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鎖の世界 〜 SAD SIDE STORY 〜  作者: 小野咲 真軽
記憶をなくした異世界人の物語
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レポート 005 「魔法のモデル」

 静寂の中 夜が()けていく。暗い闇の中では水晶の光がいっそう妖しげに際立っていた。

 アリスはその神妙な光に誘われながら、とろんとした顔をこくりこくりと不規則に揺らしている。



「アリスちゃん。もう寝よっか。」

「むぅ……うん」



 カンナはアリスを抱き上げ、近くの部屋へと移動した。そして干し草の山の上へと運んだ。


 アリスの寝室(?)は柔らかな干し草と青葉の上に布を被せただけの簡易なもので、その周りを木の枝やツルなどが囲い、巨大な鳥の巣のようなものだった。

 というか…


「もろ、鳥の巣じゃねぇか」


 地面に巨大な卵の殻の欠片が落ちていたのが決定的な証拠だった。


「おいおい、急に襲われたりしないよな」

「古巣だから大丈夫だよ。それに私のあの結界がこの洞窟を守っているから、鼠一匹も入ってこれないって」

「ちょっと前に野うさぎを見たばかりなのだが…」




 アリスの寝室を兼ねているその部屋は水晶の数が他と比べて少なかった。俺とカンナは元いた明るい部屋へと戻った。


「立ち話もなんだし、座ろっか」


 そう言うと彼女は壁に手を当て、目を瞑った。



 それは芸術的な魔法だった。


 足元の地面が3箇所ほど小さく盛り上がると、それら互いに絡まり合い、螺旋を描きながらぐるぐると腰ほどの高さまで伸び上がっていく。

 尖った先がパッと小さな花のように開いた。その先端からまた氷のように透明な板が渦巻くように広がり、大きな丸い円となっていく。

 テーブルだ。カンナは魔法でテーブルを作ったのだ。



「さて、なんの話からしよっかな」


 そう言ったカンナはいつの間にかできていた椅子に腰掛けた。

 俺の背後にもあったので彼女に合わせてゆっくりと腰を下ろした。その椅子もまた繊細な模様が施されていた。


「そうだね。なら、魔法の話からしようか。」


 俺の感動の冷めない目を汲んで、話題を選んでくれたのだろう。なんか好奇心旺盛な可愛い子供のように扱われたみたいで少し恥ずかしい。



「まず、魔法の分類から説明するね。魔法は基本的に4つに分類されるんだ。炎魔法、水魔法、風魔法、土魔法の4つだよ。でもほとんどの魔法は混合魔法だから区別は結構曖昧なんだ。」

「火、水、風、土だな。覚えた。」


「それじゃあ次にそれぞれの種類の説明をするよ」


 素直な生徒を前にした先生のように、カンナは滑らかに話を続ける。



「まずは炎魔法。これは物質の熱運動または運動そのものを促進させたり抑制させたりする魔法だね。抑制も含まれているってことは氷を生み出す魔法も、実は炎魔法に分類されるんだ。」

「氷なのに水魔法じゃなくて炎魔法なのか」


「水魔法との混合魔法だって言う人もいるけどね。そしてその水魔法なんだけど。これは文字通り液体の流動の仕方、その量や方向や勢いすべてに関連する魔法だね。雷魔法も電子の移動という点から水魔法の派生とされているんだよ。」

「あぁ、なんか科学の授業で聞いたような話だな」


 ケンタの態度は馬鹿そのものだが、元の世界では頭の回転が速い、優秀な学生だった。


「次に風魔法、これは気体の流動の仕方に関する魔法だね。圧力や体積も含むという拡大解釈もあるけど、これは熱運動の炎魔法にも関わってきちゃうから一般的ではないんだ。それでもある程度の圧力や体積操作なら風魔法に分類されるよ。」


「なら最後の土魔法は個体の流動だね!」

「…個体は流体じゃないよ。」


 …おい、誰だよこいつのこと優秀な学生とか言った奴


「土魔法は主に個体の物質の成分に関する魔法だよ。気体や液体でもできなくはないけど、不純物を取り除きやすい個体が一般的かな。」


「まてよ、物質の成分を変えれるって最強じゃね!文字通り、錬”金”術ができちゃうのか⁉︎」


「残念ながら土魔法は成分の混合割合を操るくらいで、新しい物質を作れるわけではないんだ。いや、作れなくもないけど、ものすごく根気のいる作業になるだろうね。この机のガラスも地中の使い終わった水晶の成分比率と配置を少し変えただけなんだよ。」


「なるほどな、そこらへんの石からガラスは作れないけど、ここにある水晶を元に頑張ればエメラルドやルビーを作れるのか。」

「そんな勿体無いこと誰もしないけどね。」


「エメラルドやルビーってこの世界じゃあんま価値ないのか?」

「そうじゃなくて、水晶がとても貴重なんだよ。魔力、魔法の元となる力のことだけど、それを蓄えることができるのは基本的に水晶かダイヤモンドくらいしかないんだ。特にここにあるような天然水晶だと、地中の龍脈から安定して魔力が供給されるから天然魔力として特に価値があるんだよ。」


「おいおい、そんな貴重なもんを机にしちゃっていいのかよ。」

「水晶には魔力を蓄えられる寿命があって、それが切れたものしか使ってないから大丈夫だよ。それにほら、この洞窟には余るほどあるんだからさ」


「そうそう、それも気になってたんだ。この洞窟は一体なんなんだ?人間の鉱山ならこんなに水晶が余ってるわけないし、自然にこんな場所にできるもんなんか?」


「ここはねグリフォンの巣だったの。グリフォンは山の崖に穴を掘ってそこに巣を作るんだ。でも季節が変わる度に住処を移動してるから昔の巣はこうして残るの。偶に帰ってくることもあるけど、ここなら私の魔法で入り口を守っているから大丈夫だよ!」


「おいおい、念には念を入れてフラグを立てて来たよ…」



 流れるように会話が続く。自然に会話が成立しすぎていた、不自然なほどに(、、、、、、、)。ケンタは文化圏の異なる人と話す時に感じるはずの違和感を殆ど感じなかったのだ。それは当たり前のことすぎて危うく気づかないところだった。しかし、その考えが彼の頭を巡った時、ケンタは一つの仮説を思い至った。


「なぁ、そういえばカンナはどうしてそんな科学の知識が豊富なんだ?それにカンナって名前…もしかして俺と同じ異世界人、いや日本人なのか?」


「ううん。私は歴としたこの世界の住人だよ。これくらいの理論ならその道の研究者の間では当たり前なんだ。恐らく君の世界の文化レベルとここのそれとは大して変わらないと思うよ。むしろ魔法がある分発達しているかもね。それと名前のことだけど…私の本当の名前は多分カンナじゃないんだよね…」


「多分?どういう意味だ?偽名ってことか?」

「うぅん…」


 カンナは少し困ったような表情をした。


「その首輪はね。言語理解っていうスキルの代わりをするものなんだけど、名前とかの固有名詞は翻訳できないんだ。特に名前とかはね」

「なるほど、確かに Bob を和訳なんてできないな」

「だから使用者の知っている名前の中から音が近いものを勝手に選ぶようにできているんだよ。」

「おいおい、この首輪、超ハイテクじゃねぇか!異世界文明ナメてたよ…それで、この首輪はいつまでつけてないといけないんだ?便利なのはいいが、流石に鬱陶しいしカッコ悪いんだが…」


「えっとね…それ、取れないんだ」

「へっ?」


「取ることを考えて作ってないの。元は獣に付けるためのものだから…」

「獣用なのかよ…」


 おいおい、流石にこの扱いはねぇだろ。いくら美女だからって世の中には許されることと許され…


「ごめんね。」

 許そう。


「無理やり壊すこともできるんだけど、その首輪 あまり数がないんだ。だからケンタくんが言語理解スキルを手に入れてからにしてほしいの」

「言語理解…スキル?」


「えっとね、この世界には万人が使える魔法と素質のある人しか使えないスキルっていう能力があるの。その中に言語理解スキルっていうのがあってね。文字通り、言語の理解が可能になるんだ。」


「でも俺にその素質があるかどうかわかんねぇじゃねぇか」

「心配ご無用!どうやら君にはね、全てのスキルの素質があるみたいなんだ!」


「なっ!なんだって!……って驚いてみたけど、それってどれだけ凄いんだ?」

「うーん、世界には数千個のスキルと上位のユニークスキルっていうのがあるんだけどね。普通の人はその内多くても数十個の素質しか持ってないんだ。それに上位のユニークスキルだと、珍しすぎてそれぞれ一人ぐらいしか使える人がいないんだよ。」


「なっ!なんだって!…なにそれ、これはチートなのか?異世界チーレム無双なのか!!」

「チー、レム?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ。ってそういえば、カンナはどうやって俺の素質なんかがわかったんだ?」


「それは……私のスキル『解析』のおかげかな。見たり触ったりすると相手の情報が分かるんだ。」


 なぜかカンナの説明に違和感というよりもぎこちなさを感じたがケンタは特に気にしなかった。


「ほうほう、それで、どうやったらそういうスキルは手に入るんだ?」

「えっと、ちょっと説明しにくいんだけどね。精神世界に行くんだよ」

「は?精神世界?」


「私たちは『鎖の世界』って呼んでるんだけどね。そこで条件を満たした人が試練を克服するとスキルが手に入るんだ」

「鎖の…世界…」


 あぁ、アレはただの夢じゃなかったのか。

 でもアレが俺の精神世界だというのなら、あの白い女の子はいったい誰だったんだろう…



 水晶の光が次第に弱まっていく。それを見たカンナはおもむろに席を立った。


「それじゃあ、私はそろそろ帰るね。」

「えっ、まだ聞きたいことが…鎖の世界って…」


 せわしく動くケンタの唇をそっとカンナは人差し指で塞いだ。


「そう焦らなくてもまた明日くるからそのときに、ね。」


 そう微笑みながらカンナは部屋を出て行った。


「それは反則だろ…」


 童貞男子には少し刺激が強すぎたようだ。呆然とカンナを見送ると、あとに残ったのは膨れ上がる疑問と満たされない好奇心だけだった。



「そういえば…どこで寝よう」


 昏睡していたため、あまり気にしていなかったが、ケンタの元寝床はお世辞にも心地いいとは言えない。かといって、幼女と添い寝するのは流石に紳士へんたいたる彼の良心が許さなかった。

 結局、干し草を少し拝借してその上で横になったのだが、


「鬱陶しい…」


 首輪と付属のイヤホン? が気に障る。そしてそれ以上に膨大な謎 の渦が頭の中を駆け巡り、中々寝付くことができない。

 ケンタは静まり返る世界の中、無理やり眠りについた。明日こそは平和な朝が来ますようにと祈りながら。そして心のどこかで、それは叶わぬ願いだと根拠もなく確信しながら。




すみません、説明回はさみます…

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