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「サンディ様と出会えて本当に良かったです。うちのあんなぼろぼろの宿屋だった場所が、こんなキラキラの素敵なブティックになるなんて!もう感動です。」
「ほんと、とても嬉しいです。毎日変わり映えのしない木の器を作るだけの日々だったのが、こんなに可愛い物をたくさん作っても怒られないなんて。幸せです。」
「わたしも田舎から出て、こんな素敵なところで働けて幸せです。」
「わたしもです!」
「こんなに可愛い女の子のたくさんいる職場で幸せです!」
なんかみんなテンションが高いのは、今日がお店のオープン日だから。
わたしも嬉しい。家令も一緒だ。
オープンといっても、今日は、もともとドレスを買ってくれていた人にこっそりオープン日をお知らせしただけである。大々的には宣伝していない。
隠れ家的な感じで、少しずつゆっくりスタートする予定。
古くなって着なくなって物置に詰め込んであった公爵家のドレスを売って生活費にしよう!というのが当初の目的だったのが、少し規模が大きくなってしまったという感じだ。
協力者がいてくれて良かった。
ちなみにわたしはちょっと下級貴族の男の子用の、庶民の服よりちょっと良い感じの服を着ている。髪の毛がまだ短くて女の子に見えないんだよね。
今でやっと少し髪が長い男の子っていう感じかな。後ろはほんの少しくくれるぐらいだ。ネズミのしっぽぐらい?貴公子に見えたらシューが喜ぶかもね。
まだ正式に公爵家の末の娘としてご披露されてもいないので、ごまかしているというのもある。わたしとしては動きやすいので男の子の服は気に入っている。
お店のお客様の第一号は、今までも何度か購入してくれていたエネル子爵家のアルマご令嬢だった。お父様とお母様とご一緒にご来店してくださった。
お店の奥にまだリフォームしていない、昔の公爵家の子ども用のドレスがこれでもかっていう量を吊っているのを見て母娘で狂喜乱舞されている。その横で父であるエネル子爵は苦笑している。
「お父様、お父様、このドレス、物凄く素敵です!こっちも素敵!あれも可愛いです!!」
「おお、凄いね。これ。少し前の流行のものだけど、質も見た目も美しいね。」
「あなた、こっちの服は100年ぐらい前のスタイルなのに、物凄く質がいいのよ!」
「おおそうか。100年も昔のものがこれほど綺麗に残されているなんて凄いね。」
「エネル子爵、奥様、こちらのドレスはすべて公爵家のドレスでございました。公爵家よりリフォームさせていただいて販売をしても良いと了解は得ております。
公爵家のドレスは、どれもこれも、このままだと本物の宝石が多数着いておりどうしてもお高くなりますので、外させていただき、少し古い型となっているものを今風に変えております。」
「なるほど、うちみたいな下級貴族ではすぐに大きくなる子どものドレスにそうお金をかけられないが、古着のリフォームであれば良いものを安く手に入れられる。こちらのドレスは本当にどれもこれも質が良いので、うちの女性陣には評判が良いのだよ。」
「お父様、お母様、わたくし、このオレンジ色のドレスをリフォームしていただきたいです。」
「まぁ素敵な色ね。この襟元の細かい刺繍や裾の刺繍は残していただきたいわね。でも、お袖や、胸元の宝石類は小さな子には少し重いので外していただきましょうか。」
「わたくしもこの刺繍が気に入ったので、刺繍が残るなら嬉しいです。」
「スカートも三重になっているところは普通に1枚にしていただきましょう。足さばきが大変ですからね。それにしても素敵だわ。ねえ。ご主人、大人用のドレスはリフォームして販売されないのでしょうか。」
奥様の目がきらりんと光る。そうだよね。そう聞かれるかもしれないなとは思っていたんだけど、ご婦人用のドレスの方が在庫も多い。でも古いのも新しいのも全部インベントリに収納して、多すぎて何がなにやらわたしにはわからないのだ。
「あるのはあるのです。大人の婦人用のドレスは。でも数が多すぎて、うちの手に余るのです。今は仕舞ってあるのです。」
「まぁ!それらを見せていただくわけにはいかないでしょうか?」
「古いドレスって見たいものなんですか?」
「ええ、意匠や流行の流れを見るのも楽しいですし、もう今は誰も作ることができないレースだとか刺繍が見ることができるかもしれないと思うと胸が高まりますわ。」
「そうなんだ。広い場所に、手伝ってくれる人があれば、ドレスお見せすることできますが、大人のドレスはリフォームまでは手をつけていないのです。」
「ええ、場所はあるわ。うちのホールを使えばいいもの。手もあるわ。メイドを集めるから。ドレスは何着ぐらいあるのかしら?」
「んー。数えていないんですけど、300~400ぐらい?あ、追加で頂いたものもあるからもう少し多いです。」
インベントリ見れば数はわかるかも。ええっと。ドレス。大人用。827着?!多い。思ったより多かった。お婆様とお母様のドレスは家令のマジックバックから復元させるためにとりあえず掘りこんだだけで、ちゃんと見てなかった。
「ええっと、827着ありました・・・。」
「んまぁ。素敵!さすがに全部のご披露は無理かと思いますが、お友達もお呼びしますわ。ドレスがお好きなお友達いらっしゃるの。お友達のメイドも連れてきていただきましょう。まぁほんと楽しみですわ。」
なんか、いつの間にか大人のドレスをお披露目することになってしまった。まぁこっちはまだ売れないし、見せるぐらいならいいか。お得意様だしね。
その後、エネル子爵家で小規模に『ドレスを愛でる会』が主催のお茶会が開催された。これが後年ずっと続く、『ドレスを愛でる会』の名誉ある第1回目のお茶会となった。
「見て下さい。この手仕事。素晴らしいじゃないですか。」
「このドレスは100年以上昔のものだというのに、今の物と遜色がないぐらい美しく気高いものだと思いませんか。」
「さすが公爵家のドレスです。どれもこれもお美しい。眼福でございます!」
と、ドレス愛の強い方々がホールにトルソーに着せたドレスの合間を幸せそうに歩いてはドレスを見て、感嘆しては新しいドレスを見に回られている。名誉ある第1回目は大量に出したドレスから古いものを中心に選んで並べることにしたのだ。
お金にはならないけど、エネル子爵婦人には、これは100年以上前、こっちは割と近年のもの、という風に年代別に分けていただいた。100年以上前のものはそれだけで価値があるから、リフォームもせず売らない方がいいらしい。これぐらいのものは、もう復元できないからだと言う。インベントリに再度入れる時も、これは100年以上前のものと意識していれるとタグが100年以上前のドレスとして成立した。これで混ざることがなくなってほっとした。
どのぐらいの年代の物なら売っても良いかと聞くと20年から30年前のものならばいいらしい。
直近だと公爵家の方が着こなしておられたドレスを着るなんて恐れ多いということになるらしいけど、20~30年前のものだと、みんな記憶にないし、それぐらいのドレスなら、今の技術でも作る事が出来るものが多いからリフォームしても惜しくないそうだ。
いろいろ情報を教えていただいたうえに、お茶会に参加された方々のもう着ることのない不要なドレスを買い取らせていただいた。それらはリフォームして売っても良いらしい。
ドレス愛の強い方々のドレスを、いったん、わたしのインベントリに入れて新品同様になるスキルもお見せした。お兄様が解禁しても良いと言ってくださったのだ。
「んんまぁぁ。なんて素敵なスキルでしょうか。これはお金を取ってもいいと思いますわ。わたくしの祖母のドレスをお願いしたいです。とても繊細で、今は作ることができないようなレースがついているのですが、布もレース糸も弱っていて触ると崩れそうなのですわ。儚げで本当に美しいドレスでございます。わたくしが、ドレスを好きになりましたのも、それを見て感動したからなのです。お願いできますか?」
「いいですよ。崩れそうなら、ドレスの傍まで行きますよ。」
エネル子爵婦人に導かれ、衣裳部屋に辿り着いた。一番奥のかっちりとした箱の中にそのドレスは仕舞われていた。淡いベージュのドレスだ。それに合わせて繊細なレースが幾十にも下地を覆っているが、繊細であるから重くは感じない。ふわふわのシフォン地のスカート部分、本当物凄く綺麗だ。
これを、そーおっと触れてインベントリの中に収納する。
そして、そーおっと取り出す。
ドレスが生まれ変わったかのように、新品になって出てきた。
淡いベージュに見えていた部分は薄い淡い黄色だ。レース部分は白だ。もうこんな細かい繊細なレースを編む職人も減っただろう。同じようなドレスは見たことがない。
エネル子爵婦人は新品になったドレスを見て涙ぐんでいる。
ドレス愛の強いお友達たちも一緒にここにいて、一緒に感動されている。
「このドレスをリフォームして着られるのですか?」
好奇心で聞いてみたところ、とんでもないという顔をされ、
「このドレスは観賞用です。わたくしが着るとイメージが合わないので。見るだけで幸せになるドレスです。」
「観賞用ですか。そんなドレスあるんですね。」
「それだけの価値がございます。サンディ様本当にありがとうございました。」
「サンディ様、わたしくしの家にもわたくしが大事にしている、古いドレスがございます。うちにも来ていただけないでしょうか。」
「わたくしの家にもございます。わたしがドレスを好きになった元始のドレスが!」
ということで、ドレス愛強い方々の家をめぐることになった。古いドレスを復元することで復元料というものをいただくことになった。これは金額をこっちが提示したわけではなく、ご婦人から、これぐらいは貰っていただかないとダメですっていう感じで押し付けられた。
こっちは大勢の顧客が押し寄せるのではなく、ドレス愛の強い方、観賞用のドレスをお持ちの方のみということで、じっくりじわじわ広がっていった。
もちろん、その関係で、必要なくなった古いドレスを買い取ることができたり、子ども用のドレスも手に入れることができて、ブティックの発展に繋がっていった。縁って凄いね。
その結果、裕福な庶民及び下級貴族用のブティックだったのが、もう少しお金を持てるようになった庶民にも、そして中位の貴族様もお見えになるようになってしまった。これは想定外。お店はそんなに大きくないのよー。
まぁ公爵家の許可したお店ということで、無体される方はいない。出来上がりまでお待ちいただくこともあるけど、一から作るのではなくリフォームなのでまだ早い。
フューラが、どれだけ注文が入っても絶対に手を抜かないって断言しているので、評判は更に上がっていく。一から作ると2万ノンナから10万ノンナする子ども用ドレスが、ここだと1万ノンナで出来てしまうのだ。そして質もいい。下級貴族から引き取った子ども用のドレスはもう少しお安くしている。
おしゃれしたい女の子の味方だ。
ドレスを見に来る子が増えると、トゥレーの装飾品も売れるようになる。小さな宝石や小粒のパール、ドレスから外したそれらや、スライムの魔石を使った、髪飾りやブローチ。
ユーリが持ち前のスマートさでおすすめすれば、値段が安いこともあって、こちらも売れていく。普段使いできるようなアクセサリーを目指しているから、気軽に買ってもらえるのは嬉しい。
わたしはオーナーとして時々お店に出るけど、トゥレーとフューラにユーリにほぼ任せている。なんせわたしにはドレス愛が少ないからね。ドレス愛の強い人の圧には負けてしまう。わたしじゃないとできない注文には出来るだけ応えているけどね。
そうこうしているうちに、うちでも使っているスライムの魔石の装飾品が公爵家の領地の特産として出回ってきた。向こうはうちより少しお高め設定だ。
金や銀も使ってきている。
公爵家のアクセサリーが売れてもこっちは問題なしだよ。商業ギルドでお兄様がスライム魔石で作るアクセサリーをわたしとトゥレーの名前で登録してくれたので、公爵家のアクセサリーが売れても、こっちにお金が入ってくるからだ。
トゥレーが驚くほどお金が入ってくる。
ドレスのリフォーム事業も軌道に乗った。
もう、大丈夫だね。ふたりがブティックを買い取れるのももうすぐだろう。




