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一話-3 反響と相談事




 あの会合以来……というよりは景文さんとの一件以来と言い換えるべきか。その時から僕の力の増し具合はこれまでの比ではなくなっていた。特に浄化の力の扱い方が飛躍的に向上したことで術の効率そのものが良くなり、少ない消費で今まで以上の実力を発揮出来るようになっていた。

 それは術威力の最大値や敵の攻撃の威力の削り具合も増し、更にはより深くまで浄化の力が刺さるようになったお陰で低位の妖怪は元より中位の妖怪までが僕の相手にはならなくなってしまった。

 体力があり倒すのに時間を掛けていた妖怪でさえ、存在の核……人間で言うところの心臓部に力を浸透させていけば容易く消滅させられるようになって────


「ぎょぇ……」


「あらら、またすぐに消えちゃった」


 浄化の力を扱う練習の一環で大量の水は使わずに少ない水の中にある浄化の力のみで妖怪を倒してみているのだけど、あまりにも効果が強すぎるのか低位の妖怪は一瞬で蒸発するように消えてしまう。

 これでは練習にならないので中位の妖怪をわざわざ出張してまで倒しに来たというのに、これではあまり意味がない。

 しかし上位の妖怪に対してそのように手抜きをしていれば足元を掬われかねない。いくら結界を張って万全を期しているとしても危険なことには変わりない。

 

「あ、あの! 清姫様ですよね⁉︎」


 一人でうんうん唸っていると、どうやら人払いの結界が解除されて一般人の人がやって来てしまったみたいだ。

 今回は術の訓練も兼ねての出張しているということもあり、寄ってきているのは地元の人たちではない。僕を見慣れてしまった人たちは今はもう事ある毎にやって来ることはなくなったけれど、この近辺の人たちは初めましてということでか何故か期待に満ちた顔をしていた。


「今回は地元ではなくこちらまで来てくれたんですか⁉︎」


「もしかして、こちらを活動拠点にして下さるとか⁉︎」


「あぁ、いえ……今回は退魔師の数が足りず救援要請を受けて来ただけですので」


 そう答えると目の前にいる人たちはがっかりしたような顔をする。

 ここに僕が来るということは事前に知らせてはいないのでそこまで多い人数ではないものの、後ろの方で写真を撮ったりしている人がネットにこのことを上げてしまいそうなので早めに撤退した方がいいだろう。


「それでは、僕はこれで……」


 頭を下げて後ろに跳ぼうとしたところ、目の前にいる女性……若い二十代前半くらいの人が声を張り上げる。


「あの! 雑誌に出るって本当ですか!」


「雑誌……というと、ラブリーのことですか?」


「そう! それです!」


 ラブリーとは以前に僕をモデルとして色々と撮って貰った会社のこと。まだ発売はしていないはずだけど、そういえば咲夜が先行公開がどうとか言っていたのを思い出した。

 僕が雑誌に載るということと雑誌に載る一部の写真がネットに上がっているはずだから、おそらくはそれを見てくれたのだと思う。

 ここで少し宣伝しておけばわざわざ起用してくれた会社の為にもなるかと思い、向き直って手を胸に添える。


「そうですね。有難いことにお声を掛けて呼んで頂けたので、出来る限り精一杯頑張ってみました。もしご興味がおありでしたら、良ければでいいので一度手に取って一読して下さると嬉しいです。よろしくお願いします」


 他所行きということで思わず出てしまった淑女の振る舞いと微笑みが刺さってしまったのか、いつぞやの男性たちよろしく固まる目の前の人たち。

 ずっと写真を撮っていた人たちの手も止まり、僕の顔を食い入るように凝視していた。


「えっと、それでは……っ!」


 これでは何が起こるか分からないので、宣伝も終わったしこの場を早々に離れることにする。

 後ろで何やら騒いでいるようだけど、いつも通り行かないでという声だから気にしないことにした。

 それにしても雑誌のことが知ってくれている人がいるというのは嬉しいことだ。

 僕に人気があるのは一過性の流行のようなものだと思っていたし、他の人気のある人と違って頻繁に目立った動きを見せている訳ではないから一般の人たちには忘れられているかと思っていた。

 それでもこうして知ってくれていることは嬉しいと思う。

 これならまた仕事を受けてもいいかもという気になってくるものだ。


「順調にアイドル化計画は進んでいるようね」


 という咲夜の満足気な声を聞くまでは。


「アイドルなんてしないけど?」


「モデルも人に見られる職種という意味では同じでしょう。そのモデルを進んでやりたいという気持ちが芽生えてきたなら作戦としては成功ね」


「………………」


 新しい服を着るのは段々と好きになってきた。着飾っている自分が段々と綺麗なものに変わっていくことが楽しみになっている自分がいる。

 休日の朝に選ぶ服の幅が広がっていったなと自分でも思うし、可愛いと言われることに初めは抵抗感があったのに今では素直に受け入れられていた。少なくとも拒否感のようなものはもう感じていない。

 そう思えば確かに咲夜の思惑通りに進んで行っているなと感じる。


「今の貴方なら、別にアイドルもそこまで嫌なものではないんじゃない?」


「それは……そうかもだけどさ」


 実際に仕事をしてみて楽しいと思ったのは嘘ではないからこそ咲夜の言葉を強く否定出来ない。

 すると咲夜は頬杖をつきながら感情の読めない顔に変えた。


「まぁ、けど今はそこまで貴方をアイドルにしようという気はないのよ」


「言ってることがさっきと違うけど?」


「やれるならやった方がいいとは思っているわ。その方が貴方の成長に繋がるだろうと思ってね。でも成長速度は私の想像以上だし、自分でもしっかり前に進もうとしてる。だから本当に嫌ならしなくていいと今は思い始めているというだけの話よ」


「そうなんだ。何が何でもやらせるつもりだったのかと思ってたよ」


「貴方はどういう目で私を見ているのよ」


「そう思わせるくらいにはやらせようとしていた自覚はあるでしょ?」


 そう問うと咲夜は嘘は言えないのか、視線を逸らした。

 これに関してはもう考え方を変えたようだし、僕がやりたいと言わなければ計画は始動しないので気にしないことにしよう。


「そういえば、雑誌の発売はもう少し後になるんだよね?」


「えぇ。夏までには間に合わせるでしょうけど、流石にあの量の写真を編集して短期間に仕上げるのは無理でしょうね。発売は必ずすると言っていたし、それまで首を長くして待ちなさい」


「楽しみだよね。うん。そう、夏……夏と言えば冬香と約束したことがあったと思うんだけどさ」


「水着を買いに行くって話? それがどうかしたの?」


「えっと、そのー……」


 よく考えなくとも二人の同意を得てからにすれば良かったと後悔している。そうしていればここまで言い辛いこともなかっただろうに。

 しかし自分から話すと言った以上、きちんと話を通しておかないといけない。


「その水着を買いに行くのに景文さんも誘っていいかな?」


「彼を?」


「う、うん。お友達からってことにはなったんだけど、僕とあの人だと学校も違うしお互いに忙しいから中々会えないでしょ? でも直近で僕の空いてる日で会えそうなところってそこしかないよね」


 二人からすれば異性がいきなり混じるのは嫌かもしれないし、そうなったら彼には悪いけれどまた今度ということになる。埋め合わせはするつもりだけど、そう簡単には時間が取れなさそうなのも事実で。

 咲夜が予定日に霊脈を観測をして問題がなければになるからどうしても僕たちの予定日は不安定になりがちだ。代替の人員も層が厚くないし、いざという時に頼りになる人が少なすぎるのが問題だ。

 だから、出来れば二人が大丈夫というのであれば誘いたい。

 言葉を出してから咲夜は考え込んでいるようで中々口を開こうとはしなかった。

 こちらが不義理なことをしている自覚はあるので催促なんて出来ないものの、待っている時間は居た堪れない気持ちではある。

 何せ彼の気持ちを知った上での同行なのだから。それを分かっている咲夜がどんな風に考えているのか。


「……私はいいわよ」


 色々と思考を巡らせていた咲夜だけど返ってきた言葉は淡泊なものだった。


「そ、そっか。先にお伺いを立てておかなくてごめんね?」


「それはいいんだけれど……。とりあえず冬香にも連絡しておきましょうか。今の時間なら出るはずだから」


 そう言って咲夜が通話をかけると、間も無くして冬香が出たようで何やら話し込んでいるみたいだった。


「えぇ、それじゃあそういうことでよろしく。日時に関しては今はそのままで。早朝七時には決めるから当日は彼と一緒に来て頂戴。えぇ、よろしくね。それじゃ」


 あまり会話の内容は聞こえなかったけど、どうやら冬香も許可をくれたみたいではある。


「話はある程度分かってると思うけど、冬香からも大丈夫だという返事を貰ったわ」


「うん。後で僕からも冬香にありがとうって連絡しておくよ。それで、さっき何か言葉を濁していたようだけど、景文さんが来ると何か不味いことでもあるの?」


 咲夜がああいう反応をする時は大抵が何かある時なので見逃さずに問いかけると、彼女は難しい顔をしていた。


「彼と仲良くしておくことは悪いことじゃないから私も積極的に顔を合わせるべきだとは思っているけれど。貴方、今の彼を見て冬香がどんな反応をするかまでは考えていなかったでしょう?」


「えっ⁉︎ そ、そんなに今の景文さんって分かり易い?」


 聞くと咲夜は大袈裟と言っていい程に大きく頷く。どうやら咲夜が考えていたのは僕とは別方向のことについてだったみたいだった。


「それはもう。おそらく冬香がその可能性に気付くまでにそう時間は掛からないでしょうね。持って一時間……いえ、三十分持てばいい方じゃない? そして実際に会って確信するでしょうね」


 観察眼に長けている咲夜だからだと言いたい所だけど、冬香もそういう部分には鋭そうだから咲夜の言う通りになるかもしれない。

 そうなったら最後、どのような経緯で今の関係に至ったのか根掘り葉掘り聞かれることになるだろう。

 確かに考えなしだったかもしれないと今更ながらに後悔している自分がいる。


「遅かれ早かれ気付かれはしていたでしょうし、冬香に関しては諦めて弄られなさい」


「うぅ……仕方ないか」


 あんな事があったから名雪さんからの追及はされずに済んだものの、代わりに冬香からされると考えると気が重い。

 しかし冬香の場合は顔を合わせる回数も多いし、学校も同じで冬香自身が土御門家に居を移している為にこの話題から逃れることは出来ない。

 とはいえ、何を言われようとも彼との関係はあくまで友人関係なのだから追求されたところで上手く躱せばいいだけ。

 ……出来る、かな。

 すごく不安だ。僕よりも彼の方がボロを出してしまわないか心配だった。


「最初から事情を話しておくのとどっちがいい……って電話かかってきた」


 端末には冬香の文字が表示されている。僕の方からは後で話すと咲夜は伝えていたのに、もう我慢出来なくなったか。

 咲夜がとりあえず出ればと言うので通話開始を押す。


『清花さん! どういうことなんですか⁉︎』


 耳に近づけていないで助かった。鼓膜を破らんとする声量にこのまま端末を少し離したままにしておく。


「もしもし、こんにちわ。冬香」


『うん。こんにちわ……って、じゃなくて!』


 落ち着いて宥める作戦は失敗した。


「はいはい。分かってる。分かってるから大声は出さないでくれる?」


『そんなこと言ってられないですよ! 一体何がどうしてそうなったのか気になって夜も寝られないんですから! 一から十まで全部話して下さい! さぁ! さぁ! さぁさぁさぁぁっ!』


 そこまでかと思いつつ、事情を話すことに。

 あちらで起こったことは適当にぼかしつつ、景文さんとはお友達から始めることにしたことを説明する。

 途中で事件性のありそうな悲鳴じみた歓声があがったけれど、それは無視をすることにした。


「という訳で、個人としてあまり会える機会もないと思って一緒に誘ったんだ。水着を選ぶ時は別行動をするつもりだから……」


『とんでもない! 一緒に見て選んで貰いましょう! この機会を逃すなんて勿体無いですよ!』


 突然何を言い出すのだろうか、この子は。


「その場合、自分たちも水着姿を見られるのは分かって言ってるの?」


『寧ろご褒美では?』


「僕は時々冬香が何を言っているのか分からない時があるよ」


 男性アイドルについて時々語る時も訳の分からないことを言うことがあるし、やはり退魔師や妖怪とは関係ない生活を送っていた時期が長いことが関係しているのだろうか。ちなみに咲夜も呆れた顔をしていた。


『だってあの景文さんがですよ!? 清花さんも同じくらい有名ですけど、やっぱりあの人は別格っていうか。小さい頃からイケメン凄腕退魔師を続けていられるのって単純に凄くないですか⁉︎』


「小さい頃からイケメン?」


『それくらい容姿が整ってたんですよぉ! それでいて大人びてて、驕ることなく謙虚で、人々の危機に颯爽と現れる! 下手をするとテレビのイケメンアイドルより人気があるくらいなんですよ!』


「そ、そうなんだ。有名なのは知ってたけど、僕が気にしていたのは退魔師としての実力の方だったから。あまりそっちの方は気にしたことがなかったよ」


『清花さんはそう言うと思ってました。けど安心して下さい! 咲夜さんにさっき言われてから過去の写真などを堀り漁ってたので! 後で送りつけますので御覧下さいね!』


「本当に何をしてるのさ」


 そんなどうでもいいことはいいから、それよりも修行でもしろと思ってしまう。

 景文さんの事情について知った今なら冬香の言った内容のことも理解出来た。小さい時からそんな活躍をしていたということは、おそらくは幼い頃には前世の記憶があったのだろうと思う。

 その力を隠さずに世の為人の為に役立ててきたのは本当に偉いなと思う。


「冬香。そういうのは本人が嫌がるかもしれないから止めておこうね。その過去の写真とかは捨てておくんだよ」


『でもでも! 好きな人に自分のことを知ってもらいたいっていう欲求は彼だってありますよ!』


「それだったら本人から直接聞くから。こっそり裏で調べ上げるのは違うかなって僕は思うよ?」


『うっ……清花さんがそこまで言うのでしたら諦めます。私の激押しコレクションだけにします』


「全く人の話を聞いてないね」


 自分の生活について裏でこっそり見られているのはあまり気分として宜しくないものだと思う。

 ネット上では僕の情報が少ないはずなのに数少ない写真が出回ってしまっているから何となく分かる。

 街に出れば当たり前のように隠し撮りだってされるし、同じ立場を経験している身からすれば本人が望んで公開したものでない限りはあえて見る気は起きなかった。


「景文さんの個人情報は置いておくとして、とりあえず当日の予定だけ決めておこうか。冬香としては景文さんに水着姿を見られるのは平気ってことでいいの?」


『私は大丈夫ですが、咲夜さんはどうなんでしょうか』


「咲夜は水着を見られるのはどうなのかって」


「私も別にいいわよ。視界に映るのは清花だけでしょうし。実害はないわ」


 それはそうだろうけども。

 二人が平気と口にする理由の中には僕達の反応を見たいからというのがあるのだろう。僕の知る知識では女性というのは異性に対してみだりに肌を晒さないものだ。海やプールで遊ぶ時ならともかく、水着選びの場に連れて行くということはしないはずだ。

 電話越しだから冬香は分からないけど、少なくとも咲夜にそのつもりがあるのは確かだろう。


「……咲夜も平気だって」


『それは良かったですー! こんな特大のおもし……じゃなかった楽しい出来事は見過ごせませんからね!』

「いま面白いって言わなかった?」

『言ってないです。お二人には是非とも私たちのことは気にせずに過ごして頂きたい! 私たちは学校でも会えますし、だったら滅多に会えない人と話した方がいいですもんね! 時間は有限ですし、もっと有効に使わないと!』


「いや、今回は元々二人と約束をしていたんだし。そりゃあ無視をするつもりはないけど、彼はあくまで付いて来るって感じだよ? そこのところは景文さんも理解して貰ってるから。だから僕を撒いて二人で先に帰るとかしないでよ?」


『────勿論ですよ。全く何を言ってるんですか。ハハハ』


 冬香の分かり易い反応は電話越しだから有難い。でもって、隣で同じように心の中で反応していた人がいたのを僕は見逃していなかった。


「咲夜も、分かった?」


「分かったわよ。それならそれで楽しむつもりだから先に帰ったりしないことは約束するわ」


「……まぁ、とりあえずはそれでお願い。それとわざとらしい言葉選びしてるのは分かってるから言い訳は聞かないからね?」


 咲夜のことだからこれくらい言えばその場で弄って遊んでくることに留めるだろうけど、それくらいはいきなり彼を誘った身として甘んじて受けよう。

 同時に冬香のうざ絡みも捌かなきゃいけないのは大変だけど。


「ちなみに途中退場がダメだからって当日になって体調不良とかで不参加もなしだからね? それをやったら浄化の水を直接ぶっかけるから」


 電話からは息の詰まったような声と、隣からは舌打ちをするような感情が。


「……全く。彼との時間は別個にちゃんと作るつもりだから。今回は元々二人との約束だったんだから、そのつもりでいて欲しいな」


『ごめんなさい。ちょっとふざけ過ぎました。でもでも、あの景文さんが清花さんにっていうのはそれくらいびっくりする出来事だっていうことはご理解して欲しいです』


「えっと、それは彼の実力とか家柄とか生い立ちとか……あとは顔の関係でってことで合ってる?」


『そうですよー! あの人、陰で実は男色なんじゃないかって噂されていたくらいには女っ気がなかったんですから! いえ、周りに女の子が群がりますし、仲良さそうにしてる女の子友達とかもいるみたいですけど! 恋愛的に! そう恋愛的に噂になる人が全くいなくてですね!?』


「あー、うんうん。聞いてるよ。周りが牽制しあってる間に段々と遠慮がちになっていったんだってね」


『やっぱりですか⁉︎ そうじゃないとあんな優良物件に相手がいないのはおかしいですもんね!』


「人のことを物件呼ばわりするのはどうかと思うけど。まぁ、言いたいことは分かるよ。上位妖怪がお金になるのは僕も分かってるつもりだし」


『それで言うと清花さんも同じですし、やはりお二人はそうなる運命として巡り会ったのかもしれませんね!』


「運命、ねぇ」


 占い師である文奈さんにいいように結果を誘導されてしまった身としては運命という言葉には些か疑問がある。

 あの人は景文さん伝手に聞いた話だと一時的に弓削家にお仕置きで幽閉されたものの、名雪さんたちの嘆願で一時的に解放されたらしい。

 その代わりに行動は逐一監視されているし、接触出来る人間は限られているので今度はそう簡単に周囲を操ることは出来ないはずだと報告も受けている。けど、それがどこまで実行力があるかは疑問なところだ。


「運命とか関係なく、この道は自分で選んで自分で掴み取ったものだと僕は思っているよ」


『え゛ぇっ⁉︎ それは清花さんの意思で景文さんを受け入れたという認識でよろしいのですか⁉︎』


「うわ、ちょ、鼻息が荒いって。別に婚約した訳でも結婚した訳でもないのに」


『でもそうなる可能性も嫌ではないからお友達から始めることにしたんですよね?』


「そこについては自分でもよく分からないよ。だから最初から初めてみようって思ったんだし」


『ギィヤァァァ⁉︎ 甘酸っぱい⁉︎ 何だか聞いてて口の中が甘酸っぱい気分で一杯ですよ! でも、ご馳走様ですっ⁉︎』


 本当の本当に、時々冬香の言っていることは分からないことがあって困る。通話の向こう側で親指を立てている姿が浮かぶような喜びようだった。何故だかその場で足踏みをしているような音も聞こえているのは謎だ。

 黙っていると何やら端末からは「ぐふふっ」といううら若き乙女が発する言葉として不適当な声が聞こえてくる始末。


「だから冬香にはそっち方面で何か助言を貰ったりすることがあるか」

『そういうことなら是非! 私に任せてくれれば景文さんとの仲もぐぐっと進展すること間違いなしですよ! ふふっ、ふへへへ……っ』


 言葉に被せてくる辺り積極的に協力はしてくれそうだけど、これはやや暴走気味なのは間違いないか。


「先に言っておくけど、自分が面白がる方を優先したら相談先を変えるからね? あと今後冬香には情報が届かないように徹底的に遮断するからそのつもりで頼むよ」


『…………そ、そんなことする訳ないじゃないですか。私はいつもいつでもいつまでも真剣に物事に取り組んでいますよ? 恋愛関係に関しては特にと言ってもいいくらいです』


「そうなんだ。じゃあ一回でも悪戯したらどうなるかは覚悟してるってことだよね?」


「せめて三回……いえ、五回にして貰えませんか?」


「何でそこで増えるのさ。それは自白しているようなものだよ」


 向こうからは誤魔化すような笑いが聞こえてくる。

 恋愛は女の子の娯楽とも聞くし、そこについては多少のことは仕方ないと割り切ってはいる。しかし初めにこう言っておかないと止まらない場合があるので釘を刺しておく必要はあった。

 同じような反応をするだろう名雪さんには僕と景文さんのことは伝えていないけれど、果たしてあの人が知ったらどんな反応をするのか分からない。もしかしたら次の日にでもここまで突撃をしてくるかも。

 あまつさえ冬香と二人が組んだりしたらと考えると末恐ろしい。

 いや、あり得ない未来についてあれこれと考えるのは止めにしよう。二人が出会う可能性は僕の見立てだと限りなく低いはずだ。


『それではまた! その日を楽しみに待ってます! ……ぐふっ、ぐふふっ』


 嫌な予感を感じさせる奇妙な笑い声と共に通話は終了したのだった。

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ドミーハーな子が一人いるとなんか安心感あるな…… ところで修行の進捗どうですか
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