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入学

ここからが新展開です!


 あっという間に月日は流れ、とうとう入学の時がやってきた。


「ここが……スーザル魔法学院……」


 『瞳の中のドルチェ』をプレイしていた時はなんとも思わなかったが、こうして実際に見るとやはりオタクとして感動は大きい。

 原作ファンとして興奮していたセシリアは、ハッと我に返り首をぶんぶんと左右に振った。


(いけないわセシリア、ここからが本番よ)


 記憶を取り戻してから、自分にできることは全てやってきた。


 病弱な身体をボディメイクして健康になり、パーソナルトレーニングをして手に職もつけ、自分を断罪することになる王様との関係も良好。


 ただし、アルフォンスとの婚約がなぜか解消できなかった以上、この世界の強制力がある可能性は捨てきれない。

 一年後の断罪イベントまでは、油断せずに学院生活を過ごすべきだろう。


(まずは、サーシャを探すところからね)


 彼女が入学してからまずやろうとしているのは、サーシャと顔合わせをしておくことだ。 原作ファンとして会いたいという気持ちも強いし、原作通りに進む可能性を少しでも減らしておきたいという切なる願いもある。


 そのためにこうして校門でサーシャを探しているのだが、彼女の下にやってきたのは想定外の来客だった。


「やあセシリア、調子はどうだい?」


「アルフォンス様、おはようございます」


 彼女の前に現れたのは、馬車からひらりと下りてきた婚約者のアルフォンスだった。


 いつもの王族ルックではなく学院の制服に身を包んだ彼は、以前より引きしまったおかげか制服がとてもよく似合っていた。


 ひらひらと桜が舞う中を優雅に歩くその様子に、歩いて登校する女生徒達は感嘆の声を漏らしていた。


「いよいよ今日から学院だね」


「はい、楽しみです」


 にこにこと笑うアルフォンスに、セシリアも柔らかい笑みを返す。

 断罪イベントはあるものの、学院生活に胸を弾ませているのもまた事実だった。


「そういえば知ってるかい? 学院には運動用の施設があるらしいよ」


「それは……興味深いですね」


 パーソナルトレーナー代を注ぎ込んでトレーニングマシンなどの製作には成功しているものの、学院の中で運動ができる場所があるのはありがたい。


 たくさん食べてしっかりと体型を維持するためには、結局のところ有酸素運動は絶対に必要になってくる。


「もしよければ昼食後にでも集まって、一緒に散歩しようよ」


「いいですね、それじゃあ……」


 とそこまで考えたところで彼女は気付いた。

 今の自分が一番やらなければならないのは、サーシャと仲良くなることだ。


 それをおろそかにしてアルフォンスとばかり仲良くしていては、アルフォンスルートを潰してしまうことにもなりかねない。

 セシリアは軽く頭を下げながら、アルフォンスにすみませんと告げた。


「おそらくしばらくの間は、学院で一緒になることはできないと思います」


「……え、どうしてだい?」


「私にはやらなければならないことがありますので」


「……そっか、残念だな」


 ちょっとだけ口元を尖らせながら、アルフォンスは軽く地面を蹴った。

 けれどこちらを振り返った時には、既にいつもの彼に戻っている。


「わかったよ、そしたら時間ができたらセシリアの方から誘ってね」


「はい、その時は是非」


 アルフォンスと一緒に過ごす時間も楽しいので、そう本心で返す。

 すると満足したらしく、彼はそのまま学院の中へと向かっていった。


 更に待つこと五分ほど……セシリアは、ようやくお目当ての人物を見つけることができた。

「……」


 黒髪黒目のショートカットの少女が、桜並木を物憂げに見上げている。

 その姿はセシリアが何回見たかわからない一枚絵とまったく同じ。


(ほ……本物のサーシャだっ!!)


 鼻息荒く興奮しながらジッと見つめていたセシリアは、よく見るとサーシャの周囲にぽっかりと空間ができていることに気付く。


 貴族達しかいない学院の中にやってきた平民に、皆が奇異の視線を向けているのがわかる。


 魔法学院の特待生制度が始まったのは今年からだし、皆も扱いを図りかねているのだろう。


(私が行くしかないわね!)


 セシリアはそのまま足取り軽く、サーシャの下へと歩いていく。

 サーシャもすぐに気付き、その場でビシッと石のように固まった。


「ごきげんよう、サーシャさん……で合っているかしら?」


「は、はいっ、初めまして! サーシャと言います! セシリア様にお声をかけていただけるなんて光栄です」


 どうやら自分のことも知られているらしい。

 それなら話が早いわね、とセシリアは爪先の位置を後者へと向けて歩き出す。


 隣を歩くサーシャは、ずっとカチコチで油の切れたゼンマイ人形のような動きをしていて、思わず笑いそうになってしまう。


「今日からは同じ学院で過ごすことになる同級生よ、そんなにかしこまる必要はないわ」


「はい、わかりました。ただ、いきなりだと難しいので、徐々に慣れていけたらと」


「まあ、そんなところかしらね」


 二人で歩いていると、周囲からの視線が突き刺さる突き刺さる。


 既に国王からの絶大な信頼を得ているセシリアは、貴族界隈ではかなりの有名人だ。


 そんな彼女が良くも悪くも耳目を引く平民の特待生と歩いているものだから、ものすごい勢いで周囲の目を引いている。


 セシリアは慣れたものだが、あまりこういった視線に慣れていないサーシャの方は少し顔色が青くなってしまっている。


(あら……?)


 だが自己紹介がてら話をしているうちに、どうもそれだけではないことに気付いた。

 最初は緊張からなのだとばかり思っていたが、どうもサーシャの体調があまりよろしくないように見えるのである。


 キュピーンとセシリアの目が輝く。

 不健康を見過ごすわけにはいかぬと、健康オタクの血が騒ぎ出す。


「ねぇサーシャさん、あなたひょっとして……慣れない生活で、生活習慣が乱れてるんじゃないかしら?」


「へ? えっと……はい、たしかにここ最近はあんまりよく眠れていませんけど……」


 この世界において超超重要人物であるサーシャ。

 そんな彼女が本調子でないというのなら、セシリアとして動かないわけにはいかない。


(次にやるべきことが、決まったわね)


 原作ファンとしてとか将来の断罪のためにとか、すいった考えはセシリアの頭からは完全に抜け落ちていた。

 まずやらねばならぬのは、目の前の不健康を改善することだ。


 セシリアは明らかに体調が良くなさそうなサーシャの生活を改善すべく、早速動き出すのであった――。

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