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天高く首昇る空〜斬首から始まる異世界生活〜  作者: 雪野スズネ
歩む道編

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Fランク、覚悟を決める

 魔法が使えないことがわかり、それなりにショックだった。

だが、ヘレボスはそんな私でも活かせる魔力の使い方をたくさん教えてくれた。他の四人に対しても同様で、魔力の使い方に真剣だった。魔法を研究するという意味ではいかにも魔女らしく、また、面倒見も良かった。ただ完膚なきまでに叩き潰してくるだけの人ではないのだ。

 軽食、さらには夕食すらも鍛錬場で取りながら魔法講座は夜中まで続いた。私は身体強化と回復魔法を中心に教わった。反省点は多いが、充実した一日だった。

 特に魔力操作についてある程度の許容量がわかったのは大きい。身体はよほど大量に注ぎ込まねば大丈夫だそうだ。実験として色々と協力してくれたヘレボスには感謝しかない。


 翌日。


「あー……。アンタたち、まぁまぁやるみたいじゃん。見直したわ」


ノルンが朝食を食べながら唐突に言い出した。ノルンなりに褒めているのだろうか。喜びづらいな……。


「で、でも、どうせ大したことないんだから、無茶するんじゃないわよ!」


 やっぱり喧嘩を売ってきてるのか? 考えていることがわからん……。


「その照れ隠しはやめなさいと言っているでしょう」


 ラビがピシャリと言い放ち、恐縮するノルン。ヤミナのときといい、ラビさんは頼りになる翻訳家だ。


「わたしたちのこと、心配してくれたんですか」

「ばっ……そ、そうよ! 何か文句ある!?」


 別に文句はないが、怖い。そんな怒らなくても……。


「さぁ、今日も鍛錬ですよ」


 なんとも微妙な空気も、ラビさんにかかれば一撃粉砕。さぁ、今日も一日頑張るぞ!


 鍛錬は順調に終わり、連携の取りづらかったノルンともなんとなく合わせることができた。五人の中になんとなくだが連帯感が生まれつつあった。

 しかし、これはダメだ。ローザが私に合わせた時のような、強みを抑える引き算の連携だ。同じレベルの相手には充分だ。しかしタタラ、ヤミナ、ヘレボス。強さを示してくれた彼女らに、今の私たちは通用しない。真にすべきは全員が長所を活かせる足し算の連携だ。そのためには、各々のことをもっと知らなければならない。


「では、個人訓練に移りましょう」

「少し待ってください」


 全員の注目が私に集まる。お互いのこと、もっと話しませんか。これを言わなくてはならない。ゴルディやレオハに事情も話さず、日本から来たこともダイアナのことも話していないこの私が。少しの情報が命を左右するこの世界で。


「あ、え、えっと」


 うまく言葉にできない。三人を信頼した気持ち、ノルンに対するちょっとした好感。これらを上回るのが、受け入れられない恐怖。対等な関係だからこそ、起こりうる。この前ゴルディが即答しなかったように。


「今夜、みんなで親睦を深めませんか?」


 それでも、言わなくちゃいけない。やらなくちゃいけない。それが私のこれからに絶対必要になるから。誰にも死んでほしくない。


「な、何よいきなり……」

「ま、まぁ、いいんじゃない?」


 みんなは思い切り困惑している。当たり前か。緊張で変な言葉になっちゃったし。まぁいいや。反対はされなかったんだから。


「それじゃ、楽しみにしてるから」


 なんだか吹っ切れた。清々しい、とまではいかないが肩の荷が少し降りたような気持ちで個人特訓の場所へと移動する。

 移動先にヤミナはいなかった。いや、誰もいないが正しい表現か。


「本日より、訓練用素体がディア様のお相手を勤めます」


 メイドさんの言葉と共に魔法陣、そして、“黒の竜”みたいな鎧が現れる。武器は盾と剣。魔力も検知できる。負ける気はあまりしないが、何か隠されているのだろうか。


「はじめ」


 鎧の魔力がいきなり跳ね上がる。隠していたか温存か。魔力感知は完全でないことを記憶しながら、素早い剣戟を避けていく。ヤミナより遅く、剣筋が鈍い。が、崩せない。

 魔力で身体を強化しても、鉄球で不意を突いても盾で防がれてしまう。それは単に硬いだけでなく、隙をつけない弾き方、立ち回りを展開しているからだ。相手はこちらの誘いにも乗らないため、カウンターも通用しない。

 私には明確な弱点が多い。空を飛ぶ敵、破壊できない敵……。そして、技量が高い敵も天敵だ。特訓のおかげで手数は増えたが、徹底した受け身に打つ手がない。


 で、終わってたまるか。

 この後、みんなと話す時に何もできませんでしたなんて言いたくない。強くなるためにお互いのことを話すんだから、覚悟を見せなきゃいけないだろう。誰が見ているでも気にしてるでもない、プライドの問題だ。


「……」


 鎧は微動だにせずこちらを待っている。仕掛けてくるのはこちらが隙を見せた時だけ。……ぶっつけ本番。予測不能の一撃をお見舞いしてやる。そう思い、鎖を伸ばしたままモーニングスターを腰に差した。


「くらえ!」


 そして、盾を構えて突撃する。ヘレボスに使った突進だ。前もあまりわからない状態で突っ込む、無謀で捨て鉢な作戦。不意をつくこともなく真正面から来る突進、鎧とて安易と躱す。


「今!」


 それこそが私の狙いだった。腰から鉄球を操作し、すれ違いざまに攻撃する。なんちゃって尻尾作戦。ただ、鎧には効果なし。簡単に弾かれた。——それでいい。


「……!?」

 

 鎧は真横から不意に撥ねられ、吹っ飛ぶ。理由は単純。私の突撃が急旋回したからだ。弾かれた鉄球を地面に固定して無理やり回り、当てる。ヘレボスから教わった魔力強化と相まってかなりの威力になったはずだ。鎧にヒビが見え、剣や盾を落としている。今がチャンスだ。


「うおおおお!」


 気合いが自然と雄叫びになる。渾身の右ストレートを振りかぶり……。


「そこまで」


 メイドさんの静止が入る。勝った、のか? いや、厳密に勝ち負けはないのだが後から湧き上がる達成感は勝利の感覚に似ている。自分は成し遂げた、覚悟を示すことができたのだ。


「わ、私って強くなってるかな」

「上々です」


 息も絶え絶えながら、普段は特に話さないメイドさんに勢いで聞いてみた。そっか、強くなれてるよな……。手渡された飲み物を飲み干し、大の字に寝転ぶ。少し休憩してから戻ろう。


 みんなの元へと向かう間、何について話すかアレコレ考えていた。自分の秘密を洗いざらい白状するかも悩んだが、私すらわかっていないダイアナのことなどで溝ができても困るし、秘密の暴露を促したいわけではない。趣旨は連携に必要な各人の思考である。すなわち、何ができて何を成したいのか。ノルンには、この首この身体を見せる。三人には“天の一撃”で強くなってから、世界に目を向けてみたいと宣言しよう。


 食卓にはまだ誰も戻ってきていない。ヤミナが料理を作り、メイドさんが運ぶ。以前手伝おうとしたら強く断られたので座ったままだが、ソワソワする。今日は緊張で余計に。


「あ、早いじゃん」


 最初に来たのはノルンだった。そこから程なく全員集まり、食事が始まった。


「さっきの親睦を深めるって結局何すんの?」

「それは、これからについて話したいというか」


 ノルンが食べながら聞いてきた。話だけで具体的に何かするつもりはなかったので言葉選びを間違えたのが尾を引いたかと心にチクッときたがノルンは気にしていないようだった。


「これから、ですか。あまり考えていませんでした」

「ここにいると皆さんの影響で頑張らないと! ってなります」


 ローザはいつも通りふわふわ、レオハも遠くに目的はあるが、道筋までは定まっていない様子。気がかりはゴルディ、全く知らないのがノルンだが果たして。


「アンタらが命をかけて冒険者やってるのわかったし、あーしのこと教えたってもいいかな〜とは思ってたのよね」


 ノルンの信用はこちらからあまりないだけでなく、向こうからもなかった。この数日で見定められ、多少打ち解けたがここで曖昧な空気が一変すればみんなで大きく前進できるはず、やった!


「そうね。私も今の考えを話しておこうかな」


 ゴルディは少し憂いを帯びた表情。意味深だ。この世界に来てから死線もくぐった仲なので、できればこれからも一緒が良いが冒険者とは出会いと別れ……漫画と同じなのだろう。一生の別れじゃないならいいか、なんて心の防衛策が働く。


「それじゃ、ご馳走様でした」


 それから食べ終わり、食器が片付けられると、ヤミナが気を回してかデザートと飲み物を出してくれた。ケーキと、私にはあの苦いコーヒー……。状況は完全に女子会だが、会話の内容はキャピキャピできない。


「あの、言い出しっぺから言うね。私は、ここに来て大変なこともたくさんあったけど、“天の一撃”で良かったことの方が多かった。だから、これからもここで強くなる。強くなって、自分の目で世界を知りたい」


 ノルンの拍手を皮切りにみんな拍手してくれる。なんとも小っ恥ずかしい。


「それで。強くなるのは一人じゃなくてみんなと強くなりたい。だから、みんなのことをよく知りたいの。そして、私のことも知って欲しい」

「ギャア!」


 そう言って、私は兜を脱ぐように首を取った。絶叫して椅子から転げ落ちるノルン。なんとも新鮮なリアクションだ。


「驚かせてごめん。これが今の私の状態。それと、触れた物をなんとなく動かすことができる」

「い、いやまぁ何かあるのは知ってたし? ただ実際に見るとうわっ、ってだけなんだからね!」


 ノルンは動揺して今自分が何言ってるか理解してないだろう。……ということにしないとストレートにうわっ、って言われただけになっちゃう。そりゃそうなるだろうけども私もううっ、ってなるよ。


「そ、それじゃあーしも話しちゃうわ」


 立ち上がり、胸を張り、コホンと咳払い。


「あーしの目的は、リヴェルトを破壊することよ」

「……?」


 内容がぶっ飛んでいて頭に入らない。まさかのテロリスト? 他三人もポカンとしている。ローザがリアクション取れないなんて相当だぞ。


「……あっ、構造的な話ね。地位とかね。騙すとか搾取とか、好き放題する連中を根絶やしにする。それだけよ」


 あんまり物騒加減は変わらない気もするがとりあえず拍手。私のときより明らかに音が小さいので、ノルンは少しお気に召さない様子。ぷいっと顔を背けながら話を進める。


「あーしも裏切られて殺されかけたのよ。首斬られるまではいかなかったけど」


 そうだったのか、つまりノルンの動機は復讐……。同情心とさりげなくネタにしてくる余裕への安堵でどうリアクションしたものか。


「大手術をしたから、これが使えるの」


 そう言ってノルンは机の上に手を置く。すると、手から黒い粒子が溢れてくる。


「この煤は情報因子……でもあるんだって。触れた対象の情報を得たり、隠すこともできる。けど、少しの情報がわかるのと私の存在を多少紛らわすレベルよ」


 すごく大事な情報な気がする。最初に会った時は私たちを手足呼ばわりするし、めっちゃわがままな印象だった。それに、私たち抜きでも充分強い。何が彼女を動かしたのだろうか。


「そんな大事なこと、言っちゃっていいの?」

「もちろん。そこいらの腰抜け冒険者じゃなかったですもの。ヘレボス先生にあんな無茶な攻撃仕掛けられる無茶なアンタたちなら間違いなくリヴェルトをぶっ壊す。すなわち、仲間だもの。」


 ゴルディの問いかけに対する返答に苦笑いするしかない。無茶はしたがリヴェルトをぶっ壊す気はサラサラないのに……。ただでさえ波乱を抱える身体なのに、またしても波乱要素が加わるのかとも思うが、あのノルンがここまで私たちを買ってくれた事実を素直に喜ぼう。


「別に壊す気はないけど、よろしく。ノルン」

「お願いします、でしょ? ま、アンタたちなら特別に許してあげるけど」

「まぁ。光栄です」

「よろしくお願いします」

「なんかする時は相談してな」


 他三人もノルンを受け入れてくれたようだ。やや政治的な上に生来の絡みづらさもあるので、亀裂が広がったらどうしようかと思ったが、少なくともこの日この場では問題がなく安心だ。ノルンの抱える問題も少しずつ知っていこう。


「それじゃ、ふたりの前に私が話すよ」


 てっきり最後に話すかと思ったが、次はゴルディが立候補した。果たして、ゴルディは何を……いや、“天の一撃”にいてくれるのだろうか。


「私は、他のクランに移籍した方が良いと判断しました」


 ヤミナが淹れてくれたコーヒーを一気に飲み干す。胸いっぱいに広がる苦味をコーヒーのせいにしたかった。


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