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三話-6 合流




 霊具を作り終えて少し経った頃、千郷が僕たちのところへやって来た。

 両親との話も終え、諸々の手続きも終わったからだ。

 その千郷は大量な荷物を抱えてやって来ては居間で休憩をとっている。


「はぁ、疲れた。もー荷物重ーい」


「お疲れ様。はい、これ。千郷の好きなやつ」


「うぇっ⁉︎ あ、ありがと……み、みっくん……で、いいの?」


「おぉ、一目で僕のことについては違うと分かるんだね。清花のことは分からなかったって聞いてたからどうなのかなって思ってたんだ」


「はっ、馬鹿にしないでよね。流石にそれくらいは分かるし。清花は、ちょっと……アレなだけで」


 家族から許可を貰った千郷は荷物を携えて僕たちの住む所にやってきた訳だけど、清光に変身にした柳さんのことはすぐに気付けるらしい。対応はまだ辿々しいけど、これから慣れていけばいい程度だろう。


「いやいや、初めは清花も咲夜も慣れなかったものだから心配していたけど、これならすぐに慣れそうだね。本当に良かったよ」


「出来るならみっくんって呼ぶのは避けたい所だけど」


「それは別に構わないよ。僕たち……コホン、俺たちと言うよりは君たちの年代になると愛称呼びを恥ずかしく思う子も出てくるからね。周囲もそんなに不思議には思わないと思う。だから俺のことは清光呼びで、清花が元の姿になったらみっくんと呼べばいい」


 千郷がその言葉に表情を明るくしたところで、車椅子から身を乗り出した柳さんに「ただし」と付け足される。


「それは君が私生活と公共の場とできちんと使い分けが出来るという前提だよ?」


「う゛っ」


 使い分けというのは千郷が最も苦手としていることなので気軽には決められないことではあった。

 現に今も苦虫を潰したような顔をして体が前後に揺れ続けている。


「清光、イジメるのはそれくらいにしてあげて。千郷には少し厳しいくらいで接してあげないと自堕落な方へ行っちゃうんだから」


「ちょっ、それは流石に言いす」


「清花がそう言うなら仕方ないね。それなら俺のことはこれからもみっくんって呼ぶんだよ?」


「ぎゃーっ! 紛らわしい! 同じ口調で左右から話すなー!」


 千郷にとって清花の存在は清光と切り離して認識出来てはいるようだけど、二人揃っては流石に頭が混乱してしまうらしい。

 もう少し続けたらまた面白い反応が見れそうではあるけども千郷の限界はもう超えていた。


「そうは言っても、元が元だからね。俺の話し方は清光そのものだろう? 紛らわしいから一人称は流石に変えさせてもらったけどね」


「若干男勝りなのが清光で女の子寄りなのが清花なのは分かってるけどそれはそれとして根っこが同じだからこんがらがるのー!」


「そこはもう諦めるしかないね。頑張れば出来るって。為さねば成らぬ、だよ」


 何とか言い返そうとしたものの僕の姿をしていると追い目を感じるのか、柳さんに噛み付く気はないようで諦めたようにシュンとした様子で項垂れた。それを見て柳さんは話題を変えようと思ったのか、こちらを見ながら手を叩いた。


「清花。そういえばだけど、暫くいない間に置かれていたアレは何?」


 指されたのは談話室に居間に置かれた霊具だ。あれについても二人には説明しておかないと。

 特に千郷には念入りに。今度の物は彼女に弁償出来る範囲を遥かに超えているから気を付けて貰う必要がある。


「あれは天王寺家の術式を前園家の力を借りて作った霊具なんだ」


 そう説明すると、大きな家の名前が二つ出たことで二人の目が丸くなる。


「天王寺家って言ったら、確か色々なものを繋げて共有することの出来る術式だったよね?」


「そうだよ。その術式の一部を霊具に納めてもらって、それを使って僕と咲夜の意識を繋げるんだ」


「咲夜の? あぁ、そうか。彼女の眼を使うんだね?」


 柳さんは僕たちのやろうとしていることを瞬時に理解したようだけど、残念ながら千郷はまだ分かっていない様子。

 ただ彼女でも二つの家の名前とその特性を知ってはいるらしく何やら呟いては腕を組んで唸っている。


「咲夜の遠くを見渡す力を借りて清花が雨を降らす。確かにこれが出来れば怖いものは無くなってしまうね」


「遠くに方に雨を降らすってこと? それで何で怖いものが無くなるの?」


「あれ、千郷は知らないの? 清花の雨を降らす術は一級相当の妖怪だろうと瀕死状態にして二級以下ならほぼ即死させられるんだよ」


「何それ知らない! だったらもう妖怪退治は清花一人でいいじゃん!」


「だから怖いものが無くなるって言ってるだろう? まぁ、流石の清花も日本全土を覆い尽くすほどの雨は無理だろうけど。それをしてしまったら妖怪どころか退魔師にまで恨まれてしまうから、出来たとしても口にしない方が賢明だけどね」


 いくら霊力が多いといっても流石に日本全土は広すぎるので無理なのでそんなことにはならないけど、もしかしたらそうかもしれないと不安に思う人が出てくる可能性はある。あの大友家にように。

 霊具についての周知の仕方は咲夜に任せてはいるけど、場合によっては僕自身が説明をした方がいいこともあるだろう。


「とは言っても、限定的だろうとその影響力は計り知れないね。これだけでも五家と対等に渡り合えるんじゃないか?」


「そうなんだけど、いざ運用するとなると色々と面倒があってね」


「そりゃあそっか、どこの家だって分前を取られたくないし。ということは、使うのは非常事態に限られるから有効性の証明もまだまだ先の話になるのか。勿体無いけど暫くは置き物になるのかな?」


「そうなんだけど、ちなみにそれは価格としては軽く数億はするらしいから変な風に扱ったりしないでよ?」


「ぎえ゛ぇっ」


 話に出た霊具がどんな物か気になったのか、静かに近付いていた千郷にそう語りかけると彼女は驚いた猫のように飛び退いた。

 

「す、すーおく?」


「前園家の傑作ってことで器の値段が高いのと門外不出の天王寺家の術式、それに僕の霊力と術式が刻まれているからね。最後にその霊具で出来ることを考えるとそれくらいはするって咲夜や龍健さんが言ってたよ」


 基本的に霊具の値段はその性能で決まる。ただ珍しいだけ、ただ古いだけでは価値はない。

 それは骨董品として蒐集家がお金を出すのであって退魔師の霊具としての値段ではないからだ。

 ただその霊具を使えるのは現状では僕ただ一人だけだから値段はそのくらいになるという予想であって売り物になる予定はない。ただ壊したりすればそれが指標となって弁済額が決まるというだけの話だ。


「だから不用意に持ち出したりして壊したら弁償することになるからね」


「そ、そこは雇われている身ということでほ、保険とか……」


「そういったものには入ってないからダメだね。全額弁済してもらうことになるよ」


「ぜ、絶対に触らないようにしよ……」


 物珍しいものを触りたい欲求はあるものの、流石に賠償額と天秤には掛けられないと判断したらしい。

 この調子なら触りはしないと思うけど、念の為に釘をもう一刺ししておくとしよう。


「ちなみに、その霊具が壊れて遠くに雨が降らせなくなったりしたらそのせいで死人が出るかもしれないからね?」


「絶対に触らないから! だからそういう脅すのヤメテ!」


 もうお説教は聞きたくないと耳を塞いで「アーッ!」と叫び出す。いい近所迷惑だった。


「清花は千郷の扱いが上手だよね。流石は長年の付き合いだ」


「清花として扱いが上手いのはおかしいから、千郷にもそろそろ大人しくなって欲しいものだけど」


「それは難しいのじゃないかな?」


 そんなことないと言いたいけど、こうして念を押して話していかないと安心出来ないから言い返せなかった。

 決して悪い子ではないのだが。退魔師に一般学校へ通うよう義務をつけなかったのがいけないのだと思う。

 僕が権力を持ったらその辺りについて口を出していきたいなと考えていると、唐突に後ろから千郷に抱きつかれた。


「もうその話は聞きたくなーい」


 意識してしまうと触ってしまうかもしれないからか、千郷は無理矢理に頭から考えを振り払っていた。


「ねー、清花たちはどっか遊びに行ったりしないの?」


「遊びか。中々時間が捻出出来ないんだけど、千郷も来たことだしそろそろどこかで休暇を入れたいね」


 暇さえあれば大門先輩と倉橋さんの授業があるので暇らしい暇はないのが実情だ。

 働き詰めもいけないということで休暇もあったりはするけど、そういう日に限って妖怪が出現したりするから尚更に。

 ようやく取れた休日でみんなと予定が合ったのは水着を買いに行った日くらいだ。


「あぁ、そうだ」


「えっ、何なに? どっか遊びに行けるの?」


「あぁ、うん。伝え忘れていたけど、少し先の休みになるけど大型の遊泳施設に行く予定になってるんだ」


「そうなんだ! 私も行っていいんだよね⁉︎」


 現在、行くことになっているのは僕と咲夜と冬香、それと景文さんの四人だ。

 千郷が増えると女性比率が増えることになるけれど、それで断る人はいないと思われる。

 ……咲夜以外。


「一応お伺いはするけど大丈夫だと思うよ。ただ、千郷は水着とかは持ってる?」


「あー、水着か。そういえば昔のしかないや。清花はどうしてるの?」


「僕はこの前、みんなと買いに行ったから用意してあるよ」


「なぁんで私だけ除け者にするの! 私だって清花と一緒に買い物しーたーいー! したいったらしーたーいーのー!」


 事実を告げると案の定というか、千郷はもの凄い剣幕で怒り出した。

 自分だけ仲間外れにされたと思ったのか少し涙目になって僕を掴んで揺さぶってくる。

 けど、その腕は横から止められた。

 そちらを見ると柳さん……ではなく、清光がにこやかに千郷を見ていた。


「それなら俺と一緒に行こうか」


「えっ」


「えっ、じゃないよ。その方が”千郷としては”自然だろう? 何で清光を差し置いて清花とばかり出掛けようとするんだ?」


「それは……そう、だけど」


「俺の中身は同じ女性なんだし、別に恥ずかしいとか気にする必要はないよ」


「それはそうだけどー」


「清花もそう何度も外出出来るほど暇じゃないんだ。遊泳施設には行けるよう俺からもお願いしておくから。あまり我儘ばかり言っていると咲夜から同伴を断られるかもしれないよ?」


「う゛っ⁉︎ アイツなら言いかねない……」


 それが決定打になったのか、千郷は諦めて柳さんと水着を買いに行くことにしたらしい。

 ただ問題なのは柳さんの変身時間だろう。


「霊力量は大丈夫なの?」


「水着を買いに行くだけなら問題はないよ。千郷も俺に水着を見せて喜ぶとは思わないし、そう時間は掛からないでしょ」


「それならいいんだけど。……ちなみに清光としては遊泳施設には来られないよね?」


「うーん。それは流石に難しいね。ああいった施設が一時間や二時間で遊び終わるとは思えないし。水場だから俺が断る理由としては自然だと思うしみんなは気にしないで遊んできなよ。千郷も、そういった体で遊んでくるといい」


 遊泳施設でも清光のことを任せられるのかと思っていたらしい千郷は目を輝かせてた。


「そういうことなら仕方ないからさっさと水着買いに行かなくちゃね! さっさと行こうか、みっくん!」


「待ちなよ。まだ君の荷解きが済んでいないだろ? まさかここの人たちにやらせる気? 買い物は明日だよ、明日」


 走りかけていた千郷が急停止し、そうだったと思い出しながら帰ってきた。

 それから時間を掛けて僕と千郷が部屋を整理して、完全きに荷解きを終えてから二人は水着を買いに出て行った。

 僕の方は冬香と景文さんに千郷が加わったことに対して報告と了承を取り付けることに成功したのだった。

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