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二話-5 変わらないこともある




 机が粉微塵になったことで一旦話し合いの場は休止することとなった。

 散らばる破片と粉塵を見て千郷はやってしまったという顔をしていたので、やはり会合の時の彼女は大分抑えめでいたらしい。僕としては今の千郷の方がらしいと感じているのだけど、どちらが千郷にとって良いのかはちょっと分からない。

 本来の彼女は超の付く程の直情型であり、その厄介さは家族でさえ手を焼いていた。これを制御する役割を僕は任されていたくらいなのだ。

 千郷の両親が彼女の結婚を諦めたと聞いた時、名雪さんたちは僕——清光が原因だと考えていたし、確かにそれは一因ではあるのだろうけど、原因の大部分は彼女を制御出来る人間があまりいないというところにある。


「税抜きで約二十万円ね。支払いは分割にする? それとも一括がいいかしら?」


「高っ⁉︎ ぼったくってないそれ⁉︎」


「こちらが当時の明細書になります」


「えっ、さっきの笑顔の胡散臭い人⁉︎ いつの間にっていうか嘘ぉっ⁉︎ 本当なのこれ⁉︎ 私の家でもこんなに高い家具は使ってないのに⁉︎」


 談話室の机は来客の為のものであり、僕に質素な生活を強いていないと理解してもらう為に家具などの来客の目につくところにあるものは少々値が張ったものになっている。なので咲夜が言っていた通りの値段になってしまうのは無理のないことだった。

 でもそれを疑ってしまうこともまた無理のないことで、証明の為の領収書を見た千郷の反応はある意味当然のものと言える。とはいえ、いくら感情に身を任せたとしても他所の家の家具を粉砕してしまうのはやり過ぎであり、壊された物が高額なこともあって弁償してもらう他ない。

 ちなみにああなったのは僕が原因なのだから僕が代わりに支払ってもいいのだけど、それは咲夜が許してくれなかった。

 僕に対して減額要求をする千郷に「だから常々感情的にはなるなって言ってたよね」と言った時の彼女の絶望の表情ったら。……まぁ、今はもう諦めてふんぞり返った顔をしているけども。


「それで、みっくんはいつになったら元に戻るの?」


「慣れてもらおうと思って。だから戻るつもりはないよ」


「みっくんがそのつもりで女の子になったんじゃないことは理解してるけどさ。女の子に混じって生活するのはどうなの?」


「そこに関しては申し訳ない気持ちはある。だから迷惑を掛けないように放っておいて欲しいんだけど、残念ながら周りが放っておいてくれないんだよね」


「そりゃそうでしょ。今や退魔師で清花の名を知らない奴はいないってくらいには有名なんだから」


 千郷は呆れ顔を隠さずに僕の胸を叩いた。そして叩いた手を眺めている。

 そして色々と、本当に色々なものを含んだような息をゆっくりと吐いていった。

 放っておけば死んでしまいそうな雰囲気だった千郷は、今は別のことで顔を歪ませていて。

 

「清花が……みっくんがそれだけ強くなったのは女の子として長く生活してきたからなんだよね。実際に私は清花とみっくんは別人だと思っていた訳だし、その努力は確かなものなんだろうなって思う。っていうか、流石にらしくなり過ぎじゃない? 私なんか親から清花みたいにお淑やかになれって言われたんだけど? その時は言われても仕方ないなって思ってたけど……」


 今の千郷の顔は苦いような、酸っぱいような、何か凄く不味い物を食べたような筆舌に尽くし難い顔をしていた。

 年頃の女の子のする顔ではないけども、その顔をさせている当人である僕がどうこう言える立場ではないので黙る他ない。元々の僕のことを知っていれば知っている程に受け入れるのは難しいのだろうと思うから。

 僕だって千郷がこれからは男として生きるとか言い出したとしてもすんなりと受け入れられる自信はない。

 だから悲しいけれど、もしも彼女が僕のことを受け入れられずにこれが今生の別れとなってしまっても仕方がないと思っている。


「うーーーーーん」


「今は何を考えてるの?」


「うーん。今は……みっくんがどうしたら男に戻れるかって考えてる。けど、清花の代わりは私じゃ出来ないし、それは誰にも出来ない。清花の力はこれからも必要になるだろうし、それを私の一人の勝手で止めさせるのは出来ないかなーって考えてる。その場合の社会的な混乱は許容出来るものじゃないし、その責任を私は取れない。だからみっくんに清花になるなとは言えない」


 そこで千郷は一度空気を吐いて続ける。


「だから問題は私がみっくんが清花になることを受け入れられるかで。そもそもな話、私のせいでみっくんがその道を選んでしまった訳だから私に何かを言う資格はないんだけど……」


「清花の時に言ったよね。僕はあの時のことを千郷のせいだと思っていないよ」


 あの時は代弁する形で思いを伝えたけれど、今は直接伝えられる。


「あぁ、そっか。あの時の言葉はみっくんが身バレをしないギリギリのところで自分の意見を言ってくれてたんだ」


 まだいまいち清光と清花が同一人物だということに頭が追いついていないようで、千郷はその時のことを必死に思い出しているようだ。

 そして「あっ」と何かを思い出したらしい彼女は僕の方を複雑そうな目で見ていた。


「清花……いや、みっくんは将来のことをどう考えてるの?」


「将来って言うと、稼ぎのことじゃないよね?」


「違う。結婚とか、そういうの」


「さっきの話から結構話が逸れてるけど、それはどうして気になるのか聞いてもいい?」


「だって、あの会合の目的って清花の結婚相手の選定が主目的だよ? これからもそれは続くと思う。清花の相手が誰になるのかは色んな人が気になってるから。清花として生きていくならそれは絶対に逃れられないと私は思う。もしも清花から戻れなくなったらその運命から逃れられなくなるんだよ? そのことについてしっかり考えてるの?」


 これまで女性対魔師として経験してきたことがあるのだろう。その言葉には真実味があり、彼女も経験をしてきたことが伺える。

 縁談が来ても断っていたと名雪さんが言っていたし、今回の件で精神的に落ち着いたら彼女の縁談も再開するかもしれない。

 その時に千郷がどうするのか気になるけど、今は僕のことについてだ。


「千郷だから正直に答えるけど、当初の考えでは絶対に結婚はしないつもりだったよ」


 言葉を聞いてホッとする彼女は、最後に「だった?」と首を傾げた。


「今は最終的にどうなるかは分からないけど、その道も有り得るかもしれないと思ってる」


「その道……結婚をする道ってこと?」


「うん」


「…………男と?」


「…………うん」


「……………………」


 黙った千郷は腕を組んだまま左右に体を揺らす。

 いや、揺らすというよりは倒れ込むに近いか。それを何度も何度も繰り返してはうんうんと悪夢を見ているようにうなされている。

 それほどにこの話は受け入れ難いということだろう。女性として接している時間の長い咲夜とは違い、僕のことを真に男として認識している千郷にとっては当然の反応なのだと思う。


「やっぱり、変かな?」


「変……か。みっくんの事情を知らなければ変じゃないんだけど……」


 生まれた時から性別が女だったらという意味なのだろうけど、その場合は大蓮寺家に残っていた呪いによって僕は浄化の力が使えないようになっていただろうし、霊力量が減るから化装術も使えなくなり本当のいらない子になっていたはず。そもそもその仮定に意味はない。

 僕だって最初の頃は千郷のように受け入れられてはいなかった。きっとあの頃の僕が今のように千郷と話をしていたら、僕は同調をして別の道を選んでいたかもしれない。けれど、今の僕は例え彼女にどんなに拒絶されようとも考えを変えるつもりはない。


「それって、元から? それとも化装術の影響?」


「さっきも言ったように最初の考えでは男の人との事は考えてすらいなかったよ。そこについては咲夜が保証をしてくれると思う」


 僕達の目が集まったのを感じて咲夜が端末を閉じてこちらを見る。

 本当なら最後まで二人きりで話を進めて完結したいところではあったけれど、この結婚や恋愛話に関しては一人で語り切れる自信がなかった。

 こちらにやって来た咲夜は対面に座る僕達のどちらも見れる場所に腰を下ろして千郷を見やる。


「まずはお久しぶりね。芹井千郷さん」


「……えぇ、顔を合わせたのは久しぶりだけど。宝蔵咲夜さん」


 話によれば千郷がこちらに来たいと言っていたのを咲夜が断っていたそうだから、その時に因縁のようなものが生まれたのだと思う。二人は睨むまでいかなくとも意味ありげに視線を交わす。

 最初に折れたのは咲夜の方で。


「色々と私に言いたいこともあるでしょうけど、まずは清花のことに関して話を進めたいのだけど?」


「……分かった。とりあえずもう嘘はなしにしてよね」


 千郷の恨むような視線を受けても飄々とした様子の咲夜は足を組んで鷹揚に語り出す。

 ……もしかして、僕の知らないところで二人の間に何かあったのだろうか。


「分かってる。……それで、清花の考えについてだったわね。確かにこの子は男との恋愛については完全否定派だったわ。何せ考えるだけで吐き気を催していたくらいだもの。だからあまりその話題については出さないようにしていたし、出すならその後の精神状態を考えた上でするようにしていたわ。だから最初からその傾向があった訳ではないことは断言出来るわね。大きく変わったのは本当につい最近のことよ」


「それがどうして男とだなんて許容するようになったの?」


「恐らくは化装術の影響が大きいのでしょうね。清花としての活動が極端に多く、逆に元の姿に戻って生活する時間の方が短いのがそれを早めている要因ではあると思うわ」


「つまり、こうなったのは自分たちのせいだと?」


「穿った物の見方ね。そもそも化装術はなりたくないものにはなれないらしいじゃない。つまりは清花としての道を選んだのは他ならぬ彼……いえ、彼女自身なのよ。そして、故意ではないにせよその道を作った貴方がどうこう言える立場ではない、と私は思うのだけど?」


「そんなの言われなくても分かってる。でも、化装術の影響だからってそんなに急激な変わり様があるものなの?」


「会合で襲われて負けかけた……あぁ、これは貴方も知っていることだったわね。そのことを気にしていた清花はどうしたら強くなれるのかを考えていたらしいわ。それで今よりもっと強くなる為に今の自分を受け入れたのが理由の一つ。もう一つはどうやら彼……土御門景文の好意に触れたのが切っ掛けらしいわ。その時に清花は『知りたい』とよく口にしていたわね」


「知りたい……」


 僕の口から語り辛いことをそのまま語ってくれる咲夜の言葉に千郷が視線を落とす。


「葛木家の人の特徴の一つに自らが知りたいと思ったことを愚直に追い求める傾向にあるらしいけど、その辺りの事情に関しては私より貴方の方が精通しているのではなくて?」


「葛木家じゃなくても、みっくんがその言葉を口に出した時のことは私がよく知ってる。……確か、あの時は葛木家で管理をしている子犬と遊んでいる時だった。その時は私と一緒にいて遊ぶ約束をしていたはずなのに、子犬のことをよく見たいからって約束をほっぽり出して観察を始めちゃって。すぐに終わるかなって思ってたらぶっ続けで軽く五時間はやるもんだから、私はその辺で適当に日光浴をして昼寝をしていたのを覚えてる」


 その時のことは僕も覚えている。……と言っても、覚えているのはその前後のことで最中のことは子犬を観察していた以外の記憶はないのだけども。

 終わってから千郷のことを思い出して謝ったところで、凄く泣いて怒られたのは今でも鮮明に覚えている。

 あれから人といる時は何かに熱中することは避けるようにしてきたし、それは今までもずっと続けて来たことだ。

 その思い出を共有している千郷は肩の力を抜いて笑った。


「だからみっくんがその言葉を言う時のことは私がよく分かってるつもり」


「そう。それで、貴方はどうするつもり? 貴方がいくら引き留めたところでこの子は自分の意思を変えることはないわよ」


「それも分かってる。答えは……私は……」


 精神が不安定な状態で頭が混乱するような話を聞かされて、その上で正常な判断なんて出来るはずがない。

 今すぐ答えを出さなくてもいいと、そう伝えようとした時に僕の目の前を咲夜は手で塞いできた。


「芹井千郷、よく聞きなさい。この子は苦しい環境においても自分の求めることを諦めなかった。目まぐるしく変わる環境に何とか食らいついて置いて行かれないように、必死になって全く知らない知識を一から覚えていったの。その努力はきっと私たちでは想像も出来ないようなこともあったでしょう。そんなこの子に自分が嫌だからという理由だけで今までの全ての頑張りを捨てさせるつもり?」


「そんなことはしない。私だってみっくんが清花としてやっていくことは仕方のないことだって理解はしてる。その道を選ばせた私が我儘でどうこう言える立場じゃないのは重々承知してる」


「だったら貴方が取るべき行動は全面的に"清花"に協力をするか、全てを忘れて口を閉ざすかの二択しかないことは理解してるわよね?」


「二つだなんて決めつけないで。……もう一つ、もう一つは確かにあるんだから」


「それは許可しないわ」


「そんなの本人の意向次第でしょ? それこそそっちが決めることじゃない」


 どういう理由でか二人の間で火花が散り始める。しかし咲夜はどこまでも理性的に話すので見るからに優勢なのは明らかで、その様子に千郷がやや押され気味といったところ。

 話の流れを聞くにそのもう一つの道というもののことはお互いに内容を理解して会話しているのだろうけれど、生憎と僕にはそこまで理解が至っていない。先ほど僕が口を開くのを止められたように、二人の間からは今は僕が会話に入ることを拒絶するようにも感じられる。

 

「この子に一番理解のあると言える貴方がそれなのに、貴方のせいで世間にバレたらどう責任を取るつもり?」


「それ、は……」


「貴方はこの子の助けになりたいの? それとも迷惑を掛けたいの? まずはその姿勢をハッキリして頂戴」


「そんなの、助けになりたいに決まってるでしょ。私はみっくんに償わなくちゃいけないんだから!」


「なら本人の意向を汲むくらいのことはしなさい。本人の望まない償い方なんてただの自己満足でしかないわ」


「…………っ‼︎」


 咲夜の言葉にハッとなった千郷が僕の方を向き、今にも泣きそうで所在なさげな彼女は縋るような目で見てくる。


「みっくん、私は……私の手助けは、迷惑……なの?」


 ここで優しい言葉を掛けるのはお互いにとって良くないことになるのは僕でも分かっている。

 必要なのはしっかりとした相互理解で、僕の願いと彼女の願いをしっかりと口して理解し合うことが一番大事だ。間違っても曖昧な言葉で茶を濁すようなことはしてはならない。その結果に傷つくのは僕と千郷なのだから。

 だからしっかりと伝わって欲しいと願いながら本心を訴えかけるように口にする。


「……僕はこれからも清花として生きていくともう決めた。この力があれば男の自分では出来ないことも成し遂げることが出来る。浄化の力は妖怪相手に有利に立ち回れるし、何よりももっと沢山の人を助けることが出来る。僕は咲夜と一緒にそれを為すと心に決めたんだ。これは誰にどう言われようと変えるつもりはない。……だから、その邪魔をする手助けは必要としていないよ」


 先日に冬香が言っていた"広範囲の地域に雨を降らす"という発想を元に、遠くの場所に浄化の雨を降らすことが出来ればという話は僕達の中で進んでいる。これが実現出来ればもしも離れた位置で他の退魔師が強敵と遭遇したとしても遠距離から助けることが出来るようになるかもしれない。

 だから僕が清花として活動出来なくなると色々な人が困ることになり、そのせいで命を落とす人が出てしまうかもしれない。それは巡り巡って千郷の責任になりかねない。そのことに彼女はきっと心に傷を負うことになる。

 千郷は僕が永遠に清花になることを拒んでいるのかもしれないけど、僕はそれを望んではいない。

 今回ここへ彼女を呼んだのは過度な心痛で病んでいるのを救いたいという思いからであるものの、だからといって千郷に好き勝手をさせる訳ではない。

 それでも千郷が嫌だと我を通すのであれば、過去の事件を引き合いに出すしかなくなってしまう。そのことで恨んでいる訳ではないから出来ることならそんなことはしたくはない。それをしてしまえば、きっと僕達の仲は何かが壊れてしまうかもしれないから。


「もしも、千郷が何かしらの償いをしたいというのなら、僕の願いを叶える形にして欲しい。その手助けが出来ないなら、どうしても嫌だと思うのなら、僕のことは全て忘れてしまって構わない。何も関わらないで、何も話さないでくれればそれだけでも僕は助かるから」


「忘れてなんて、言わないでよ。そんなこと、出来る訳ない」


「千郷は女になった僕のことは嫌い?」


「嫌いな訳じゃない。ただ、戸惑ってるだけ。私の知るみっくんじゃなくなるような気がして……」


「僕は僕だよ。あの会合の時に言っていたよね。雰囲気が清光に似ているって。例え姿形が変わっても、中身まで変わる訳じゃないよ」

 

「でも男と恋愛するって……」


「そ、そこはかもしれない段階だから。前向きに検討中ってだけで、実際に付き合ってる訳でも婚約をしている訳でもないよ。そこのところは勘違いしないで欲しい」


 千郷の中で引っ掛かっているのは特にその辺りみたいだ。

 体を振り子のように揺らしながら唸っている。それはもう、盛大に揺れている。


「疑問なんだけど、何で男となの? 化装術で強くなるには理解度を高める必要があるのは知ってる。でもそれだったら本を読むとか他人の恋愛の観察でいいじゃん。別にみっくん自身が体験する必要はなくない?」


「必要はあるよ。その体験をしたいという思いから化装術が生み出されたんだから。基本的に自分で体験する方法が一番実力向上に繋がるんだよ」


「今のままでも十分強いじゃん。だって一級退魔師を何人も同時に戦闘不能にする術が使えるんだよ? そんなことが出来る人は他にいない」


「あれは発動までに時間が掛かり過ぎて今のところ実戦では使えないよ。それに知ってると思うけど、僕は一度白面に襲われてるんだ。直接対面して分かったけど、アイツは僕のことを絶対に仕留める気でいる。だから現状に満足して強くなることを止めるつもりはない。もし強くなることを止めたりしたら戦いに負けて死ぬかもしれないから。そういう意味でも男性と関わることは実力向上に繋がるかなら止めるつもりはない」


「……何で男と関わるのが強くなるの? そこが意味分かんないんだけど」


「そもそもの話として、女性ってそもそも男性がいないと成り立たない存在だよね。人間は男が存在しなければまた女も存在しないんだから。その逆も同じ。そういう原始的な部分でも僕は女性を理解するには男性という存在は必要不可欠だと思ってる。元が研究者の子供だからね。そういうのが気になるんだと思う。例えば生理学、解剖学、心理学、社会学、あとは進化論とか、学べるところは他にも沢山あるんだよ。そのどの分野においても男性を切り離して女性を語ることは不可能だと思う」


 もしも性差を切り離して語るのであれば、それは性別そのものが関係ない男女共通の話になる。

 僕が知りたいと思うのはそこではない。


「……あー、うん。そういえばみっくんってそういう子だったね」


 納得が出来るように懇切丁寧に説明をしたところ、何故か千郷は疲れたように溜め息を吐いていた。


「それってどういう意味で言ってるの?」


「知らないことを知ろうとする時に夢中になるところとか、その分野に関して語る時はやけに饒舌になるところとか。昔から変わってないよねってこと。本当に変わらないんだから……」


「僕は僕だからね。そういう千郷も変わったようで変わってないし」


「……は? 変わって、ない? どこが? ほら見なさいよ! この成長した体を! 身嗜みだって整えるようになったし、凄く綺麗になったでしょうが!」


「うん。綺麗になったと思う。肌も髪の毛もきちんと手入れをしてるのが分かるし。僕もその大変さは身に染みて知っているからね」


「でしょーっ!」


 昔は髪の毛もそんなに伸ばしていなかったから本人の気性と相まって男に見られることもあったけれど、今の千郷を見てそう思う人はいないだろうと思う。でも……。


「すぐキレるところは全く変わってないけどね」


「…………」


 指摘されたからすぐに怒りだすということはなかったものの、無言の抵抗として机の下で蹴られる。

 更に怒るだろうから変わっていないのはそういうところだと指摘するのは止めておいた。

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