Gランク、指示を出す
クエスト当日。全員、装いを新たに集合地点へと来ていた。私は装備全般が改修され、動きやすくなっていた。特にメイスは先端が球体にトゲのついた形となり、ギミックが施されたのだ。それは——。
「これより、F級昇格試験を始める!」
号令をかけたのはギルド職員。周りには挨拶回りをした各クランの面々が揃っている。いよいよ、私の、私たちの特訓の成果を見せる時だ。
「本クエストを取り仕切るジーラックだ。クエスト目標は魔窟水晶の確保。各クラン同行者付きで進む。ギルド職員も同行。あと……はぁ。自警団も参加になった」
「“鉄の猪”所属のゴーヤ、とレイです。勉強させていただきます!」
「今回の試験は奪い合いではない。よって他クランの妨害は禁止。協力は任意とする」
元気なゴーヤと、あの弟を探していたレイだ。レイは鋭い目つきで冒険者たちを睨む。こわ……。
そこから、各クランの軽い紹介が始まる。“黒の竜”受験者三名。同行者はメテオ。“聖青の天秤”受験者四名。同行者アイザック。“シルエラ”受験者三名。同行者ジニィ。“獅子の咆哮”受験者四名。同行者ネイド。“フィフスロック”受験者四名。同行者ロア。そして、“天の一撃”受験者四名、同行者般若。
「誰……?」
ギルド職員はジーラック以外に三名同行し、その中のひとりがタタラだった。
“フィフスロック”のロアはゴルディにイジワルを言ったおばさんで“獅子の咆哮”のネイドは挨拶に行った時絡んできた血気盛んな連中に混じっていた。
アイザックやジニィは名前まで聞いている。“シルエラ”の受験者はあのボロ小屋にいた子供たちだ……。
“黒の竜”のメテオと……“天の一撃”の般若だけ全く知らない。特に、甲冑に般若の面を被り全く素性がわからない。身内が一番怪しいよ。
「……」
「あの、はじめまして」
「……」
「よろしくお願いします」
「……」
般若は喋らない。ゴルディに視線で助けを求めると、大丈夫のウィンクが返ってくる。ほんとに大丈夫なんですね?
「おぅ、お前ら。いよいよだな」
「はい」
「少しはマシになったか?」
「見てもらったらわかりますよ」
戸惑っているとタタラが話しかけてきた。ダンジョンの諸々調整中らしい。この世界とダンジョンを繋ぐ門。動画ではよく見るが、いざ潜るのは初めてだ。緊張する。
「今回、人の目があるから俺やあねさんは多少しか動けねぇ。何かあったら自分の身は自分で守るんだぞ」
般若があねさんなのかな? それにしても、こんなに同行者がいるのに何があったらって……。そんな楽観的になってはいけないのは、徐々にわかってきた。他クランが各々向ける眼差しに興味と警戒と蔑みが混ざっている時点でわかる。この試験、荒れます。
「ダンジョンは久しぶりです。ディア、ダンジョン心得はご存じですか?」
「えっと、地図と休憩?」
「はい。疎かにしやすい基本行動です」
「あと挨拶、ね。戦闘や採取だけすればいいわけじゃない」
「今回は団体行動ですが、慣れも兼ねて地図を作りましょう」
地図、実は冒険者証で自動更新されるらしい。親切設計だ。そんなものを疎かにしてはいけないと残すなんて。門を潜る時は進め方もより慎重になる、というのが常識なのだろう。動画曰く、別世界らしい。異世界に来てまた別世界か……。日本とつながる門もあったりして。
「準備完了、いけます!」
「よし、それではF級昇格合同試験開始! 潜るぞ!!」
門を潜るとそこは、洞窟だった。ひんやりとした空気。陽の光はないが、壁がが青紫っぽく淡く光っている。壁に松明がかけられていたり、崩落防止の骨組みができていたり、何かと整備されたダンジョンのようだ。
「魔窟水晶は壁にも生えているが、質の良いものは大方モンスターにこべりついている。敵の実力を見極め、なるべく砕かずに集めること。この先は広くなっている。そこから離れないこと。始め!」
聞くが早いか、“黒の竜”が凄まじいスピードで駆け出す。負けじと各クランも走り出す。歩いて向かうのは“聖青の天秤”と“天の一撃”だけだ。“聖青の天秤”は全員が青の鎧でデザイン統一されたオシャレな一団になっている。ごっつい盾持ちに槍使い、弓使い、魔法使いとバランスが良さそうなパーティだ。
「置いていかれちゃいましたね」
「……」
アイザックは同じ同行者という立場の般若に話しかけるが、無視。気まずいなぁ。
「ダンジョンは早い者勝ちでもある。が、今回は試験だからな。周りが見えない奴らをギルドが認めるわけがないというのに」
代わりにタタラが答えてくれた。のんびり組にはタタラとレイ、ゴーヤもいる。それ以外は先行組を追いかけたようだ。
少し歩くと、だんだんと洞窟の幅が広くなり、洞窟と言って良いのかわからないほど巨大な空間にあたる。大穴の側面に螺旋状の通路が続き、ここはやや上の方。上にも下にも道が続く。足を踏み外したら……。考えないことにした。
モンスター退治におあつらえ向きなボス戦が始まるドーム、それが第一印象。よく崩れてこないな……というのが第二印象だ。魔法の力ってスゲー、で洞察は終わっておこう。研究が目的ではない。
「あれが今回の標的だ」
タタラの指差す方向には動く水晶と戦う各クランが。水晶はよく見ると、足が生えて……いや、ヤドカリみたいになっているのか。
それにしても、“黒の竜”の討伐スピードが速い。壁に張り付き水晶に擬態したヤドカリの奇襲をカウンター、一撃で顔? を粉砕して動きを止める。背中の水晶に傷一つない。
「なんかこのまま狩尽くされない?」
「あれは反面教師ですよ。必要以上の討伐はダンジョンを刺激し、資源を脅かす。皆さんは絶対にやってはいけません」
「あぁ、続くようなら昇格はなしだな」
「ダンジョンの中もルールがあるんすね〜」
ゴルディの問いとアイザックの後輩に対する解説が重なる。タタラが苦言を呈するのだから、よほどだろう。ゴーヤは見学気分なのが伝わる。
「上に行くのはどうでしょう」
「いや、上に水晶は少ない。底に降りた方が広くて楽だ」
「同感です。道中の掃除をしてもらったつもりで行きましょう」
自然な流れで行動を共にする“聖青の天秤”。こういう在り方が冒険者に求められる品位なのだろう。全く、ここも粗暴な連中が得するようになっているなんて、今から肩が重い。
「しっかし嫌がらせのつもりだろうが、厄介なことしてくれるぜ」
「これってこの人ら失格になるんすか?」
「欠片でも持ち帰ればと思ったが、欠片どころか塵一つ残ってねぇからな」
「なんか自分もイラつくっす」
なぜかゴーヤが憤慨し、“聖青の天秤”の受験者もソワソワし始める。ウチは全然焦っていない。昇格のために強くなるのではなく、強くなるための昇格なので、今回ダメだったらまた考えればいいのだ。
「……待て」
「どうしましたか」
「ありゃ、ずいぶん大物に喧嘩売ったな」
目の前では、ヤドカリとは比べ物にならないくらい大きな、軽自動車サイズのカニが暴れていた。“シルエラ”はかなり苦戦しているようだ。
「助けに行かないと……」
「その必要はない」
般若は何かを待っているようだが、これでいいのか。目の前で襲われる子どもたちを見て、放っておくのか。ちょっとした葛藤。結果、足は動かない。いや、動かさない。私の勝手な行動はみんなを危険に晒す。この数日で理屈を身体に叩き込んだ甲斐があった。
「ディアさん。現在地中から二体接近中です。前方にも強力な気配が。それに……背後からも。どうします?」
般若は黙ってローザに手で合図をする。すると、ローザは感知した情報を教えてくれた。私も集中して気配を探るが、そこまでわからない。ただ、地中から迫る気配はわかった。間も無く接敵する。
「時間がない、アイザックさん。一匹頼めますか?」
「? 何か来るのですか」
「下から来るみたいです。最初に出た方を私たちが」
「ディアさん、来ました!」
レオハの叫びを合図に飛び退くと、地面から巨大なハサミが出てきた。そこに空いた穴からトラックサイズの蠍が出てきた。水晶の散りばめられた身体は頑丈そうだ。
「ゴルディ、左の足元を! レオハは右側の足! 私がカバーに回るから、ローザはハサミを! 全員同時に前に出る」
「「「了解!」」」
判断は瞬時に下す。合っていなければ修整すればいい、動きに迷いがあれば連携が取れないのだから、正確さより迅速さだ。
先行したのはローザ。私たちに合わせることなく蠍の眼前に立ち、攻撃を誘う。襲いかかる二つのハサミをいなし、顔に串を当て怯ませる。
「次の攻撃に合わせる!」
「ローザ、交代!」
蠍の次の手もハサミ。追いついた私が盾で左の一撃目を弾き、右の二撃目を構えた隙に蠍の左足元に爆発が起きる。
狙いがブレた右ハサミ。だが、真の狙いはレオハの攻撃を回避させないこと。狙い通り
、急加速したレオハの連続薙ぎ払いで右側の足はピックで全てあらぬ方向に曲げられていく。その隙に、空を切った右ハサミの懐に入ったローザが根元から切断する。
「ローザさん、尻尾が!」
「大丈夫、見えてる!」
蠍の尻尾に対し、飛び込んでトゲ棍棒を叩き込み、軌道を逸らす。そして、間髪入れずに左ハサミを狙う。
「レオハは腹、ローザは尻尾、ゴルディは顔! 私は顔を潰す!」
身体は火照りながらも、全体はよく見えている。だからこそ、指示が出せる。そう、身体を動かすのが私だけじゃないなら任せた分のリソースを指示に割けば良い。それがみんなで考えついた作戦の一つだ。
互いの基本戦術を言語化し、レオハの武器がハンマーじゃなかったり、ローザの強さも能力によるものだとわかったり、色々収穫があった。
そうして、レオハの突撃に頼る旧来の戦法を捨てた私たちは、常に先手を取り続け、蠍を完封した。ゴルディの魔法をサポートに割り切り、足りない分はローザの岩をも切り裂く一撃で補う。レオハは加速を奇襲に用いて、私が前に出るローザをカバーする。
うん、初戦はうまくいったようだ。
「なんだ、多少はマシになったじゃないの」
振り向くと、タタラがもう一体の蠍の上に座っていた。“聖青の天秤”の面々は!? と慌てて探すと、満身創痍で座り込んでいた。
「面目ございません。任されたにもかかわらずこのザマで……」
「いやぁ、コイツに関しちゃ、アッチの子らがイカれてるんすよ」
ゴーヤはあっけらかんと言い放つ。レイは二刀を抜いており、ゴーヤも本を携え回復魔法を使っている。どうやら、タタラとゴーヤ、レイが戦闘に加わっていたようだ。
「それぞれが長所を自覚し始めたが、まだ危ういな。今の割り振りじゃ想定外に対処しづらい。例えばこんな状況な」
タタラはそう言いながら、十手の先を前後に向ける。前方からは大型トラックみたいな竜と倒した個体より一回り小さい蠍の大群、それに追われた連中が。後方からは謎の人影集団が迫っていた。どちらも味方とは言い難い。さて、どうする。
「タタラさん、ギルド職員として指示をくれたりします?」
「後ろの連中は試験で封鎖されているはずの門から入ってきた連中……もしくはダンジョンに篭っていたかだが、まぁ前者だろう。そんな連中相手に、挟まれた状態は不利だ」
「なら、あの竜から倒しますか」
「それがな、逆も然りだ。あの竜は食糧である水晶のモンスターを奪われて奥から出てきた、だいぶ強いモンスターだ」
「では、答えは一つ、チームは二つ。ですね、ディア?」
「待って、アイツら……何してるの!」
ゴルディが叫ぶ。目線の先には、子どもを抱えて竜から逃げるジニィ。そして、それを蹴り飛ばすネイドの姿が。
「アイザックさん、まだ動けますか?」
「私はなんとか。でもこの子たちは戦えるか……」
「ゴーヤさん、レイさん、力を貸してください」
「もちろんっす。守ってなんぼの“鉄の猪”っすから」
「……子どもを囮にするなど許さん」
「般若さん、頼りにしていいですか」
「……」
般若は答えない。しかし、身に纏う雰囲気が戦いのそれになっている。実力は未知数だが、使うしかない。この場を切り抜ける最適解……情報が足りない。でも、やるしかない。最大限、私たちが力を発揮できる組み合わせならそれでいい。
「……タタラさん、ゴーヤさん、“聖青の天秤”の方々、般若さん。ここに残ってください。残りの面々で竜を迎え撃ちます」
「……残るだって?」
「敵はゆっくり降りてきている。なら、タタラさんの罠で時間を稼ぎ、合流して数の力を使うべきかと」
「迷ってる時間はない、私は行くよ!」
ゴルディは駆け出していき、レイもそれに続いた。ローザやレオハは心配そうな顔でこちらを見るが、笑顔で親指をあげて送り出す。このサインの意味が通じたかはわからないが、駆け出して行ってくれた。
後ろから来る連中はゆっくり降りてきているのは間違いない。しかし、胸騒ぎがする。急いで合流し、事に当たらねば。
「頼りにするなと言ったはずだぜ?」
「ギルド職員としての仕事くらいしてもらわないと」
「言うじゃないの。んじゃ、ご褒美に一つ伝えとく」
「なんです、改まって」
「あの竜は耳と鼻が敏感だ。潰せば逃げていくだろう」
「情報ありがとうございます」
そうして私も駆け出した。おそらく、奇襲でも仕掛けられたなら無傷で撃退できたかもしれない。しかし、完全に臨戦態勢となっている今の竜とは戦いを避けられない。蠍相手の戦法も、格が違いすぎて上手く行かないだろう。不安しかないが、今はただ全力でぶつかるしかない。




