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天高く首昇る空〜斬首から始まる異世界生活〜  作者: 雪野スズネ
歩む道編

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20/25

Fランク、先行き不安

 「あなたは頭を使わなければ、彼女らに追いつけません」


 別室での特訓。昨日に続きヤミナと打ち合い、翻弄され続けていた。致命傷を避けながら、周りの環境に目を配る。壁の色の変化を指摘されたということは、伏兵に気付けるかということ。

 そして、奇襲は必ずしも横からとは限らない。


「……残念です」


 ヤミナの斬撃は盾も鉄球も掻い潜り、首元に届く。周囲を警戒しすぎて、ヤミナ本体を疎かにしてしまった。


「周囲は警戒すべきですが、これを利用する相手もいます。何のために警戒するのか、原点に立ち返りましょう」

「……私が弱いからヒントを出してくれるんですか」

「期待してるからですよ」


 ヤミナは話を続けながら斬りかかる。目で追えるか絶妙な速度で繰り出される一撃を私はなんとか盾で止め、弾く。そして、繰り出される二撃目の範囲を絞り、受け止める。続く三撃目は揺らぐ影の中、地下から……と見せかけて上から迫る飛来物。これも本命と思わせたヤミナから斬撃が繰り出される。

 看破した私はモーニングスターを伸ばし、即応する。それも、三方向を同時に対処してみせた。全ての方向から来た攻撃を鉄球の一振りで弾いたのである。


「不正解です」


 弾かれて距離が離れたヤミナの一言。負け惜しみをと思い、モーニングスターを動かそうとしたら影に絡まれて動かせない。ならば素手でと思えば、足元は手裏剣だらけ。先ほど弾いた上からの攻撃だ。


「全てに対応することが戦いではないのです」


 圧倒的な実力でねじ伏せられたのではない。むしろ、勝てるギリギリの力しか出していない。にも関わらず、勝てない。技量と経験が段違いだ。

 なるほど、これから襲ってくる連中も少なからず修羅場を潜っているはず。ヤミナは私にこれから先挑まなければならない戦いを示しているのだ。

 なら、負けっぱなしじゃいられないな。


「ヤミナさん、私に戦い方を教えてください!」

「自分で考えるのが特訓……」

「考えた結果ですよ」

「フフ、なるほどいいでしょう」


 経験のない私がヤミナから一本取るなら、経験すれば良い。だが、それでは時間がかかりすぎる。ならば、ヤミナになれば良い。単に力があるだけでないのがこの一瞬でわかった、この人になれたなら私は私、いや戦闘をコントロールできる。


「その大胆さ、気に入りました」

「あの、何やってるんです?」


 ヤミナはスッと私の眉間に親指を、こめかみに人差し指を添える。


「何って、戦い方を教えるのですよ。頭と身体に直接、ね」

「え?」


 戸惑っている間に身体の自由がなくなり、色々な情報が流れ込んでくる。辺りをやや紫がかった黒い影でできた人が多数で囲んでくる。その姿は千差万別。鎧のシルエット、刀のシルエット、獣、ロボット? 

 シルエットでしかわからないそれらが順に襲いかかってくる。頭にイメージが流れ、身体が勝手に捌く。これの繰り返しが始まった。


 結論。私はヤミナにはなれない。こういう地獄があるのかともはや感心するレベルで叩き込まれた戦闘手法。さらにはヤミナの動きの真似ではなく、私の考え方や癖、知識を利用した工夫がなされていた。

 自分の可能性を無理やりこじ開けられた。が、頭も身体も全くついていけない。特に欲しかったのが、自分がこの地獄で求めたのはタタラの糸やヤミナの手裏剣のような相手を一時的に封じる手段だった。複数の敵に対し、身体を酷使しなければ対応が間に合っていなかったのだ。


「あ、ありがとうございました」

「これはあくまで一例。まだまだ強くなれますよ」


 ヤミナの言葉に勇気……より道の長さ険しさを突きつけられ絶望を感じてしまう。い、いや、ポジティブにいこう。寿命とかすらわからないが、こちらの世界は、日本よりもわかりやすく強さで成長が測れる上に奥深いだなんて素敵!


 その日から食卓にノルンも混ざった。無遠慮に色々質問され、終始苦笑い。自室でドッと疲れが出る。寝転がりながらパソコンで動画など見つつ就寝した。


 翌日、鍛錬にもノルンが混じり、疲れたを連呼して士気を下げたり、連携もスタンドプレーで乱したり、キツかった。ノルンの武器は大きな刀、長巻というらしい。これを振るうので、こちらが避けねばならないのだ。


「……やれやれですね」


 これにはラビも苦笑い。当のノルンに反省の色なし。戦力増強どころか大幅減少だろう。


「Eランク。想像以上に高い目標ですね」


 ん? ローザの呟きはEランクを認めるものだった。Eランクはこの場で唯一ノルンのみのはず。ノルンの戦闘スタイル、一人で懐に入り、勝手に引く我儘戦法の何を評価したのか。切れ味ならローザの方がすごいのに。


「おっ、やっぱ鍛錬は精が出るな」


 やってきたのはタタラ、と警部殿だった。


「はじめまして、マルツです。以後お見知りおきを」

「まず、ギルドとして正式に昇格が認められた。あとで冒険者証を預けてくれ」


 良かった。トラブルがあったので無かったことにされるかと思った。レオハがうまく水晶を持ち帰ったのが効いたかな?


「次に、事情聴取はナシだ。したことにして俺がまとめておく」

「本日は事の顛末についてお話しに来ました。まず、“シルエラ”は解散します」


 ジニィとスラムの子どもたちのギルドだ。……冒険者を襲ってしまったところをギルド職員に見られては致し方ないだろう。別の方法で社会に抗う力を見つけてほしい。


「マリア、ソキの両名は薬物の副作用も抜けましたが、ジニィ、クガについては意識が戻らず予断を許しません」

「そう、ですか」

「薬物? チッ」


 ゴルディがショックを受ける中、ある意味ゴルディより感情が揺れ動いたのがノルンだった。とても腹立たしそうである。一体なぜだろうか。


「そう、薬物。一時的に力を手に入れる代償にモンスターとなる薬です。行方不明事件と併せて問題になっています。何か心当たりはありませんか」

「いえ……」

「フン、どうせリヴェルトの偉そうな連中がばら撒いてんでしょ、スラムのガキンチョ連れ去ってんのもアイツらだし」

「……そうですか」


 ノルンはスラムに思うところがある様子。ひょっとしたらこの街で育ったのかもしれない。……育った環境がここなら、やたら荒れた態度も説得力が増す。実は成金お嬢様でスラムとか毛嫌いしてそう。


「本日、捜査本部が立ちました。あなた方への依頼は警察からの依頼にもなります」

「火山地帯の怪しい建造物の調査だ。あそこまで無事に辿り着ける警察は少ないからな」

「我々が立ち入り調査をする間、外から探索をお願いいたします」

「あ、あの……」


 警察が日本と全く同じ組織だとは思わないが、聞かずにはいられない質問があった。怪しい建造物が無人なら、私たち抜きで探索すれば良い。だが、マルツとタタラは中で、私たちは外。つまり、中の人を引きつけている間外から侵入して……あるいは逆か? とにかく囮作戦のように聞こえる。


「それって違法じゃないですか?」

「依頼内容は火山地帯に現れるモンスターの駆除です。クエスト中にたまたま入り込んでしまったというのはよくある話ですよ」


 い、違法だ〜! 間違いなく違法捜査か何か、後ろめたい手法なんだ!! ついこの間無罪になったのに、この首にお騒がせな奴から懸賞金をかけられてるのに、これ以上目立ちたくないが……。


「ま、あーしたちに任せてくださいよ、カンペキに暴きますから。ねっ?」

「は、はい」

「それじゃ、あと一週間。頼んだぞ」


 圧に負けてレオハが返事をする。まぁ、行方不明事件が解決に近づくならやぶさかではないが、ノルンの張り切りなども含めて色々気になる。


 この日は特訓がなく、エリン先生の講義があった。今回は、転生者の話。日本と呼ばれる異界から流れ着くという。元から日本が基盤にありそうだが、裁判やら警察やら車やらファンタジーから片足踏み外したような要素のうち、最近できたようなのは転生者の影響だろう。

 転生者は一定数を超え、今じゃ珍しくないがその横暴さが噂になっており、公表してもあまり得はない。むしろ、いわゆるチート的な強さを持つ者もいるためスカウト、軍事利用、研究材料、商売敵……あらゆる狙われ方をするそうだ。……転生者ってバレたらまた狙われる要素増えるな。人気者はつらいぜ! はぁ。


「では、本日の講義はここまでにします」

「先生、質問いいですか」

「はい。どうぞ」

「リヴェルトの火山について教えてください」


 次のクエストは火山。これまでの戦いは事前情報が動画くらいだったが、しっかり調べるに越したことはない。それに、今回はノルンという不安材料がある。準備は念入りにしておこう。


「アース王国とヴィナス王国の境に聳え立つ火山帯、マアト。硬い表皮を持つモンスターが多いです。日本で言うとムカデとか、カマキリとか」

「日本で言うと、と聞くと何だか途端にちゃっちいな……やっぱり巨大化していたり?」

「日本を基準にするとそうなりますね」

「この前のダンジョンといい、あんな過酷な環境で何を食べて生きてるんだか」

「魔力ですよ。火山でいえば溶岩の熱などが魔力の素になっています」

「じゃあ人間を襲わない?」

「いえ、モンスター同士や人間は魔力の詰まった存在なのでご馳走ですね。個体によっては食感——」

「それ以上はいいです」


 そういう生き物って納得するのは簡単だが、よく考えれば生きている存在だから生き物。この世界、知らないでいるのはもったいない。


「だから冒険者が退治する、と」

「ええ」

「……殲滅しないのは生態系のため?」

「そこは日本と異なるところですね。生態系とモンスターは別軸です」

「ん? どゆこと?」

「モンスターはある日いきなり現れる」


 うーん、ファンタジー! 最近じゃ珍しいランダムエンカウントなんだ〜っていくらゲームっぽさを感じる世界だからってあまりにもゲーム的すぎる。何というか、辻褄が合わない? これまでの理解と噛み合わないむず痒さがある。


「魔力……一般的には瘴気に分類される力がモンスターやダンジョンを生み出すのです。魔法などに使われた魔力が変質し、瘴気となる。モンスターになった瘴気は魔力になる。これがこの世界の……あ、これはまだ解明されていない真実でした、忘れてください」

「えぇ〜……。なんでそんなこと知ってるんです」

「コネです」


 一体どんなコネがあれば世界の真実を教えてもらえるのか……。もしかして陰謀論? まぁ、仕組みを聞けばしっくりくるところもある。循環は環境の基本だ。水が蒸発して雨になるみたいなもんなのだ、厄介さは段違いだけど。


「学校に行けばもっといろいろ学べますか」 

「はい。あなたが通うにはまだ実績が足りないですが」

「実績とは」

「いろいろですよ。ダンジョン攻略、都市防衛……まずは昇格を目指しましょう」 

「……わかりました。ありがとうございます」


 自分は強くなっている。それは間違いない。だが、世界と比べればちっぽけな成長。異世界転生で憧れた世界から自分への評価は、日本とあまり変わらないのかもしれない。ほんの少し……極悪人やデュラハン、冒険者という属性が追加されただけだ。

 ——むしろ過酷になっていないか?


 

何にせよ、まずは昇格目指してクエストをこなしていこう。思い詰めてもしょうがない。周りを見ながら背負い込まない。気をつけよう。


 翌日。レオハの姿がなかった。ゴルディは冒険者について悩み、ノルンが入り、レオハがいない。

クエストまで一週間ほど。果たして、こんなに不安定な状態で昇格どころかクエスト達成までできるだろうか。


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