三話-4 期間限定の平和機構
暫くして機器の設置が完了したとのことで機器がずらりと周りに並ぶ中、僕達三人はその中心部で手を繋いで術式を発動していく。
そしてまずは僕たちの霊力の限界値や使用する術の霊力量を調べるらしい。
「こちらは準備完了しています。いつでもどうぞ」
「分かりました。では、いきます」
まず命ちゃんが繋いで霊力が共有される。
それらは逐一口頭説明にて他の人たちにも伝えられ、その受けて龍健さんが周りに対して指示を飛ばしている。
天王寺家の術式は初めて扱うとのことなので色々と計測することがあるようだ。
暫く計測が続いてから次に咲夜の力が発動し視界が共有され、前回と同じように体が浮遊していくように俯瞰した視点で修練場にいる全員を見下ろしていた。
命ちゃんまで視界を共有すると口頭説明が難しくなる可能性があるのと、霊具化が実現した場合には接続者に命ちゃんはいないということで視界を共有しているのは僕と咲夜のみになっている。そのまま視界が急上昇していき、空を高速移動していく工程が思考を共有している咲夜から命ちゃんに伝えられ、状況が龍健さんたちに伝えられていく。反対に僕たちは龍健さんたちの声が聞こえないのであちらの状況は命ちゃん伝手に聞くことになっている。
『所定の位置に着いたわ』
『分かりました。……ここまでは順調だそうです。清花様、次の段階に行って大丈夫です』
『分かった。次は僕の番だね』
雨が降っている場所でも観測をしたいとのことなので予め龍健さんたちが指定した場所にも人員を配置され、そこに術を放つことになっていた。なるべく人がいない場所を選んでいるので不自然に思う人はいるだろう。
準備は完了していると聞いているのでまずは雨が降っているのか分からないくらいの雨量で留めて術を発動する。
『術を確認出来たそうです。観測は出来ているので一分置きに少しずつ出力を上げていって欲しいとのことです』
『了解。こっちは問題ないって伝えて』
言われた通りに術に込める霊力を一分置きに最初の小雨程度から徐々に強めていく。
最小から最大を定めて十段階くらいまでを想定しながら一段階ずつ、確認をしながら術を強めていくと————
『中止して下さい! 直ちに中止して下さい!』
命ちゃんのものではない声が唐突に聞こえてきた。丁度八段階目に入った辺りでの呼びかけだ。
言われた通りに術を止めたけど、声の低さからして龍健さんの部下の声だったのだろう。
『えっと、聞こえたかもしれませんが中止だそうです。清花様、術を止めて下さい』
『もう止めたよ。咲夜と命ちゃんの術も解除して向こうに意識を戻した方がいいかな?』
『少しお待ち下さい。…………どうやらお話があるみたいなので一度戻るよう指示がありました』
『大方清花の霊力に耐えられなかったといったところかしら。何にしてもまずは話を聞かないと分からないわね』
考えられる要因があるとしたらそんなところだろうかと考えながら目を瞑っていると意識が自身の身体に戻っていく。
目を開けると視界は元のものになり、目の前にいる咲夜と命ちゃんが目に入る。けれど、その端では複数の人が慌ただしく動いているのが見えた。僕達の意識がこちらに戻って来たのを知ったらしい龍健さんがこちらにやって来ている。
「龍健さん。お疲れ様です。何かありましたか?」
「申し御座いません。清花さんの霊力が思ったよりも強く、計器で測れる限界を超えてしまったようです」
「そうなんですか。えっと、使用した計器は……」
もっと良い物があるならと言葉にするのは簡単だ。しかし今回使用したものが前園家の中でも最高の物だったとしたらと考えて言葉を途絶えさせてしまった。その言葉を引き継ぐように龍健さんは苦虫を潰した顔をして答える。
「お察しの通り、計器は最上級のものを使用しましたが役目を果たすことが出来ませんでした。これ以上は計器で測りきれないのでそれまでの結果を基に霊具を作る他ありません。上限を想像で設定すると却って危険ですので」
きっとここにいる道具は彼に用意出来る最高のものだったはずだ。だからこそこれほどまでに悔しそうなのだと思う。
「そこまで落ち込む必要はないのではないですか? 確かに全力ではありませんでしたが、そもそも何回も全力を出していては霊力が持ちませんし。実戦では先程の限界値よりも威力を落とすことになるかもしれませんから」
「えぇ、私としてもそこには理解しております。今回の清花さん達の行いの真なる価値は清花さん自身がその場から動く事なく全国の各地域を支援出来ること。ですので必ずしも一箇所に全力を傾ける必要がないことは承知しております。しかしその上で、もしも清花さんが一ヶ所に全力を注ぎ込む必要があった場合にそのお力になれないことが悔しいのです」
作る予定の霊具が役に立つ時というのはそう多くはない。恐らくは酷く状況は限定されるだろう。
例えば、先の妖怪たちの大規模侵攻の時のように退魔師の数が足りない、又は力不足で支援が必要だという時にこそ真価を発揮することになる。もしも妖怪が一体のみが出現したとしても、僕が直接駆けつけるのが間に合わなくても浄罪だけでも届けることが出来るのであれば救われる命があるかもしれない。その時に全力で力を振るえた方が有難いのは事実だ。
けれど、ないものねだりはしても意味はない。
「そうなると、もしもその時があれば命ちゃんにお願いをするしかありませんね」
彼女を見れば任せて下さいとばかりに握り拳を持って応えてくれた。
先ほどと同じ出力まで出した時には平気そうだったし、彼女にはかなりの余裕があった。
龍健さんたち前園家の意地や誇りを蔑ろにする訳ではない。ただ、今は霊具を作ることだけじゃない到達すべき目標がある。
「いま必要なのは霊具を作ることによって命ちゃんが狙われる確率を可能な限り少なくすることです。いつまでもここに匿える訳ではありませんし、四六時中ずっと護衛を付けておくことも出来ません。なので、現状作れる範囲で最高の物を龍健さんにはお願いしたいと思っています」
「勿論です。名誉挽回の機会はまたの機会にして、まずはご要望に添えるだけの品をご提供したく思います」
「全力で力を振るえる霊具は僕してもあった方が嬉しいので、もし何か協力出来ることがあったら言って下さい」
「分かりました。その時はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
これで凡その方針は決まったと見てもいいか。異常が発生する前の七か八段目までの力を最高値として霊具を作ることになりそうだ。
つまりこれから作る霊具でそれ以上の出力を出してしまうと壊れてしまうかもしれないということ。つい感情的になってやってしまわないようにしなければならないだろう。
「それでは機器の方に異常がないか確かめるので、終わり次第先ほどと同じようにもう一度術を使って下さい。数値にブレがないかを確かめますので何度か同じ作業を繰り返して頂くことになりますが大丈夫ですか?」
「分かりました。霊力量も問題ないので大丈夫です」
「……通常であれば今の一回で霊力切れを起こしても不思議ではない量だったのですが。平気なのであれば続けましょう」
龍健さんと同様に部下の人たちも頭を捻りつつ作業をしていた。
咲夜と命ちゃんも特に問題もないようなので引き続き同じように術を繰り返し使う。
合計で五回こなしたところで龍健さんから計測完了との指示が出た。
ただ、何というか周りの人の僕を見る視線がどこかおかしい気がするのは気のせいではない。
「こちらからお願いしたことなのですが、清花さん……霊力の方は大丈夫なんですか?」
「はい。合間に少し休憩を貰いましたし、残りの霊力はあと四割といったくらいでしょうか。少し心許ないかもしれませんね」
「心許ない……? あの量を五回使用したはずでは? 計算が合わないような……」
「合間合間に回復していますので」
「そ、そうですか。分かりました……」
普通、あの術を全力で使用したら残りは空か少量しかないはずで。
だというのに残りが四割では計算が合っていないと思っても不思議ではないか。
恐らく前園家の部下の人たちも困惑したような顔をしているのもそれが理由だろう。
「清花さんが規格外だというのは理解していたつもりですが……いえ、それくらいでなくてはあそこまで注目されるはずがないということでしょう。……改めて規格外の意味を知った気がします」
彼は僕へ語りかけるというよりも自身へ言い聞かせるように呟いた。
ともあれ、諸々の計測は終わったということでこれでようやく霊具製作に取り掛かることが出来る。
「話を戻しましょう。我々の方でもあの術に耐え得る器を検討したのですが、やはり一番の課題は清花さんの力の圧力に耐えられる物でなくてはなりません。でなければ繰り返し使うどころか一回の使用でも危ういことになります」
「それは……なんと言うかすみません」
「いえ、我々としても貴重な機会を頂けて嬉しいくらいです。なので我々の方がお礼を言う側でしょう。それで器の方ですが、やはり清花さんの力に耐え得る物となると選択肢は限られていましてですね」
「話では一方に性能を振ってしまうと他の性能が落ちてしまうとのことでしたが……」
「その通りではあります。ですが今回に限って言えば、他のお二人の力に関して言えばそこまで性能を求める必要はないのです」
それはこれまで二人までの手順で何も問題が起きていないことからも当然の話ではある。
だから問題が発生するとすれば、僕が雨を降らせる時に使用する霊力量だけなのだろう。
「清花さんの術はあまりにも使用霊力が多過ぎると言いますか、一般術師が大規模術式を扱う霊力の三から四か五倍は軽く使用しておりますので想定される最大圧力を優に超えてしまっているのです。最低条件としてこれを何とかしなければ器選び処の話ではありません」
元々浄化の力は使用霊力が多いことで知られているし、その上で浄罪は更なる霊力量を要求するので扱う霊力量が多いのは仕方がないことだ。僕の使う浄罪はそこに更に雨の密度を増すよう改良しているので使用霊力量も従来のものよりも多くなっている。
それでも結界を使用しない分は必要霊力量は下がっているはずだけれど。霊具作りとは何とも難しいものだ。
「過去に僕と同じ位の霊力を使用した術式を刻んだことはなかったんですか?」
「ありませんね。私だけでなく、過去のどの時代を遡ってもいないでしょう。全くもって大した術だと思います。貴方の術を刻むと聞いた時に類似する前例について調べましたが、その時の記録を大幅に超えていたので驚きました」
それは何というか、非常に申し訳ない気持ちになった。
「そうなると僕達の術に合う器があるんでしょうか」
「ご安心下さい」
僕の心配をあっさりと切り捨てた龍健さんはスッと近づいて来た使用人からここに来た時に台車に乗せていた印象の残る箱を受け取った。
それを机の上に乗せ、徐ろに開いて見せる。
丁寧に緩衝材で敷き詰められた箱の中には両手でようやく乗る程度の大きさの賽子のような正六面体の物体が入っていた。
「これが現状で前園家が出せる中で最高品質の霊具の器になります」
手に取らなくてもそれが質の良い器だと感じる。前に景文さんが持ってきた物とは明らかに物が違っていた。
八つの角にはそれぞれ螺子が差し込まれ、箱自体をまるで押さえつけているようにすら見える。
異質、というのがこれを見た率直な感想だ。形状や材質から少なくとも近年に作られた代物だというのは察せられる。
「これが前園家で作られた物ですか?」
「はい。我が家の持てる知識の粋を尽くして作られた物です。これならご要望に合った代物に作り上げることが可能かと」
僕がどう答えようか思考していると、彼は箱の中の器を直接手に取る。
そして何かを唱える。すると箱を留めていた螺子がひとりでに外れていき、内部の箱が空中で静止する。次いで箱自体を形成していた鉄板が一斉に外れていく。縦に割れ、横に分れ、最早原型を留めないくらいに細かく分解されていった。
その最深部にあったのは黒い何か。何か複雑な術で作られたということしか分からないくらいよく分からないものだった。
「この器が厳重に保管されているのは壊れ易いからではありません。寧ろ頑強さで言えばどんな霊具よりもあるでしょう」
僕達の頭に浮かんだ疑問に対して彼は少し苦笑いながら答える。
「それでもこうしているのはこの器が少々……いえ、かなり特異であるからでして」
「特異、ですか?」
「この器は術を選ぶのです」
その言葉を聞いて思わず咲夜たちの方を見た。二人とも首を捻っているのでどうやら僕の理解不足という訳ではなさそうで一安心。
龍健さんも僕らの反応は予想内だったのか、少し苦笑気味ではある。
「この器は一応完成形なのですが、ある意味で重度の欠陥があったのです」
欠陥と聞いて咲夜は嫌そうな顔を隠そうとしないものの、何か理由があって勧めて来ているのだろうと黙って続きを促した。龍健さんも無言で頷いてそのまま続けて語りだす。
「本来、この器に求められたのは一つの術式を閉じ込めるのではなく複数の術式を一度に入れる。或いは後から封入していくつもりで制作しました。……が、そこに至るまでにあまりにも複雑かつ多くの術式を付与してしまったせいで、術を取り出す所か箱の術式の圧力によって内部で保存するはずの術式が掻き消えて無くなってしまうのです」
それはとんでもない欠陥だと言わざるを得ない。
「つまり僕達の術式なら掻き消されてしまう心配はない、という訳ですね」
「はい。保存出来る霊力容量の六から七割以上を一つの術式が超えている場合、確実に保存出来ると実証確認済みです」
僕の術がどれだけ容量を埋めるのかは分からないけれど、龍健さんの見立てでは超えているということか。
「ちなみに過去に術式を刻むのに成功したのは今の所、五家の当主かそれに準ずる力の持ち主だけです」
「とんだじゃじゃ馬霊具じゃないの。よくこんな物を作ったわね」
咲夜の鋭い指摘に龍健さんが苦笑いをする。
「元々複数の術式を入れる予定でしたので容量も強度も確かなものにする予定でしたから。その意見も仕方ありません。ちなみに複数の術式を入れることにのみに特化していたのは初期型でして、今ご覧になっているのはそこから一つの術式を入れる為に改良した型の方です。こちらも性能に関しては五家の方々からもお墨付きを貰っております」
「証拠は…………流石に用意がいいわね」
部下の人が咲夜に書類を数枚差し出す。それぞれに署名だったり捺印があったりするけれど、それが本物であるかどうかは僕には判別出来ない。
しかし咲夜の方はしっかり判定出来たようで、頷いてそれを返した。
「結構よ。じゃあそれで初めて頂戴。代金はいくらかしら? とりあえずはタダというのはなしにしてくれると嬉しいわ」
「おや、これは先に打たれてしまいましたか」
「タダより高いものはないもの。それで?」
「具体的な金額を提示したいところなのですが、これに関しては正直値が付けられないのですよ。我々としてはここ一つ、清花さんにこの霊具を使用する際に宣伝をして頂き、その場で前園の名を出して頂ければそれだけで代金はなしで良いと思っているのですがどうでしょうか」
即答で断ると思っていた咲夜は悩んでいる様子だった。
恐らくは彼の言葉の裏を探っているのだろう。そして龍健さんもそれを理解しているから笑みを崩したりはしていない。
たっぷりと思考時間を使った後に咲夜は口を開く。
「それについてはまたまたの機会に決めましょう。流石にこの場で即答はしかねるわ。金額の決まっていない物を持ってきたのはそちらなのだからそれくらいは許してくれるでしょう?」
「えぇ、勿論構いませんとも。一つ補足情報としてですが、この提案はそちらにとっても益のある話なのは間違いありません。そこは確実に保証致しますよ。詳しい話がお望みであればまた後ほどお時間を頂ければ解説させて貰います」
「ふぅん? 覚えてはおくけれど、支払いの方法を変えようとしているのはそちらなのは覚えておいて頂戴ね」
「一考して下さるだけでもこちらとしては有り難い限りです。今後ともより良い関係を築いていければと思っておりますよ」
「良い関係、ね。先にその関係を崩したのがどちらかは今は言わないでおいてあげる。えぇ、お互いに良い関係を築けるよう頑張りましょう」
二人はにこやかに接してはいるものの、ある意味では相対しているというか。真の意味で仲良くはなりそうにない二人だったけれどそこは大人な二人、そんな様子はお首にも出さず一見仲良さそうに手を取り合っていた。
「清花様……」
その様子を見て少し涙目になって僕にしがみつく命ちゃん。
「あれは当主として頑張るなら避けられない道だと思うよ。勉強だと思って、ね?」
「うぅ。当主のこと、少し早まったかも……」
こんなやり取りをするのが普通なのかどうかは僕に経験がなさ過ぎて分からないけど、いざっていう時にある程度は対応が出来ないと搾取をされてしまうというのは理解出来るから優しい言葉をかけてあげることは出来ない。
そんな訳で術式に合った器決めも終わり、後を残すはいよいよ術式を刻むのみとなった。
特殊な器は規模の小さい術式は記憶してもすぐに消し去ってしまう。なので一連の流れを一つの術式と見立てて器に刻み込み、器の内部を僕の霊力で満たすことで術式の消滅を防ぐ。
作り方を予習したところでもう一度三人で術式を構築していき、それを龍健さんたちが器に刻み込んでいく。
使い捨てとして作るのとはやはり勝手が違うらしくあちこちで指示が飛び交う中、完了の合図が聞こえるまで術式を維持し続けるのは大変ではあったものの、遂に完成したようだ。
「もういいですよ。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。霊具の方はどうですか?」
「無事に術式付与は完了しました。一度試運転をしてみますか? 不具合があればこちらでも検知出来るようにしておきますので」
「お願いします。僕と咲夜で起動すればいいんですかね?」
一連の流れがそのまま入っているというのなら咲夜の部分の作業もなのかどうか、当初の目的では命ちゃんの術式のみが入ればいいという話だったはず。特殊な器だけあってしっかりとその辺りも聞いておかないと。
「私のは術式というより異能に近いから一連の流れに組み込まれはしていても術式として刻まれていないんじゃないかしら?」
「その通りです。起動時には天王寺家の術式のみが稼働するようになっておりますので霊具を扱う際は咲夜さんも必要となります。というのも、本人が仰っている通りに異能の力は未だ解明出来ていない部分が多く、もしも霊具として刻むのであればまずは解析の時間が必要となるでしょう。……あぁいえ、まずは更なる性能の拡充をしなければ新たに術式を刻むことすら出来ないのですがね」
頭の痛い話なのか、龍健さんは疲れたように頭を横に振る。
「その辺はまた今度にしましょう。いずれ機会があれば解析をお願いするわ」
「分かりました。その時までに機材の準備をしておきましょう。……さて、これにて作業は終わりです。ご使用の際は霊具の方にお二人で手を掲げてみて下さい。直接触れずともそれで起動及び使用が可能です」
「へぇ、それは便利ね。どれくらい離れていても平気なの?」
「霊力を放出して自身と線を結ぶようにすれば最大三メートルほどまでは支障なく使えるはずですよ。一メートル圏内であれば意識せずとも霊具と繋がるはずかと」
刻み込む時は外された鉄の部品も再度取り付けられている。
霊具は僕たちの霊力を記憶しているのか、少し手を近づけただけで霊力的な何かで繋がったような感覚がする。
「霊具の命名は後ほどにするとして。その霊具はお二方のどちらが"起動"と口にすれば起動するようになっています。最初は術式を刻む時のように段階を踏んで起動していって下さい。慣れれば同時に術を起動をしても大丈夫になるかと思います」
「起動。……あら、思ったより簡単ね」
聞いてからすぐに咲夜が口にしたことで霊具が込められていた霊力を用いて活動状態に入ったのが分かった。そのまま僕たちの感覚が天王寺家の術式で繋がっていく。
命ちゃんが担っていた部分をそのまま霊具が代替することとなった訳だけど、どうやら問題はなさそうだ。きちんと咲夜と繋がっている感覚がある。
「第一段階の起動を確認。続きをお願いします」
こちらを機器で観察していた部下の人が報告をしてくれる。
「了解。視界の共有を開始するわ」
咲夜に倣って目を閉じると視界が暗転の直後に再度見えるようになる。
向かい側にいる彼女の視点からは僕が目を閉じている姿が目に映り、脳内に響く「移動するわよ」という掛け声と共にそれは上へと昇っていった。
「こちらは問題なし。解析の方はどうかしら?」
「今のところ問題はありません。清花様の準備が出来次第いつでも始めて下さって大丈夫です」
「分かったわ。清花、そっちは大丈夫? 気分が悪いとか、あの子と一緒にやった時と何か違いはあったりする?」
言われて自らの状態を再認識してみてもおかしいところはあまりない。あるとすれば少しの窮屈さだろうか。
「ううん。何ともないよ。ただ命ちゃんの時よりも何か制限があるというか、全力を出せない感じはあるね。出力の上限が決まっているというか」
「それが最初に設定した貴方の力の七割が最大出力ということね。出そうとしても出せない方が霊具を壊さないで済むから良かったと言うべきかしら。他に問題はない?」
「うん。他には特にないよ」
「結構。それじゃあさっきと同じように術を使ってみて。さっきと同じように段階に分けて、最後に出せる範囲での全力でお願い」
「了解。一分毎に出力を上げていくね」
浄罪を発動し、今まで通りに特定の場所にのみ雨を降り注がせる。発動をしている感じでは特に違和感もなく、すんなりと進んでいく。
命ちゃんとやった回数も合わせれば結構な回数をこなしているのでこの作業にはもう慣れたもの。
上限までの霊力量で術を行使した後に終了の合図とともに意識を戻す。命ちゃんがいた場合は彼女が術を打ち切ってそこで終了だったけれど、霊具を介して繋がっている今は自分でその機会を選べるといった感じだ。
「実験は大成功だね。命ちゃん、本当にありがとう。お陰で出来ることがぐんと増えたし、これを使えばもっと色々な人の役に立てると思う。何かの機会があればこのお礼をさせて欲しいな」
「そんな、私は清花様のお力になれただけで……」
「そう言わずにさ。霊具を作って貰ったらはい終わりっていうのも寂しいし」
「わ、私のことをそんなにも……! 分かりました。そこまで言うのでしたら私も覚悟を決めます!」
「何の覚悟? ……まぁ、いいか。後で連絡先を交換しようね」
鼻息を荒くする命ちゃんはさておき。
「龍健さんと皆さんも今回はありがとうございました」
内容こそ難しくて理解出来なかったものの、だからこそそれくらいの専門性を持って今回の事に臨んで貰った訳だから頭を下げてのお礼は当然だ。しかし彼は前もってお辞儀をするのを止めてきた。
「祖父の件もありますし、こちらとしてはお礼を受け取れる立場には御座いません。感謝の言葉は必要ありませんよ」
「へぇ、それなら報酬もいらないということでいいのかしら?」
「私としてはそうしたいのは山々なのですが、貸したような形になるのはお嫌でしょう?」
「是非とも貰って下さいというのなら特別に貰ってあげなくもないけれど?」
咲夜と龍健さんはお互いに笑いながら牽制し合っている。
周囲はそんな様子にオロオロとしていて、確かに一見険悪にも見えるけど二人の間に邪気は一切ないのは分かるので放っておくことにしよう。どうやら二人の間ではこういうやり取りが自然体なのかもしれない。
二人のことは置いておき、部下の人たちに聞いてみることにしよう。
「霊具のこと関してはこれで終わりですか?」
「えっ? あ、はい。計測出来る範囲で数値に異常はなく、問題なく使用可能だと思います。もしお時間が宜しければ台座の目録もありますがご覧になられますか?」
部下の人が鞄から取り出して渡してくれたのは霊具を納める台の一覧だった。
確かにあの霊具は持ち運ぶには少々大きくて重たいので普段から置いておく場所が必要だろう。
見栄えを重視するなら台座も欲しいかもしれないと思った。
「ありがとうございます。色々な台座も取り扱っているんですね」
「制作は傘下の別企業にはなりますが品質は保証いたします。良ければあの霊具に合いそうな物をご提示出来ますが如何ですか?」
「いいんですか? 是非お願いします。そうだ、命ちゃんも一緒に見ない? 美術品としても良さそうなのがいっぱいあるよ」
「はい! 行きます行きまーす!」
聞いている人たちを震え上がらせている話をしている二人は置いておき、命ちゃんと借りた冊子を見ていった。




