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二話-1 武原家の依頼①




 退魔師の仕事というのは多岐に渡って存在していることはあまり知られていない。同じ教室で過ごしている人たちもその恩恵にあやかりながらもその実態は知らないということは実際にあったことだ。

 一般の人が最も想像するのはやはり妖怪と戦うこと。直接的な物的人的被害に直結するので仕事の内の割合では確かに高いだろう。次に割合を占めるのが霊具作りだ。退魔師が使う為の物だったり一般人の為の護身用だったり、あるいは何かしらの補助具として作られていることも多い。

 他にはその退魔師の個々の能力に由来する仕事もある。力仕事や移動手段、連絡手段、式神を使った護衛なんかも仕事としてあったりする。

 僕で言えば浄化の水を使用した傷の治療なんかがそうだ。自然治癒や化学治療では難しいような病や怪我に対して用いられる。普通の浄化使いの仕事は専らがこれらしい。


 これらの依頼やお仕事の話は咲夜が一手に担っているので、僕にまで話が回ってくる時はある程度のやり取りを経て話が進んだ状態で来ることが多い。例えばモデル撮影なんかもその一つだ。

 そして今回話し合われていたのは以前に会合に行った時や先の侵攻時にも会った武原勝己という人物から友人を治療して欲しいと依頼をされていた件のことらしい。

 仕事として受ける以上はまずは受けるかどうかの判断を咲夜に丸投げをしたのだけど、どうやら一週間かそこらで話がまとまったらしく今日はその治療の為に相手の家まで赴くことになっていた。


「電話口で私のことを思い違いをして逆恨みをしていたと何度も謝られたわ。別に言わなければ私には分からないことだというのに無駄に律儀なことね」


「あの人はなんと言うか、そのままの意味で直情的だからね。思い立ったら即行動みたいな」


「私はああいうのは苦手だわ。いい年して次期当主であるにも関わらず考えることを放棄しているのだから」


「僕からは何も擁護出来ないから回答なしで」


 役割分担とはいえ、その部分については他人のことは言えない。

 ただあの人の場合は咲夜の言う通り次期当主なのだから考えることを放棄すべき立場ではないことは確かだろう。

 

「それはどうでもいいとして。今から依頼内容を説明するわ」


 咲夜は端末を立ち上げて文字がぎっしり詰まった文章に目を通し始めた。


「数年前に友人の身内が呪術関係の犯人に命を狙われた際、その友人が身代わりとして呪われたらしいわ。その時から目を覚ましていない昏睡状態に陥った友人の治療が依頼内容よ。報酬はざっと一億円。武原家とその友人一族総出で支払うとのことらしいわ」


「い、一億円⁉︎ そんなに払って大丈夫なの⁉」


「過去に何人か呼んだ治療術師でも誰も成功は出来なかったみたいね。その時の提示額が八千万だったらしいわ。それ以上の額を提示してでももっと腕のある人に治療して貰いたいってことでしょう。貴方が成功出来るかどうかは別として、出来た場合はその価値があるということなのだから有り難く受け取りなさい。そうじゃないと他の治療術師に恨まれることになるわよ」


「……うん。そうだね。金額云々については理解したよ。市場価格は大事、だよね」


 この手の治療行為に関してはこれといった明確な金額が設定されていない。病状に名前が付けられていないような事例がごまんとあるし、それに対しての治療行為には個々人の力量や技量によるところが多い。つまりその病を治せる可能性のある人物はこの世に一人だけという可能性のある世界なのだ。

 そこで僕が今回の一件を格安で受けて解決をしてしまうと、咲夜の言うように僕を引き合いに出されて値切りをされるなど他の術師が困った事態になる可能性がある。

 こちらではなく向こうが金額を提示しているのだから、こちらがその金額では満足出来ない以外では変に口を出さない方がいいということだ。問題があるとすれば今後僕に対しての依頼に及び腰になってしまう人がいるかもしれないことくらいか。

 そこについては咲夜がいいようにしてくれることを願うしかない。


「その内容についてだけど、事件が起きたのが数年前ってことは一年や二年じゃないってことだよね。罪のない人からそれだけの時間を奪うのは許せないな。犯人についてはどうなってるの?」


「その呪術師に関してはその事件当時に死亡をしていて、それが却って事態をややこしくした原因らしいわ」


「えっ? 死んだら術も解けるものじゃないの?」


「それが呪術というものの性質なのよ。放った術を解除する前に術者を殺してしまうと死の間際の感情の爆発らしきものによって術を強化されてしまい、その強化された術が消えずに残留してしまうことがあるらしいわ」


「うわっ。なにそれ、厄介過ぎない?」


「呪術と言っても分派によって使用する術も違うわよ。浄化の力にも種類が色々あるようにね。だから一括りに呪術の全てが危険とは限らないのだけど、私たちを襲った大友家といい、あまり性根がよろしくない連中が好んで使っている点が世間から人気がない理由ね。退魔師が事件を起こすと真っ先に呪術が疑われるなんてことは有名な話よね」


 それはそれで可哀想な気もするけれど、襲われた当人としては擁護のしようのない話だった。

 呪術の使い道は主に戦闘用だというし、戦闘とは無縁の浄化の力とは対極の存在とも言える。

 ひょっとしたら大友家が狙ってきたのは浄化の力で一般民衆の人気を獲得しつつある僕に対しての嫉妬もあったりしたのかもしれない。戦いという本来は関係ないはずの彼らの領分を僕が侵したからというのもあるのだろう。


「呪術が原因だったら普通は浄化の力で治せるはずだけど、彼は浄化使いにも頼んだとも言っていたような……」


「その辺りは私も聞いてみたわ。他の術師の方に頼まなかったのかって」


「どの系統の術師に?」


「炎と土の浄化使いには既に頼んだと聞いているわ。有名どころではあるし、実力としては申し分ないはずだけど結果はお察しの通り。だから例え貴方が何とか出来なかったとしても別に向こうが逆恨みをするようなことはないでしょうから気を楽にして臨みなさいな」


「そうだね。どこまで出来るか分からないけど、とりあえずやれるだけやってみよう」


 他の浄化使いはみんな僕よりも経験としては多く積んだ先輩退魔師になる。その人たちが出来なくて僕には出来るというのはあまり考えられないことだけど、その人たちと僕とでは決定的に違うものが二つある。

 一つは言わずもがなの霊力量。そしてもう一つは咲夜という存在。彼女がいれば何かしらの違和感を見つけてくれるかもしれないし、それだけで解決出来る可能性はぐんと高くなったと言える。


 内容を聞いてから依頼の受諾を武原家に伝えてもらうと、まるで既に待っていたかのように返事から間もなく以前に僕を乗せた時の運転手が迎えに来た。

 僕が話を聞いた時点でこちらに向かっていたらしいその車に乗って武原家へ向かうことになった。

 前と同じ運転手の人が前回の時のことと、それから今回の件のことについてを会話の中でしきりに感謝される中、辿り着いた場所は武原家の門前。そこで僕達を待っていた人たちは約数名ではあるけど、全員が一切の抜かりのない本気の正装をして待ち構えていた。


「ようこそいらっしゃいました。大蓮寺清花様、並びに宝蔵咲夜様。ご来訪、心よりお待ちしておりました」


 一歩前に出てそう挨拶したのは予想外なことに武原勝己だった。

 自分から依頼を出して呼んだのと、家族の前だからか次期当主らしい威厳ある振る舞いをしているみたいだ。

 彼の隣にいるのは事前に話に聞いていた彼の両親と、それからその横にいるのは呪術被害者の母親と妹だろう。この妹というのが話に聞いた事件で狙われた子なのだろう。

 きっと今までも色々な人に診て貰ったはず。それでもダメだったという事実がこの人たちの心情に暗い陰を落としている。

 一応の歓迎はしているものの、正直なところ武原さんと妹さんを除いて僕に期待をしている人はいなかった。

 多分希望を持ち続けることに疲れたのだと思う。これはどちらかと言えば希望を折られ続けても前を見ている武原さんが強いのであって、決して他の人が弱い訳ではない。そう僕は思っている。


「お出迎え頂き恐縮です。微力では御座いますが、全力で臨む所存です」


「感謝します。まずは疲れを癒して頂き、暫しのご歓談といきたいところですが……」


 ただお客様として来たのならその流れでもいいのだろうけれど、今回は別の目的があってここに来ている。

 なので堅苦しい挨拶もここまでにしてさっさと治療に移った方がご家族も安心出来るだろう。


「それほど長旅という訳でもありませんし疲れはないので、早速ですが患者様の容態を見させて貰ってもよろしいですか?」


「勿論です。中へどうぞ。段差がある場所があるのでお足元にはご注意下さい」


 武原家の中へと案内された僕達は風通しの良い日の差し込む部屋に入る。

 そこには窓際に設置されたベッドとそこで眠る一人の男性の姿があった。

 まだ日の上る真昼から大人数の足音を響かせてやって来たというのに起きる気配すらない。

 生命維持の為の機械が稼働する音だけがこの部屋にあった。

 まるでこの部屋だけが時が止まったかのように感じる。


「彼が意識不明のお兄さんであっていますか?」


「その通りです。方々に手を尽くしましたが、依然として……」

「お姉ちゃん! 学校でも噂のあの清姫様なんだよね⁉︎ お願いします! お兄ちゃんを助けて下さい!」


 説明をしようとした武原さんを遮って僕に詰め寄って来たのは被害者男性の妹さんだった。

 彼女の母親が止めようとするのを手で制して、まだ中学生といった頃合いの子に膝をついて目線を合わせる。


「僕も全力を出すつもりだけど、他の人たちと同じ結果になるかもしれないことは先に言っておく。あまり期待を持ち過ぎないようにするんだよ」


「なんで⁉︎ 清姫様は最強の浄化使いなんでしょ⁉︎」


「ううん。僕は最強なんかじゃないよ。つい最近それを思い知ったばかりだからね。だから絶対に成功するとは約束出来ない」


 この子からすれば僕はやっと兄を治してくれるかもしれない存在で、きっと藁にもすがる想いでお願いをしているのだろう。その想いに必ず何とか出来ると断言出来ないのがこんなにも悔しいことだとは思わなかった。

 それでも今回のことが彼女の心を壊す最後の一撃にはならないようにしなければならない。


「でも、今回がダメでもまた別の何かしらの方法があるかもしれない。僕も協力するのは今回限りにするつもりはない。だから君だけは諦めたりしたらダメだ。例えそれを信じるのが自分一人になったとしてもその願いを捨てないことを僕は祈るよ」


「でも、お医者様が言うには……兄は…………」


 僕から見ても彼は何かに蝕まれているのが分かる。決して良くない何かに全身を侵されている。

 それが何年も続いていたら体に悪影響が出ていても不思議ではない。寧ろここまでよく持った方だとも言えた。

 それくらいの呪いのようなものが彼の中に巣食っていることはここからでも容易に分かる。


「咲夜。どうかな?」


「……もう少し時間を頂戴」


「よろしくね。すみませんが、以前に他の浄化使いが治療をしようとした時の様子を詳しく教えてもらっていいですか?」


 咲夜が時間をくれと言ったならその通りにするべきだ。だから僕はその間にもっと詳しい話を聞いておくことにしよう。

 その中になにかしらの解決への切っ掛けがあるかもしれない。


「詳しく、と言われても……」


「過去に治療に当たった人たちが何が原因で治療が出来なかったのか、その見解だったりとか何か聞きませんでしたか?」


 その人たちだって何の知識も経験もなく治療に当たるはずがない。失敗をしたということに対して何かしらの個々人の見解があって然るべきだ。

 それでもどうして失敗をしたのかが何も分からないのなら今回の治療に対して僕も難易度の認識を改める必要がある。

 仮にそうなると一度戻って大蓮寺家の文献について探ってからの方が良いのかもしれない。

 こちらでも何か思い至る理由がないか思案していると、被害者の母親らしき人が何かを思い付いたように顔を上げる。


「確か、炎の浄化使い様は本人にその気がないと言っていました」


「本人に、ですか?」


「詳しいことは分からなかったそうですが、治療する為の霊力を送り込んだところ中から弾かれたという感触がしたそうです」


「……なるほど。頭に入れておいた方が良さそうな情報ですね。他には何かありますか?」


 情報を集めているのは一度たりとも失敗をしない為だ。

 今回に関しては冬香の時のように浄化の水を使って治療する部分を隅々まで探すという訳にはいかない。

 何しろ全身から呪いの気配がするのだ。冬香のように一部分に集約している訳ではない以上、下手に刺激をし過ぎてしまうと何が起こるか分からないので迂闊なことは出来なかった。それにこれだけ広範囲に広がり、尚且つ時間も経っているというのであれば荒事が起こった際に果たして被害者男性の体が持つか分からない。

 例え呪いを消し去れたとしてもこの人が死んでしまったら元も子もないのだから臆病なくらいに慎重を期すべきだろう。


「清姫様……」


 僕の側でじっと大人たちとの会話を聞いていた妹さんが弱々しく僕を呼ぶ。

 これまでの失敗の数だけ彼女の期待も折られていたことを思えば、僕も今回限りにしてあげたいとは思う。

 しかしながら、僕よりも経験を多く積んだ人たちが失敗をしたというのに僕らに果たして解決出来るのか。

 袖をぎゅっと掴んで震える妹さんの頭を撫でて落ち着かせながら咲夜に問う。


「咲夜。何か分かったことはある?」


「……貴方たちの話も聞いて大凡は理解したわ。改めて確認ですが、彼はそこにいる妹さんを庇って目を覚まさなくなったのですよね?」


 ずっと僕にのみ注目を向けられていたからか不意に咲夜から話しかけられて驚いていたけれど、武原さんと男性の家族が頷く。


「俺も現場にいたからその時のことはよく覚えています」


 武原さんはその情景を思い出してか拳に爪が食い込むほど拳を握りしめていた。

 彼の家族がそっとその拳を開くと僅かに血が滲んでいて。それほどその時の出来事が彼にとって重くのしかかっているということだろう。

 強くなろうと決め、あの会合に呼ばれるまでに成長をしたのはその出来事が原因なのかもしれない。


「では……そうね。これで決まりでしょう」


 咲夜は僕の服を掴んで離さない妹さんに対して歩み寄って、そっと頭を撫でる。


「彼が目を覚さないのはこの子に呪いが向かわないようにずっと自らが抑え付けているからでしょう。彼は今もこの瞬間、ずっと戦い続けているのです。彼の中からは呪いに対してしがみ付くような微かな霊力が観測されました。そうして抑えつけた呪いが彼の中で留まり続けて瘴気となっていったと……」


「お兄ちゃんっ‼︎」


 兄が目を覚さないのは自分を守っているからだったと聞いた彼女は兄に縋りついて泣き叫ぶ。

 僕と咲夜は肩に手を置いてそっと引き離す。今呪いを刺激し過ぎるのは良くないことだから。

 兄から離れたくないと首を振る彼女と目を合わせ、助けたいのならまずは冷静になるように言ったところ、やっと大人しく従ってくれるようになった。

 他の人たちもどう受け止めたらいいのか分からずに口元を押さえていて、被害者男性の母親に至っては後ろを向いて肩を震わせていて。


「治療を出来なかったのは他ならぬ彼自身がそれを望まず、外部からの干渉を拒んでいたからでしょう。下手に手を出した結果呪いが暴れでもしたら、もしかしたら妹さんに危害が加わると思ったのかもしれません。他者からの干渉がない為に柔軟な対応が出来ず、ただただ妹を守るという意思を貫き続けているのだと思います」


「しかし、そうなるとどうしたら……」


「これだけ強い意志となると、清花の力でも成功する確率は決して高くはないでしょう」


 咲夜の一言によって室内の空気が沈んだものになる。

 けれど、そんなことをお構いなしに咲夜は妹さんの頭を軽く撫でるように叩いた。


「望まないのなら望むようにすればいいだけのことです。その為には何が起ころうとも妹さんが無事だと思わせることが肝要ですが、そこについては清花以上に適任はいないでしょう」


「任せてよ。呪いが相手なら絶対に負けないからね」


 刺激をしない為に事前に場を清める必要のある浄界は使えないけど、妹さんには霊具を持たせて最悪の事態を回避しつつ僕は迎撃する為の霊力を練り始める。それを見た咲夜は頷いて妹さんと武原さん、それと彼らの家族に目を向ける。


「あとは頑固に眠り続ける彼を貴方たちが何とかして説得して下さい。彼が呪いの束縛を止めた結果として呪いが妹さんに襲いかかったとしても清花が何とかしてくれると訴えかけて頂きたいのです」


 彼を蝕む原因さえ取り除けたのなら、その後は僕がどうとでも出来る。

 その後は彼の内にある瘴気の浄化だ。初めてすることになるだろうけど、そこは僕の力量次第だ。

 やっと見えてきた解決の糸口に家族の顔色は決意に満ち溢れたものになっていた。


「分かりました。しかし具体的にはどうすればいいのでしょうか?」


「彼との思い出のある品物を持って心の中で彼の名を呼んで下さい。思い出の品が清花の力を通じて彼と貴方達を繋ぐ糸となり、彼との心のやり取りをする橋渡しをしてくれることになります」


「思い出の……」


 一番交流の少ないのだろう武原さんの両親以外はすぐに思い浮かんだ物があるらしく、全員が慌ただしくこの家の中だったり自分の家に物を取りに行き始める。

 そうして少しの時間を置き、万が一のことを考えて刺激しないように別の部屋で待機していた僕達のところに全員が戻ってきた。その手にそれぞれに幾つかの品物が握られており、一つに決められないところが昏睡状態の男性との思い出深さが分かるというもの。


「ちゃんと糸は繋がっているようね。これなら問題はないでしょう」


 咲夜のお墨付きを貰って全員がほっと息を吐き、改めて僕達は彼の寝る部屋へ向かう。

 先ほどとは変わらず寝入ったままであり、何度も見たはずのそれは家族と友人にこれからもそうであると想像させたらしい。

 ただ品物を手に持っただけでは糸は弱い。僕が水で彼と物理的に繋げることで可視化された線によってより強く想いは伝わり始める。浄化の力が彼の内部に行き渡り始めたことで抵抗感が生まれ始めるものの、その程度では僕の浄化の力をどうこうすることは出来ない。


「気を強く持ちなさい。他人に任せるのではなく、自分が呪いを引き摺り出してでも助けるのだという強い意志を持たない限りは彼のことを起こせはしないわよ」


 やる気を出させる為か、咲夜はあえて強い口調で檄を飛ばす。


「あぁ! 言われなくてもやってやるぜ! おらぁっ! とっとと起きろこの寝坊助が!」

 

「お兄ちゃん! 起きて! また一緒に遊んでよ!」


「別に声を出す必要は…………まぁ、その方がやる気に繋がるのなら構わないでしょう。それよりも清花」

 

 その効果は子供に対しては有効であったようで、繋がっているところから強い想いの力を感じる。

 それと同じくらいの子を想う親の力も合わさって明らかに何かが変わり始めていた。


「分かってる。やるよ!」


 家族の想い合う力が強く結びつき、糸に伝わる力を太く強靭なものにしていく。

 僕はその糸に浄化の力を乗せて彼の霊力と呪いの力との境界に差し込んでき、浄化の力が境界線上に触れた瞬間、力尽くで被害者の霊力を完全に覆って呪いから全力で保護をする。

 そうして呪いの影響を完全に遮断し分離したことで呪いを認識しなくなった彼の霊力を呪力の源から引き離す。

 残った呪力をこのまま力押しで消し去ると消滅の余波が弱っている彼を襲ってしまいかねない。だから意図的に呪いを覆う力の一部分に穴を開け、呪力に対して逃げ道を用意する。

 全力で叫び続ける二人と、目を閉じて息子を想う母親と自分にも出来ることがあるならとやってきた父親。それぞれが強く想い力が大切な人を助けようとしているのが僕にはよく感じ取れる。

 その想いが後押しとなったか、呪いは彼から解き放たれるように宙へと踊り出す。


『メイチャーーーーーーーン‼︎』


 妖怪や悪霊が相手なら何一つ容赦しなくていいから気が楽でいい。元が人間であったとしても、ここまで堕ちていたら力を振るうのに躊躇いはない。僕とこいつらは何があろうとも道が交わること決してない。

 

『キョウコソイッショニナロウネ゛ェ゛ェ゛ェ゛ーーーッ!』


 妹さんに飛びかかろうとするも水に阻まれた怨霊は自らを削りながらでも強引に進もうとしてくる。

 そこに割って入り、呪いの主に対して手を翳して浄化の力の全てを解放する。


「疾く浄滅しろ」


 『ギョ────』


 呪いとしては強い部類のものだった。妖怪としてなら二級以上は確実にあったはずだ。

 それでも伸ばした指先すら僕の水壁から抜け出すことはなく、そのまま全体を水の中へと包まれたそれは全身を削り取るように失くしていきながら消滅していった。

 塵一つすら残さず入念に消し去った後、水を窓から捨てておく。気分的にあの水をこのままここに残しておくのは嫌だったから。

 元凶を倒したことで静まり返った室内で、いち早く我に帰った妹さんが喜びを露わにしていた。


「あ、ありがとうお姉ちゃん……っ!」


 しかし、まだだ。まだ終わってはいない。


「お礼は後で。今は彼の中に残った残滓をどうにかしないと」

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