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四話-3 休息、そして遭遇




 中々戻らない僕を心配して水中を覗き見た冬香が水中で水着を付けなおしているのを見て全力で謝罪する身振りを見せたのちに二人で戻ったところ、中々戻って来ない僕を心配して咲夜と景文さんも近くまで来ていたようだ。

 しかし何故か景文さんが顔を合わせようとしない。顔を赤くして目を泳がせている。

 水着は直したし、別に何も見られて困るようなものはないのだけども。一体何なのだろうか。


「それで、中で何があったのよ」


「まぁ、色々とね。それはいいとして、千郷って泳げたんだね」


「それはどういう意味? 意外って言いたい訳?」


「ううん。ただいつそんな練習してるのかなって思って」


「そういうこと。練習っていうか、抵抗力があるから体を鍛えられて肺活量を鍛えるのにもいいってことで修行として水泳をやってるだけ。清花はそういう訓練してないの?」


「水の中は自分の領域って認識だから訓練に適してないんだよね。大門先輩との訓練で十分っていうのもあるけど」


 こうして自分で生成した訳ではない水の中に体を浸しても何ら不自由を感じないし、寧ろ動きを補助出来る分地上より楽と感じることすらある。というか、僕の場合は訓練を肉体を鍛えられる訳ではないからあまりやる意味がないのも大きい。

 大門先輩との訓練の価値はそこではなく、最適な体の動かし方や敵の攻撃に対しての適格な対処の仕方だからだ。

 そんな訓練を一緒に受けた仲である千郷は口元をへの字に曲げて嫌そうな顔をする。


「……あの人の訓練より過酷なものの方が少ないと私は思うなー」


「そうだ。千郷も受けてるし、今度冬香も修行つけてもらう?」

「嫌です」


 食い気味に拒否された。目が本気と書いてマジなやつなのでこれ以上は誘うまい。


「俺は興味あるな。今度お邪魔させてもらってもいいか?」


「いいんじゃないかな。僕と景文さんの二人がかりでどれだけやれるか試してみたいし、今度こっちに来て見てよ」


「ははっ、俺と清花さんでなら誰だろうと…………そんなに?」


 目を背けてしまった。正直に言って彼と一緒に戦っても大門先輩に勝てる未来が想像出来ない。

 最近になってようやく一発か二発の有効打を入れられるようになったものの、それは大門先輩が意図的に見せた隙だった場合も多い。そもそもの訓練内容が攻撃を入れることよりも避けることの方に主眼を置いているので攻撃を入れられないことに悲観する必要はないのだけども。


「この前にやった千郷と二人がかりで……どうなったっけ?」


「相打ちを誘発されまくりで自滅が最多回数更新。っていうか立ち回りが鬼過ぎてそもそも挟み撃ちすらさせてくれないから二人掛かりの意味がないし」


「連携するにも訓練って必要なんだなって再認識したよね」


 下手な連携をしようとすれば、それを逆に利用されて自分が味方の邪魔をしてしまうことになるとは。

 当たり前の話ではあるのだけど、ああも的確にいなされては認識が甘々だったのだと痛感するしかなかった。

 僕は一人で戦う機会が多かったから仕方ないとはいえ、これからは他の人と協力する必要が出てくるかもしれないことを考えると現状に甘んじることは出来ないだろう。


「はいはい! そんなお通夜みたいな雰囲気は終わりです!」


「冬香の言う通りよ。こんなところまで修行の話なんかしないで欲しいわ」


 それもそうかと気を取り直す。咲夜も同調しているということはなんだかんだ楽しんではいるということだろうか。

 表情からはそういったことは読み取りにくいので楽しんでいるのなら何よりだ。

 次の場所は流れるプールを行ってきた。始まりと終わりの地点が繋がっている堀のような場所を絶えず水が流れて巡り、僕たちはその流れに乗ってただだだ水の中を漂う。ただそれだけだというのに僕たちも周りの人たちの一様に楽しむことが出来たのはなぜだろうか。

 波のプール、飛び込み台と中々激しめの場所に行っていたのでもしかしたら比較的落ち着けて水の中を堪能出来たのが良かったのかもしれない。

 そこから出ると、近くの休憩所で休憩がてら次はどこへ向かうかと相談する。


「冬香が行きたがってたウォータースライダー?っていうのは待ち時間が長いみたいだけど、どうする? 今から並んでおく?」


「うーん。経験上、それだとお昼ご飯がだいぶ後になりそうなんですよね」


「そうね。今視てみたけれど、子供達がかなり並んでいそうね。電光掲示板には待ち時間が二時間とあるわ。今お昼を摂ればその子たちと入れ替わりで行けるかもしれないわよ」


「そうなんだ。じゃあ先にお昼を頂こうか。丁度よく近くにあって良かったね」


 そんな訳で全員賛成でお昼ご飯を摂ることに。

 始まりから順調に遊んでいけば丁度いい時間でここに辿り着く計算になっていたのか、僕たちの前には沢山の料理店が並んでいる。

 その料理店で何を売っているのかが一目で分かるように模造品の展示が行われていた。

 冬香と千郷が値段のことに気にしているのを耳にしながら何を食べようか選んでいると。


「みんな、ここは俺に奢らせてくれないか?」


「えっ、でも……」


 悪いからと断ろうとしたものの、どうするべきかと悩んでいると咲夜が肩に手を置いてさっさと適当に五人が座れそうな空いている席に向かって歩き出してしまった。

 それから景文さんは更衣室にお金を取りに行ってから僕たちから注文内容を聞いた後にお店に向かっていく。


「きっと清花さんにいい格好見せようとしてるんだと思います。男気を受け止めてあげるのもいい女ってやつですよ」


「そうだね。それじゃあお言葉に甘えて待つとしようか」


 つまりはそういうことなんだろう。僕にだけ奢るのは気が咎めるのでいっそ全員に奢ることにしたというのは何となく察してはいる。目の前にある売店に提示されている食事の値段が割高であることを考慮しなければ僕もあまり抵抗感はなかったのかもしれないけれど。


「アイツ、本当に清花に惚れてるのね」


 波のところでは最前列にいて僕たちを見ていなかった千郷も、今の景文さんを見て流石に気付いたらしい。


「う、うん。……どう思ってる?」


「ベツニナントモ」


 複雑だけどそれをここで口には出さない。清光という情報抜きで僕と彼の関係性を見た場合、千郷から何か言うのはおかしいからだと判断したからだろう。理性を必死に働かせていたせいで片言になっているのは指摘はしないでおく。

 同時にそんな僕たちを見ていた冬香が肩を叩いてコソコソと耳打ちしてきた。


「うーん。……清花さん、もしかして景文さんと付き合ってます?」


「ううん、付き合ってないよ。どうしてそう思ったの?」


「いえ、明らかに好意を見せている相手からの施しと言いますか、贈り物を平気そうに受け取っているように見えたのでふと思っただけです。そこそこ気を許していないと清花さんってそういうのは受け取ったりしませんよね。そこのところを咲夜さんも黙認してるっぽいですので、ひょっとしたら私の知らないところで進展があったのかなって思ったり思わなかったり?」


 み、妙に鋭い。これが普通の女子学生として暮らしてきたが故の感覚というやつだろうか。

 ただ別に嘘を吐いている訳ではないのでここは黙っていれば──


「あれ、清花さん? それと千郷もいるな」


 不意に聞こえてきたのは僕と千郷を知る人の声。ちょうど僕も後ろにいるようなので振り返ってみると、そこにはつい最近見知ったばかりの藤原利通さんがいた。

 その手と腕には三つの料理が載せられていて、表情はどこか焦っているようにも見える。

 原因はおそらく僕ではない。きっと彼と一緒に来ているだろう誰かのことが関係していると見た。

 彼と最後に話したのは彼の体を通じて僕に殺意を向ける人たちへ浄化の力を送った時以来だ。

 その時に藤原さんは気絶してしまった為にそれ以来会話をした記憶はない。

 しかしここは一般人の多くいる娯楽施設。いきなり剣呑な雰囲気を出せば他の人たちに迷惑が掛かることになるだろう。

 ここは努めて冷静に事が進むように心掛けて話し掛ける。


「藤原さん、お久しぶりですね。お体の方は大丈夫ですか?」


「あぁ、お陰様でな。……っと、まずは謝罪が先だったな。あの時は本当にごめん。色々あったとはいえ悪いことをした」


 場所が場所だから、衆目を集めることを意識して過剰にならない程度に頭を下げられる。


「もう気にしないで下さい。そちらも色々と解決したようで何よりです。それよりもお一人ではないようですがどなたと来られたのですか?」


 育ち盛りの男の子であっても一人前の料理を三つも食べることはないはず。彼がいるのなら名雪さんもいると思われるけど。

 それだと一つ多いのであと一人誰かがいるのだろう。

 ……何となく予想は出来た気がする。


「あぁ、名雪と……その、あと文奈がいるんだけど」


「やっぱりですか。では藤原さんたちがここに来るのを今日にしたのは文奈さんですね?」


「あぁ。場所と日時を指定したのも全部アイツだ」


 あの人は僕の感知に引っかからないように悪意なく色々と出来るから厄介な人ではある。

 ここで何かが起きるような気配はないし、これだけ人がいるところで何かする可能性は極めて低い……と言えないところが文奈さんだというのはたった一日の付き合いで理解してしまった。

 あの人の名前が出るだけで否が応にも警戒心が湧き出してしまう。


「その文奈さんは今どちらに?」


「それが……料理を待っている間にいつの間にかいなくなっててな。名雪を連れてどこかに行っちまってさ」


 少し疲れた様子なのはそのせいか。

 哀愁すら漂っている藤原さんに千郷が大きくため息を吐いていた。


「馬鹿ね。一人で買いに行くからよ。アンタはそうやっていつもいつも騙され……いや、出し抜かれ過ぎなのよ。いい加減学習すれば?」


「俺はアイツも信じてるから……。信じてたのになぁ」


 三人がどういう関係なのかまでは分からないけれど何やら色々と複雑そうではある。

 触らぬ神に祟りなしと言うし、ここはさっさと僕たちの傍からいなくなってもらうとしよう。


「咲夜、居場所を教えてあげてくれないかな?」


「私はその人たちの顔を知らないから確定か分からないけど、この施設にいる霊力を持つ女性二人はあっちの隅っこの方の席にいるわね。……あら、大人しそうな顔の方が嫌そうな顔をしてるわ。あれが清花の言っていた占い師の人かしら」


「す、すまない。多分それが俺の連れだ」

 

「居場所を知らされた未来を視たんでしょ。ハァ、いい加減にあの人も名雪離れしなさいよね」


 わざわざ藤原さんに食事を取りに行かせてその間に居場所を全く違う所に移したのだと思われるけれど、何故そんなことをする意味が分からない。それに対して彼が慣れた様子なのもそう。千郷はその辺りの事情はよく分かっているみたいだけど。

 ……いや、ここは深入りしないと決めたのだからそうするべきだろう。


「では居場所も判明したことだし、ご飯が冷めない内に行った方がいいですよ。こちらのことはどうぞお気になさらず」


「そうだな。ありがとう。あの時は本当にすまなかった。じゃあな」


 両手が塞がっていて満足に体勢も変えることが出来ない彼は申し訳ない顔をしながら屋上へ向かっていった。

 藤原さんと入れ替わるようにやってきたのは景文さんで、手には人数分の注文書が握られている。

 

「あれ、今誰かいなかったか?」


「藤原さんがいたみたいだよ。名雪さんと文奈さんと一緒に来てるみたい」


「……わざわざ今日を選んで?」


「今の所は何も画策はしてないみたいだけど、要警戒ではあるかもね。特に文奈さんに対しては」


 あの一件でしか僕は文奈さんという人の人柄を推し量れていないので千郷と彼の意見も併せて聞きたいところではある。

 しかしその二人は揃って難しい顔で腕を組んでいた。


「今回に限って言えばあまり心配はいらないかもな」


「そうそう。清花は知らないと思うけど、あの人が悪巧みをする時ってあまり名雪さんを近くに置きたがらないんだよね。あの時は例外であって、基本的にあの人って名雪さんに嫌われるようなことはしないから。するとしても絶対に本人には知られないようにしっかり裏工作をするし」


「今回は裏工作をする余地がなさそうだから一先ずは警戒しなくていいかなっていうのが長い付き合いの俺たちの感想だな」


「まぁ、悪巧み以外の可能性もゼロじゃないんだけどね」


 それなら安心……していいのだろうか。いまいちすんなりと頷けない。

 するとそれまで会話を聞いていた冬香が元気よく手を挙げる。


「はいはーい! その文奈さんと名雪さんという人はさっき男性はどういう関係なんですか?」


 千郷と景文さんはどちらが答えるか視線で問い合う。しかし景文さんが財布を提示したことで決着はついたようだ。

 仕方ないと肩を竦める千郷をよそに景文さんは出来上がった料理を受け取りに行く。

 話に興味のなかったらしい咲夜は一緒に料理を取りに行った。僕は戦力的にここに待機だ。


「まず景文と話に出た三人は幼い頃からの知り合いっていうのは前提知識ね。私はその後に知り合った感じ。それでさっきお皿を三つ持った男が藤原利通で、一緒に来てる女性二人の内の大友名雪って人とは婚約者同士。そんでもって二人はお互いを好き合っているから政略結婚っていうよりは恋愛結婚ってな訳よ」


「えぇっ!? 婚約者でお互いに好き同士なんて物語みたいじゃないですか! それは凄くいい話ですね! あぁ、いいなぁ! 私もそんな風に想い合える人と結ばれたらなぁ〜!」


 退魔師の血筋である場合、通常は家同士の利害関係による政略結婚である場合が殆どだ。そこに愛がある場合は少ないという。それでもお互いの家、あるいは自分の為に好きでもない相手と結婚をすることはままある話だ。

 その辺りの話は倉橋さんから散々聞かされているし、その中の黒々とした話も履修済みだ。

 だからこそ冬香の言う通りお互いが好き同士の男女の結婚というのは理想的で希望に溢れている話でもあるのは理解出来る。


「……あれ? だとすると、もう一人の方はどういう立ち位置なんですか? そのお二人ってデートをしに来てるんじゃないんですか?」


 当然のように湧き出た疑問に千郷は深い深い溜息を吐いた。


「あの人、弓削文奈は何でかは知らないけど名雪さんに一途……ぞっこん……いや、執着してると言っても過言、じゃないか。そんな感じだからさっきの利通って男子と愛しの名雪ちゃんが結婚前提で付き合っていることを頑なに認めていないし、隙があれば邪魔してるって感じ」


「そ、それは中々……んー、中々に強烈な人ですねぇ」


 冬香は言葉を選ぼうとしたけど選んだ結果がそれだったらしい。


「今回のもあわよくば利通をこっちに押し付けて自分は名雪さんと二人っきりでとか考えていたんじゃない? ちなみに質が悪いのがその文奈って人は弓削家の生まれで占い師の一家なの。だから自分だけ未来を知りつつ行動してるってとこ」


「うわぁ……」


 ここに咲夜がいなければ探す手段がなくて目的が叶ったのかもしれないと考えるとあわよくば程度の考えだったのだろう。こんなくだらない(と言っていいか微妙なところだけど)ことで力を使うなとは言ってやりたい。


「でも婚約までしてるのならそこからはどうも出来ないはずですよね?」


「婚約してる側の二人はそこら辺を自分で折り合いをつけられるまで辛抱強く待つつもりなんじゃない? 本人もまさか横恋慕が成功するとは思ってない……ない、と思うし。ないよね?」


 途中まで自信満々だったのに最後になって不安そうにこちらを見るのは止めて欲しい。


「僕に聞かないでよ。第一、横恋慕って言っても恋愛感情がある訳じゃないでしょ?」


「本人はあるって言ってるけど?」


「女の子同士なのに?」


「世の中には同性であっても好きになる場合もあるのよ。そんな話を剣護のやつにもされてなかった?」


「あぁ、僕と咲夜がどうのって話だっけ」


 あの人にされた話というと、食事会の時だったか。

 どういう話だったか思い出そうとしていると、料理を持って先にこちらへ帰ってきていた咲夜が聞いてきた。

 

「私が何かしら?」


「会合で僕と咲夜が恋人関係なんじゃないかって話をされたんだよ。……その、咲夜のお兄さんに」


 そう言うと咲夜は二重も意味で渋い顔をした。まるで腐った生ものの匂いを嗅いだような露骨な表情で。

 僕でも初めて見たような顔なのは本当に嫌だったのだろう。

 別に隠されてもいないことなのでそれぞれの情報網からある程度咲夜と宝蔵家との事情を知っているだろう他の三人はそれに対して苦笑で返す。


「あの宇宙一愚兄のことは話題に出さなくていいわ。耳が腐り落ちそうだもの。貴方たちも存在ごと忘れてしまいなさい」


「ヒェ。……そ、それでその文奈さんの人となりは分かりましたけど、その程度の理由でわざわざこの日に合わせてくるのは少し理由として弱いのではないですか?」


 それは僕も内心では思っていたけれど、千郷はまたしても難しい顔をして唸る。


「それはどうかなー。でもそれは私たちをどうこうしようっていう理由ではないはずよ。さっきも言った通り、変なことをする場合は傍に名雪さんを置きたがらないから。他に何の理由がって聞かれたら私は分からないって答えるしかないけど」


「本人に聞けば答えると思う?」


 僕の質問に答えたのは残った料理を持って来て並べてくれている景文さんだった。


「絶対にないと言えるね。弓削家の考えの中にどんなに些細なことでも未来は大きく変わるってあるし、必要だと判断したこと以外は死んでも話さないよ。世界一口が堅いのは誰って聞かれたら弓削家って答えると思うくらいには頑固と言ってもいいかもね」


 それが未来を知る占い師だというのだから厄介なことこの上ない話だ。

 そんな人たちが近くにいるとなると気になってこの後で心から遊ぶことが出来るか少し心配だ。


「つまり気にするだけ損ということね。あっちの動向は私が気にしておくことにするから任せておいて頂戴」


「でもそれじゃあ咲夜が楽しめなくない?」


「ずっと見張っている訳じゃないから平気よ。それよりも気付いたときに変なことをされる方が嫌だわ。監視役はこの眼がある私が適任というものでしょう?」


「それは……確かに」


 長い付き合いの千郷達からすれば気にするほどではないにしても僕たちの場合は疑い深くなる理由がある。それにあの人は遅効性の策も弄する性格なので今が良ければそれでいいという訳でもないのが余計に質が悪い。

 しかし考え過ぎても心に毒なので、結局は気にしない方向で進めるのが一番いいことになるのだろう。


「じゃあ負担にならない程度に見張ってもらうことにして、あの三人については気にしない方向でいこう」


 異議なしということでその方向で可決される。


「飲み物は各自で自由に取りに行く方式みたいだけど、清花さんたちはどうする? 俺が持って来ようか?」


 案内には確かに料理しか乗せられていなかったか。文言ではドリンクは飲み放題と書かれていたけれど、各自で持ってくる方式だったとは知らなかった。周りを見れば確かに客が席を立って飲み物をどこかから持って来ているのが見えた。


「それじゃあ僕が行くよ。五人分だからあと冬香と千郷についてきて貰っていいかな?」


 いらぬ諍いを起こりそうだったのでさっさと相方を決めてそれぞれの注文を聞く。

 それから料理と飲み物が全員分揃ったところで食事を始めた。

 外で食事をする機会というのが最近ではあまりなかったし、加えてこうして多くの友達と一緒に外食をするというのは初めての経験なので少し緊張するところもあったり。特に食事などは不特定多数の人の前だから粗相がないか気になってはいた。

 それぞれが頼んだ物を食べながら感想を言い合っていたりしていると唐突に千郷がそんな風に聞いてきた。


「清花っていつもそんななの?」


「そんなってどういうこと?」


「いつもそんなお上品に食べてるのかってこと。癖なの?」


「家じゃなくて外だからなんだけど、もしかして間違ってる?」


「間違ってるってことはないけどさ。まぁ、場違いではあるかもね」


「そうなんだ。全くの無意識だったよ。指摘してくれてありがとう。それならいつも通りの食べ方でいいってことなのかな?」


 戻すと言っても別に粗野に食べる訳ではないから何かが変わるという訳ではないのだけども。それでもいつもの調子で食べていいと言われれば幾分か気を楽にして食べられるというもの。

 何やら千郷が周囲に強い視線を飛ばしているのは気になるものの、周りを見ても特段変わった様子はないので気にしないことにする。周囲の人たちが僕たちとは真逆の方を向いているのと何か関係があるだろうか。


「特に最近はそういう教育に力を入れているからね。自然と動きに出てしまったんじゃないかしら」


「清花さんって元々綺麗な立ち振る舞いでしたけど、それでもなんですか?」


「これからはもっと上の人たちと会うかもしれないから教育に力が入っているのよ。そこの動きが粗野な人も一緒に受けたはずだけれど、あまり成長が見られないのは何故かしらね」


 倉橋さんの授業から途中で逃げ出した約一名はそっと視線を逸らした。


「冬香もいずれは一段上の教育を始めるでしょうし、他人事だと思わないでおくことね。とは言っても元々貴方は出来ていた方だからそれほど心配する必要はないけれど」


「私の場合は作法に厳しい祖母のお陰ですね。まぁ、空いた時間を別の修行に力を入れられそうですが……は、ははは……」


 乾いた笑いを浮かべて冬香もあらぬ方向を見る。


「えっと、景文さんはそういう勉強はどうなの? もう完璧だったりする?」


「流石に完璧なんかじゃあないよ。今でも気を抜けば指摘されることも多いしね。でも同世代よりは出来ているって太鼓判を押してもらっているから他の兄弟たちよりはあまり時間を取っていないのはそうだね」


 これが二人きりなら昔のと比べてどうか聞けたけれど、流石にここでは聞けないか。

 そんな彼の余裕あり気な態度に千郷が三白眼で見やった。


「はー、コイツってばいつもそうよ。私たちが必死こいてやってることを簡単そうにこなすの。術のお披露目だって私たちが全力でやってるのにコイツだけ涼しい顔してテキトーにやってるんだから」


「酷い風評被害だな。清花さんが勘違いをしたらどうするんだ。俺はいつだって真面目にやってたぞ」


「手を抜いた状態でどれだけ出来るかって話でね。疲れたフリした顔してても息切れもしていない時点で余裕なのは見て分かんのよ」


「余力を残すのと全力でやっていないのは話が別だろうに」


 例の集まりは知らないところで頻繁に行われているみたいで、そこでは大人たちとその子供たちとで術の見せあいのようなことをしているという。そこで将来の有望度合いなどを見て伴侶を決めたりしているらしい。

 僕のように一人でするよりもその方が向上心が芽生えたりして効率的ではあると思う。最も化装術に関しては他者と比べるようなものではなく、切磋琢磨とは微塵も関係なかったりするので一概にそれが最適かという違ったりもする。

 千郷は過去の交流会の時のことを思い出してか、やれやれと肩を竦める景文さんに大して牙を剝いていた。


「術師の交流会ですか。そういうのもあったりするんですねぇ」


「私もそんなのとは縁遠かったから気にしたことがなかったわ。そうだ、清花を送り込んで諸共鼻っ柱をへし折ってやろうかしら」


「さ、咲夜さん? お願いだからそれは止めてくれ。清花さんと比べられるのは成人の退魔師でもキツいものがあるから。あそこに集められるのが優秀よりな退魔師ばかりだとしても流石に気の毒だ」


「そうなんですか? 景文さんから見て清花さんってどれくらいの立ち位置になるんです? ちょっと気になるので教えて下さいよ」


 聞いていて疑問に思ったらしい冬香の質問に彼は少し首を捻る。

 この場で聞くことかは少し考えたものの、そこの辺りは彼も考えて発言してくれるだろう。

 咲夜と千郷も気にはなっているのか、別段止めたりはしない様子だ。

 四つの視線を受けながら景文さんはじっくりと考えた後に結論を出した様子で語る。


「うーん。主観で言うなら個人戦闘力としてはまだ二級から一級の間だけど、他に出来ることを含めた総合力で言えば準特級くらいかな。最近出来た例のアレを含めると間違いない特級に近くなると、俺は贔屓目なしに思うよ」


「清花さんっ! 特級ですって! 凄いじゃないですか!」


「冬香、少し声が大きい」


「あっ、す、すみませんっ。ついはしゃいでしまいました」


 はしゃいだように大声を出していた冬香だけど、指摘をするとしゅんとなって小さくなる。

 しかし結構な大声を出していたにも関わらず視線はあまり感じていない。これはどういうことか。

 可能性があるとすれば……。

 

「直前で俺が防音をさせてもらったよ。退魔師関係の話をする時は周囲に気を付けた方がいいかもね。一般の人たちは思いの外に退魔師についての話には敏感だから」


 やはり景文さんが何とかしてくれていたようだ。


「ありがとうございます。でも対策って何をやったんですか?」


「簡単な風の術で音を別のものに変えて誤魔化しているんだ。ただ掻き消す訳じゃないから周囲に気付かれにくいのが利点なんだよ」


「何だか匠の業って感じでいいですね。それで、どういった理由で……」


「その話の続きをするのはいいんだけど。冬香さん、時間は大丈夫か?」


「時間? ……あぁっ! もうこんな時間!」


 食べながらではあったのでそれぞれ既に完食かそれに近いくらい食べていたのは幸いだった。もう食べ始めてからそれなりの時間が経ってみたいで、予定していた設備に行くいい頃合いの時刻になっていたようだ。

 話を聞いていて一番食べるのが遅かった冬香が作法を忘れていっき食いをして腹に収め飲み物を飲み干したところで、全員で料理のお皿などを片付けてから次の目的地へと向かうこととなった。

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― 新着の感想 ―
支援系なのに上位レベルで戦闘できる時点でヤバいのよ
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