日本人、戦える
『緊急依頼! 首無し騎士の討伐』
依頼内容は首無し騎士の調査……首無し騎士ってこの身体かも?
気になって詳細を確認すると、王国で暴れ、リヴェルト方面で消息不明となったらしい。鎧の特徴は、先ほど身につけていたものと一致する。まさかね……。
掲げられた報奨金がどれほどの価値を持つかはわからないが、かなりのクエストのようだ。私が狙われているというのはこれもあるのか……。気を引き締めなくては。
「お待たせいたしました、冒険者証です」
はっきりと冒険者見習いと書いてある免許証みたいなカードをもらった。これからランクとか上げていくのだろう。それらを無視してひたすら強さを求めるパターンもあるが、ある程度ランクが高い方が融通が効くだろう。
そのまま四人は“タイニーテーブル”に戻った。途中、ゴルディが大聖堂や議事堂などを紹介してくれたが、私もロザキューレも興味がなかったので立ち寄らなかった。
「おかえりなさいませ」
「やっ! おかえり、待ってたよ」
中にはやや長身とやや小柄なメイドふたりとこれまた見知らぬ女性。ボブカットに派手なピアスでメガネをかけた長身の女性。同性から見ても魅力的だ。
「えっと……」
「みんなはじめましてだね、私はシザリー。お医者さんだよ」
「ディアを色々調べてもらうのさ」
ゴルディやレオハも面識のないお医者さん……怪しい。
「“天の一撃”は医者も確保しているの……ですか?」
「特に“天の一撃”は関係ないよ」
「私たちが、君に興味を持った。それだけだよ」
砕けた口調にはにかむ姿。思わず気を許したくなるが、一点。その瞳の鋭さが警戒心を解かせてくれない。
「さ、診察するからついておいで」
そう言いながらシザリーは歩き出す。ついて行く私の後ろをメイドふたりがついてくる。
行き先は地下。建物に反してかなり広い。そして、なんだか近代的な印象だ。地下室というより核シェルターみたいな……核シェルターなんて見たことないけど。
「では早速。動かないで」
部屋について椅子に座らされるとすぐにふたりのメイドが身体のあちこちを触りはじめた。シザリーは首周りを念入りに確認している。
「これって本当に外れるの?」
そんなことまで部外者に話しているのか! ミオネへの不信感は深まる。
「……やってみますね」
単に外そうとしても外れないので、外れろ! と念じて持ち上げると、取れた。自分がただの人間じゃないのは複雑な気持ちだ。
「できました」
「ほぉ、自力で外せるのか。これなら私がくっつけなくてもいいね」
「戻しますね」
「おぉ、随分と思い切りが良い……」
「隠してもしょうがないですし」
シザリーはひとしきり感心した後、懐からハサミを取り出した。
「それじゃ、切ってみようか」
一瞬、身体がびくついた。しかし何も起こらなかった。否、何も感じられなかった。シザリーのハサミが空を切った瞬間、私は刀で斬られたように床に転げ落ちた。視界には、身体とシザリーとメイドが映る。
「生きてる?」
「な、何を……!」
怒気を含んで抗議するが、それだけ。身動き一つできない。身体が全く感じられず、反応もないのだ。焦る。焦れば焦るほど、恐ろしさが増す。怖い。
「おぉ〜、その状態で生きてますか。それに、こんな繋がり方があるとは。奥が深い」
シザリーは目を輝かせている。そして、手元の紙に何かを書き始めた。
私はただ転がされていたが、小柄なメイドが持ち上げてくれた。シザリーの手元が目に入る。そこには私の身体について様々な仮説が書いたり消されたりしていた。
「……あの、これって元に戻ります?」
私を殺す気では無さそうなのでおそるおそる聞いてみた。すると、シザリーが答えるより先に身体が椅子から転がり落ちそうになる。すかさず、長身なメイドが支えてくれた。
「それ、いいね。試してみよう」
小柄なメイドは即座に私を元の位置に置く……
「あっち!」
身体が熱い! ピタリとする感覚は多少あったが、以前より違和感、特に身体の熱さが気になる。
「君と身体は魔力で繋がっていたとみて間違いないね」
クールに淡々と話すシザリー。私はだんだんと身体から熱い何かが駆け巡ってきてのぼせそうだ。
「それを切ってみたら身体の魔力が滞っちゃったね。だんだん修復されているようだけど、はい」
シザリーは首元に縫い針を近づけると軽く縫う仕草をする。身体の熱さがなくなり、身体を動かせる。それも、前よりスムーズな気がする。
「驚かせたお詫びにサービスしといたよ」
身体が自分のもの以上に動く。今までは身体相応、もしくはそれ以下の力しか自分で引き出せず、衝動任せだったが、今なら自分の意思でゴブリンを粉砕できそう。
「まぁ、魔力干渉には無力だから気をつけてね」
「はい……」
そうか、ただ強くなったわけじゃない。首だけになった時の無力さは健在なんだ。
「まずはこの世界を知るところからだよ。じゃ、いってらっしゃい」
「はい、え?」
戸惑う私をふたりのメイドが案内する。今よりもさらに地下。にもかかわらず明るい。階段を降り、通路を進むと、更衣室に着いた。私の知っている更衣室と違って武器や鎧が揃っているが。
メイドは無言で私に鎧を着せ、武器を用意する。
一体何と戦わせようというのか。並べられた武器を眺めていると、異質な存在に気付く。剣や槍の中に銃があるのだ。
はちゃめちゃな世界観に呆れながら、私が選んだのは細長い棍棒、そして四角い盾。自分の力の強さを活かせるのと、刃こぼれがなく頑丈。それに盾があれば遠距離攻撃を掻い潜れる。戦いたいと思ったのは空想の中だけだった、今も戦いたくはない。それでも、戦えるようにならなくてはならないのだ。
覚悟を決めて部屋の奥に進むと、そこは闘技場だった。
「……これがこの世界の、戦い」
闘技場では、すでにゴルディ・レオハとロザキューレが戦っていた。いや、遊ばれているというのが正しいかもしれない。ゴルディの火の玉は複雑な軌道を描くが、ロザキューレが左手の丸い盾を向けただけで消滅してしまう。レオハも急加速をしながら近づいて行くが、ロザキューレはなんなく右手の短い槍で動きを狭め、蹴りを加えて距離を保つ。
なんたらゴブリン相手に善戦していたあのふたりがあしらわれている……それもあのほわっとしてた子に。
「メイスにスクトゥムですか、興味深いですね」
私が呆気に取られていると、すぐそばに誰かが近寄って来ていた。カフェのマスターと、ギルドに向かう前ゴルディやレオハと一緒にいた女性だ。小柄ながらしっかりとした印象を与える顔立ちだ。
「ご挨拶が遅れました。ラビと申します」
「あっ、どうも……」
「では、あなたも混ざってください。もちろん、ロザキューレさんを相手に」
「えっ……」
あまりに急すぎて声に出して驚いてしまった。先ほど自分の思う通り以上に身体を動かせるようにしてもらったのに、一歩も踏み出せない。心が拒絶しているのだ。
「いざという時、戦えないと後悔する」
カフェのマスターはそう呟く。残念ながら、私にそんな経験はない。だが、漫画やアニメのそれっぽいシーンが連想される。あんな思いをする可能性があるのなら——。
自然と一歩が踏み出せていた。それも、身体が動こうとしたわけでない、自分の意思だ。もしかしたら私たちの意思、かもしれない。
「行くぞぉぉぉぉ!」
体裁とかプライドとか全部かなぐり捨てて走り出す。そのスピードにも驚く。身体に動かされている感覚がないので、初めて感じるスピードに思えたのだ。実際は昨日敵から逃げる時に体感しているが、違った感覚だ。
「ディアさん、危ない!」
ゴルディが叫ぶ。ロザキューレはこちらに気づいており、盾を向けて来た。すると、盾が光る。よく見ると、何かが飛んできている。それは細長く、人をも貫いてしまいそうな串だ。
「大丈夫、見えた!」
火の玉をかき消したのもこれだろう。私は咄嗟に盾を構えた。それだけ身体が私に反応してくれる。思うように動く。
ガスッと盾に突き立つ串。身体には当たっていない。
「後ろです!」
レオハの声でぐるりと振り向く。先ほどまで前方にいたロザキューレが、盾を構えて視界の狭まった私の不意を突き移動していたのだ。短い槍を構え狙いをつけるロザキューレと目が合う。刹那、私は硬直する。嫌でも死を連想させる迫力。しかし、身体は迫力に負けなかった。気力で硬直を破る。
「おりゃ!」
無茶は承知で右手の棍棒、メイス? をぶん回す。ロザキューレも生まれた隙で踏み込まず、距離を取る。
自分、戦えてる。どこか他人事のような、現実感はあまりない。それでも、現実として戦えている。
これならいける——全力で走り、こちらから距離を詰め、メイスを全力で振り下ろす。これが今の私の実力だ!
轟音が闘技場に響く。砂埃で周りが見えない。何がどうなった?
「はい、これで終わりです」
首元に軽く何かを当てられた。振り返ると、ロザキューレが槍の尖っていない方を向けている。気づいた時には砂埃が収まり、目の前にクレーターができていることに気付く。
「ディアさん、すごい……」
「力強いとは思っていましたが……」
「あの首の動きには驚かされました。よく鍛錬していますね」
口々に感心され、すごく良い気分。しかし、負けは負けだ。
「その身体、使いこなすのに時間がかかりそうですね」
ラビの言う通り、大まかなコントロールはできたが、力を出すか出さないかの二択では幅が広がらない。仕事ができるとは白か黒かではないのだ。
「これからはディアも訓練に参加してもらいます」
ラビはクレーターに手を翳しながら言った。みるみるうちに穴が塞がっていく。
「コンビネーションも大事ですが、今は個人技を磨きましょう」
ロザキューレの実力に三人が追いつけていない。路地裏でロザキューレが囲まれた時、男が動けなかったのはロザキューレの迫力だった。そんなことがあるのか、今ならあると断言できる。強くならなければ、この世界では生きられない。
「ではまずディアに課題を与えます」
私の課題は決まっている。力のコントロールだ。当たらなければこんな攻撃意味がない。模擬戦で身体の使い方を——。
「これを自在に扱えるようにしてください」
「は?」
渡されたのはけん玉。唯一の取り柄と言える力強さとは無縁の課題だった。




