にいろんな料理作れるようになったんだ?最近ほんとにレパートリが多くなっている。出来る妹を持つ兄は幸せである。
「すごいなゼベは。でも、もう少しリンクの方も練習したらどうなんだ?」
「う…ちゃんと練習してますよ!」
プンプンと怒り頬を膨らますベゼとハムスターを重ねて吹き出してしまった俺に、ベゼの頭突きが飛んできた。
「ほら、リンクやってみろ」
俺はゼベをそそのかす。
「わかってます、〝リンク〟」
ゼベは強く森をイメージして目を瞑る。すると、ぼんやりと森の全体像が見えて来て、そこで途切れてしまった。
「ハァッ…ハァッ…」
ゼベは苦しそうに深呼吸を繰り返す。
「おい、大丈夫か?」
俺は少し心配になって声をかけた。
「うん、でもまだまだ練習は必要みたい。」
俺が能力を継承した日、ベゼもまた、新しい能力のようなものに目覚めていた。その名もリンク、森の視点を使いどこであろうと見渡せる能力である。それはまだ微弱で、少し使うだけでも大幅に体力を消耗する。最初だけ長時間出来たようだが、それからはさっぱり上手くいかない。とはいえ、それとは他にも同系列の能力ならいつでも使えるようだ。簡易版リンクのようなもので、侵入者が近くにいれば正確に距離を掴むことが出来るというものであった。これがあるだけでも戦闘は大分楽になったので儲けものだろう。俺自身の1本の長剣を手にしてから、自分の能力を限りなく引き出せるようになっていた。森田の意識を共有して生命反応の探知などと、今では器用なことも出来るようになっている。
俺の能力を引き出す元になったこの剣は、ベゼが先月偶然能見つけたものだった。
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「《点検士》さんもう来ちゃったんですか?!」
《点検士》は森の調査をしてくれる人なので、調査用の道具はあっても戦うための道具は持っていない。なんでもその調査の道具は機密情報だそうで、盗賊に奪われでもしたら一大事になるそうだ。そのため、政府の警備だけでなく兄さんも同行することで《点検士》を守らなければならない。でも今兄さんは起きられないだろうから、《点検士》の護衛が出来るのは私しかいない。
「あの、兄さんが今寝込んじゃってて、私は兄さんについていたいんですけど、やっぱり護衛がないとダメですかね」
「ああ、これは決まりだからな」
しょうがない、それはわかっているが、内心護衛なんかいなくたって大丈夫だろうと思ってしまうところがある。実際、《点検士》を兄さんが守らなきゃいけない場面なんてなかったし。なにか…兄さんの側にいながらこの人の護衛もできる方法はっ…お願い…誰か助けて!
普段神に祈ることなどない自分だか、兄さんが寝込んでいるのに置いてはいけない。兄さんの手を強く握って願いながら、何かうまい方法はないかと思案する。すると、それに答えるかのように森の全体像のようなものが頭に浮かんで来た。最初はぼんやりとしたものだったが、数秒でくっきりとした画像になる。私たちの住んでいる家も見えたので近づいてみると、兄さんの手を握る私の顔が見えた。(なにこれ…まるで、森の視点で見ているみたい)初めて見るはずのものだったが、なぜかすんなりと自分が何をしているのか理解できた。これなら、二つのことを一緒に出来るんじゃないい…?
早速、点検士に提案する。
「あの、私森の視点で周りを見ることが出来るので、索敵だけなら広い範囲行うことが出来ます。それだけではやはり護衛とは言いませんか?」
点検士は一瞬驚きの色を目に滲ませた後、少し考えるそぶりを見せ、一つ頷いた。
「まあいいだろう」
その言葉を聞いて、私の表情は自然にほころんでしまう。点検士自身、自分が危険な状況にに陥るとも思っていないのだろう。案外簡単に、ベゼの案を了承してくれた。
「ありがとうございます!」
私は満面の笑みを浮かべてそう言った。
点検士が森へ歩いていくのを確認して、私は森の目を借りて全体を見渡す。改めて実感する森の大きさに感嘆としながら、その目は絶えず点検士を監視していた。点検士はある程度森の深くまで歩くと、立ち止まって大きな機械を取り出した。見た目だけ見れば金属探知機のような形状をしたそれを、前方に掲げながら歩き始める。私には何をしているのかさっぱり分からなかったが、やっていることに大して興味もなかった。点検士の様子を横目で流しながら、せっかくの目を生かして森を探索していく。テレビのチャンネルを変えるようなイメージで森の視点を変えていくのは結構楽しいものだった。5、6分そうしていただろうか、ふと前方に、ぐるぐると細い幹が何重にも絡まった切り株があるのを見つけた。中心に何かがあるのだが、どの角度から見てもそれが何なのかの判別はつかない。どうしても気になって行ってみたかったが、点検士にここは離れられないと行った手前勝手に動くことなど許されない。そもそもソルトを置いて行くという発想自体がなかったが。
気になった切り株以外には何事もなく点検士の作業は終了し、兄が目覚めて一悶着あったりしてから、夕食で切り株の話を持ち出した。ソルトは興味深そうにその話を聞いた後、一つ頷き
「分かった。それじゃあ、時間が空いてる時に行ってみよう」
と言ってくれた。
後日、私達は1本の剣と出会う。
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