四十話
「あ、あー……えーと、今日は――」
「なんの話なんデスか、喜一郎?」
見事に遮られていた。ぼくは出鼻をくじかれた形になり、もう穴があったら入りたい境地になる。いやこの場合穴があったら見つけたい、か。イコール彼女に、繋がるから。
深雪ちゃんの言葉に、嘉島は照れたように頭をかき――特に発言も無く、赤羽の方を見つめた。あの時だけだった、この男が話しているのを聞けたのは。まさか今日もこうして集まったというのに、なにも話さず終わるつもりではあるまいな?
赤羽はムッツリしたまま、アゴをしゃくった。しかしそれはどこという方向性を持ったものではなかった。ぼくは困り、改めて深雪ちゃんを見たが、特になにを発言するつもりもないようだった。だったら最初から遮らないでほしいと思う。
ぼくは改めて咳払いして、
「では、改めまして、その……本日はお日柄もよく、」
「曇ってマスけど?」
「――は無いですが皆さんの心模様はきっとよろしく、」
「いきなりこんな下校時間間近に呼び出されて憂鬱デスけど?」
「――は無いようですがなにはともあれ、」
「その前置き必要なんですか?」
おのれ自称天才少女め、なんの恨みがあるか知らないがよくもまぁそれだけ人を炊きつける言葉がズラズラと出るものだこんちくしょーがまぁ今日のところは日も悪いし見逃してやるが心の復讐帳にはキッチリ記帳してやるからこの野郎だとかわけのわからんことを呟き僅かに溜飲を下げてから、本当に切り出す。
「その……本日は自分のような人間のためにお集まりいただき、ありがとうございます」
頭を下げる。それに深雪ちゃんからのツッコミは、なかった。なんだか複雑だった、どうせならこれもウソだったら良かったのにと通常で考えればあまのじゃくな考えを浮かべた。
ぼくは改めて、思った。いや実際には、理解した。
ぼくは宇宙人、なんかじゃない。
ぼく――の感覚や、心は、たぶん、"壊れてる"。
「……まったく、世話が焼けマスね」
深雪ちゃんが言った。それにぼくの瞳は、高速運動する。もっとわかりやすく言えば同様に、揺れていた。
なんでだ?
たった二度しか、会っていないじゃないか? 特になんという会話も、してないじゃないか? 互いに互いのことを、知りもしないじゃないか?
なんでそんな人間相手に、時間も手間もかけることが出来るんだ?
「すまないね、こんな情けない先輩で……」
「まったくデス、喜一郎の知り合いじゃなかったら、絶対相手にしてないデス」
想いは言葉にならず、しかし結果として解を得ることになった。なるほど、想い人の知人だからという理由か。納得まではいかないが、理屈は通っている。
ぼくは赤羽の方を、チラリと見た。
赤羽はムッツリ顔はやはり崩さず、
「いいパンチやったばい」
自らの頬を自らの拳でつつき、ニカッと笑った。それがしたかっただけなのか? 相変わらず理解不能だが、それで随分サークル室の空気は軽くなった気がする。
時計を見る。残り10分と少し。
本題に入ろう、かなり時間ないし。
「そ、そりゃどうも……それであの、話なんですが、」
「なんの話デスか?」
「あの……オレのことで色々みなさんにはご心配かけたみたいですけど、大丈夫です。元気にやってます、ハイ」
「心配とかはしてないデスけど?」
「…………」
どうしよう、せっかく四人いるのにぼくと深雪ちゃんとのマンツーマンになっていた。既に赤羽とは殴り合いまで発展するやり取りを終えているし、嘉島は喋らないし、もういっそ深雪ちゃんとタイマンで話して良かったんじゃないかという気もしてくる。けどこの子心配してなかったらしいし、どう会話を発展させればいいのか見当もつかなかった。
とりあえず、咳払いする。咳払い万能説。
「ご、ごほん……じゃあその、心配してなかったということで、なんか気にしてたっていう話は……?」
「してましたよ」
まさかの肯定意見に、え? と顔をあげた。
「だって深雪のこと、無視するから」
まさかの追及に、ぶほっ!? と空気を噴出した。そ、そういう意味の気にしてた、か――ヤバい、もうこの集会最初から最後まで前途多難な予感しかしないぞ?
ぼくは軽く冷や汗を流しながら、
「む、無視っていうか……その、お、オレみたいのというか、1,2回しか話してないのに気安く話しかけるのはどうかと……」
「合コンで一回で、そのあと学食で二回デスけど?」
「あぁ、そうですね、二回デスね……その二回じゃ、あの……」
「それが無視した理由デスか?」




