二話-3 似たもの二人
付与についての助言を貰ってから武器の霊具化は三種類の方法で制作を進めている。
最初にやっていた水に浸けておく方は時間に比例して付与の定着具合が高くなる傾向にあるのであのまま放っておけばいいとして、あとは龍健さんの助言の通りに一度しか使用しないような投擲武器の類を決戦一日前くらいに付与することにし、残りの武器に関しては前園家から送られてくるという物を付けることになりそうだ。
それらの振り分けと厳選について大門先輩に任せつつ、実戦に耐えられるか確かめる為に初期に作った武器を日常的に現れる妖怪に対して使って貰ったりして耐久性を確かめる。
これで一区切りとしてこれ以上の実験は時間の無駄とし、限られた時を他のことに使うことにした。
「ではお預かりします」
「はい。よろしくお願いしますね」
ここに来て三日目、もう慣れたように作り終えた午前中の霊具を納品する。
しかし今日からは少し違う様子があった。
「へぇ、これが数百万円ねぇ」
「せ、芹井様……っ⁉︎」
箱に納められるはずだった霊具を手に取り、まじまじと見つめるのは職員の人が言った通りに千郷だった。
落として壊したりしたら数百万円とそれに見合うだけの人命が失われるかもしれないことを理解している運搬係の人が焦るのは当然のことで。例えうっかり落としても絶対に受け止めてみせると屈んで待機している姿に涙を禁じ得ない。
「ゆっくり見たいならまた今度見せてあげるから、それは返してあげて」
「別に落としたりしないけど?」
「その人の顔を見てからその台詞を言ってみてよ」
「……ごめんなさい。はい、これ」
顔を青くさせて戸惑っているのを見れば流石に冗談も続けられない。千郷は素直に箱に霊具を置いた。
ホッとした表情で箱を仕舞い込んだ職員の人はこれ以上イタズラをされたら敵わないとそそくさと場を離れていった。
「全く。やってきて早々にすることが悪戯なの?」
「だって気になるじゃん。あの霊具一個にどれだけ霊力込めてるのかさ」
「気になるのは仕方ないとしても、そういうのを千郷は分かるものなの?」
「さぁ? イマイチだった。でも気になったんだもん」
あの職員には気の毒だけど千郷だからということで諦めてもらうとしよう。
葛木清光に扮した柳さんを葛木家に送り届ける仕事を終え、数日間だけ偽装工作をしてからここに来た形だ。
「それで、千郷がここに来たってことは」
「もち。言われた通りにあの子も連れて来たよ。どう見てもヤケって感じだったけど本当に良かったの?」
「本人の意向を尊重して欲しいとは言ってあるから。その上で来たんだったら自己責任だよ」
今朝に咲夜から聞いた話によると冬香がこちらに来たいと言っていたらしく、千郷も今日来る予定だったから丁度いいと経路を変更して土御門家から連れて来て貰ったという訳だ。
「千郷から見て大丈夫そうに見えた?」
「えっ? 全然ダメだけど? 車乗る前からすでにビビりまくってるくらいだし。あの子は絶対に裏方の方が似合ってるよ。でも戦えないからって裏方やるにも実績って要るんだよねぇ。あーあ、私も頭が良くて器用だったらなぁ」
千郷が咲夜のように事務仕事をしている姿はちょっと想像出来ないかもしれない。
ただ女性退魔師が前線を退いた時に金銭を得る手段としては数少ない方法なので千郷も出来た方がいいのだけど。
その為には何より勉強が必要というのが最初にして最大の関門なのかもしれない。
彼女に勉強をさせる方法について少し思案していると、何やら察したのか慌てたように話題を変えてきた。
「そ、そういえばさ、清花を大蓮寺家の当主に据えるのはダメだったの? いずれはあの子の子供に譲るとかやりようはあったんじゃない?」
「それは劇薬だよ。僕で大蓮寺家が格を上げたとして、冬香のために椅子を開けようとしてもその時には居場所が無くなっちゃうから。冬香の子供にって話ならない話じゃないけど、そんな環境で育った子供が真っ当に育つとは思えない。その選択肢はみんなが不幸になる道だと僕は思ってる」
「じゃあ、ダメか」
こればかりは僕が何をどう言ったところでそうなってしまう未来しかない。今でさえ大蓮寺といえば清花という印象の方が根強いらしいのだから。これで僕が名実共に当主になってしまえば冬香は陰に埋もれて二度と浮上出来なくなってしまう。
「それに当主になったら大蓮寺家についての諸々を背負うことになるし、正直に言うと恩恵より不利益の方が多いんだよね」
「そうなの? 当主なのに?」
「大蓮寺家は土御門家の保護下にあるから、実質的には傘下にあると言ってもいい。金銭的な援助とかもして貰ったりしてるらしいしね。だから当主になるっていうのはそのまま土御門家に降るっていう意味でもあるんだよ。それは僕たちの望むところではないかな」
「じゃあ冬香に実績を積んでもらうのは清花にとってもいい事なんだ」
「流石に僕たちの為に命を懸けろとは言えないから、そこは自分の利益や将来を考えて選んで欲しいと思ってたよ」
「うーん。こういうのを英語で言ってた子がいたような気がする。確か、ハイなんとかハイなんたらってやつ」
「英語のそれは知らないけど、要は虎穴に入らずんば虎子を得ずって言いたいの?」
「そう、それ。それが言いたかったの」
「……本当かなぁ?」
「本当だってば! きちんと意味も知ってるし! 虎の子供が欲しいなら虎の巣穴に潜れって意味でしょ?」
違う。大きな利益や成功を欲するなら時として危険を冒さなければならないという意味のことわざだ。
ただこのことわざは危険を冒せば必ず成功するという意味ではないことは理解しておかないといけない。危険性の高さを正確に見極め、出来ると判断したのなら次は危険性に見合うだけの利益があるかを考えなければならない。
危険性を見誤って失敗すれば何も得られないし、結果的に利益を得ても損失に見合わないということもあるという。
僕からすれば命に見合う利益なんてものはこの世にはない。だから冬香が来なかったとしてもそれは当然の判断だとすら思っていた。
「……頑張りに見合うだけの何かがあればいいけどね」
「なんか無視された気がする。それはそれとして、それについてはなんか色々と持って来てるっぽいから考えなしではないんじゃない?」
「色々? ……倉橋さんの手を煩わせなければいいけど」
女の子の身支度が大荷物になりがちというのはよく知っているのである程度は仕方ないとは思う。
今の状況で許す限り、ではあるけれど。
「その冬香は今どこにいるの?」
「アイツのとこに行ってるんじゃない? 車から見た感じだと土御門家からも色々持たされてたみたいだったしね」
「なら冬香のことは後でいいか。こっちは先にやらないといけないことがあるんだ。千郷は来る?」
「行く行く。今は何をやってるの?」
「武器の霊具化だよ。何とかして浄化の力の付与をしようとしてるんだ」
「いいねぇ、それ! けど、そんなの皆が欲しがるんじゃない? 大丈夫なの?」
「売り物にするつもりはないよ?」
「絶対売れるのに?」
「商品として扱うには実験が必要だからね。まずは素材の厳選から、制作開始から完了までの時間、武器としての性能の検証、それから耐久試験を繰り返す。一日に制作可能な個数も重要だね。以上から算出される儲けの出る値段を計算する。これらを踏まえると使い捨てなら制作が容易な結界の霊具よりは優先度はどうしても落ちるよね。やるとしても売り物になるまでに物凄い時間と労力が必要になる……って事で、今の段階ではまだ現実的じゃないっていうのが咲夜の考え」
「…………」
これは途中から話を聞いていなかった。いや、頭に入って来なかったと見た。
辛うじて入ってきた話を処理しているものの、その思考はあからさまに表情に出ていた。
「面倒臭いって顔してるね」
「皆んなそんなこと考えて作ってないでしょ。清花が考え過ぎてるだけだから」
「考えて作ってるよ? 何ならもっと色んなことしてるからね?」
結界の霊具は単純な構造で、使い切りであることと結界の術であること、あとは持続時間や性能を検証するだけで使えるお手軽なものだ。これは作ってから少し時間が経ってそれなりに性能は把握しているからこそ、今の量産しては配給するということが出来ているのだ。
これが武器となると、耐久性がないせいで戦闘中に壊れてしまいそれが原因で死んでしまったとなりかねないので慎重になるのは至極当然の話だろう。
「じゃあこれ以降はもう作らないの?」
「千郷の為の武器とかならいずれは作ってみようかなって思ってるけど、一般に向けて売るつもりは」
「ホント⁉︎ やりぃ! 貰ったら自慢しよーっ!」
「そういうことには使って欲しくは……まぁいいや。とりあえず、今からだと水に浸ける方法は間に合わないから別の方法で千郷の武器に力を付与するけど大丈夫?」
「いいけど、別の方法って?」
「龍健さんに送って貰った特別な粉があるんだけど、それだと自分の霊力を入れた水を混ぜて塗るんだって。粉の成分が霊力を留まらせる効力があるらしくて……って、説明するよりやってみた方が早いか」
説明だけよりも実際にやってみながらの方が千郷の頭にも入り易そうだ。
出来れば千郷にも何らかの形で関われるような霊具作りがあるといいのだけど。妖怪退治で何十年も前線に立ち続けるのはあまり現実的にではないので、どうにかして別の方法で生計を立てる方法も考えて欲しいところ。
そう考えると前園家やその他の霊具を専門とする家が早くに今の地位を確立したのは先見の明があると言える。
今はそのことは脇に置いておくとして。
「これがその粉だよ」
使い魔を利用しての空からの速達便で送られた粉を取り出す。あとで聞いた話によるとこの粉は浄化の力に由来のある樹木をすり潰したものらしく、親和性は高いはずとのこと。ちなみに作られた経緯についてははぐらかされた。
「これを浄化の水に溶かして、と」
「うわぁ、なんかネチョってしてるんだけど。気持ち悪っ」
「すぐに揮発しないようにのり状になるようにしてるんだって。これを武器に塗り込んでいくと……」
近くにあった短刀の刃の部分に指に付けたのり状の液体を塗り付けていく。
満遍なく薄く塗ったところで少し様子を見ていると水分が抜けていって代わりに内包されていた粉の粒子のようなものが表面に残る。その粒子には水から染みるように浸透して混ざった浄化の力が残っており、武器そのものに浄化の力が宿った訳ではないにしろ、短時間で仕上げた物とほぼ同等の効力を発揮しているように見えた。
「へぇ、簡単そう。それなら私でも使えそうかな」
「短時間ならいいけど、長時間戦ってるとどうしてもその内に剥がれちゃうから対策は必要なんだけど、刀とかなら鞘に仕込んでおけば抜き差しする度に塗り直しが出来るみたいだよ。他には小瓶に詰めて垂らすなんて方法もあるみたい」
「いっそ直接その瓶の中身当てた方が効きそうじゃない?」
「それは費用対効果の面で微妙かな。それだったら最初からそれ用として開発した方がいいかも」
「んー、確かにそっか。……よし、じゃあちょっと暇だからそこらの妖怪で試し切りしてくる。その小瓶貰ってくね!」
言い出した千郷は目に付いた空き瓶を作った液体に入れて満たし、封をしながら駆け出して出て行ってしまう。
この間、約三秒間の出来事だった。
瓶と手は拭いて欲しかったし、飛び散った液体の後始末もして欲しかった。
それは付与具合を確かめてくれる実験をしてくれるということで帳消しにすることとしよう。
ぶっつけ本番で使うよりは全然いいし、他人の使用感の話よりは実際に本人が使ってみるが重要なはず。
ただ妖怪を斬ると言っているもののここら辺はすでに縄張りとしている人がいるだろうし、横入りはまずいのではないだろうか。
これはとりあえず連絡をしておいた方がいいかもしれない。
「……もしもし、岩蔵さんですか?」
『岩蔵です。どうかされましたか?』
「先ほど友人の芹井千郷さんが僕の作った霊具の実験をすると言って飛び出して行ってしまいまして、居所の把握と可能なら適当な妖怪のいる場所を教えてあげて下さい。戦闘の補助は出来る限り控えて霊具の性能を確認して貰えると助かります」
『承知しました。部下が既に芹井様の行方を視認したので追わせました。すぐに接触出来るかと。実験としてはどれくらい妖怪を狩れば宜しいですか?』
「五級か四級相手を一体お願いします。あとはどれだけ効果を出しているかを見て貰えれば大丈夫です」
『承知しました。では部下には映像を残すよう伝えておきます。要件の程は以上でしょうか?』
「はい。すみませんが千郷をよろしくお願いします」
『出来る限り傷一つなくお帰りするよう努力します。それでは失礼します』
通話が切れる。嫌な雰囲気一つ作らずただ言うことを聞いてくれるのは助かった。
あの退魔師協会という組織であの地位にまで上り詰めるのだから単なる善人という訳ではないと咲夜は言っているし、それは僕も同感ではある。初めこそ岩蔵さんの言うことは信用出来るか不安だったけれど、少なくとも今の自分の仕事に真面目に取り組んでいると言う事は確かだと思う。
千郷のことは安心して任せることにして、残ったのり状の液体を武器や防具に試し塗りしていると冬香の気配を感じ取った。
「清花さんいますかー? お邪魔しますねー」
「冬香。いらっしゃい。久し振りだね」
「数日振りですね。さっき千郷さんが飛び出して行きましたけどどうかしたんですか?」
「霊具の性能を確かめるって飛び出して行ったんだ。止める間もなかったよ」
「あはは、あの人らしいですね」
「そういう冬香もやけくそ気味に飛び出してきたって聞いてるけど?」
「え゛っ⁉︎ あ、あれはですね……っ! 来たくないっていう訳では!」
それ以上は言わなくていいと、肩にそっと手を置いて落ち着かせる。
「冬香が来てくれて嬉しいよ。この前はあんな風に言ってごめんね」
「あ、謝らないで下さい。確かにちょっと傷つきましたけど、お陰で清花さんの言う通りに自分で決めることが出来ましたから。だから後悔はありません」
「でも怖いものは怖いでしょ?」
「そりゃあそうですよ。清花さんは戦わなくていいって言ってくれましたけど……。でも選択肢はあるようでないじゃないですか」
「出来るだけ早くお家復興をしたいのなら、そうだね。でも今の大蓮寺家の状況は冬香一人だけで背負うものじゃないとも思う。子孫に任せて少しずつ力を取り戻していく道については考えてもいいと僕は思ってるし」
「それについては家族で話しました、と言ってもお婆ちゃんが無理だってバッサリ切り捨てましたけど」
冬香のお婆様といえば大蓮寺家の衰退を一番肌で感じてきた人だから人一倍責任感が強いといった人だ。
大蓮寺家の将来を冬香一人に任せることに心を痛めているのもあの人だけど、だからこそ冬香に対してきちんとした教育をとやってきた人でもある。
おそらく今回も恨まれ役を買ってでもここへ行くように言ったのだろう。
「お婆様は何て言ってた?」
「家のことはどうでもいいから世話になった友達を助けに行って来いって」
これは少し予想外の答えだった。てっきり家のことで色々言っているものだと思っていたけど違うようだ。
そしてその言葉はお家事情を説くよりよほど効果のあるものだったらしい。
「お婆ちゃん、それだけ言ったきりで何も言わなくなったんですよね」
「引き留めたい気持ちを堪えてたんじゃないかな。いっそ自分が代われるものならってあの人なら考えてると思うよ」
「そうだと私も思います。言いたいけど、言えない。そんな自分を責めているような気がしました」
「そうなんだ。そう言われてみると確かにあの方らしいね」
「お母さんとお父さんとも色々話しましたけど、何だかんだ背中を押してくれたって感じです」
僕も冬香にも子供や孫もいないから同じ立場からの視点を持つのは難しい。
それでも何となく、そう何となくだけど冬香のお婆様たちの気持ちも分かるような気がする。
本来守るべき存在を自分たちの不甲斐なさで死地に向かわせるというのは、善人であるほどに心痛も増していくに違いないと。
いっそ引き留めてしまえれば冬香の身の安全だけは確保出来たかもしれない。
しかし、その先にあるのは友人を見捨てたという後悔と肝心な時に役立たずという烙印。
加えていくら土御門家に保護されているといってもこの非常事態に何もしないというのはあまりに心象が良くない。
この先、冬香一人で出来ることは限られている。もしここに来ずに土御門家にいた場合、ここで大妖怪を迎え撃つ僕と比べられて肩身の狭い思いをすることになり、きっと大蓮寺家の復興は数世代先のことになっていたはずだ。
その未来では冬香はこの先ずっとその事実と向き合いながら過ごしていくことになる。精神的にとても辛い日々になるだろう。
それが分かってしまうから、冬香はここへ送られた。ともあれ————
「まぁ、もう来ちゃったんだから、あとはもう必死に頑張るだけだね」
「そんなあっさりと⁉︎」
「生憎とここじゃ感傷に耽ってるような時間はないからね。一分足りとて無駄には出来ないんだから。ってことで、はいこれ」
感傷に耽っている時間すら惜しいので手に持った物を手渡した。
「これは?」
「霊具に浄化の力を付与する為ののり状の液体とそれを入れる為のシャベルだよ。これで液体を掬ったらこの辺にある刀の鞘に流し込む。一杯になったら一度中身を出して、軽く振ってからもう一度入れる。これを三回繰り返したら刀を入り口のところにある風呂敷に置いて。後で回収に来てくれる人がいるから」
「えっと、どうして」
「口より手を動かして。質問はやりながら聞くから。時間がないって言ったでしょ」
「は、はいぃっ! 分かりましてございます!」
前園家から貰った霊具の素は調合してから少なくとも一週間は効力を保つらしい。やはり流石の開発力という訳だ。一朝一夕でやろうとしてる僕とは全く出来が違う。
あの青い液体に浸け込んでいる武器はそのまま浸けておき、無理やり霊具化させる方法は長持ちしないのでなるべく決戦に近い日にする予定になっている。そうなるとそれまでの空いた時間はこの方法での制作に費やす方が得策だ。
「入れたら振って出す、入れたら振って出す、入れたら振って出して刀を入れる。そしたらあっちに置く」
念仏のように唱えながら黙々と作業をする冬香を横目に僕も作業を続ける。
十個ほど作った辺りで慣れてきたのか、垂れた液体を拭き取りながら冬香はこちらに視線を向けて。
「それで、どうしてこんな作業をしてるんですか? 清花さんはこういうの使わないですよね?」
「大門先輩が一部使う予定だよ。それは別に保管してあって、今作ってるのは他の退魔師たちに使ってもらう予定なんだ」
大量にあるこれら全てを自分たちで使う訳ではない。余った武具は可能な限りであるけれど退魔師協会を通して優良な武器を持たない下位の退魔師に配ってもらうつもりだ。この配布で退魔師協会が利益を得ることはないことを約束しているし、一定期間後に効果が無くなることも伝えるように言ってあるので盗まれる心配もそうはないはずだ。
そうだ、ついでに冬香が作ったものだとも伝えてもらうとしよう。
「映像に撮ってもらって冬香が頑張ってることを宣伝しようか」
「えっ? い、いや! いいですって! この液体だって清花さんが作ったものですし!」
「霊力さえあれば冬香でも作れる物だし気にしなくていいんじゃない? ってことで、ちょっといいですか?」
端っこの方で霊具の出来上がりを待っている職員さんを呼びつけて動画に撮って欲しいことをお願いする。
「ご自分で撮られた方が臨場感はあるかと思いますが」
「いえ、今は大変な時ですので僕たちも真剣に取り組んでいる様子を見せた方がいいと思います。出来ればこっそり撮ったという体がいいんですが」
「これは確かに。理解はしましたが、ご友人の方は大丈夫でしょうか?」
「だってさ。冬香、さっきみたいに念仏を唱えられる?」
ブンブンと横に振られる頭。そんなに緊張するものだろうか。別に恥ずかしいところを撮られる訳でもないのに。
「じゃあ、すみませんが暫く撮り続けて貰ってもいいですか? それで使えそうな範囲を切り取って宣伝に使いますので」
「名案と存じます。ではすぐにご用意するので暫しのお待ちを」
ささっと場を離れる職員さんに映像のことは任せて、とりあえず作業の続きをしようと思っていた廊下を全力疾走する音と気配がした。
この敷地内でそんなことをするのは一人だけしかいない。
「試し切りしてきたよ! なんかちょっと強いのが出てきたけどこれでぶった斬ってやった!」
返り血で凄いことになっている千郷は満面の笑みで刀を振っている。
浄化の水で倒した時とは違い生々しい戦いの跡に冬香が大口を開けて固まっていると、そこへ丁度良く撮影機器を持った職員がやって来て。
「ん? なにこれ。いえーい」
機器を向けられた千郷がそちらに笑顔を向けていた。
「すみませんがソレは撮らないで下さい。千郷、汚れてるから脱いで新しい服に着替えてきて。掃除は僕がしておくから」
分かったという返事が遠くなるのを聞きつつ水を走らせて千郷が残して行った汚れを拭き取っていくのだった。




