四話-4 特級の重み
「勝手に君たちの処遇を決めてしまっていることに関しては申し訳なく思うよ。けどね、二人が結婚するとなると力関係を考えて土御門には迎え入れられない。同じ意味で清花嬢の本家である大蓮寺家は今は土御門の派閥だから婿に出すことも出来ない。景文が別の家を興すとなるとそれは土御門の派閥と何ら変わらない。ここまでは分かるだろう?」
なるほど、この人は逃げ道がないようにと丁寧にわざわざ解説をしてくれているらしい。
ただそうしたくてしているというよりは、しなければならないと誰かから言われている印象ではある。
それこそ先ほど言っていた連合評議会なるものからだろう。
「そうですね。だから残る選択肢として僕なんですね」
「大蓮寺姓を名乗っているとはいえ今のところ君は土御門家自体に深く関わっている訳ではないからね。多少の縁があることは多めに見て貰うとして、必要な時以外で土御門家が極力関わらないことを条件に景文を婿に差し出すことになったんだよ」
「そちらはそれで納得しているのですか?」
「しているとも。させられたと言い換えてもいいけどね」
その言葉の意識はどこかの誰かではなく目の前にいる景文さんに向けられていた。
思い出したのは先の戦いの始まる前に家族や特級退魔師と戦ったという出来事で、そこで彼は力でもって自分の意思を押し通したのだったか。
「聞いています。家族全員と特級退魔師で襲いかかって……という一件ですね」
「ちょっと待った」
なぜか本日一番の精神の乱れを感じた。
「誰から聞いたか知らないけど少し語弊があるね?」
「特級以外の人は返り討ちに遭ったと聞いてますが」
「景文?」
当主の視線が鋭く突く。だけど当の本人はどこ吹く風といった様子でほくそ笑んでいた。
「厳然たる事実かと」
「事実だったとしても過程を省くのは良くないなぁ」
「場合によりけりですが、今回は事実の方が重要でしょう」
笑顔が本来は攻撃的な行為だというのは有名な俗説だけど、二人の間にあるのは正にそれだった。
この状況をどう受け止めればいいのか僕には分からない。
流石に話が脱線し過ぎだと感じたのか、咲夜が手を挙げた。
「失礼。話を本題に戻して頂きたいのですが?」
「あぁ、そうだったね。さて、どこまで話したんだったか」
「ご子息を婿に出す気があるところまでです」
「そうだったね。ありがとう。そんな訳でどこにも居場所が無くなってしまった景文をどうか貰ってやってはくれない?」
そうは言うけど、流石に即答しかねる話題だった。
まだお付き合いの段階にすら至っていないというのにそれは気が早いとしか言えない。
必要な工程としてあと一つ、絶対にしておかなければいけないことがある。
それまでは答えを出すことは出来ない。そのことは景文さんも察しているからか何も言わないでいるみたいだ。
そんな僕たちに当主は首を傾げ、少しして咲夜が「恐れ入りますが」と割って入った。
「当人ではない私が口を挟むのも野暮ではありますが、二人はまだその話をする段階に至ってすらいないかと」
「うん? それはどういう……」
意味が分からないといった様子で土御門家の当主は息子の方を見る。
それから何かを悟ったような顔をしてから額を叩く小気味良い音が響いた。
「まずはそこからだったか! だから小さい内から女の子の扱いに慣れておけとあれほど……っ!」
「女性の扱い方に慣れていない人の助言に聞く価値はないと思っていたので聞き流していました。まさかですが、ご自分がそれに長けているなどと盛大な勘違いされているのでは?」
大仰に嘆いた様子の当主の動きがピタリと止まる。どうやら思い当たることがあるらしい。
「もし当主様が女性の扱いに長けているのならば今の後継者争いは起きていないと思いますよ。私の母以外は自分の息子こそ当主に相応しいと主張しあっているそうではないですか。そんなドロドロの人間関係を見てきたからこそ、俺は軽い気持ちで女性に接したくないと思ったのです。貴方のように外に妾を作って隠し子を拵えているような人にはなりたくないんですよ」
僕は咲夜を見た。
口を閉じてろと仕草で言われたのでそうしておく。
彼の裏事情を知る身としてはそれだけではないことは知っている。それとは別に幼い頃からの経験が彼の異性関係を歪なものにしたのだろう。いっそ前世の記憶というのが無ければそういうものだと受け入れられたのかもしれないけど、それは栓なきことだ。
「……ちなみに、今の話を妻たちには?」
「余計に拗れるだけでしょうから話してませんよ。それとも大々的に触れ回った方が宜しいですか?」
「いやぁ、そういうのはあまり……で、何が欲しいの?」
「今回の会合への不参加を要求します」
「招待状はこちらにも来ているんだけど?」
「辞退して下さい。それで俺たちとは距離を置くことを内外に示せるでしょう」
景文さんから提案された話について当主は悩んでいる”フリ”をしている。
というのも、この人にとっては隠し子がどうのといった話は別に自分にとって不利な話とは思っていないからだ。
息子からバラすぞと脅された時も動揺した様子を見せても心は揺れ動いてはいなかった。
だから今の話も当主からしたら応じる必要性を感じてはいない。それよりも応じた場合の利益や損失に思案している様子だ。
これを伝えるべきかどうか迷うところだけど、この人の考えが掴めない内は黙っておく方が良いかもしれない。
「確かにそうかもねぇ。でも……」
ここが攻め時だ、と思ったのか当主の目が怪しく光った。
「それじゃあ釣り合わないな」
態度からして、景文さんの要求の方の秤の方が重いと言いたいらしい。
つまり要求を取り下げて別のものにするか、自分からの要求を呑めと言っている。
それに対して景文さんは怪訝さうな顔で口を閉ざし、咲夜は何かを思案している様子。
「一応聞いておきますが、釣り合わないのはどちらの方ですか?」
当主を観察しているとこちらを試しているような感情が見え隠れしている。もしかしたら自信あり気に見せてこちらに誤解をさせておく手法かと思ったのでとりあえず言葉の意味するところを明確にしておくことにした。
どうやらそれは当たりだったようで、バレちゃったと茶目っ気のある表情に移り変わる。
「流石は清花嬢だね。こういう手は通用しないか」
「言葉を明確にしないのは大人の人のあるあるですよね。それで、どっちなんですか?」
「言葉を明確にしたがるのは子供のあるあるさ。清花嬢はどっちだと思う?」
これもよくある大人の意地悪だ。ならばとこちらも強気に出ることにした。
「圧倒的にこちらが有利ですね。あともう十個ほどは要求を突きつけていいと思っています」
「えー、十個は言い過ぎじゃない?」
「じゃあ二十個で」
「…………」
「退魔師は実力主義なのは同意頂けるかと思います。つまり僕たちの力関係を考慮すれば百や二百は要求を出来ますよね。ですので、これはこれからのお互いの関係を考えての譲歩と言えるでしょう。三十個」
「ち、ちょっと待とう。一旦話し合いを……」
「四十個」
「分かった。会合には出ないことにしよう。それでいいかい?」
「ありがとうございます。では三個におまけしておきます」
「…………ははは。景文、凄い子を見つけてきたものだね」
主導権を握られたらいいように言いくるめられることは分かりきっていたので勢いで誤魔化しておいた。これは武力という点においてそれなりに自信があるから出来ることであり、半ば脅しのようなものであることは自覚しておかなければならない。
この方法で相手を黙らせるやり方は僕たちの嫌ってきたやり方だからだ。
「乱暴なやり方は謝罪します。その上で申しますと、そういった胡乱な態度を続けるのであればこちらもそれに則した対応をしなければいけないことをご理解下さい」
「対して清花嬢は真っ直ぐだね。その真っ直ぐさは退魔師の世界にはそぐわないものではあるが、君の力はそれを押し通す力があり、尚且つ数多の悪意から身を守る壁にもなる。色んな意味で扱いの難しい子だ。ある意味では特級らより厄介だよ」
「つまり何が言いたいのですか?」
「いや何、私のような古臭い考えを持つ人間には荷が重いなと思ってね。古くからの慣習にどっぷりと浸かってきた身としては急な変化に対応するのは難しいんだ。景文はまだいいとしても、清花嬢に対して自分が格上だという感覚が抜けきれない。気を抜けば手痛いしっぺ返しを食らうことになるだろうね。……正直な話、こうしておどけた態度でいるのはそれを誤魔化す為でもあるんだよ」
「えっと、それは大変お疲れ様です」
「あぁ、もう疲れたよ。いつもならああしてこうしろと命令するだけで事が済むんだけど、君が相手だとそうもいかない」
最初に威圧をし合った時にお互いの格付けはもう決まっていた。土御門家の当主の実力では僕の結界を越えることは出来ないのに対し、僕の浄化の力は容易くこの人を貫くことだろう。
これだけ近くにいたとしても結果は変わらない。悪意の察知と同時に結界を展開しながら”纏”を着込んだ僕に対し有効な攻撃を出来るとしたら特級退魔師くらいなものだろう。それは先の戦いを通して自分でも肌で実感出来ていた。
そして、それが分かるからこそこの人は僕に対して五家の当主という本来なら最高峰に近いはずの身分を上手に使えずにいる。
何故ならその身分は実力があってこその地位だから。
天下の五家の当主だろうと、その権威が通じるのは同等かそれ以下の実力の者に対してだけ。
本来は特級退魔師という天上の存在のみが例外のはずだったけれど、新たな例外が目の前にいて、それが自分の息子と同年代の女の子であるという点が思考を鈍らせているのだと思われる。その点に関しては同情の余地があるとも言える。
これで僕の立場が低ければ今すぐにでも結婚をしろと命令でもされていたのかもしれないと考えるとやはりないか。
そんな事情があってか、目の前の大人はわざとらしく溜息を吐いた。
「もう薄々と察しはついているだろうけど、景文と清花嬢に関しては特級退魔師への昇格は確定しているんだよ。空いた枠を埋めるという意味もあるけど、それを差し引いても君たちの実力は彼らと遜色ないからね」
「やはりそうでしたか」
「そうなんだよ。だから特級退魔師になる君の不興を買わずに、且つ当主としての体裁を保たなきゃいけないこの苦労を分かってはくれないかい?」
「心中お察しはします」
あえて『は』と付けたことは気付いたようだ。こうして自分を弱く見せてはいても、やはり五家の当主という立場は強い。それを分かっているからこそこういった態度を取ることが出来るのだろう。それでも自分が有利だという確信がなければこの人の立場では上を取り続ける方が自然だから。
つまりまだ何か僕たちに対して優位に立てるような何かがあるということ。
ここまでがこの人にとっての既定路線だとしたら、ここから先に何か仕掛けがあるのかも。
「ところで清花嬢、こんな話を聞いたことはあるかい?」
なんて事ないような話をしようとする土御門家の当主の顔は、しかし不気味な色彩の感情を内包していた。
それは息子である景文さんにも分かったようで。
「何を話す気ですか?」
「ただの世間話さ。実は色んな所から相談されていることがあってね、清花嬢にも関係のあることだから聞いておきたい」
「色んな所……?」
当主という立場であれば雑多な要望は無視出来るはずなのにしないと言う事は、この人にとって意味のあることだということ。そしてそれは今も感じている感情から意地悪の方に偏っているに違いなかった。
年甲斐もなく意地の悪い笑みを浮かべた名家土御門家の御当主様は、足元の座布団の下から分厚い封筒のようなものを取り出した。
「これが何だか分かるかい? おっと、すぐに渡すからそんな目で睨むんじゃないよ」
さっき自分の態度をフリだと言っていたけど、これは嘘というより無意識にまで染み付いているのだろう。景文さんから睨まれた当主はその封筒を僕に向かって投げて渡してきた。
それを拝見すると、中身はどこかで見たような便箋がいくつも見受けられる。
「あら、この前に焼いて捨てた物と同じね」
「こうなることを見越して二通目を書いていた、と」
「その代わり数は減ったようだけど」
隣にいる景文さんが何だろうとこちらを伺っているので一通差し出してみる。
受け取った手紙を読んだ彼は力のあまり手紙を握り潰し、そのまま左右に引き裂いてしまった。
「これはどういうことでしょうか。説明して頂けるのですよね?」
「説明も何も見たまんまだよ。全て清花嬢への婚約申込みのお手紙さ」
「俺はどうしてこれを渡してくるのか、ということについての問いをしているんですが」
「つまりはあれだ、自分たちにも、あるいは息子にも機会が欲しいということだよ。お前よりも自分の方が良い男だから、清花嬢は俺の方が相応しいってな感じな訳だ。比べられて決められるならまだしも、その前から決まってるってのは納得いかないってのは理解出来るかい? ……出来てないみたいだね」
これは…………僕はどんな顔でこれを聞いていればいいのだろう。
景文さんから告白をされた時とは別種の恥ずかしさというか。
恐らくこの感情を形容する言葉はこの世にないのだと思う。
そういう会話は少なくとも僕のいないところでして欲しかった。
この人は僕がそう思っているのを分かった上で言っているのだろうけど。
……いや、僕ではなく景文さんがどう感じるかについて分かった上でか。
道理で悪意の方向が僕ではなく景文さんの方に向いている訳だ。
どうしてこんな話をわざわざここでしたのか。
「それは俺ではなく清花さんの決めることだ」
「いいのかい? お前よりイケメンも何人もいる。中には女の子の扱いに長けた奴だっているよ? 話を聞くと周辺の女の子は皆そいつにベタ惚れらしいね。そのせいで周囲の家から嫁取りに苦労していると苦情が来る程だって聞いてるよ。対してお前はどうだ? 同じく特級に認定されるとはいえ、男として清花嬢に相応しいと本気で言えるのか?」
「くどいですよ。それを決めるのは清花さんだ。何度も同じことを言わせないで欲しい。少なくとも、俺は貴方みたいに権力で相手を意のままに操ろうとは考えていないことだけは確かです」
何とも男らしい一本筋の通った回答を真っ直ぐに答えていた。
対して土御門の当主の心の内がぐにゃりとヘソを曲げたような感じがする。
自分の思い通りの反応をしなかったことが相当に悔しいらしい。
ここで断るのは簡単だ。だけど、こうして土御門家の当主を通してまでこちらに話を通そうとしてくる辺り、簡単には諦めてくれなさそうだ。咲夜に確認をすると仕方ないといった様子で頷いた。
「横槍を入れるようですが、一応当事者なので口を挟ませて頂きます。その話をしたいのならば、当人たちには自分で直接来るようにとお伝え下さい」
「おや、それは話を受けるという意味かな?」
「えぇ。最初の関門として結界を越えられるのばあればの話ですが。それと話をするだけでその後のことについての一切については何も保証はしませんので悪しからず」
邪な気持ちがなく、純粋に会って話がしたいというのなら話は聞こう。
ただし、全員を相手にするつもりはないし、こちらにとって不利益となるような相手は最初からお断りだ。
僕の結界の性能を知る景文さんは安心と、それから少しの不安の二つの感情が入り交じったような目でこちらを見ていた。
「条件を付け加えますと、結界を超えられた場合の話し合いには景文さんも同席して貰います」
「それはどうしてだい? 男女の仲だよ。無粋なのがいると話も弾まないじゃあないか」
「自分だけが満足するような結果を得たい人はお断りだからです。人と人との関係は決して一対一だけの関係ではないのですから、僕の周りの人たちを大切に出来ない人とは関係を結ぶことは出来ません。お友達としてだってお断りです」
「人間関係は信頼関係のみで構成されている訳ではないと思うけど? 損得勘定だって立派な人間関係だ」
「商売などに関してならばそれでいいと思います。でも交友関係や恋愛面については、僕はそれを不要だと思っています」
「それを退魔師の世界が許すと思う?」
「許すも何も、その時は霊具の供給を止めて緊急時の遠距離支援の優先対象から外すだけです」
瞬間的に空気が凍った気がする。僕としても、これ以上ないくらいの脅し文句だったと思う。
結界の霊具の有用性と大物同士の激突の際に有効な後方支援出来る存在の有無は戦局に大きく影響した。
それは前回の大規模侵攻よりも犠牲者数が少なかったこと、僕が支援した特級退魔師が勝利したことが証明していると言える。
これをお前の所だけ対象から外すぞとなるとその場所だけが被害が拡大ことになりかねない。
その時僕は別の場所を支援している訳で、事後で責任の所在がどこにあるかは明白となることだろう。
「それは……流石に、じゃないかな?」
「相手に意に沿わないことを強要するのならそれくらいの覚悟を持って頂きたいですね」
「でもさぁ、被害に遭うのは一般市民だよ?」
「そうならない為に相手との関係を良好に保つのも大事なことでは?」
「いやいや、そこは切り分けて考えるべきじゃない? 退魔師とはいえ個人同士の問題とその他大勢の一般市民とを天秤に掛けるべきじゃないよ」
「退魔師の世界が許さないと言ったのはそちらですよ。ならばそれは、個人ではなく大勢の退魔師の意見でしょう。それに僕はその手紙を送ってきた人たちと会うことを拒否している訳ではありません。こちらの望みを無視して自分の我儘を押し通そうとする人とは仲良く出来ないというだけの、人として最低限の礼儀を求めているだけです」
こちらの返答に頭を掻いて困っている様子。
こうして今も食い下がってくるのは少し意外だ。
さっきまでは景文さんを外に出してもいいというような態度だったのに、他の男性を推すようなことをしている。
「他の男性と僕が会わないと何か不都合があるのですか?」
「いやぁ、君に嘘を吐いても仕方ないから言うけど、今の今まで他所の家が君に接触しないように工作してきたのは他ならぬ私な訳だよ。清花嬢を土御門に取り込めるのなら他の男達はただただ邪魔なだけだからね。それが事情が変わって土御門の下に置けないときたもんだから、じゃあ今まで接触を邪魔されていた分だけ自分たちも会わせろと要求されていてね」
「なるほど。それは確かに断り辛いですね」
「でしょ? 景文と既に婚約してるってなら話も変わってくるんだけど、思いの外に二人の仲が進展してないせいで断ろうにも断る理由がないんだ」
「そこは嘘でも婚約していると返せば良かったのでは?」
「清花嬢は自分の価値を甘く見過ぎだね。もしその嘘がバレた時にどうなるかが見えてない」
勢いよく指を差されて指摘されたものの、どう返したものか。
望み通りに話をしたところで僕が景文さんを捨ててそちらに靡くと思っているのだろうか。
「それほどの価値を感じるようになったのは先の戦いがあったからだと思いますが、違いますか?」
「違わないね。あの戦いの前はこんなに圧を掛けられたことはなかったよ」
「では、何度も食い下がる人たちにこう伝えて下さい。過去に戻って僕の護衛として白面と戦え、と。あの戦いで死んだらそれまで、生き残ったら手に入れようだなんて虫のいい話に過ぎるとも」
先ほど手紙が見せられた時から感じていたモヤモヤの正体が今分かった。
それはその人たちの行動が全くもって男らしくないことだ。景文さんのように命を賭して戦ってくれた人と自分が同等などと勘違いをしていること自体が過ちだと理解していない。
僕たちとは違う場所で命を賭けて一般市民や退魔師を守っていた可能性も考えられる。それも退魔師の仕事として大切な事だとは理解出来るし、だからこちらに来れなかったのかもしれないとも思う。
だけど、どうしたって身近で戦ってくれていた人に対して心情的に傾くことは避けられない。
もしその人たちが本気で愛を囁いてきたとしても「ではどうしてこっちに来なかったのか」と思ってしまう。
そんな僕の考えを他所に、景文さんの父は満面の笑みで両手を盛大に叩いていた。
「いい! いいね! それが聞きたかったんだ! よし、それでいこう! 男なら欲しいモノは自分の力で手に入れてこそ! 寝ぐらでいびきかいてた寝坊助が春先のご馳走にありつけないのは自然の摂理だと馬鹿どもに知恵を授けてやろう!」
凄く乗り気で立ち上がる様子を見るに相当鬱憤が溜まっていたらしい。
それからこちらを見て笑みを浮かべたまま叫ぶように伝えてくる。
「それから例の催しの件だけど、礼儀作法なんてないようなものだからから安心していいよ。集まっている奴らは皆がみんな碌でもないような社会不適合者ばかりだからね。逆に礼儀正しくしていた方が悪目立ちするくらいだ。清花嬢ならこの言葉が本当かどうか正しく伝わっているだろ? じゃあ私は早速惨めにもフラれてしまった敗残者たちに先程の言葉を伝えてくるとしよう。後のことは景文に任せるから好きにするといい。では、さらばだ!」
言いたいことだけ言って土御門家の当主であり景文さんの父である人は風のように去って行った。
その後、僕たちは揃って顔を見合わせた後に大きく溜め息を吐くのだった。




