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天高く首昇る空〜斬首から始まる異世界生活〜  作者: 雪野スズネ
歩む道編

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Fランク、魔法を知る

 朝食も鍛錬も、レオハは姿を現さない。何か用事があったのか。特に誰も触れないまま鍛錬は進む。

そして、連携の時間を迎えた。相変わらず、ノルンは一撃離脱の戦法だが、昨日は気づけなかった点がいくつかある。


 一つ目に、ノルンは単独で制圧するために私たちを利用していることがわかった。

見えていない敵の攻撃まで予測し、常に敵の指揮官に対する有利と奇襲の不利を比べ、私たちをも利用して自分の位置を決めている。ヤミナとの特訓で味わった動きの感覚に近い、理想の動きをしているのだ。つまり、私が邪魔に思ったのはノルンの盾にされているから当然なのだ。


 二つ目。ゴルディとローザはノルンに合わせて動いている。それほどにノルンの動きが良い。今までは、私が敵を惹きつける盾役だったからみんな合わせてくれていただけだと痛感した。惹きつけるより先に倒すなら、そちらを優先して当然なのだ。


 三つ目。これでもヤミナに届かない。レオハがいてもいなくても、こんなに動けるノルンや元から強いローザ、力を解放したゴルディがいても、ヤミナを倒せる気がしない。それほどまでにヤミナの強さは底なしだ。壁は高いだけでなく何百もありそうだ。


 以上の理由から、鍛錬終了で心身共に疲れ果てていた。今、この中で、自分ができる最大限のことはした。あと必要なのはコミュニケーションだと思う。


「あの……」

「あぁ、アンタ。今日の動きはまぁまぁだったわね」

「どうも……」

「ま、もう少し使えるようになってもらわないと困るわね」

「なら、お願いが一つ」


 個人特訓の成果はノルンに伝わるくらい出ている。なら、苦手意識を乗り越えて言わなきゃならない。こんなとこで立ち止まりたくなんてない。


「何?」

「私にして欲しいこと、教えてください」

「別に。邪魔さえしなければそれでいいけど」

「それじゃダメなんです。このままじゃ、勝てない」

「ハァ? あーしが全部壊すから関係ないわよ」


 いや、このままじゃダメだ。いざという時、致命的に噛み合わなくなる。昨日だって今日だって、私が盾に徹することができたかどうかしか違いがない。戦場は命のやり取りをする場所、置物はいらないし、想定外の動きはもっといらない。私はノルンにとって必要になりたいし、ノルンを私にとって必要にしたい。折れるつもりはない、ただ見つめ続けるのみだ。


「ちょ、ちょっとなんなのよ。この子どうかしてるんじゃない」

「此方も共に戦うなればこそ、伝えてほしくあります」

「私も。どうせならノルンさんのこともっと知りたいし」

「あのねぇ。あーしはアンタらとチンタラ進めてる時間は……」


 ノルンは口こそ悪いが、今は顔を赤くしながら怒ってる。本気で怒ってるというよりは困惑しているような……。最初はワガママで嫌味な奴だと思っていたが、そんな単純でないのかもしれない。


「おいおい、ノルン。ずいぶん偉そうじゃねぇの」

「ヒッ! ヘレボス……先生」


 ノルンが恐縮したのは私が初めて見る人、ヘレボスさん? が入ってきたからだ。レオハも一緒である。いなくなったわけではなく、そこは安心したが、今まで何をしていたのだろう。


「すみません、体調が悪く休んでおりました。今から参加します」

「つーわけで、次はアタシの相手をしてもらう。いいな? ラビ」

「どうぞ。この子たちの真価、見定めてください」

「アタシはヘレボス。魔法使いだ。全員でかかってこい。はじめにいうが、恨むなよ」


 そう言って、訓練場の真ん中に向かうヘレボス。纏う雰囲気はこれまでの関係者と全然違う。魔法使いなのが関係しているのか? デカい帽子、マント、水着みたいな上半身。いかにも魔女みたいな格好。だが、ノルンが怯えるぐらいの強さ。勝てるのだろうか。いや、やる前から諦めてどうする。


「ラビの合図で始める。ノルンは出力調整もあるから出し惜しみするなよ」

「では、はじ——」


 突如として、空気が冷やされていくのを感じ取る。何かの前触れか、とにかく恐ろしいスピードで仕掛けてくる。このままでは開始直後に氷漬けにされてしまう。


「め!」

「ゴルディ!」


 開始と同時に襲いかかる冷気に対し、ゴルディは火の魔法を放つ。水蒸気で周りが見えなくなるが、決着は免れた。


「あーしから見て左上、空中にいる。正面から氷の弾丸くるよ」


 ノルンの呟きに遅れて飛来する固体。黒板消しくらいの氷の塊が視界が白く覆われた状態で飛んでくるのだが、私がとっさにモーニングスターを回転させることで撃ち落とした。と同時に、水蒸気も散らす。

 そこにはノルンのいう通り、空中に浮かぶヘレボスがいた。反撃したいところだが、下手に手を出せば空中を狙い撃ちされるだろう。


「レオハ、頼める?」

「早く行きなさい!」


 次の瞬間、地面から氷が鋭く伸びてくる。それを盾とモーニングスターで砕いてみんなを守る。そして、次の一手にそな——。


「回避を!」


 次の一手はすでに放たれていた。時間差で氷柱の雨。ローザが私を弾き、代わりに受け止めてくれた。この隙にレオハが飛びかかり、ゴルディが援護するが、ヘレボスは難なくあしらい、こちらにも向こうにも氷や氷柱で攻撃してくる。付け入る隙が、ない。


 何か打つ手は……と考えている時、はたと思い出す。ノルンはどこに……? 見上げると、ヘレボスの背後に黒い煤の塊が現れた。


「相変わらず、厄介な能力だ!」

 

 ヘレボスは振り向きながらそれを払った。そこには何も残らなかった。そして、ヘレボスの背後に、ノルンが現れる。さっきのはノルンの囮、本命はこれなのだろう。


「ローザ、ノルンの援護を!」


 降り注ぐ氷柱は横殴りの氷塊に変わっており、私もローザも動きが制限されていたが、このチャンスは逃せない。遠距離攻撃手段のない私がローザを庇えば良い話だ。


「ガッカリさせんなよ」

 

 ノルンの一撃は読まれており、ヘレボスの振り向き様に振り上げた長巻の持ち手を掴まれ、凍てつかされる。


「フン、おあいにくさま。あーしは今日、ひとりじゃない」


 ヘレボスが掴む手をピンポイントに串が狙う。ヘレボスはサッと手を離し距離を取る。


「いいや、お前は今日もひとりだよ」

「させないっての!」

「ノルン!」


 離れたヘレボスに黒い煤を纏いながら突撃するノルン。当たり前のように飛んでいて、私にはどうすることも……ひとまずノルンと協力しなければ。


「ディア、まずい。足元が」


 ゴルディに言われ、足元を見る。ゆっくりと、だが確実に凍りついていく足。ヘレボスは私たちから先に片付ける気だ。足手纏いになってたまるか。


「ローザ、私たちを浮かせることって……」

「……申し訳ございません」

「私に任せて!」


 そう言うと、ゴルディは金色の雲を作り出した。いつの間にこんなことができるようになったんだ?


「乗って!」


 ゴルディに促され、一緒に乗る。金の雲は滑らかに浮かび、ヘレボスへと迫る。さながら筋斗雲に乗る孫悟空の気分だ。ローザもしっかり浮いてついてくる。ひとまず、ジャンプを繰り返して耐えるレオハを拾わないと。


「レオハ、掴まって!」


 私はモーニングスターを展開し、目一杯伸ばす。レオハが掴んだのを確認して引っ張り上げる。この隙に、ヘレボスやノルンとの距離が空いてしまう。さほど広くないはずの鍛錬場をうまく使われている。


「加速して突撃しましょう」

「そ、そうね。私が戦闘に立って調整するわ。ローザは隙を突いて」


 レオハから出たゴリ押し案に戸惑いつつも、乗っかる。加速以外に追いつける気がしなかったからだ。微調整は鉄球と同じように身体を動かす感覚でいけるだろう。

 盾を構え、衝撃に備える。空気抵抗だけで吹き飛びそうだが、盾と身体と足場を全力で繋ぎ持ち堪える。身体の熱が高まっていく。雲は三人だとギリギリな大きさなので、ふたりがやけどしないか心配だ。


「ディア! つっこ——」


 ゴルディに合図されずとも、気配は読めていた。読めなかったのは加速力だ。なんと今までの加速から加速したのだ。激しい衝突音、凄まじい反動。人を轢いた軽自動車の気分が異世界で味わえるとは思わなかった。


「ちょっと! 何考えてんの!!」

「いいじゃねぇか! 上がガラ空きだけどな!!」


 轢いたのは氷だろう。盾から氷の粒が落ちる。上空に位置取ったヘレボスは、氷の槍を生み出す。


「させない!」


 私は咄嗟に飛び上がり、盾を構えながらモーニングスターで攻撃を加える。ヘレボスは触れることなく槍を振り回し、私をあしらう。その隙に、四人でヘレボスを囲む。


「これで勝ったつもりか!?」

「まだまだぁ!」


 四方からの攻撃に上へ逃れようとするヘレボス。それを、私がゴルディに向かいモーニングスターを伸ばし、ロープ代わりにして駆け上がり、飛びかかる。武器はない、素手だ。だが、魔法使いなら——。


「恨むなよって言ったよな?」


 落ち着いた頃には、地面に寝転んでいた。結果は完敗だ。あの後、美しいとさえ思う華麗なパンチ捌きで鎧を砕かれ落とされた。氷の膜に身を包んだヘレボスは無数に氷の刃を飛ばし、怯んだやつから巨大な氷塊を叩きつけ、落とした。今までとは比べ物にならないスピードで動き回り、ローザやノルンすら一撃も当てられず落とされた。

 ……そこから身体を氷漬けにされ、氷の槍を目の前まで落とされて終わった。当たる直前に砕けた氷は綺麗だったが、私の命が砕けたという意味も感じて複雑だった。


「魔法の凄さが伝わったか?」


 横たわる私たちに質問を投げかけるヘレボス。魔法より伝わったのは、ヘレボスの恐ろしさだった。


 そこから、ヘレボスが先生となって魔法講座が始まった。エリン先生から、魔力で形作る話は聞いていたがヘレボスが純粋な魔力の塊を見せてくれたことで、より理解に近づいた。自分の体内に渦巻く魔力、気配だと思っていた他人の魔力。感知はできるが、難題は身体の外に出すことだった。


「魔力操作はずば抜けて高いが、その首じゃ無理だな」

「なぜですか?」


 ズバッと言うヘレボスに若干傷つく私。首ってダイアナじゃなくて私が悪いってことだよね……。


「封印術式の代償だな。魔力が外に漏れ出ないようになってる。今は無理やり接触面から魔力を流し込んでるみたいだが、いずれガタが来るかもな」

「ガタが来ると?」

「さぁ? 弾け飛んだりしてな」


 ヘレボスは軽く笑うが、ガタが来た身体が弾け飛ぶ図を想像してしまい、冷や汗が止まらない。魔法という憧れの手段は、私にとっては時限爆弾のようだ。


 魔法で大量殲滅、したかったなぁ。


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