三話-2 ある意味人脈
「霊具については画期的ではあるものの、考えなければいけないことは多いわ。だからそれでも食べて落ち着きなさい」
置いてあったお菓子は命ちゃんがいるからか多種多様だったので、僕もお気に入りの物を食べて気分を落ち着かせる。
命ちゃんも好きなお菓子を見つけて美味しそうに頬張っていた。
「……確かに遠隔地に対して雨を降らせることは出来るようになったけど、色々と考えることは多いね」
「あれだけの霊力を持つ清花様でしたら日に何度も使用は可能でしょうけど、どうしてこの方法を試そうとしたのか聞いても宜しいでしょうか? 清花様だったら別にこんな風に遠距離で術を使わなくても直接戦えるはずですよね?」
命ちゃんの疑問は訳を知らない人からしたら最もなものだ。僕だって文奈さんやご老公たちの言葉や行動がなければこういう方法を考えることはなかっただろう。そのことを伝えるべきかどうか、咲夜に視線で確認をする。彼女は頷いて僕の代わりに話し始めた。
「天王寺さんも知っているか分からないけれど、ここ最近の妖怪退治における現場ではおかしなことが起こっているらしいの。専門家たちの予想では近い内に以前に起きた突発的に大規模な妖怪たちの侵略が予想されていて、どうやら占い師たちのような未来を知る人たちは清花にそれを解決してもらいたいみたいなのよね」
「それがこの方法……という訳なんですね。納得しかないです」
「この方法で遠くの敵に雨を降り注げるようになれば、前回のように強力な妖怪が各地に同時に現れたとしても人的被害をかなり低下させることが出来るかもしれないのよ」
「私がそんな大事に関わっていたんですね……っ! い、今更ながらに実感して手が震えています!」
これは命ちゃんがいなければ実現出来なかったことだ。自分がその計画の一部だったことに驚き、その計画の意味に気付いて体を震わせていた。
「ただ次回はもっと強力な妖怪が来るかもしれないし、あるいはもっと広範囲で出現するかもしれないわ。そうなった場合を考えて出来るだけ早く、清花が心置きなく雨を行使できる環境が必要でしょうね」
「が、頑張ります! 幸いと言っていいのか分かりませんが、兄があの状態なので新規での仕事の予約は一旦取り止めにしていて私個人の自由時間は多いんですよ! だから練習ならいくらでもお手伝い出来ます! いえ、させて下さい! 私に出来ることがあるのならするべきだと思うんです!」
「心意気は結構なことだけど、こうなってしまっては貴方の価値は昨日までと違うのは理解している?」
「価値……ですか? 自惚れではなく天王寺家の力の価値は理解しているつもりですが」
「そこに清花と協力したら日本全国の妖怪を一方的に退治出来るようになるかもしれないという価値はあるかしら?」
「あっ」
指摘されたことに思い至ったみたいだ。
その思考に咲夜が情報を付け足していく。
「今までは天王寺家の術式を欲しがっていたのは一部の人のみに留まっていたかもしれないけれど、今はそこに大多数の国民と退魔師たちの命まで乗っかってしまっているのが天王寺命という存在よ。正直に言えば、今日貴方をこのまま一人で帰らせたら誘拐や襲撃でも起きるではないかとすら私は考えているの」
「誘拐って、咲夜……」
「今回のことを企てたのが弓削家ならばこの結果は言わば必然だったのでしょう。だったら同じようにこの未来を知ったかもしれない悪い存在がこの子を狙う可能性は低くはないはずよ」
「でも、事前に知っていたならもっと早くから行動をしていたんじゃないの?」
「この子の家族がどんなに遭ったのかもう忘れたの?」
命ちゃんと目が合う。お兄さんの件は一応の解決をしたとはいえ、まだ全てが終わった訳ではないのかもしれないと。
犯人が死んでしまっている以上は詳しい動機などは知らないままだというのだから余計に心配になる。
「本当に今の状況まで全て読んでいたのならもっと命を狙われていてもおかしくはないはずだから、もしかしたらそういうのとは関係のないただの単独犯かもしれないわ。だとしても以前から今まで、そしてこれからも貴方の身の回りが危険なのは確かで、今日貴方がここに来るまでに何事もなかったのは周囲が人知れず貴方を守っていたからよ。気づいていたかしら?」
「そう、だったんですか……。私、そんなこと知りませんでした」
いくら僕の作った霊具を持っているからといって命ちゃんを一人でここまで来させる程彼女の周りは馬鹿ではない。陰ながら色々な人たちが護衛をしていたのは知っている。
危ないけど、もしかしたらこの機会に命ちゃんを狙う敵を炙り出そうとしていたのかもしれない。
不安がる命ちゃんに対して咲夜は真っ直ぐに話しかける。
「だから私から一つ提案をするわ」
「提案、ですか?」
「貴方の術式を霊具に刻み込んで、それを私たちに授けてはくれないかしら」
すぐに返事をしようとして、それを飲み込んだ。それは自分の家の価値を知る者として安易に頷けない言葉だったからだろう。この歳でも立派に天王寺家の一員なのだなと感じた。
その判断に咲夜は頷いて話を進める。
「私たちが貴方の直接の助けがない状態でも遠距離に雨を降らせるようになれば貴方を狙う必要はかなり減るはずよ。欲を言えば予備として複数個を作って貰えれば、私たちが理由で貴方自身に危害が加わる可能性は少なくなるはずよ」
汎用的に誰にでも使えるようなものならば符などに術を刻んで他者に貸与することはよくあることだ。
しかし一族特有のその血筋のみが使えるような特殊な力の場合は霊具に術を刻むことを拒む術師は一定数いるという。
何故ならその霊具が出回ることによって自分たちの優位性が損なわれるから。霊具によって誰にでも使われることになれば、それはつまるところ術者が要らなくなるということに繋がりかねないからだ。
だから命ちゃんが即答はないのは正しい。断ったとしてもそれは責めるべきことではない。
「即断出来ないことは分かっているわ。こちらとしては性能を視界共有に限定したりして天王寺家の害にはならないように気をつけるつもりだし、他の懸念事項があればその都度修正していくつもりよ。だから……」
断られることも覚悟した咲夜のお願いだけれど、命ちゃんの判断は早かった。
「いえ、やります」
「今決めなくてもいいのよ。一度持ち帰ってご家族と相談してからにしなさい」
「私は恩返しの為に、清花様と咲夜様の助けになるならとここに来ました。それに決して安売りをしているつもりはありません。先ほどの話を受け、そのお力の一助となれることは天王寺家にとっても名誉なことです。その為ならば霊具くらい、いくら作っても何も問題はありません」
そこまで一気に言い終えてから、命ちゃんは一度吐いて落ち着いて続きを話し始める。
「咲夜様は仰らなかったですが、占い師によって今が占われてここに来た時点で私が狙われることは決定していたのですよね? ですから作ります。私がいなくてもお二人だけでも術が発動が出来る為の霊具を!」
そう言って立ち上がってすぐさま駆け出そうとした命ちゃんの手を掴み、咲夜は額を軽く突いた。
「考えなしに動くのは止しなさい。貴方が狙われている可能性について言及したのをもう忘れたの?」
「あぅ、ごめんなさい……」
「元気があるのは結構だけど、霊具について詳しい人物に製法を聞いてみるからここで大人しくしていなさい」
「あっ、霊具について詳しい人なら心当たりがあるかも」
咲夜といえどそう簡単に霊具を制作してくれる人は見つからないだろう。
命ちゃんの代わりとなる以上は使い捨てにする訳にはいかないし、そうなるとしっかりとした専門家が必要だから。
「心当たり? 貴方の知り合いにそんな人がいたかしら」
「前園家のご老公だよ。戦ったから分かるんだけど、あの人の使う霊具って最新の武器を霊具として改造したものだったんだ。つまり昔から霊具としてあった訳じゃなくて新しく作ったってことになるよね。もし前園老が自分で作っていなかったとしても作った人を紹介して貰えばいいんじゃないかな」
「戦った? えっ? あの伝説の人と……?」
「確かにあの家なら自前で作るか、外注するにしても腕のある工房の伝手があるでしょうけど……。いいの?」
「これで貸し一つ返すってことでいいよ。それに前園家がこの事を知っているなら今頃その準備をしているところだろうし。というか、今この瞬間でも連絡が来るかもしれないって受話器を握りしめて待っているかもよ」
「まぁ、貴方が構わないというのならそれでいいわ。少し外すから適当に雑談でもしていて頂戴」
そう言って咲夜は端末を取り出して連絡を取り始めた。
交渉事もあるだろうからすぐに承諾とはいかないだろうし、その間に話しておくべきことを話すとしよう。
結界の霊具のように使い捨てでないのなら制作完了するまでに少なくとも数日は掛かると見るべきだ。
「霊具の為とはいえ毎日行き帰りをすると危ないかもしれないから、もしかすると安全の為に霊具が出来るまでここに泊まってもらうかもしれないんだけど、命ちゃんは大丈夫? 家に帰りたいなら家まできちんと送るし、安全対策に霊具は渡したままにするからどっちを選んでも気にしないでいいからね」
「それなら……その、泊まっていってもいいですか? 私、こういう風に外泊をする経験ってあまりなくて」
「力のある退魔師の家ってそういうものらしいからね。余程のことじゃないと地元を離れたりしないし。分かった。親御さんに連絡して理勝負くを得られたら空いている部屋を見に行こうか。ちょっと人手が足りなくて自分で色々と用意しなきゃいけないんだけど」
「て、手伝います! あっ、あとお願いがあるのですが……っ!」
「うん? 何かな?」
「出来ればでいいんですけど、清花様と一緒に寝たいな……なんて……へへへっ」
言っちゃったと恥ずかしそうに照れている命ちゃんは可愛いけれど、これについては何と答えるべきか迷う。
彼女の術で繋がったとしても僕の正体は分かっていないみたいなので女性として見られていることは確実。だから女の子同士の所謂お泊まり会(同級生にやろうと言われたことがある)をやろという提案に違いない。
それに命ちゃんからは自分の命が狙われているかもしれないという恐怖心が僅かに見えた。
実力面で考えれば僕の側にいる方が安全なのは間違いないのだから、不安を煽ってしまった側としてはその後のことはきちんとしてあげたいところではある。
「一緒に寝るくらいならいいんじゃない? 別におかしな理由がある訳でもないのだし」
悩んでいると電話対応中の咲夜が口を挟んできた。
彼女が言うのなら断る理由もないか。
「分かった。じゃあ僕の所で一緒に寝ようか。それなら少し用意するだけで済むしね」
「やったー! ありがとうございます! 早速かっちゃんに自慢しよっ!」
何で自慢をするのか分からないけど、嬉々として端末で家族にここに一泊することを伝えていた。
電話を代わって貰って僕からも事の顛末を伝えたら低姿勢でお願いしますと頼まれてしまったので必ず無事にお返ししますと伝え、その後に命ちゃんは宣言通りに武原さんに自慢したらしく、即座に返ってきた文章を僕に見せつけてきた。
その内容はやや乱暴的な言葉遣いが多用されていて、それが日常的に二人の間で用いられていることは容易に想像出来る。
「ププっ、かっちゃんってば清花様が近くにいるって想像出来てないの想像力が貧困過ぎ!」
「二人は仲が良いんだね」
「かっちゃんは元婚約者だったからね〜。家族ぐるみの仲だったし、そりゃ仲も良くなるよ」
「へぇ、婚約者だったんだ。……婚約者!?」
「私が小さい時の親同士のこうなったらいいな程度の話だけどね〜。お兄ちゃんのことで私が当主候補に繰り上がったからその話も白紙になったんだ。お兄ちゃんが目覚めてその話が復活するかもってなったけど、私もかっちゃんも次期当主になったから結局無くなっちゃってさー」
当時のことを思い出していたのだろう。少しやさぐれたような態度の彼女が本当の命ちゃんなんだろうと感じた。
すぐに僕のをことを思い出した命ちゃんはわたわたと忙しなく手足を動かして何かを誤魔化そうとしている。
「……ハッ⁉︎ す、すみません! 私まで言葉遣いが……!」
「気にしなくていいよ。言葉遣いも前に会った時みたいな感じでも構わないから。僕はそういうのはあまり気にしないし」
「で、でも……今日は次期当主としてここに来ていて……」
「確かにそっか。……だったら霊具についての予定が決まったらそこで当主としての仕事は終わりってことにして、それからはお互いに敬語のいらない個人同士として接することにしようか」
「分かりました! それでお願いします! ぜひ!」
期限を決めることでようやく踏ん切りがついたのか、歳相応の笑顔を見せる。
何だか少しおかしな気配も混じっているような気もするけど、まぁ気のせいだろう。
武原さんとのあれこれを聞いたりしているとひと段落したのか咲夜が端末を閉じる音がした。
「────色々と話しが進んでいるようだけど、こっちもたった今終わったところよ」
「待ってたよ。どうだった?」
「まず術に使う霊力量を計測してみないと何をしていいかも分からないみたいね。それと前園鷹一は接見禁止で無理。代わりの当主は今は忙しくて無理だという理由で孫の前園龍健を寄越すと言っているわ」
「前園龍健。あ、あの人ですか……」
「命ちゃん、会ったことがあるの?」
「は、はい。あの人、正直に言えば私はあまり好きではないです」
清光としての僕や咲夜に対しての態度があれだったので擁護が出来ない。清花として接する分には物腰も丁寧で接しやすい人なんだけども。ともあれ、命ちゃんが萎縮してしまうかもしれない環境では良い霊具を作れるはずもないか。
「龍健さんと会う時は僕も一緒にいるようにするよ。僕がいれば彼もそうおかしな態度はしないと思う。それでもダメかな? 彼とは二人きりにはならなくていいし、嫌だと思ったら僕を頼ってくれていいから少し考えてみて欲しいな。それでもやっぱり無理だったら別の家を当たろう。霊具を作るのを生業にしている所は他にもあるしね」
「清花様……。お気遣いありがとうございます」
少し顔を赤らめた命ちゃんが僕の手をそっと握って感謝の言葉を述べる。
やはり何かおかしい、と考えていると。
「別の家にするのもいいけど、退魔師の家って大抵は曲者ばかりよ。偏見だけど職人気質の人たちは特にそういう人が多いから変えたところで同じ結果になる可能性もあるわよ。一応、別の候補がいない訳じゃないけれど」
「咲夜はこの辺りの地域で他に候補はあるの?」
「前園と並ぶ家となると飛行機で跨ぐくらいの距離になるわね。何でそんなに少ないのかと言うと、一つは天王寺家の術式を扱うから。二つ目は清花の霊力に耐えられる霊具を作るとなると候補が更に狭まるからよ」
「特に議論するでもなく前園家に連絡したのはそういうことだったんだね」
つまり僕が推薦するでもなく咲夜の中では前園家も候補だったという訳か。
「だから家を変えるというより人選を変えてもらうのが良いと思うのだけど、私としては前園龍健が一番マシだと思うわよ。歳が一番近いから他の人よりかは高圧的ではないはずだし。あの前園鷹一が推すのだから仕事をこなす程度の実力はあるのでしょう。それに何より、あそこは男性の多い一家だから清花と初めましてだと何かと面倒がありそうで嫌なのよね。一夫多妻制を推している所だし平気な顔して清花に粉掛けて来そうなのが目に見えるわ」
「それは確かに嫌ですね。清花様が側にいてくれるのであれば大抵のことは我慢出来そうですのであの人でお願いします」
そう力説する命ちゃんに少々面食らいながらも咲夜は笑って頷いた。
「それは良かったわ。既にその方向で話を進めていたから変更しなくて済んで」
咲夜は話が終わったと判断して再び端末に向かい出してしまった。新たに会話を始めるというよりは、中断していたものを再開したように僕には見えた。
つまり、僕達がどうこう言おうと最初から選択肢などなかったのだと暗に言ったことに気づいた命ちゃんがガックリと肩を下ろす。
「まぁまぁ、自分から選んだのは他人に決められるのとじゃ覚悟の持ち様も違うものだし。ね?」
「はいぃ。でも知らず知らずの内に言いくるめられてしまいました。うぅ……私、これで当主としていけるのでしょうか?」
「そういうのは場数がモノを言うものだし、これも経験だと思うしかないんじゃないかな。ご両親がまだご健在なんだし、少しずつ学んでいけばいいよ」
「はい。代理でも今の私が務めるのはまだ荷が重いというのを痛感しました。親の偉大さを知った気分です」
そう落ち込んでいた命ちゃんだけど、手を叩きながら唐突に顔を上げた。
「そうだ! 当主代理として聞かなければいけないことがあったんでした!」
「うん? 今までの話の流れとはまた違うものなのかな?」
「そうですね。清花様はまだ特定の相手を決めておられないという話ですが、それなら私の兄は如何かと思いまして」
「あぁ、その話か……」
「兄は当主として育てられてきたので界隈に詳しいですし、厳しい教育を受けて来たので能力は確かです。性格面は少なくとも粗野で高圧的ではないと妹であるこの私が保証します。私が次期当主になるに当たり家督を継げなくなった兄はどこかの婿として出て行くことになることにかもしれないので、もしも清花様が結婚の申し込みに悩まれているのであれば結婚相手としてそこそこな物件だと思うんですが」
「本人がいないこの場で振るのは失礼に当たるかもしれないから直接的な言及は避けるよ。その上で言葉を返すけど、その提案は今の所は間に合っているかな。その提案を誰にどのようにされたところで同じように断らせて貰うと思う」
「えっ……それはどういう……ま、ままままさか⁉︎」
「どういう想像をしているかは分からないけど、僕に恋人はいないよ」
「つまりか、かた、かたかた片思いぃぃぃ⁉︎」
「一々訂正が面倒だな……。命ちゃん、それも違うからとりあえず落ち着いて」
全て赤裸々に話す訳にもいかないから言葉を濁して話している訳だけども、そのせいで命ちゃんの頭の中であらぬ想像が巻き起こっているようだ。想像力では冬香と肩を並べられそうではある。いや並べないで欲しいのだけども。
「す、すみません……。でもでもっ、清花様の結婚相手になるかもしれないお相手となるとこれはもう物凄い価値の情報ですよ? 特に今はモデルとしてご活躍されているので注目度も半端ないですし。あっ、一緒に写真撮って貰ってもいいですか? 学校の友達に自慢したいんです」
並びながら構えられた携帯端末の透鏡部分に手を振る構えをして枠内に収まる。
「モデルに関してはいずれ忘れられるだろうし、それで退魔師としての価値が上がったりはしないでしょ。写真映りどうかな?」
「若年の女性退魔師に関しては顔も査定に入るに決まってるじゃないですか。やっぱり男性としては可愛い女の子の方がいいみたいですからねぇ。よしっ、いい感じに良く撮れてるーっ‼︎ こっちに手を振ってる清花様ってば可愛いーっ‼︎」
「命ちゃんも可愛く撮れてるね。あと興奮し過ぎかな。これで口元をまず拭いて」
「はっ!? こ、こほんっ。ありがとうございます。清花様。このお写真、一生の宝物にしますね」
「そんな大袈裟にしなくていいのに。これくらいならいつでも撮って構わないんだから」
「いけません! やっぱり清花様はご自身の価値を理解しておられない!」
何故だろう。会う人会う人に自分の価値を突きつけられるのは気のせいだろうか。
今のも別に自分を軽んじての発言ではなく、命ちゃんなら知らぬ仲ではないからという意味での言葉だったのだけども。
僕が待ったを掛けようと声を出すも、それは耳に届いてはいないようで。
「清花と言えば退魔師界に突如現れた気高き高嶺の花! 悪意を寄せ付けないその絶対なる浄化の力で盗撮が出来ないのも相まって我々がネット上で目にすることが出来るのは清花様が気まぐれに載せる自撮り写真のみ! そんな絶望の状況の中、唐突に雑誌にて特集が組まれるほどの様々な清花様の御姿! 突然の供給過多にネット上が阿鼻叫喚としていたのを知らないのですか⁉︎」
「うん。知らない。というか、阿鼻叫喚ってこういう時に使う表現だったっけ?」
「呑気ッ⁉︎」
ネットを使う上で大門先輩に言われていることがある。それはネット上の言葉は決して鵜呑みにはしないことだ。
顔の見えない相手は、自分の顔が見られていないことをいいことに悪いことだって気軽に好き放題言える。ネットというのはそういう環境で、その環境を使う以上は自分も相手もその認識を持っていることが大切だと。
なので自分に向けられた質問には答えても問題なさそうだと思うもののみ回答をし、可愛いなどの簡単な感想には一律にありがとうとまとめて返すことにしている。その他意見だったり要望だったりはあまり意識に入れないようにしていた。
大門先輩はそれでいいと言うし、それで問題は今のところ起きていないので特に変えるつもりもない。
なのでネット上で何かがあったとしてもあまり強く気にする気にはなれなかった。ただそれだけの話だ。
「……清花様って、今の応援者がいくつか覚えていますか?」
少し声の音階を落とした命ちゃんの言葉に答える為に記憶を遡る。前回確認をしたのはいつのことだったか。
「確か五十万くらいだった、かな?」
「それはもう一月以上前の話ですよね。私が言っているのは雑誌が出てからです」
「確認してみていい?」
「どうぞどうぞ」
端末を取り出して見てみると、総応援者数が最後に見た五十万人から約二倍になる百万人前後に伸びていた。
はて、これは一体どういうことかと思っていると命ちゃんが端末を覗き込んできて。
「まず雑誌が清花様のお写真が掲載されていることを宣伝し、その後に清花様ご自身も宣伝されてましたよね。それから清花様が妖怪退治をした後に現地の方と一緒に動画を撮って宣伝をしたことの三つが様々な人たちによって拡散された結果です」
「そうなんだ。主な内容の妖怪とは全然関係ないことだけど、それでも応援してくれるのは有り難いことだね」
「の、呑気……! それに承認欲求が無さ過ぎる……っ⁉︎」
「承認欲求がないってことはないと思うけど。見てくれるのは嬉しいって思ってるよ?」
僕の回答が不服らしい命ちゃんは難しい顔をして頬を膨らませていた。
いつそれが膨張して破裂するのかと思っていると。
「話がまとまったからこれからの予定について伝わるわよ。それと天王寺さん、清花については口出し無用よ」
「しかし……」
「清花が自分の魅力を十全に理解をし、それを全力で世間に披露したらどうなるかを想像してみて頂戴」
「────ハッ!? な、なるほど。私が浅慮でした。愚かな考えをどうかお許し下さい」
「分かればいいのよ。私たちがやろうとしていることが広まったらそれどころの話ではなくなるのだしね」
「確かにその通りですね! 清花様最強列伝がまた一つ増えるんですね!」
またよく分からない単語が出てきた。
先程から命ちゃんが一切嘘を吐いていないというのが心にしこりのように残っていて。
もうちょっとネットの世界のことを気にした方がいいのかもしれないと、そう思った。




