一話-7 竜胆庵
「それじゃあ、またね。冬香」
「あの……清花さん」
「続きの話はまた今度会った時にしよう」
冬香は結局自分でどうするべきかを決めることが出来なかった。だから予定通りに土御門家に彼女を置いていく。
自分で命を懸ける覚悟のない未成年の子供を戦いの場に出すことは出来ないし、するべきではない。僕の傍が絶対に安全だと断言出来ない以上は冬香は家族の下に帰すべきだと判断した。
最後の最後で何かを言おうとしていたけれど、それは時間に押されて出た言葉だから考えた末のものではない。
「でも……」
続けようとしながらも冬香は言葉を紡げない。
彼女の腕を掴む門の前で出迎えたご両親は娘が帰ってきたことに対する安心した様子を隠しきれてはいなかった。
同じ歳で同じ血を引く僕がこれから妖怪と戦うと分かっているのに実の娘が戦わないことに安堵する。
そのことに罪悪感を感じてまともにこちらを見れない人たちを置いておくことを冬香は出来ない。
「行って下さい」
前と後ろを何度も振り返る彼女をそのままに、車に乗り込み戸を閉めると間もなく発進した。
こちらに手を伸ばした冬香の腕が垂れ下がったのを鏡越しに最後に確認して。
「来ると思う?」
横から不意に疑問を投げかけられる。
「七割か八割くらいで来るんじゃないかなって思ってる」
「それは多いのか少ないのか微妙なところね」
「家族思いと友達思いで思い切りもいいけど、怖がりで意地っ張りだからね」
「その要素で来る確率の方が高いのは何故?」
「友達思いの割合が高いから、かな。一度帰って顔を見るまでは家族思いの部分とせめぎ合ってたんだと思う。別れ際にはまた別のことを考えていたみたいだし。冬香の性格的に行かないって決まっているなら罪悪感で泣きそうな顔をすると思うんだよね」
「そこまで理解しているのにあの子のことを遠ざけたのね」
「自分で決めるからこそ意義があるんだと僕は思うよ。その決断が自分にとっての力になるんだ。僕はそう思ってる」
「誰も彼もが貴方のように出来る訳ではないわよ」
「それは僕を過大評価し過ぎじゃないかな?」
「お馬鹿。貴方の歳で、それに女の身でたった一人でも戦い続けられるような子がいる訳ないでしょう。そんな貴方の感覚で一般人上がりの冬香に同じだけの覚悟を求めるのは酷というものよ」
ここまで断言されてしまっては受け入れるしかない。違うと否定出来る材料は当人である僕には持ち得ないから。
戦うことを求められて育てられる男と、戦わなくても良いとされる女では戦いに対する心の持ちようも違ってくる。であれば確かに冬香に求め過ぎることは出来ない。
「それでも、心情を抜きにするのならあの子は絶対に来るべきだけれどね」
「うん? ……うん?」
主張が三回転くらいしていて思わず二度も首を捻ってしまった。
そのことに軽く吹き出した大門先輩を咲夜は睨みながら続けて話す。
「あの子が御家復興を目標にしているのなら今回の件は絶好の機会ではあるのだから来るべきという話よ。実際に為した事の大小は関係なく、例え清花の庇護下であったとしても、勇気を出して一躍買ったという事実はあの子の"未来"に大きく響くの。逆にここで何もしなければ臆病者の誹りは免れないわ。この戦いで退魔師側が負ければいずれはあの子も見つかって死ぬのだからつべこべ言わずに連れて来れば良かったのよ」
「本当に心情を無視してるね。言ってることは間違いではないんだけど」
「だからあの時は言わなかったでしょう。あの子も次期当主としてそういう物事の機微には敏感にならないといけないのもあるけれど」
「そこは本人が気付けなくても冬香のお婆様辺りが教えてくれそうではあるかな」
それでも懸けるのはお婆様ではなく冬香の命だ。大蓮寺家の未来を一身に背負わせている罪悪感から言わずにいる可能性もあるけれど。
命を大事にと考えるのならそれは決して間違いではない。どちらが正解とは僕も咲夜も、誰だって分からない。
「私としてはあの子の両親が告げると思いますよ」
倉橋さんが確信したような声で告げた。
「それはどうして?」
「親としての責任です」
これ以上ないくらいキッパリと言い切られてしまって僕と咲夜は言葉を返せなかった。
その言葉をすんなりと受け入れられることが出来るほど親というものを知らず、また親でもない僕たちには分からないことだったから。
倉橋さんはそんな僕たちを見て力を抜いた笑みを浮かべた。
「お二人はいずれ分かるようになればいいんですよ」
いつもなら僕のみが受ける言葉も今回は咲夜も対象に入るのでからかいの言葉もない。
ただこういう時になんと返すべきなのか、分かっているつもりだけど喉元から出て来ないのは何故だろう。
否定ではない、ただ胸の内がムズムズとするような感情だ。
すると話がひと段落したのを聞いてか、機械から声が聞こえてきた。
『失礼します。もう間もなく到着しますのでご準備をお願いします』
聞こえてきた声で意識を外に向ける。
僕たちが住んでいた街とは違い、辺りには木造建築の平屋の家がそこかしこに見える。
生憎と芸術的な知識はからっきしだけどこれが古き良きと呼ぶのだろうと感じた。
ただ物々しい車が列を成しているからか道行く人がこちらを仰天して見ている。
『京都に入りましたらもう安全です。ここは退魔師協会本部のお膝元ですので良からぬ輩は入ってすら来れません』
「今の状況下でもですか?」
『はい。確かにある程度の数は各地に散らばってはいますがそれでも数と質が違いますので』
唐突な質問にも岩蔵さんはハッキリと自信のある答えを返してきた。
妖怪の宣戦布告を受けて退魔師は事態に即応するのではなく、事前準備をしなくてはいけなくなった。必然的に一か所に戦力を集中出来なくなったのでここ京都からも人がいなくなっているはず。
それに本部と言えば白面の襲撃を受けた場所でもある。
だというのにこの言葉だ。襲撃の件も含めても相当の自信があるのだろう。
「それならもっと道中に配置してくれても良かったんじゃない?」
そんな自信があるからこそ咲夜の正論はよく刺さったろう。返事がすぐには返って来ない。
代わりに魅緒さんの声で返ってきた。
『そう言ってやるな。京都の奴らは腕は確かだが偏屈な奴が多い。手を貸せと言ったところで素直に聞く奴は……おや、今気付いたがこんな所に清花を連れて来たら妖怪どころか退魔師までやられはしないかね?』
『本人たちが大丈夫だと断言したので大丈夫でしょう。それは私の責任ではありません』
言葉の端から諦観めいたような気がするのは気のせいではない。
きっと警告はしたのだろうけれど聞く耳を持たれなかったに違いない。
『投げやりだねぇ。どうせ外部から来た若く経験も浅い、それもたかが女の術なんぞにとでも言われたかい? まっ、そういうことだ。ちょっかいを掛けてきたらさっきの術をお見舞いしてやんな。この私が許可する』
「いいんですか?」
『構わん構わん。寧ろどんどんやってくれ。そして写真を撮って私に送ってくれると嬉しい。高値で買い取ろう』
『すみません。今の話は忘れて下さい。ちょっと────』
そこで会話が聞こえなくなった。好き勝手する特級退魔師とそれを制御しようとする中間管理職の構図が見えた気がする。きっと僕たちの知らないところでも色々やっているのだろう。
相手は特級退魔師ということで扱いには気を揉んでいるのが目に見えるようだ。
「幾らで売ろうかしら」
「咲夜お嬢様?」
「冗談よ。そう真に受けないで。そもそも、さっきみたいなことが二度もある訳がないでしょう?」
「二度目があったらしていい訳ではありませんからね」
倉橋さんは流石は咲夜のことをよく理解している。
しかし、大門先輩が苦笑いしているのは何故だろう。
「そういう時は売るのではなく、証拠を用いて恨みを買わない程度に本人から搾り取って下さい」
「そうね。私としたことが間違いを犯すところだったわ」
「んん?」
なんだか想像と違う答えが聞こえたような。しかも結構あくどい手法な気がする。
でも前提として相手が何かしてきた時の仕返しの意味合いが強いのでそれはダメだとも言いにくい。
いつもなら諫める立場の倉橋さんも背中を押す側に回っているのでどうしようもない感じがあった。
「二人とも先程の襲撃と、襲撃に対する周囲の対応に怒っているのです」
どう宥めたものかと考えていたら大門先輩が二人には聞こえないように耳打ちしてくれた。
この二人のことだから自分の身の危険を感じてという訳ではなく、僕をいい様に利用したことに対しての怒りなのだろうということは何となく分かる。
ならば僕から何か言うことはない。
寧ろ二人が戦っている背後で睨みを効かせた方がいいか。
「ちなみに先輩はさっき何をしていたんです?」
「周囲に隠れていた怪しい奴を捕まえて尋問していました。清花お嬢様の結界は確かに有効でしたし、戦いに関しては無類の力を誇りますが最初から敵意もなく戦う気もない人までは対応出来ないようですね。欠点という程ではありませんが頭には入れておいた方が良いかもしれません」
「そうですね。次からは怪しい思考を持っている人も対象に入れようかと思います」
「出来るのですか? ふふっ、その器用さがあの結界の最も強いところかもしれませんね」
目を見開いて笑う大門先輩はそういった人を捕まえて背後関係を聞き出していたということか。
尋問に対応しようとすれば戦意が表に出て結界に無力化されるから尋問も楽ではあっただろう。
情報源となる罪人たちは全員連れて行かれてしまったし、独自に手に入れる情報も大切だ。
その辺りを担ってくれた大門先輩には感謝しかない。
「尋問って何をするのか分からないですけど、何か良い情報は手に入りましたか?」
「はい。幾つかは今後の為に使えそうです。咲夜お嬢様ならばきっと上手く使ってくれることでしょう」
そう言って怪しい笑みを浮かべる。あくどいその表情は奇しくも先程二人が浮かべていた表情のそれで。
様子からは分からなかったものの大門先輩もあの時のことについては思うところがあるということか。
三人からそんな風に思われていることを思うと、何だか胸の内側が落ち着かないようなむず痒い思いを感じる。
そんなやり取りの中も車両の列は進み続けていて、少ししてその動きを止めた。
「どうやら着いたみたいね」
木造建築が並ぶ街並みが段々と木々が並ぶ景色に変わり、次第に住宅地から離れて人気のない閑散とした場所にやって来ていた。そのまま真っ直ぐ走っていると咲夜の言うように目的地となりそうな場所が見えてくる。
「あそこが僕たちが住む場所ってことでいいのかな?」
「資料にあった外観の通りだから間違いはないと思うわよ」
「良かった。じゃあ別の場所に連れて来られた訳じゃないんだね」
悪意がないから大丈夫だとは思いつつも一抹の不安があったのでそれが杞憂で良かった。
改めて見る建物は、今時珍しい木造建築の平屋で高層ビルのように上に向かっての階数がない。ただその代わりと言うべきか規模が大きかった。平均的な一軒家の面積の軽く百倍は超えているだろう面積が横に建物が広がっている。
それぞれが分かれているのではなく、一つの建物として繋がっているのだとすれば豪邸という呼び名ですら生温い。
そこかしこに見られる様式や様相からは神社やお寺のようなある種の神聖さが見受けられる気がするし、これがただの建物ではないということは一目ですぐに理解出来た。
「清花にしては珍しく少し緊張しているみたいね。聞きなさい。ゆっくりでいいから深呼吸をするの。出来る?」
顔に出ていた、らしい。倉橋さんと大門先輩が安心させるように笑っていることからも事実であると理解した。
緊張しているのは咲夜も同じだろうけど、ここで変に意地を張ったところで余計に気を使われるだけなので受け入れて心を落ち着かせることにしよう。
「……すぅ。はぁ。……うん。もう大丈夫だよ」
「そうみたいね。この後は緊張する余裕なんてないくらい働いてもらうから覚悟しておきなさい」
「ははっ。分かった。その方が気楽そうだからお願いするよ」
気を取り直して落ち着いた心で景色を見る。建物を取り囲むように辺りを背の高い木々に囲まれた景色は景文さんと一緒に向かった集会場所を思い起こさせた。ここもあそこと同じようにここも霊力が渦巻いているので龍脈が近いか、その上に建てられているのだろう。
そんな場所を僕たちに任せることから今回の件に対して力の入れようが多少なりとも分かってくる。
ここを妖怪側に占領されることを考えると少なくともただの撒き餌に対して預けられる場所ではないことは確かだとは思う。
ふと、この地は咲夜から見たらどう見えるのか気になった。
「ねぇ、この場所って咲夜からはどう見えてるの?」
「景色の話ではないわよね? ……そうね、意識して視ないようにしないと普段の生活が難しいくらい霊力が迸っているわね。視覚的表現をするなら、まるで龍が何体も宙を駆け巡っている感じかしら」
「龍、かぁ」
龍と言えば夢で見た神を思い出す。あれほど巨大ではないにしろ、あんなものが身近に飛んでいたら視界不良になってもおかしくはなさそうだ。
そんな思いを馳せていると、耳元で倉橋さんがそっと囁いてきた。
「昔は似たような悩みで寝付けなかったですからね。今となっては懐かしい思いでです」
「そうなんですか? もう少し詳しい話を聞きたいですね」
「では暇な時間が出来た時に」
「貴方達、無駄話は終わりにして出る準備をしなさい」
自分の過去を話されるのは恥ずかしいらしい咲夜が話を打ち切らせる為に無理やり割って入ってきた。
彼女がこういう反応をするということはその件で何か人に知られたくないことがあったのだろう。
後でこっそり聞いてもいいけれど、バレた時が怖いか。
言われた通りに手荷物を纏めておいてすぐに出れるようにしていると間もなく建物の傍に停まった。
先に停車していた前方の車からは岩蔵さんがこちらに向かって来ており、戸が開いて僕たちが降りると頭を下げてから建物の方を見やる。
「ここが皆様が今日からお使いになられる住まいとなっております。生活に必要な物はご注文の物も含めて取り揃えておりますので、もし足りない物があった場合や不具合か何かがあった時は私に連絡して頂ければ仲介をして専門の者に代わりますので是非ご気軽に相談下さい」
岩蔵さんはこの近辺にあるらしい別の建物に仮の居を構えているらしく、部下にいくつかの指示をした後にこの場を離れていく。部下の人たちは僕たちの荷物を玄関先まで搬入してくれると一礼した後に去っていった。
最後に残った魅緒さんは慈愛の瞳で近寄って来ては僕の頭を撫でてきてはカラッとした様子で笑った。
「上からの依頼とはいえ、さっきは悪かったね。まああれだ、苦労ってのは若い内に経験しておくとその後の人生が生きやすい。何の得にもならない年長者の助言だから忘れて構わんよ」
自分でそれを言うのかと思ったのが顔に出ていたか、魅緒さんは更に笑いを深める。
「確かに力こそあるが、お前さんはちと顔に出易いのがな。力の性質を考慮すれば問題ないとも言えるが何事にも抜け穴はあるもんだ。……そこはしっかり補ってやんな。じゃあな」
今度は咲夜の頭を軽く乗せるようにして叩いた美緒さんはそのまま挨拶を聞かずに後ろ手を振りながら立ち去って行く。
僕の結界に巻き込まれても悪感情一つ見せずにいたことを踏まえれば最初から最後まで一貫した態度を貫き続けていたとも言える。
見えているか分からないけれど、魅緒さんに向けて一礼をする。頭を上げる頃にはもう姿はなかった。
「律儀なことね」
「もしもの場合は動いてくれてたと思うし、護衛の為にわざわざ時間を割いてくれたのは確かだからね」
「それが私たちがここへ来る条件なのだから別に感謝までは必要はないわ。さぁ、行きましょう」
咲夜は言いながら荷物を持ち勝手知ったる我が家のように建物の中を進んでいく。
事前に資料を読み込んでいたからどこに何があるか分かっているみたいだ。僕も読んではいるけれど実際の景色と写真とではやはり認識の仕方が違うせいでまだ慣れそうにない。
気分の高まりを抑える為にもここは普段の生活のように慣れている行動をするべきだろう。
「荷解きは任せていいかな? 先に結界を張って陣を敷いておきたいんだ」
「そうね。清花はそっちを先に進めて頂戴。これだけ広いと時間も掛かるでしょうから本格的なものはお昼ご飯を食べてからにしなさいよ」
「分かった。それじゃあちょっと表に出てるね」
家の中に入っても悪意らしきものは感じなかったし、三人とも念の為の霊具は持っているので大丈夫だろうと判断する。白面が地下に潜伏していた例があるから絶対と言えないので今回は結界は地中まで念入りにやることとしよう。
借家を出てからすぐに辺り一帯に雨を降らせる。雨が降る場所は浄化の力を含んだ水によって浄化されて魔を祓う神聖な土地と成る。
しかしここには初めて来たこともあって何度も降り注いできた土地とは勝手が違う。そうすんなりとはいかないだろう。
だから今回は量を質で補完する。
「……浄罪」
浄化の力が更に染み渡るように、今回は更に結界も追加して発生させた。
元々は雨と同時に結界を張る合わせ技がこの浄罪だ。僕の認識ではそれぞれ独立して効果のある術だけど、同時に使用すれば相乗作用があることは今までの経験を通して分かっていた。
結界は内側と外側を隔てるもの。であれば結界の内側には浄化の気が外に発散することを抑制し、内部に滞留させる役割も兼ね備えているのではないか。大蓮寺家の古文書にはそこまでの情報は書かれてはいなかったけれど、咲夜の眼によって観察した結果から言ってもそれは間違いではなかったはず。
つまり結界を張り続ければその間は上方に逃げる浄化の気が無くなることはないということ。
問題は張り続ける為の霊力量だけど、そこに関しては問題はない。
(更に念入りに……)
結界として機能するだけなら半球状でも構わないけれど、浄化の気を逃さない為と白面の件も考えて下方にも結界を展開したい。
遠くの場所に結界を張れないことからも僕は想像力には乏しいことは分かっている。だから地中に結界を張りたい場合はどうするべきかを考えてた。
その答えとして結界を無理やり伸ばすことを思いついた。
球形や立方体に作るのはそれが想像し易いからであり、同時に古くから使われてきた固定観念によるものでもある。
しかし僕は違う可能性について知ることが出来た。
そもそもあの神様の鱗が一枚一枚の結界だったように、この結界には決まった形というものはない。
だから出来る。ダメなら地面を掘ってでも繋げてやればいい。
「………………」
「————か」
形成した結界の形を変えるというのは中々に難しいことであったらしい。
あの神様を見た時から練習はしているものの中々成功したことがなかったから分かってはいたことだけれど。
それでも今の自分になら出来ると信じて結界をゆっくりとでも伸ばし続け、それはついに繋がった。
「ふぅ。…………やっと出来た」
「清花!」
「うわあっ!」
意識が結界のことから離れた瞬間に大きな声で呼ばれたので思わず心臓が大きく跳ねた。
驚き過ぎて鼓動の音が耳に響く中、声の方へ視線を向けるとそこには仁王立ちをした咲夜が立っていた。
「えっと、荷解きは終わった?」
「とっくにね。戻って来るのが遅いから何をしているのかと思えば汗だくで何をしていたの?」
「汗だく?」
結界を弄るだけで運動なんてしていないと思いつつも、咲夜が呆れた様子で視線で見るように促してくるので視線を下げてみる。そこには汗で滲んだ大きな染みがあって。
どうやら長い時間結界の構築をしていたけど集中していて気が付かなかったらしい。
「何をしていたのかは後で聞くから、今は先にお風呂に入ってきなさい」
「えっ? 別にこれくらい、僕の力で乾かせるよ?」
「だとしても汗を掻いたことには変わりないのだからお風呂に入ってさっさと着替えなさい。私はともかく千洋さんには間違いなく怒られるけれどいいの?」
「うっ。それは、確かに……」
汗の匂いまでは完全には誤魔化せないし、そうなったら怒られることは必至なのでここは素直に従った方がいいか。
自分の中でも難題だったことをこなした達成感を胸に浮き足立つ思いでお風呂場へと向かっていく。




