一話-4 いざ買い物へ
水着を買いに行く日は世間がまだ季節物の買い物をしていない内に行くことになっている。店内に人が多いと話題にされる可能性が高くなるし、そうなったら買い物どころではなくなってしまうかもしれないからだ。
念の為に服装は普段のものから変えることにして、一見すると僕だと分からないようなものにする。いつものヒラヒラの服から白いブラウスとジーンズに変え、それから遮光眼鏡をかけることで正体バレの可能性をぐっと下げることは出来たはずだ。
格好としては今まで清光として着てきたものに近しいはずなのだけど、これまでずっとスカートの類を着続けていたからか逆に着心地に違和感を感じているのは気のせいではないのだろう。
「うぅ、何だか肌に密着してる感覚が奇妙に感じる……」
「たったの数ヶ月で忘れるものなの?」
「それだけ濃い数ヶ月だったってことじゃないかなぁ」
僕ほど着る衣服を意識して生活した人もそうはいないだろうし、こうなるのは半ば必然だったのかも。
「っていうか、化粧までする必要あるの? 別に二人きりって訳でもないのにさ」
「目元に軽く入れただけだし、意識しなければ気づかないでしょう。もし気付いたのなら勘がいいのでしょうね」
軽く言うけど、実は内心楽しんでいるのを僕は知っている。
咲夜は冬香みたいに全力で背中を押してくる訳じゃないけども、その代わりとして先々に罠を仕掛けるような類の奴だということも知っている。
ただ二人が思い思いに動くと色々と面倒臭いことになりそうではあった。
「咲夜にもそれをやられると収拾がつかなくなるからやめて欲しいんだけど?」
「あら、何のことかしら」
「……咲夜にもそういうところがあったんだね」
他人の色恋を楽しむ感性は彼女にはないと思っていたけれど、どうやら咲夜にもその一面はあったらしい。
そのことを指摘したのを理解している咲夜は達観したように見上げて笑った。
「私でも少し意外に思っているところよ。多分だけど、身近な人のことだから気になるのでしょうね」
「そういう冷静な自己分析はいいから。その冷静さでもって悪戯心を抑えてって言ってるんだけど?」
「……仕方ないわね。その役は冬香に任せて私は傍観者の立ち位置で楽しむこととするわ」
「それはそれで悪質だと思うけどね」
「何よ。だったら冬香の暴走を止めなくていい訳? 私はそれでもいいんだけど?」
「ごめんなさい咲夜様。お願いなので暴走だけは防いでくれると助かります」
僕達の中で冬香が暴走するのが殆ど決定している方が失礼なのは言うまでもない。しかしこのことに関しては本人が一番否定出来ていないので罪には該当しないはずだ。
その暴走した冬香を止められるのはほぼ唯一咲夜だけ。
咲夜の怒りの様子は冬香のトラウマになっているらしく、そう見せかけるだけで止めることは可能だ。
特に今回は僕が迷惑を掛けている側ということで強く言えないので咲夜頼りとなっていた。
「分かったわよ。それじゃあ時間だから行きましょうか」
「帽子も付けたし、準備はいいよ」
髪型も工夫を加えて後ろで一つ結びにして徹底的に元々の世間の清花の印象からは外していっている。
これなら景文さんがバレても僕との関係については噂されないはずだ。
ちなみに僕以外の人まで変装しているとかえって不自然になるので咲夜はいつも通りの服装だ。
「でも、これだと男の子っぽい格好過ぎないかな」
帽子が似合っているかどうか最後に改めて姿見で確認をしてみると、中々に自分の中の清花という人物像から離れていっているのが分かる。
動き易さで言えばこちらの方が確実に上だからいっそこのままの格好を続けていきたいところではあるものの、何だかしっくり来ない感覚があってムズムズとするのも確かだった。
そこのところの感想を咲夜はどう抱いているのか。
問われた彼女はこちらを小馬鹿にしたような笑みで鼻で笑った。
「それは杞憂というものよ。仕草と体の線からして格好で貴方を男だと思う人はこの世に一人としていないと私が断言してあげる」
「う、嬉しいと感じるべきかどうか迷うところだね」
「心配だったら土御門くんの反応を参考にすれば?」
「あの人は何を着ても褒めてきそうじゃない?」
「………否定はしないでおくわ」
想像の中ではあるけれど、それには咲夜も納得したらしい。
何かあっても反応出来る僕が手荷物を持ち、僕達は外に出て車を待つ。
どうやら急遽参加することになってしまったからと景文さんの方で足の用意はしてくれている。
当初は徒歩での買い物の予定だったけど、どうせならと言葉に甘えることにしたのだ。
二人はそれならと予定以上の買い物をするつもりみたいで、何やら行き先を練り直していたのを思い出す。
「来たみたいね。時間ぴったり」
咲夜の目に映ったらしい気配はすぐに僕の目の前にも現れた。
有名人ではないと偽装するために一般乗用車(それでも高い部類)の車に乗ってきた二人は入口付近に駐車して降りたみたいだ。
「おはよう。二人とも、今日はよろしくね」
「おはようございます。清花さん、咲夜さん。今日は目一杯楽しみましょうね!」
挨拶をすると、冬香の方は元気一杯といった様子で拳を突き上げる。
対して景文さんの方はと言えば、遮光眼鏡越しでも分かるくらいに顔を赤くしていた。
横にいる冬香も何事かと思って顔を覗き込んでは手で口元を覆っていた。
挨拶することもなく固まってしまったので、とりあえず大丈夫な方に話を振ってみることに。
「身バレ防止の為に変装のつもりで着てみたんだけど、どうかな?」
「勿論すっごく似合ってますよ! 今までが今までだっただけに印象がまるで違いますね!」
「うん。ありがと。冬香も凄く可愛い着こなし方で参考になるよ。それって最近出た雑誌に載ってたやつ?」
「そうなんですよぉ! けど、よく分かりましたね?」
「僕も見てたからね。僕が載る予定のところだし、どんな風に載るのか気になってさ」
「そうです! そのことで清花さんには聞きたいことがいっぱいあったんでした! もう、友達なのに水臭いですよ。そういうのはもっと早く言ってくれないとー」
「ごめんごめん。そもそも話を受けたのがつい最近のことだし、企画が完全に軌道に乗るまで口外しないようにお願いされてたんだ」
もしものことがあって売れなくなったりしたら損害を被るのは企業で、信頼を損なう訳にはいかない出版社側の判断なのだから従うのは当然だ。冬香もそのことは理解してくれたのか、「それなら仕方ないですね」と引き下がる。
「何というか、清花さんもついに有名人としてお披露目なのかと思うと感慨深いですね」
「そんな感慨に浸るような出来事なんてなかったでしょ」
「何を言うんですか! 清花さんと言えば退魔師界のトップアイドル! その美貌で芸能界に殴り込みに行くんですから応援しない訳がありません!」
「何を言ってるの。殴り込みなんてしてないからね」
何故か冬香は残念がっているけれど、そんなことを僕がしても負けるだけだろう。所詮は顔を出している数少ない女性退魔師というだけでしかないのだから。物珍しいから話題になっただけで、一般人としてだったらここまで目立つこともなかったはずだ。
こう言うといつも謙虚だとか言われるけど、どうしたって自分ではそうは思えないのだから仕方ない。
「それじゃあ、そろそろ行こうか……って、景文さんはどうしたの?」
挨拶の時から固まっていたけど、どうしたのか見てみると彼は難しい顔をしてこちらを見ていた。
何か変なところであるのかと服装を確認してみたけどおかしな所は見当たらない。
改めて彼の方に視線を向けると、景文さんは口元を押さえながら顔を赤らめて視線を逸らす。
「いや、凄く似合ってるなって。その……なんと言うか、そういう服もとても可愛いと思う」
視線が突き刺さる。景文さん以外の二つのものがザクザクと。
面白がるなと事前に言ってはあるものの、いざ目の前で起きると抑えきれないのが人情というものなのかもしれない。
それは咲夜であっても例外ではなかったらしいことに僕は少し驚いている。
こういう感情丸出しの言葉をぶつけられるとこちらとしても対応に困るというか、流石に人目は気にして欲しいと思ったり。
「冬香が面白がるので口説くの禁止で」
「いや、口説いている訳では……」
「お世辞は有り難く受け取っておくから。話はとりあえず車に乗ってからね」
「決してお世辞なんかじゃ……っ」
「はいはい。それは分かってるから。いいから行くよ」
彼が本心から言っているのが分かるだけに二人の反応が怖い。
ここで会話を続けていても時間の無駄なのでさっさと乗り込もうとして気づいた。
移動手段である車は高級車なだけあって内部は広く、二つずつの席が向かい合うようになっているのだけど、その内の二つが既に埋まっているのは目の錯覚ではないらしい。
「二人共?」
「何よ。貴方たちが遅いから先に乗っていただけでしょう」
「私も咲夜さんと同じです!」
二人は僕が動き出した瞬間には乗り込んでいたのだろう、そしてわざわざ二人が並んで席を取りに行っていた。
残る座席は二人の対面にある二つのみ。つまりは僕と彼が並んで座るように小細工をしたということ。
これに反応をしていては思う壺なのでさっさと乗って奥に詰めることにする。
「……ほら、景文さんも早く乗って。残りの席が隣しかなくてごめんね」
「えっ、あ、あぁ! 俺は全然! うん、全然!」
このまま乗るべきかどうしようか悩んでいる様子の彼に席を軽く叩いて呼ぶと目線を泳がせながら座る。
全員が座って扉が閉められたことを確認したらしい運転手の人が車を発進させ、車内には走行時の雑音が聞こえるようになる。
「昨日あれだけ言ったのに。二人は自重する気あるの?」
「だから別に何も言ってないじゃない」
「言ってなければ問題じゃないって訳じゃ……もういいや」
口で何を言ったところで咲夜を言い負かすのは無理なのは分かっているのでここは一旦引くことにする。
どうせ咲夜に関してはこれからも一定の距離感を保ちながら弄ってくるに違いない。そこの辺りの見極めは上手いからきっと追求したところでのらりくらりと躱されるに決まっている。つまりこんなことで一々言い争いをしていてもただの時間の無駄だということ。
「ごめんね。二人のせいで居心地が悪くて」
二人のムッとした視線を受けながら景文さんに謝っておくと、彼は気にしていないように笑う。
「いや、まぁ何というか、見られることには慣れているから平気だよ」
「そういえば過去に神童って呼ばれてたんだっけ。それは注目を集めてたよね」
「今の清花さんほどじゃないけどね」
「そんなことはないと思うけど。僕の活動実績で言えばここ最近の出来事しかないし」
「いやいや、その実績がとんでもないからね。初めは俺の功績にされてた白面撃退も段々と清花さんの手柄って認知されてきたみたいだし、やっと正しい評価がされてきたなって思うよ」
そういえば周囲の認識では彼が一緒にいたことで白面と戦ったのは彼だということになっていたことを言われて思い出した。
白面の根城を彼が潰しに行く為にもその方が好都合だからと別にあまり気にはしていなかったから忘れてしまっていたみたいだ。
「それって例の件で? でもアレって口止めの誓約がなかったっけ。いずれは破られるとは言ってたけど、もうされたの?」
「伝える方法っていうのは何も一つじゃないからね。本人たちが伝えようとしなくても無意識下で無理矢理喋らせたり記憶を覗き込んだり。こういうところは昔の頃よりも進化はしているんじゃないかな。いや、これは進化と言っていいものなのか?」
彼の事情を知っている僕がいるからか少し口が軽くなっているようだけど、流石に断片的過ぎて冬香は理解には至っていないみたいだけど構わずに続ける。
「何かしらの方法で僕たちの話は漏れてるってことでいいの?」
「あの場にいた他の奴らには術を使った口止めはしていないしな。伝わってくる内容によっては喝を入れに行かなきゃいけなかったけど、どうやらあっちもそこに関しては弁えているみたいだよ」
「漏れた話の内容まで知ってるの?」
そう聞くと彼は曖昧に笑った。ということは素直に言えないような方法で聞き出したということなのだろう。
それに関してはいずれ聞かせてもらうとして。
「はいはい! 二人が何の話をしているか教えてもらってもいいですか!」
そこで話を聞いていた冬香が手を挙げて質問してくる。
彼女はこの中では当事者ではない上に情報網がないので殆ど何も知らない。
とはいえ、僕だとどこまで話していいのかの線引きが難しいので咲夜に任せることにした。
景文さんもそう判断したらしく口を閉ざし、咲夜は少し言葉を選びながら話し始める。
「清花が退魔師の集まりに呼ばれたのは貴方も知っての通りだけど、そこでこの子が一級退魔師に複数人で襲われたのよ」
「えぇっ⁉︎ そんなことがあったんですか⁉︎ けけけ、怪我とかは⁉︎」
「怪我は自分で治したから平気よ。それで色々あって勝ちはしたものの、相手は退魔師界の重鎮ってことでこっちが涙を飲むことも多くてね。それでもってその件について口外しないって約束まで反故にされた形になったっていうのが今の話のところよ」
「何ですかそれ! 悪いことをしておいてその上約束まで守るつもりがなかったってことですか⁉︎」
「こっちとしてはそれは織り込み済みだから怒ってはいないのだけど、そのことで怒るとしてもまずその事実を立証しないといけないから実質的に罪を認めさせることは難しいでしょうね」
「織り込み済みって、清花さんはそれでいいんですか?」
冬香が納得出来ない気持ちは分かる。本来なら暴行罪やら何やらで捕まるはずの人たちが見逃されているという事実に憤慨するのは当然のことだから。
しかしながらそれが世の常でもあることはいくら否定したいと思っても変えられない事実だ。
理不尽を受けたくないならば理不尽を跳ね除ける程の地位か力を身に付ける必要があり、その途上での理不尽は唇を噛んで耐え忍ぶしかない。
「良くはないよ。でも、今の僕があの人たちを捕まえて欲しいって言っても色んな人たちが邪魔をしてきて結局は有耶無耶になるだけなのは分かりきっていることだから。なら、今の悔しい気持ちは心の奥底にしまっておいて立場が逆転した時に倍返しでもすればいいと思ってるかな」
「それまでは堪えるしかないってことですか?」
「その通りではあるんだけど、個人的にはそうなるまではそう長くはないと思ってるんだよね」
冬香が何でという顔で首を傾げる。
しかし、一つずつ要素を足していけばそこそこの足場は整ってきているのは分かることだ。
「結界術を使えるようになったし、それを使った霊具も作れるようになったから地元で襲われる危険性は無くなったと言っていいからね。今回の件でもう襲われたくないってことで催しに呼ばれても行く必要もなくなった…………なくなったよね?」
不安になって咲夜に聞いてみたところ、彼女は難しい顔をしていた。
「この前言ったと思うけど、貴方は既に五家に注目されているのよ。他はともかく五家の命令を断れるかどうかは内容次第な気がするわね。例えば日本存亡の危機だとか言われたら協力しない訳にはいかないでしょう? でも、ただ単にお茶をして話をしたいっていう程度なら断れると思うわ」
「いきなり話が変わりましたけど、日本存亡の危機ってそんなことあるんですか?」
冬香の問いに咲夜は真面目な顔で答える。
「昨今の情勢を見るに退魔師と妖怪がある一点に注目をしていることは間違いないわ。それは清花という存在を非常に強く意識していること。退魔師側は清花の生存と戦力強化に躍起になっているし、妖怪側は清花が成長しきる前に殺してしまいたい思惑が透けて見えているわね。ここ最近、私たちの所には強めの妖怪が連続して現出しているもの」
「殺すって……」
「側から見てこの子の成長曲線はあの五家が気にするくらい半端じゃないもの。妖怪としても自らの天敵になる存在を放っておくほど馬鹿ではないのでしょうね」
「それだったら今すぐにでも攻めて来ないのは何故なんでしょうか? 成長する前にってことだったら一秒でも早い方がいいはずですよね?」
それは誰だって考えることだけど答えは分からない問題だ。
予測はすることは出来るものの、これだという正確なものはやはり中々出て来ない。
「色々とあるけれど、確実なのは向こうにとってはまだその時ではないということ。そこで思い出して頂戴。貴方の実家に赴いた時、白面は自分の本体を出すのではなく手下の鬼を出してきたでしょう? 自らが出た方が確実に清花を葬れるはずだったのに」
「それは……確かにそうですね。何でなんでしょう?」
「理由として考えられるのはしたくても出来なかったから。この一点から分かることは、あの白面でさえ自身や他の大妖怪が通れるほどの妖穴を作ることは出来ない、またはすぐには作れないということ。だから今はその妖穴を作る準備をしているところでしょうね。それも一つや二つじゃない数で」
「そ、そこまでする価値が清花さんにあるってことなんですか? 清花さんたった一人の為に?」
視線がこちらに集まる。確かに妖怪の天敵だとは思うけど、たった一人だけで日本の行末を左右出来るほどの力が僕にあるとは思っていない。
あのご老公たちや妖怪が何を知っているのかは分からないけれど、共通するのは未来の僕が何かをするということらしい。
「そこのところは土御門くんの方が詳しいんじゃない? ねぇ?」
急に咲夜に話を振られた景文さんは「そうだな」と言って腕を組んで考え出した。
「清花さんの作る結界の霊具が繰り返し使えるようになったとして、それが大量生産されて全国各地へ配備されたらって考えてみたらどうかな? これは妖怪の視点に立ってみて考えれば簡単だと思うよ」
「妖怪的には凄く困りますね」
「そういうこと。清花さんが直接現場に向かわなくても済むような土台は既に出来上がっているんだ。だから俺たちに必要なのは清花さんが霊具を量産する為の研究開発と量産の為の時間。逆に向こうは……」
「清花さんに霊具を作らせないように出来るだけ早くってことですね」
「そういうこと。爺さんたちはその為の準備を推し進めているみたいだし、妖怪はこちらに攻め込む前準備をしている最中なんだよね。実家の人たちもその予兆は感じ取ってるって聞いてる」
そこで景文さんは冬香の方をしっかり見据えた。
何事かと彼女が背筋を伸ばすと、景文さんは頷いて。
「だから冬香さんにも結界を作るようにお願いされると思う。俺からは頑張ってねとしか言えないけど」
「えっ…………と、本気で言ってます?」
僕が中心になっていた話を他人事として聞いていた冬香がまさかの指名に目を剥く。
「浄化の水使いは現状は君と清花さんの二人しかいないからね。清花さんが頑張っている間、何もしない訳にはいかないだろ?」
「それは、そうです……けど」
冬香は祖母の風音様から話を聞いているはずなので、浄界を作る為の準備がどれだけのものなのかは知っているはず。
僕もその話のことは覚えているので冬香の困惑具合については理解出来るつもりだ。
「大蓮寺家次期当主としての仕事としては大仕事になっちゃうだろうけど、まぁそこについては他の浄化使いも似たり寄ったりの状況になるだろうから冬香さんだけが苦しい思いをする訳ではないことは理解して欲しいな」
「いえ、前線で戦ってくれている人たちを思えば後方支援の身で贅沢を言えないのは重々理解はしています。…………ハッ⁉︎ そういえばここ最近になって御当主様が時々様子を見にくるようになったのはそれが理由ですか⁉︎」
「うん。そういうことだね」
冬香も結界を張れるようになり、それを霊具に刻み込むことが出来れば二倍の速度で霊具が生産されるようになる。
そうなるには更なる修行が必要そうだからあまり無理強いはしないであげて欲しいところではあるけど、情勢がそれを許すかどうか分からない。僕は例外として、大抵の退魔師にとって霊力量というのは簡単には解決出来ない問題だから。
まさか自分が五家である土御門家の当主から期待をされているとは思っていなかったらしい冬香は呻き声を出しながら扉にもたれかかった。それを目にした景文さんは苦笑する。
「俺の親がごめんね。でも短期的な成果しか見込めないような視野ではないはずだから焦らないでじっくりと成長してくれればいいと思うよ」
「うぅ、それは分かってはいるんですが……」
「今日のところはお小言を言う人はいないからそんなことは忘れて楽しめばいいんじゃないかな」
「そう、ですよね! 今日は修行のことなんか忘れて遊び倒すんですから!」




