三話-5 戦後整理
戦いが始まってから述べ六時間以上の激戦の末に何とか妖怪たちのほぼ全てを倒した。
話を聞くに白面たちが撤退したのを機に各地の妖怪たちまでもが引き上げを開始したらしく、それまで討伐されずに残っていた妖怪たちは妖穴を通じてあちら側に帰っていったと聞いている。
少なからずこちら側に残ってしまった妖怪もいたようだけど、その残党を撃破して安全が確保されるまでに更に数時間を要し、その間も僕と咲夜は霊具を使っての支援をし続けていた。
日付が変わる頃にはその支援も段々と回数は減ってその間隔を空けていき、曜日が変わった頃には残りは現地の退魔師で対応出来るか、僕の力は必要ないくらいまでにはなっていた。
そこまで戦況が落ち着いてから聞いた話では、今回の戦いで討伐に成功した大妖怪は計七体。残りは仕留めきれずに逃げられてしまったようだ。
戦果として華々しいものではあるものの、同時に人間側の被害も大きかった。特級の何名かは帰らぬ人になったと聞いているし、一級以下の退魔師に至っては一体どれだけの被害が出たのか。その数が決して少なくないことだけは誰もが覚悟していると思う。
全員が満足に休めるようになったのは日を跨いでからで、緊張状態にありながらもすぐに寝れたのはやはり疲れていたからだろう。
その日の午前七時頃、僕たちは朝食の席に着いてこれまでのことについて岩蔵さんから報告を受けていた。
食事の途中にふと視線を向けた先では、番組の司会者と退魔師と妖怪についての有識者を名乗る人が画面の中で頭を下げる所で。
『今回の大規模侵攻は妖怪の方から予告されており、退魔師の方々が万全の状態で迎え撃てたものの被害は甚大でした。まずは被害に遭われて亡くなってしまった方々に哀悼の意を表したいと思います』
二人とその周りにいる人が静かに頭を下げ、暫くしてから上げた。
それから司会者となる男性は話をしようと口を開く。その顔は真面目そうではあるけど、あまり良くない色を宿している。
『その被害についてですが、あれだけ時間があったのだからもっと抑えられたのではという意見も多数見掛けられます。その辺りについてどういった見解がありますでしょうか。専門家の方にお聞きします』
『えー。まずですが、今回の大規模侵攻の敵戦力は前回の時と比べるまでもない程でした。今回現れたような妖怪たちが前回の時に現れていたとした場合、その時の被害は途方もないものとなっていたでしょう。その観点から申しますと、今回はかなりの被害を減らすことが出来たと言った良いかと思います』
『そうなんですね。今回現れた妖怪というと、あの退魔師協会本部を襲撃したという妖怪のことでしょうか』
『はい。あれは白面金毛九尾の狐。通称白面と呼ばれる妖怪の中でも最高峰の実力を持つ言わば歩く災害と言って差し支えない存在でして……』
『分かります分かります。退魔師協会所属の一級退魔師が束になっても敵わなかったという映像はまだ記憶に新しいですし』
その言葉に有識者を名乗る人は少し声を詰まらせる。
これを公に肯定してしまうと、それは即ち退魔師を侮辱しているようなものだからだろう。
『……今回の戦いはその白面と、更には同時に襲いくる同格の妖怪の複数を撃破、或いはその場に抑えることが肝でした。この強力な妖怪というのは一体一体が一級退魔師数十人、いえ数百人分にも匹敵するほどの存在であり、これを抑える為に人員が割かれたことが被害拡大の一因であり、同時に人員を割いたからこそ被害を少なく留められたと言えるでしょう』
『それは、どちらとも言えるということなのでしょうか?』
『そうですね。想像をしてみて欲しいのですが、白面ような強力な妖怪を野放しにした場合ですと下級退魔師と一般人への被害は際限なく広がりますよね。白面と同格とされる妖怪の出現した地域の戦闘跡地をご覧になられた方もいると思いますが、ああいった存在を放置すればあの規模の被害が際限なく広がっていました。なので白面、並びにそれと同等の妖怪を放置するという考えを持つ方はまずいないかと』
『その場に抑えるだけ、と言うのも難しいのでしょうか? 退魔師には結界なるものがあったかと思いますが』
『半端な結界では先ほども仰られた退魔師協会での映像を見た光景が繰り返されるだけでしょうね。三匹の子豚という童話にあるように、相応の強度がなければ結界といえど吹けば飛ぶ程度のものでしかありません。仮に白面などを結界で抑えるならば一級退魔師が少なくとも百人は必要となるでしょう。それでももってしても数時間、或いは数十分が限界だったかと』
『なるほど。妖怪の中でも最強格の存在の脅威、ご視聴の皆様もご理解頂けたかと思います。ですがそうなると、その大妖怪に人員が割かれたにも関わらず被害が前回より少なかったということになりますよね。それは一体どういうことでしょう?』
『そこについては前回の侵攻より腕を磨き続けた勇敢な退魔師の方々の奮闘のお陰でもありますが、その中でも一際広くの地域に貢献して下さった方がいたからですね。一般的な退魔師の戦果を一とした場合、彼女は千や万では足らない程の活躍をしていますから』
『それほど何ですか。それは一体誰なのでしょう?』
『それは以前に政府の生放送に出ていた大蓮寺——』
そこで画面に映る光景が入れ替わる。今はそれを実行した当人である僕に視線が集まっていた。
何とも言えないような生暖かい視線は胸の辺りをおかしな気持ちにさせる。
中でも唇を思い切り釣り上げたような笑みを浮かべる千郷は行儀悪くも頬杖をついてこちらを見ていた。
「清花ちゃん? どうしていいところで変えちゃうのかな〜?」
分かっていることをあえて聞いてくる千郷に浄化の水をかけるか迷ったけど、食卓の上で流石にそれは出来ない。
なので目を閉じて嵐が過ぎるのを待つことにした。
『では次は今話題の大蓮寺清花さんについてですが——』
「…………」
今度は番組ではなく映像を映す受像機そのものから音がしなくなった。これでいい。最初からこうするべきだった。
自分一人で見る分にはいいけど、全員が集まっているところで自分のことを褒めそやす言葉を聞き続けるのは精神的に筆舌に尽くし難いものがある。ということを千郷以外の人は理解してくれているので茶化すようなことは言わないでくれていた。
「政府もテレビも清花をいいように使いたいみたいね」
「土御門家から抗議するか」
「待ちなさい。民衆の悪意の矛先がこっちに向かない限りは放置でいいわ」
「……分かった。その時になったら一言くれればすぐに動かすから言って欲しい」
「そうするわ。今回で貸しを作った人が沢山いることだし、そっちを動かしてもいいけれど」
「寧ろ世話になっていない人の方が少ないんじゃないか?」
「本当、大々的に恩を売っておいて正解だったわ」
朝の食卓に似合わない内容が短いやり取りの中でされていたような気がする。
しかし、今の僕は今も続く千郷からの悪戯の対応に手一杯なので反応が出来ない。
「んぐ。あっ、これ美味しい! ……それで、清花さんはこれからどうするんですか?」
「どうするって、どういうこと?」
「こうも有名人になったら色々と今まで通りにはいかなくなるんじゃないかなぁ、って思ってるんですけど」
「それについては考えてはいるけどね……」
冬香の言う通り、あの生放送を通して僕たちの顔は広く売れた。あの状況下で最も情報が持っていて市民からの関心が集う政府の名義で発信したのだから当たり前だ。誇張ではなく日本中に顔と名前が知られたと思っていいだろう。
そして先ほどから報道の数々だ。それまで僕たちを忘れていた人も思い出しているに違いない。
と、ここまでは自分でも理解はしている。けれども、だからといって今まで通りにはいかないという理屈には行き着かなかった。
「別に、元通りの生活に戻るつもりだけど」
「本気で言ってます?」
「うーん。確かに今回のことを考えれば霊具製作の依頼が殺到するだろうね。だからその分だけ何かを削らないととは思ってるよ。時間を削るとしたら学校かなって思ってるから少し寂しい気持ちはあるし。でもそれだって完全に会えなくなるって訳でもないから……」
妖怪退治に自己鍛錬、そして増えるだろう霊具製作。これらを行いながら学校にまで通い続けるのは拘束時間の面で現実的ではない。必然的にどれかを削る必要があるだろう。そうなると元々通う必要のなかった学校が対象になるのは当然のこと。
確かに今までの生活とは異なるかもしれないけど、より深刻そうな顔をしている冬香の想像しているようなものとは違うはずだ。
僕と冬香は視線を周りに向ける。
この中で一番知見のある咲夜は食事を中断して箸を置いた。
「冬香が言いたいのはこれからの退魔師界隈のことについてでしょう。あの二体もの大妖怪を相手にして生き残り、片方を殆ど討伐という大金星を成し遂げたのだから、貴方と土御門君にはそれなりの地位が与えられることになるかもしれないわ。それが特級か一級かは知らないけれど、実力と知名度を考慮すると五家並みの発言権や地位を得ることも可能になるでしょう。というか、そう認定するように私から何度も圧力を掛けてるわ」
「何度って、どこに?」
「退魔師協会の現会長と五家の当主たち、それから清花の助けを借りた特級退魔師全員。とてもとても頑張って直接対話までしたのよ?」
サラッと言ってお茶を飲んでいる咲夜にこの場の全員が何も言えなかった。
相手は全員が権力の中でも頂点に位置するような人たちで、普通なら僕たちの立場で物申せるような人たちではない。
言ってみれば大妖怪に位置するような人たちにそんなことを言ってのけたという。
恐らくはこの調子で。敬語を使ってもきっと遜ることはしなかっただろうことは容易に想像出来るのが余計に恐ろしい。
「ある意味、一番怖い物知らずなのってアンタよね」
「こういう時に日本人らしく謙遜をしていると周囲は”その扱いでいいんだ”と勘違いして調子に乗り出すのよ。現に私が圧を掛けなかったテレビは好き放題に清花の名前を出しているでしょう?」
「ふーん? そのテレビは放っておいていいの?」
「さっき言った通り、今回の件の怒りの矛先がこっちに向かない限りはね。清花を槍玉に上げた方が視聴率が取れるからと方向転換をすれば五家の当主たちと退魔師教会のお偉方が”説得”をしに行くことになっているわ。そうじゃないと、次からは世論が怖くてお手伝いなんて出来なくなってしまうもの」
「うぇ。怖いとかどの口が言ってんの? っていうか実際に協力するのは清花だし」
千郷に半眼で見られようと咲夜は気にしないで食事を再開する。
「もしそうなった時は土御門を頼ってくれれば局の一つや二つは潰せると思うから遠慮なく言って欲しい」
「あ、ありがとうね」
景文さんは至極真面目そうな顔をして言っている。僕の方をだけを見て。
どうやら二人は冗談ではなく本気でやるみたいだけど、僕の方で出来ることないのでテレビ局の人たちが変なことをしないことを祈るしかない。幸いというかそんなことをするのは結界には入れないような人なので直接的な被害がないのは安心か。
話を聞いていた冬香は何やらぶつぶつと呟いていたけど、何かに気付いたように机を叩いて身を乗り出してきた。
「テレビを見ていて思い出したんですけど、清花さんの個人アカウントって今はどうなってるんですか? 確か騒ぎが起こってから投稿は自粛されていたんですよね」
「そうだけど、気になるなら見てみる?」
「いいんですか⁉︎ すっごく見たいです! 絶対凄いことになってると思うんですよね!」
優先してやることがあるから放置していたけど、担当地域外の人と交流出来るほぼ唯一の方法なのでこちらに関心が集中していてもおかしくはない。そこの辺りは咲夜の方が把握しているはずだけど。
「とりあえず見てみれば? ただ食事中だから行儀良くはしていなさい」
「分かった。えっと……うわっ」
端末から見てみると、そこにはかつて無いほどの通知の数があった。
表示出来る限度の数から溢れてしまっていて三桁までしか書かれていないけど、この分では少なくとも千個以上の何かがあるのだろう。
「見せて貰ってもいいですか?」
「いいよ。はい」
軽く見た感じだと、大体は心配するような文言が多かった。次いで応援といった感じだったか。
冬香は画面に指を滑らせては「ほほぅ」や「おぉ」といった感嘆の言葉を言い続けている。
更には千郷まで音もなく忍び寄っては画面に見入っていた。
「これ、自粛前の応援者はいくつだったんです?」
「確か命ちゃんと見た時は百万人だったような? 雑誌の件で二倍くらいに伸びているのだったかな」
「ほぇぇぇ……じゃあこの数日で五百万まで伸びたってことですか」
「そこは見てなかったけどそんなに増えてたんだ」
その数が多いだろうということくらいは僕にも分かる。自分たちの担当地域の人口より上だから。
でも千郷まで混ざって黄色い声を出していることに不思議と感じるのは、まだ女の子の文化に馴染みきっていないからだろうか。
「その数字って二人からするとどんな感じなの?」
「「凄いなんてものじゃない(ありません)から!」」
分からないなら率直に聞いてみようと思っていたところ、言葉を耳にした二人の反応は恐ろしいものだった。
というか、動きが完全に揃っていて本当に怖い。
しかし二人が勢いを増そうとしたところで二人の背後には倉橋さんが立っていて。
「騒ぐのは食事を終えてから。いいですね?」
「「はい」」
大人しくなった二人から帰ってきた端末を操作して、とりあえずは無事なことを忘れない内に報告しておく。
今回の一件で亡くなってしまった人がいることを考えるとあまり明るく振る舞うのは不謹慎と思われかねない。なので報告は定型分程度に留めておく方がいい。あまり長く端末を触っていると僕も怒られそうなので返事はそれくらいにして懐にしまっておいた。
静かになったところで今度は景文さんの方から話があるのか、箸を置いてこちらを見ていた。
「でも清花さん、冬香さんの言う通りにこれからのことは考えておかないといけないと思うよ」
「それは霊具製作という意味ではなくってことだよね?」
景文さんは頷いただけで答えは言わない。彼の口からは言い難いことではあるらしい。
生活以外のことで最も変わるのは咲夜の言っていた立場の話だ。もしも今回のことを自分以外がしていたらと想像すると、その人はきっと特級退魔師として認定されるのではと思う。だからこれは僕がどういう風に見られているかということでもある。
特級退魔師と言えばこの日本でもそう多くはない退魔師の中でも頂点に位置する。そこに自分が加わるとすれば確かに色々なことが変わってくることになる。
それ自体は僕たちが当初から叶えたいと願っていたことだから悪いことではない。地位が上がるということは理不尽な命令をされることがなくなるということ。これは良い面ではあると同時に付随して責任も大きくはなる。
けれどそれは霊具を作ることで果たしていると言える。あまり大きな問題ではないように思える。
……何か見落としていることがあるのだろうか。
「高位の退魔師になったらそれ相応の責任が発生する以外に何かあるの?」
「それは……」
聞くと景文さんは口籠る。言えないというよりは言い難いといった様子だ。
すると代わりに教えてくれるらしい冬香がふふんと鼻を鳴らして得意気な顔で答えた。
「清花さんの結婚相手のことですよ! 一級どころか、もしも特級退魔師になったら超引くて数多じゃないですか!」
「あぁ、そんなことか」
「そんなこと⁉︎ そんなことで片付けるんですか⁉︎」
言われてみれば確かにとは感じてものの、自分の中ではそこまで重要度は低かったので考える必要がなかったことに思い至った。
そんな僕の反応が衝撃だったのか、冬香は白目を剥いて驚いていた。
「その時は同時に拒否出来る立場になってるって事だから問題ないよ」
「私が言いたいのはそういうことじゃなくてぇ」
「僕の立場なら自分から選び放題だってこと言いたいの?」
「そうそう! そうです! 正に選び放題じゃないですか!」
それこそ全く考えていなかったというか、考える必要すらないと思っている。だけど冬香としては盛り上がる話題のようだ。確かに女の子からしたら恋に纏わる話題ではあるし、女性退魔師としては欠かすことの出来ない問題でもある。
だとしても、今この場でする話題ではない。
「誰が聞いてるって訳でもないけど、この場で宣言しておくとその手の話は一切お断りするからね」
「どうして……って、あぁーーーっ!」
何やら何かに気付いたらしい冬香は視線を二点の内で何度も往復させる。
そしていつものように嫌らしい目つきで笑う。
「そういうことならとんだ差し出口でしたね。馬に蹴られたくはないのでこれ以上は何も言わないことにします。オホホホホ」
十分に口を出しているような気もするけど。
変な空気になってしまったところを咲夜が咳払いした。
「清花もだけど冬香、貴方も他人事ではないのは分かっているの?」
「えっ」
「同じく生放送に出ていたし、今回最も危ない場所で自分の力で戦ったことで退魔師としての価値は示せたと言っていいでしょう。何より清花と同じ血筋なのだから注目されて当然。自分は対象外だと思っていたようだけど、そこのところは考えているの?」
「全く考えてませんでしたけど? それがなんですか?」
「はぁ。とんだお馬鹿ね。……でも今回のことで土御門家がある程度は勝手に守ってくれるでしょう。だから貴方は自分の立場を自覚して誘われるがまま変な男性について行かないようにしなさい。もしそれで子供が出来ようものなら一族諸共破滅するわよ」
「ついて行くって、咲夜さんは私をどんな風に見てるんですか⁉︎」
「自分の胸に手を当てて考えてみれば?」
心当たりがあるらしい冬香は口をへの字にして押し黙った。
僕としても男性アイドルの件で以前に何度か暴走しかけたのを見ているので擁護は難しい。
冬香好みの人が言い寄ってきたとしてもそれが良い人であれば何も問題はないのだけど。
「そういうアンタには結婚話は来ないの? 目立ち度合いで言えば清花並みのはずだけど」
「私はあくまで清花の添え物だからないでしょうね。ちなみに芹井さんは目立った活躍がないから話題にも上ってないわ」
「はぁ⁉︎ あんなに頑張ったのに⁉︎ 別に欲しくもないけどなんか複雑なんだけど!」
「清花に比べれば相対的にという話よ。武具も防具も清花の力有きだもの。同じく東司もだけど、こればかりは仕方がないわ。それはそれとして、土御門君はその辺りはどうする気なの?」
適当にあしらわれた千郷が苛々を食事で解消をしている。次に急に話を振られた景文さんは口元を拭ってから答える。
「俺は清花さん一筋だからそういうのは最近はそもそも受け付けてないよ。窓口は全て閉められているから気にする必要はないかな」
なんて事ないといった様子で言ってのける姿に空気が固まったのを感じる。
茶化すか、でも倉橋さんが目を光らせているからと千郷と冬香の間で視線が交差している。
名指しされた僕はだんまりを決め込んでいると咲夜が半眼で景文さんを見やった。
「……そう。でも本家の意向はどうなの? 流石に何かしらは言われているでしょう?」
「実家からは怪我がないかどうか聞かれたくらいで……。あぁ、当主になりたいなら事前に相談してくれとも言われたな」
「当主様は確か一級退魔師だったわよね? 今回の戦いでも第一線で活躍されたと記事にもあったはずだけれど」
「あぁ、兄たちも含めて家族から死者が出なくて良かったよ。けど、聞きたいことはそうじゃないよな?」
「そうね。以前に話した時とは状況が違い過ぎるわ。必然、答えもまた変わってくる」
何の話をしているのかは分からないけど恐らくは重要なことを言っているのは分かる。
話の流れからすると土御門家の問題に関してのものだとは思うけど、二人とも本質からはあえて外して話しているので他の人たちも疑問符を浮かべている状況だ。
僕がいない時に二人の間では話し合いが行われていたみたいだから、その時に密約のようなものを結んでいたのだろうと思う。
それが今は咲夜の言った状況が違うとことで密約の前提が崩れているといったところか。
「その話はおいおいするとしましょう。お互いに落ち着くまで暫くかかるでしょうし、今すぐ結論を出す必要はないわ」
「そうしてくれると俺も助かる。後日にでも実家に戻ったら話し合うとするよ」
二人の間での話し合いが終わったと思ったら、景文さんは僕の方へ向き直った。
その顔は白面と対峙していた時と同じか、或いはそれ以上に真剣味を帯びている。
「そんな訳で、少し待たせてしまうけど」
「その前に、その訳の意味を教えて欲しいんだけど?」
「ん? あー……もしかして、聞いてないご様子で?」
「咲夜と秘密の約束をしていたなら、それは聞いてないね」
「……なるほど。じゃあまた今度でいいかな? 聞いての通り、今は色んな事情が絡み合ってて出したはずの結論が明日変わってしまうってことも考えられるから。それでも知りたい場合は咲夜さんに聞いて欲しい」
「分かった。じゃあ大人しく待つことにするよ」
彼の言う事情は退魔師界隈のことだろうし、特級退魔師や一級退魔師に少なくない死者が出たせいで勢力図も変わってくる事だろう。場合によっては没落する家があるかもしれないし、また場合によっては台頭してくる家があるかも。
その辺りの変遷というのは一週間やそこらで終わるものではないので対応にはそれなりの時間を要するはず。
共に大妖怪と戦い勝って生き延びた彼もその渦中の一部でもある。
二人の様子から、きっと一筋縄ではいかないのだろうと察したことで改めて自分の立ち位置を認識し直す必要を感じた。




