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一話-5 あちらへこちらへ




 今の体になって、……いや、冬香と一緒に買い物をするようになって知った。

 女の子の買い物というやつを。

 僕は勿論のこと、咲夜も無駄な時間を気にして効率よく買い物をする派だから気にしてこなかった。けれども、世間の感覚で言えば冬香の方が一般的な女子高生に近いものだということは僕も知っていた。だから今までも勉強になるつもりで冬香の買い物には付き合っていた。

 しかし、それでも言わせて欲しい。

 一体どれだけのお店を回るつもりなんだ、と。


「景文さんは大丈夫そう?」


「俺なら大丈夫だよ。清花さんが気にして話しかけてくれてるからね。……一人だったらキツかったかもしれないけど」


「それは……まぁ、うん。僕には返す言葉がないね」

 

 目的地に着いてから、かれこれ二時間は目当たり次第に気になったところへ寄って行くことを繰り返している。

 普段は修行で体力がもうないと嘆いている冬香だけれど、こういう買い物の時に関しては話が別だというように活き活きとしていた。


「あっ、これの新しいの出てたんだ。うぅ……けど、とりあえず保留で!」


「そう言ってさっきも保留していたじゃない。ちゃんと覚えているの?」


「ちゃんと覚えてますよ! あぁ、私も収入が入るようになったらアレだったりコレだったりが自分で買えるようになるんですかねー」


 冬香が目ぼしい物を手に取っては顔を明るくして、咲夜が値札を見てはチクッとする言葉を放ってはしゅんとして品物を元に戻す。先ほどから何度も繰り返されている光景だ。

 そんな冬香の買い物の様子を見ていて疑問に思ったのか、景文さんが問いかけてくる。


「清花さんは何か欲しいものとかはないの?」


「欲しい物は大抵もう買ってるよ? 今は服とか化粧品よりも趣味のものとかにお金を掛けてるかな」


「清花さんの趣味か。それが何か聞いてもいい?」


「僕の趣味は読書だよ。そう難しいものではないけど、読む範囲はかなり広めかな。創作から歴史もの、気になった分野の専門書とかも読むかな。基本的には活字のものばかりだけど、最近は冬香のお勧めの漫画とかも読んでるね」


 趣味の読書は昔よりもかなり充実していると言っていい。何せ貯金のお陰で買えない物は殆どないから。

 基本的に仕事と修行と学業とで空き時間はそんなにはないものの空いた時間は購入した本を読むのが日課となっている。

 媒体が電子書籍でなければ近い将来、部屋の中が本で埋め尽くされてしまうかもしれないくらいだ。

 その趣味は彼にも通じるところがあったのか、表情を明るくして笑った。


「それじゃあさ、今度お勧めの本とか紹介とかし合わないか? 俺も結構読んでる方だからお勧め出来るものとかあると思うんだ」


「うん。いいと思う。是非ともやろうよ。でも、景文さんは忙しそうだけど普段から本は読む方なの?」


「同年代と比較したら読む方だと思うよ。空いてる時間に気になった物を程度だけどね」


「へぇ、景文さんが気になったのってどういう感じの物なの? やっぱり"あのこと"が関係したりする?」


「それも関係したりしなかったりだね。前に歴史の本とか読んだ時とかあったけど、今と昔の考え方の違いとかも面白いとは思ったよ。そこら辺も話ながら読み合わせとか出来たらって思うんだけど……」


「うん。中々に面白そうだし、いいんじゃないかな」


 前世の記憶があるのとないのとでは感じ方が違うところもあるだろうし、そこについては普通の人では出来ない体験だと思うから是非とも所感を聞いてみたいところだ。

 僕の立場から推察するだけでも考えていて楽しい部分がある。


「僕もそのことで今度聞いてみたいことが……って、何か冬香が呼んでるみたい」


「欲しい物でも見つけたのかな?」


「かもね。行ってみようか」


 何か良い物でもあったのだろうか。こちらに勢いよく手を振って呼んでいるので向かうことにする。

 彼女たちのところへ行ってみると、冬香は何かの道具のようなものを手に持っていた。

 ここは家電屋さんなので何かしらの機器だと思うけど、パッと見る程度では何に用いるものなのか分からない。


「それは?」


「美顔器です! これは最新のものらしくて効果も凄いらしいんですよ!」


「そうなんだ。それって幾らくらいするの?」


「…………」


 最新式の物は高いという想像をしてしまうけれど、それはどうやら当たっていたようだ。

 目線を逸らした冬香はそっとその最新式の機械を台に戻し、別の物を手に取った。


「こちらなんか、お手頃で売れ筋みたいですよ?」


「別に買えないなら手に取るななんて言わないから。そんなに高い物なの?」


 先ほど戻した物のところを見ると、一万円札が何枚か必要そうな値段が書いてある。

 これは確かに普通の学生には手を出しにくいか。生活必需品でもないのにこれを選んで購入をするのはお金に余裕のある人くらいだろう。もしくは美容関係にかなり力を入れている人か。

 そもそも冬香に必要があるのかと聞きたい所だけども、これは藪蛇なので聞かないこととする。

 別に必要なさそうに見えるけれど、咲夜も横で色々と見ているので年頃の女の子にとっては必要なのだろう。きっと。多分。

 僕に足りないのはそういった美意識への気概だと突き付けられた気分だ。

 それでもお金というものは身の丈というものを容赦なく教えてくれるもので、冬香は美への意識は高くともその高さに手が届いていない。現実は無情だと冬香の顔には書かれているかのようだった。


「うん。まぁ、いつかはこれくらいぽんと買えるようになるよ。霊具の稼ぎは需要と希少性だからね」


「うぅ……清花さんくらいの霊力があったらバンバン作ってドンドン売り捌くのに……」


「そんなにそれが欲しいの?」


「美容っていうのは若い内からしなくちゃいけないんです! 若い頃の驕りが後々の自分に響いてくるんですから!」


 それは年をとった人の台詞だと思う。言わないけど。後が怖いから。


「うんうん。そうらしいね。それで、その美顔器っていうのはどういう効果があるの?」


 このままだと僕への恨み節に変わりそうだったのでそっと話題を変えることにする。冬香の意識はそちらにすぐに切り替わったらしく、振り向いて先ほどの高価な機械を手に取った。

 そして専門的な用語を、それも横文字がズラリと並ぶような説明を長々とされる。正直なところ、横文字はスッと頭に入ってこないので会話が成立しなくなる時があるので頭が混乱しそうだ。

 一単語くらいなら理解しつつ会話を出来るけれど、連続で使用されると処理が追いつかなくなってしまう。 

 それは僕が特別外国語に弱いのではなく、この国の退魔師は外国についての情報が規制されているので教育には日本語しか用いられないことが多い。僕だって本や雑誌を見ていなければ少し程度の理解だって難しかっただろう。

 冬香は一般人と接した時間が長かった為に外国語にも問題なく順応していったのだろうけど、僕達を含めた三人は頭にはてなが浮かんでいた。


「清花さんは普段は何を使っているんですか? やっぱり最新の物とかですか?」


「僕は機械とか道具の類は使ってないかな。美容液とか塗るものばかりだね。今は色々試して自分に合ったものを探している最中ってところかな」


「使って……ないっ⁉︎ だ、だったら今から使っていくのは全然アリですよ? いくら清花さんだっていつかは老いる……老いますよね?」


「それは、うーん…………さぁ? どうだろうね?」


 冬香の言う老いに関して、僕は少し調べたことがある。

 とある退魔師一族の女性は三十半ばを超えているはずなのに、驚くことに未だにその外見は十代後半のままらしい。

 以前に二人に話した霊力と胸の大きさの因果関係についてを話した後で改めて詳しく調べようとしたらその人に行き当たり、その時に今現在の容姿も確認したからこれについては間違いない。子供達と仲睦まじく並んだ写真があったけれど、初めは娘とどちらが母親なのか分からなかったくらいだ。

 その人に記者が聞いた時の話では、若さの秘訣は霊力の量によるらしい。その話を聞いた女性たちの間に霊力を底上げしようという機運が高まった過去もあるらしいけれど、その人の保有する霊力は一般的な退魔師の霊力量の数千倍だとも記述があった。

 結果的に真似を出来た人は今までに一人としていないとも。


 僕は並ぶとはいかずとも相当に高いのは自覚しているし、その人にはないだろう霊力の回復速度も加味すればそうとう近い立ち位置になるのではとは考えている。

 先の仮説が正しいのならば、もしかしたら変身時の特殊な身体事情と相まって僕も老化が遅くなっている可能性はあった。

 だけど、これを口にすること出来ない。この情報は僕の心の中にそっと仕舞い込むことにした。

 容易に真似が出来ない以上、口にしたが最後にどうなるか。想像しただけで怖気が走る。

 世の女性たちの美への執着心は僕なんかでは到底測れないものだとは理解したから。


「なんで疑問系なのか分かりませんけど、とにかく清花さんだっていつかは必要になるはずですから。今の内からやっておかないと後悔することになりますよ?」


「あぁ、うん。それじゃあ今度専門家と相談して買っておこうかな」


「そうした方が絶対いいです。何ならここで決めてしまうのも手ですよ?」


「見るのはいいけど、選ぶのはまた今度にしようね。それをやってたら凄く時間が掛かると思うから」


「……確かに清花さんに合う物を探していたら日が暮れてしまいそうですし。残念ですが仕方ないですね」


 冬香のお買い物は目移りの連続なので放っておいたら夕方になっていたこともあるくらいに時間が掛かる。

 それを自覚しているのは有難い話だけど、それなら少しは自重も覚えて欲しいものだ。


「ここでまだ見たい物とかあるの?」


「そうですね、あると言えば際限はありませんが。……今が十時ですから、もう少ししたら本命の所に行きませんか?」


「冬香のことだから午後から時間いっぱい使うつもりだと思ってたんだけど、それでいいの?」


「それもいいんですが、午後は映画に行きたいなと思いまして。丁度、今やっている映画が凄く人気らしいんです。チケットももう午後の分で取ってしまっているので」


「そうなんだ。僕はそれでいいと思うけど、二人はどう?」


 後ろにいる二人に聞くとどうやら異論はないようだけど、何やら策略を感じる。


「どうやら映画館の券も先に購入しているみたいだけど。……席の順番は意図したものではないよね?」


「えっ、……とぉ……」


「冬香?」


 眼鏡を外し、顔を覗き込んで至近距離で目を合わせる。

 すると焦ったように目線を忙しなく動かして僕と一切目を合わせようとしない。

 券を奪い取って見てみれば席の順番は四人並ぶのではなく二人ずつが前後に分かれているように購入されていた。

 これは完全にわざとだろう。


「もう予約しちゃったならお金が勿体ないから仕方ないけど————次はないよ」


 最後の言葉だけ他の人には聞こえないように冬香の耳元で言う。

 彼女はその一言で全身を硬直させて動きを止めた。


「清花さん、少し変わりましたか?」


「うん。嫌なことはきちんと嫌だと言わないとって。物分かりの悪い子には特に、ね?」


「あ、あはは……い、一体誰のことなんでしょうかねー……は、ははは……はぁ」


 これだけ言っておけばもう変なことを画策したりはしないだろう。

 止まらないようだったらちょっとお仕置きを考えないといけないかもしれない。


「あの……反省したのでお婆ちゃんに連絡したりとかは……」


「こんなことでしないよ。っていうか、風音様に連絡をするのは冬香が修行をサボろうとする時だけだからね?」


「うぐぅ……っ⁉︎」


「うぐぅじゃないの。全く、僕のことを気に掛けるよりまずは自分のことをどうにかしなよ。それで、最近やってる滝行の修行は上手くいってるの? ほらほら、言ってごらん」


「あぁ〜⁉︎ ごめんなさいぃ! 謝るので修行のことは思い出させないで下さいーっ⁉︎」


 逃がさないように後ろから捕まえながら二の腕を押してみる。

 体力増強をする為に運動をしているはずだけどぷにぷにのままに腕は筋肉を感じさせないくらいに柔らかい。

 太っている訳ではないものの、やはり体力作りにそこまで身を入れている訳ではないみたいだ。


「うーん。まだまだ足りないね。鍛えるならもっと自分を追い込まないと」


「あっ……せ、清花さん! そんなところを揉んだら……っ」


「また変なこと言ってる。腕くらい別に変じゃないでしょ」


 胸部やら下半身をまさぐったならまだしも、腕程度で変な声を出さないで欲しいものだ。


「けど、他の人の視線が……」


「視線?」


 言われて軽く辺りを見回してみると、視線が向かった途端に顔を逸らす人が多数確認された。

 中には女性であっても目線を逸らす人がいて、大体そういう人の顔は総じて赤い。


「咲夜?」


「いいから離れてあげなさい」


 一番の常識人に聞いても首を振るだけだった。どうやら僕のこれは常識的ではないらしい。

 解せないけれど、そう言われては仕方ない。


「まぁ、それはいいんだけど。これくらいはよくある触れ合いじゃないの?」


 同級生の女の子なんかはよくそんな風に触れ合ってくる。それは冬香や咲夜だって知っていることのはずだ。

 離れながら問いかけると咲夜は軽く息を吐きながら答えてくれる。


「その認識で間違いではないけれど、この場合は貴方の格好が問題ね」


「この格好が? 別におかしな格好ではないはずだけど」


 確かにいつもとは服装が違うとはいえ、歩いていて奇異の目で見られるということはなかったはずだ。


「分からないのなら無理に理解する必要はないわ。この問題は……そうね、見る側の認識による問題だから貴方がおかしい訳ではないのよ。貴方が気にする必要はないわ」


「?? まぁ、咲夜がそう言うならそれでいいけど」


 考えても分からないしあんな風に言うってことは大した話ではないのだろうということにした。

 とにかく先ほどみたいに触れ合うようなことはしない方がいいということで間違いはないはずだ。

 出来ればしっかりと理解をしておきたいので、帰った時に覚えていたら改めて聞こう。


「それで冬香、さっきの話の続きはする?」


「し、しません! これ以上は大人しくしているので許して下さい!」


「よろしい。冬香は好奇心は猫も殺すって言葉を覚えておくといいかもね」


「……この場合は藪を突いたら蛇が出てきたって感じですが」


「誰が蛇だって?」


 いけない。このままでは先ほどの繰り返しになってしまいそうだ。

 失言をしたと焦っている冬香の頭に軽く乗せる程度に手刀を落とし、それでお終いとする。


「こんなことやってたら次の買い物の時間が無くなっちゃいそうだよ。水着売り場はどこか分かってるの? それとも時間が掛かりそうなら午後に回す?」


「あー……そ、そうですね。では映画を見終わってからにしましょうか。その方がのんびりと選べそうですし」


 今日の主だった目的の水着選びが一時間ちょっと程度で終わる訳がないし、映画に間に合わなくなるくらいならその方がいいだろうと僕も思う。

 分からないのはそれを分かり切っているはずの冬香が午前中にその予定を入れていたこと。いつもの冬香なら映画館なんて予定は入れずに時間一杯まで使って水着を選んでいたはず。つまり不自然極まりない。

 方針を変えたのは僕が怒った後だということを考慮すると、おそらくは午後にも何か計画をしていたのかも。


「冬香、念の為に確認をしておくよ。今日の予定ではもう変なことは考えてないよね?」


「ふへっ? も、勿論ですよっ? やだなぁ! 清花さんってば、少し怖い目に遭ったからって疑り深くなっちゃって! もう、私がそんなことする訳ないじゃないですか!」


「そうだよね。僕の勘違いならいいんだ。そうであってくれて安心したよ」


 言いながら微笑んであげると、冬香は引き攣った笑いを浮かべながら何とか笑みを作り出す。


「あっ、あははは…………はぁぁぁ」


 隠れて溜め息を吐くくらいなら最初から変なことなんてしなければいいのに。

 今の会話はあえて咲夜にも聞かせたから彼女も変なことはもうしないはず。


「……全くもう。本当にごめんね。二人ってば、いつもと違う人がいておかしくなっちゃったみたいで」


 後ろでどうしていいか分からないで愛想笑いを浮かべている彼に謝罪をすると、心外だというような顔をして咲夜が割り込んでくる。


「私まで含まないでくれないかしら? おかしいの冬香だけよ」


「じゃあ今日のお出掛けに関して始まりから終わりまで何も小細工したりしていないってハッキリ言える?」


「……さぁ、買い物の続きをしましょうか。時は金なりよ」


 嘘が分かる僕の前で堂々と宣言出来ないということはつまりそういうことだ。

 肩を竦めた仕草を見せると、景文さんは頭を少し掻いてバツが悪そうに笑う。


「そういう意味だと俺も人のことは言えないな」


「景文さんまで?」


 まさかの自白に僕の目線が鋭くなっていくのが感じる。

 それを受けて彼は両手の平をこちらに突き出した。


「いや、違う。変なことじゃない……と思う。ただ咲夜さんにお願いをしていたんだ。出来ることならお店や車の中とかで隣の席にして欲しいって」


 ……何というか、怒りづらい理由というか。

 他の二人を悪だとすると、こちらは善と区分出来るか。

 お友達という約束を意識しているから距離感を保ちつつ、それでもやっぱりお近づきにはなりたいらしい。


「そのくらいなら二人と違って別に悪く思う必要はないよ」


「そうかな? 俺にとっては割と大きいことだったんだけど」


「自分の娯楽の為だけに裏工作をしているならともかく、堂々と言ってくれさえすれば特に問題じゃないかな」


「そういうことなら次からは堂々とお願いするか」


 隣から聞こえる決意の言葉は聞こえないフリをすることにして二人を追う。

 どうやら午前中の目的はお土産巡りに変えたみたいで、そこかしこにお菓子などのある場所へやって来ていた。

 服屋に行ってしまうと熱中をしてしまって時間を潰してしまうから適度に時間を調節出来るお土産選びにしたといったところか。でも手荷物が増えるのはいいのだろうか。場合によっては一度車まで戻るのかもしれない。


「景文さんはお土産は買うの?」


「家族には暫く会わない予定だから渡す相手がいないんだよね。清花さんが貰ってくれるなら買おうと思うんだけど」


「いいね。それじゃあ僕からも何か選ぼうか。何が好きとかある?」


「清花さんの選ぶ物なら何でも……と言いたいところだけど、俺は甘いのは控えめの物がいいかな。昔から洋菓子よりは和菓子とかが口に合うんだ」


「そうなんだ。僕は大体何でも美味しく食べられるからどれでもいいけど……。強いて言うなら僕も甘い系以外の気分かな」


「もしかして、俺に合わせてる?」


「そういう訳じゃないよ。甘い物は……なんて言うか、よく食べる機会が多いからね」


 女の子は甘い物好きというのはよく言ったもので、自分で買わなくても妖怪退治のお礼にと近所の奥様方から頂き物を貰ったりなどで結構食べる機会は多い。賄賂とかになりかねないので別の地域からの贈り物とかは受け取らないようにしているようだけど、それでも僕たちの担当地域からは少し遠くても色々と送られてくる。

 余ったら学校の女の子たちに配ったりしているから無駄にはなっていないけども、とにかく量が多くて仕方がない。


「なるほどな。そういうことだったら甘い物以外から選ぶことにするよ」


「別々に選ぶ? それとも一緒に見て回る? ちなみに二人は先に行ってもう姿が見えないんだけど」


 今度は意図した訳ではないだろう。冬香が物に釣られてどんどん先へ行き、それに咲夜が付いて行ったように見えた。

 僕達の間を何人もの人たちが通ってすぐには追いつけなくなった辺りでもういいかと足を止めた。

 一応居場所はしっかりと把握しているので問題はないはずだ。冬香にはそれほど遠くへは行かないようには言ってるけど、忘れて離れ過ぎる前に咲夜が止めてくれるだろう。


「えっと、じゃあ一緒にお願いします」


「……前から疑問だったんだけどさ、何でたまに敬語になるの? 景文さんの方が年上なのにさ」


「別に他意はないんだけど、つい癖で出てしまうというか……は、ははは。あまり意味はないから気にしないでくれると嬉しい」


 どうやら彼は過度に緊張をすると丁寧な言葉遣いにしてしまう癖があるみたいだ。

 その時は大変分かり易くてある意味では助かっている。意識されてるんだなと感じればこちらも相応の心構えが出来るから。その後は二人でお店を見て回りながらお土産を決めていく。

 彼がこちらを意識しているのは他の人から見ても丸分かりなようで、何やら生暖かい視線を感じるもののそれを気にしないようしつつ。

 お土産選びで途中に同時に指を差そうとして手が触れた時には黄色い声が聞こえたような気がする。


「……もしかして、僕の変装バレてるのかな?」


「いや、どうなんだろうな。普段の格好と違い過ぎて俺も一目では分からないかもしれないくらいだし、そう簡単には分からないんじゃないか?」


「だよね? だとしたら景文さんのみに反応してるってこと?」


「清花さんの正体がバレてないとなるとそういうことになるかもね」


「へぇ、やっぱり噂通りモテるんだね。確かに、女性の視線は大体そっちに集まってる感じがする」


「それよりも俺がモテたいのは一人だけでよくて……」


「だから口説くの禁止って言ってるでしょ」


「口説いているつもりは……これ、さっきもやったな」


「そうだね。殆ど無意識的にやってるのが分かったよ。知らず知らずで他の女の子にもやってたりしない?」


「いや、清花さん以外に言ったことはないって断言出来る」


 これが嘘じゃないから困ったものだ。

 そんなやり取りをしながら 大門先輩と倉橋さんが好きなものも買っておく。

 どうやら別料金がかかるものの、手続きをすれば送りたい相手の下に包装をして送り届けて貰うことが出来るらしいので他に購入した物品と合わせて頼むことにした。この後はどうせ好き放題に着せ替えられるので手荷物は邪魔になるだろうから大変助かったと言える。

 そうして買った物を送る準備を終えたところで咲夜たちの姿が見えた。


「やっと合流出来た。そっちは買いたい物は買えた?」


「えぇ。こっちも荷物は送ってきたところよ。……で、何をしているの?」


「気にしないでくれると嬉しい、かな。こっちも色々とあったんだ」


 新しいお店に行く毎に試食を勧められ、景文さんが断る度に僕に一つだけが手渡される。

 これを使って彼に食べさせろだということが力を用いずとも分かったからあえて無視をして食べたのだけど、その時の店員さんのガッカリ具合ときたら。その後も景文さん関連で色々あってちょっとだけど疲れた。


「ふぅん? そっちはそっちで大変だったみたいね」


「そっちもということは?」

 

「あの子のお供をして大変じゃないと思う?」


「……あぁ、うん」


「ちょっと⁉︎ それはどういう意味ですか⁉︎」


 すかさず冬香の突っ込みが入るものの、僕達から訂正の言葉は出ない。

 すると彼女は驚愕の表情から一転泣きに入り、僕の腕を掴んで揺さぶってくる。

 段々と体の揺れが更に酷くなったけど、三半規管は鍛えてあるので平気だった。

 今までそんなことを言われたことはなかったのだろう。買い物には気の合う友達同士で行くことが多かっただろうし無理もない。冬香の買い物について行けるのは同類の人しかいなさそうだし。


「別に迷惑とか嫌いって訳じゃないよ。冬香もそれくらいは分かってくれてるでしょ?」

 

「嫌がっていないのは分かってますけどもぉ……」


「いつも先導してくれて助かってると思ってる。お礼に映画館の中で食べられるお菓子を買ってあげるよ」


「んーっ! それならお揃いのポップコーンにしましょう! 最近のは色々と種類が増えていて美味しいんですよ!」


 何とか機嫌は回復したみたいだ。こういう時は彼女の気分屋な性格に助かった。

 ともあれ、時刻もいい頃合いなのでそろそろ映画館に行くことに。

 待ってましたと言わんばかりに手渡された前売り券には四つの並んだ番号があり、当然の如く僕の次の番号には景文さんが渡されていた。手刀が炸裂した。

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疲労してる時はこういうエピソードが滋養に良い
おもしろいので日常回もっとあってよい
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