四十一話
なにをどう取り繕っても、その結論に至る気がしてならなかった。というかなぜ詰問というか取り調べ大会になっているのだろうか?
ぼくは進退極り、赤羽の方を向いた。
「あ、あのさ……」
「なん?」
赤羽の口調は、気楽だった。どうやら殴り合いは後を引いていないらしい。ぼくはホッとため息を密かに吐き、
「いや、あのさ……その、なんていうか、」
「時間が無かばい、本題に入ろう」
唐突に仕切り出した、だったら最初からという想いは飲み込んだ、確かに無視してたのは事実ではあるから。うぅ、胃が痛い、回り道して変に気を遣ってひとりでぐるぐるしてたという事実が辛い……!
「……本題って、なんデスか?」
深雪ちゃんが不満そうに、言葉に乗ってきた。確かに深雪ちゃんからすればぼくへの詰問を遮られた形になる、面白くはないだろう。ちなみにぼくは助かったわけだが、ついでに嘉島はずっとニコニコ笑っているだけだった、寡黙な男はモテる説。
赤羽はまーまーと抑えて抑えてというアクションをしながら、
「上月はあとでとっちめるとして、今は菖蒲ちゃんのことばい」
それにピン、と共通の緊張感が流れたのを感じた。
深雪ちゃんは言葉を選ぶようにして、
「……菖蒲ちゃんっていうのは、この前の輿水さんのことデスよね?」
「YESっ!」
こいつは女子が絡むととてつもないチャラ男になるな誰か止めてくれ。
「それで、輿水さんがどうしたんですか?」
「上月が気になって仕方ないらしかとさ」
ストレート過ぎる。少し前のぼくだったらぶっ、と吹き出していたことだろう。時の流れというものは嫌なことでも慣れさせてしまうものだなとつい、遠い目になってしまった。
「あぁ、そういうことデスか」
ストレートに納得するなよ、なんか泣けてきた。
でもそれはいい、とにかく事実ではあるのだが、気になるのはぼくがやってしまった落ち度に対する謝罪だが、間違いではないし。
口を挟まずにいると、赤羽はニヤニヤとこちらを確認したあと深雪ちゃんの方を向き、
「そういうこと。で、来月理事長が学校来るたい?」
「あぁ、はい……鯛?」
明らかに魚的な意味で深雪ちゃんは言ったようだが、赤羽は気付かなかったようだ。
「そん時に、話聞いたらよかっちゃなかとおいは思ってるわけ。嘉島はどう思う?」
うわ、そこでいきなり嘉島に振るか普通?
ぼくも視線を向ける。
嘉島はやはり、ただニコニコと笑っているだけだった。予測、彼は本当に必要がある時、もしくは3人以下の人間がいる時しか言葉を発さない。
と、勝手に思っていた。
すると嘉島は、深く、頭を、下げた。
つまり――
「なるほど、やっぱり会った方がいいと?」
顔を上げ、笑い、改めて今度はわかりやすく頷いた。
言葉だけが意思疎通の手段だなんて、誰が決めた?
ぼくは本当にクソったれなガチガチ頭だな、と自分を殴りたくなった。実際には殴れない泣けてくるようなヘタレだったけど。
でも――
「会う、って……会って、それで……?」
どうするんだ、とは聞けなかった。そんなもの、彼女のことを訊くに決まっていたからだ。行動の内容は分かっている、というより他に選択肢はない。じゃあなにが問題かというとその、理由――
「先輩は、気にならないんデスか?」
「き、気になるってなにが……?」
「輿水さんがあんな風に、深雪たちとの会話を拒んだり、深雪たちと向き合うのを拒んだりした、その理由ですよ」
どうもやはり、この子は無視されたり相手にされなかったりということが極端に気なる性分のようだった。さすがは自称天才少女、今までチヤホヤされて注目されてきたのだろう、嘉島は苦労しそうだった。
ぼくは苦笑いを浮かべ、
「そ……そりゃまぁ、気になるけど……」
「だったら訊いたらいいじゃないですか」
正論が、眩しかった。思わず手庇を作るところだった、ぼくはなんとか平静を保つようにして、
「そ、そうだね……確かに、訊いた方がいいね、うん……」
「先輩っ」
そこで少し、強めに深雪ちゃんは言った。それにぼくは、僅かに気圧される。
目を、じっと見つめられた。目を逸らしたかったが、そういうわけにもいかないようだった。仕方なくぼくは、目を合わせた。嘉島の視線が、気になった。
やたらと純真で、キラキラした瞳がそこにはあった。
「な、なに? かな?」
彼女の勢いは、相当だった。
「先輩さっきから、なんなんですか? 全然ハッキリしないデスし、なに言いたいのかわかんないデスし、正直言って優柔不断丸出しなんデスけど?」
正論が、胸に痛かった。ぼくはだんだんと、話すのが辛くなってきた。我慢が、出来なくなってきた。
「だ、だって……悪いじゃないか? その、輿水さんに――」
「なにがデス?」
「だって、まだ会ってそんなに経ってないし、話してないし、迷惑かもしれないし……」
「話してないからこそ、訊かないとわからないじゃないデスか。それに迷惑かどうかなんて考えてたら人間関係なんて築けないし、会ってからどれくらい経ったかとか――」
「だってろくに知りもしないじゃないか!」