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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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153/156

下位打線と好守

 泉州ナイツのバッテリーが投球練習を、野手陣が内野と外野でそれぞれボールを廻して守備練習をする一方、三塁側ベンチでは円陣が組まれていた。




「打順下位やけど、グラウンド整備の直後やから突き放すにはええチャンス。ここで突き放して、試合(ゲーム)有利にするで!!」

「はい!!」




『今日大会2日目第4試合の大阪府代表・初出場の泉州ナイツと福井県代表・坂井スローパーズの試合はグラウンド整備が明けてこれから6回の表の攻防へと入って行きます。横岡さん、ここまでの展開をどうご覧になられていますか?』

『どちらも再三ピンチを招きながら抑えているので守備のほうはロースコアなんですけども、言い換えれば再三チャンスを作りながらイマイチ得点ができていない、とも言えますね』

『5回までのヒットの数は坂井スローパーズが9本、泉州ナイツも6本。只その割に得点は3対2とロースコア。チャンスの場面で抑えられているという印象が続く中で1点をリードする坂井スローパーズは下位打線からどう攻めるか、注目です』




「この回大事やからな、締まっていくで!!」

「「「おー!!」」」

 ホームを守る美原の音頭で、泉州ナイツが全員で気合いを入れる。


『6回の表、坂井スローパーズの攻撃は―6番 ショート 長畝』

「プレイ!」

『今日ヒット1本の長畝から。第2打席でスライダーを捉えてセンター前ヒット』


バシィ!


『そのスライダーから入って来たバッテリー、まずは空振りを取りました』


―終盤の1点2点が重要なんはお互い一緒。それなら今オレにできることは、あとの2イニングを確り投げて、キッチリ守って攻撃に繋げること。

 まずは今すべきことに割り切った和泉、2球目。


バシィ!


『今度はカーブ。2球続けてインローの変化球で空振り、2ストライク』


―2球続けてインローで来たけど、同じのが来るとも限らない。それにボールの上半分が見えれば、そこを低く強く打って、またヒットでチャンスメークできる。

 先程と同じ様な打撃(バッティング)を長畝は試みる。


キィン!

―やっちまった…。

 打った瞬間にこれはミスショットと確信した長畝、1塁へ走る。


『高く上がって…、レフトの守備範囲! 深井前に来て、構える…』


パシィ!

「キャーッチ!」

『レフトフライで1アウト。これで坂井スローパーズは1回以来の先頭バッターアウトとなりました』



―最後のは真っ直ぐだった…。コースだけ読んで球種を読んでなかった上に、ボールの上半分を十分に捉えられなかった…。



 打球が飛んだ方を見て悔しそうな表情の長畝、三塁側ベンチへ戻る。


『7番 セカンド 滝谷』

『2回以降先頭バッターにヒットを打たれ続けていた和泉ですが、久々に先頭バッターを打ち取りました』

『1つ自分たちのペースに弾みがつくかとは思いますが、これでもう大丈夫と思って油断しないことですね』


バシィ!


『スライダー。バットの手元で沈む球に空を切ります』




―好球必打で行ったけど、打てない球を振っても意味無いな…。変化球よりストレートのほうが打ち易いからそっちで行こう。自分は力がある方じゃないから、大きいのは狙わずに。


 狙いを定めてもう1度構え直す滝谷、それを美原がマスク越しに見る。


―バットを短く持っとる…。コンパクトに振って確実に逆方向へ狙い打とういうつもりやろうけど、前足の半分が打席(バッターボックス)のラインにかかっとる上に、その構えでアウトコース狙うんはバットが届かん、足出てまう、で寧ろ危険やん…。アウトコース一杯に真っ直ぐ。


 打者(バッター)が打つ前に片足でも打席から完全にはみ出て打った場合は、その状態でバットに当たった時点を以て打者は反則打球でアウトになる。そういう危険(リスク)があるのにそれ以上踏み込んでは来れない―こう結論付けた美原、和泉にサインを送る。




キィン!

「えっ!?」

『低い打球、ライトの前へ抜けます!』


 それでも打って来た滝谷を見て、美原はキャッチャーズマスクを上げるや打席(バッターボックス)を見る。と、


―ん?




 良く見ると、前足の踵の部分がライン上に乗っていた跡がある。つまり滝谷は、打つ時に半歩程前に踏み込んで、踵をライン上に置いた状態で打っていたのだ。ライン上を含めた打席(バッターボックス)の中に片足または両足が一部でも残っていれば正規打球になる―規則(ルール)通りに打撃行為を行ったという証拠の前に、美原は何も言えなかった。




『外の球を滝谷見事打ち返しました! 横岡さん』

『はい』

『今の打撃(バッティング)どうご覧になられましたか?』

『コンパクトに逆らわず鋭い打球で、しかも恐らくは狙い球だったのでしょう、思い切りの良いスイングにも見えました。しかも打席のあんなギリギリに踏み込んでまで…』

『ライン一杯に踏み込んで見事ヒットを打った滝谷、1アウトランナー1塁です』


『8番 ピッチャー 兵庫』

『チームとして10本目のヒットのランナーを1塁に置いて8番の兵庫。好打者でもある彼の前にこれで3打席連続でランナーを置いて廻って来ましたが過去2打席ヒット無し』




―特に何もして来んかったら内野ゲッツー。

―せやな。投手(ピッチャー)やから、もしそうなれば走った後すぐにマウンドに行くことになるで。

―ゲッツーやったら大賛成。早いカウントでな。

―2つ取れる準備はできとるで。


 美原の案に、和泉、津久田、多奈川と賛同者が続いて、


「内野ゲッツー行くで!!」


作戦が決まった。




『自分のバットで追加点へ繋げられるか…、ヒッティングの構えから動き無し』


バシィ!


「ストライーク!」

『初球は見て来ました』


バシィ!


「ストライクツー!」

『2球続けて見て2ストライク。テンポ良く追い込んだのは泉州ナイツバッテリー』




―あれ、若しかして読まれたか?

 早いカウントでゲッツーに取ることを推奨していた津久田だが、2球見送られたことで作戦が読まれたのではと疑う。


―真っ直ぐより変化球のほうが打ち取り易くはあるからこれまで通り低く集めればゲッツーも取り易い。

―バットの芯に当てさせない且つ低い打球やったらゲッツーも取れるが…、ん?

 バッテリーもゲッツーを取るべく変化球中心の配球で来たが、兵庫が構え直したのを見て美原はもしや…、と思い始める。


―これ…、変化球続けたらアカンかな? 何かわかったっぽいから彼。アウトコース低目にストレート。




―長畝さんはミスショットだったけど滝谷さんは確実に打てる球を打って行った。それならオレも。

 美原の読み通り兵庫は狙い球を決めて構え直す。




キィン!


『1・2塁間―は抜けない!! 多奈川スライディングキャッチ!!』

「良哉!」

「1塁や!!」

『ダブルプレーは取れません、ボールは1塁へ!』


「アウト!」

『素晴らしいプレーですセカンドの多奈川! 抜ければヒットの打球を良く捕りました!』

『捉えた当たりで1・2塁間は広く空いていましたので打球もコースも悪くなかったんですが…、良く追い付きました』

『多奈川の好守に阻まれて連打とはなりませんでしたが…、しかし兵庫は自分のバットで追加点のランナーを2塁へ進めました。2アウトランナー2塁です』


『9番 ライト 為国』




「ナイスバッティング」

「捉えたんだけどなあ~…」

「でもでもランナーは2塁に進んだから。滝谷さんが還って来れば、十介、お前は自分のバットで追加点をアシストしたことになるわけよ」


 仲間に迎えられてもイマイチ納得行っていなかった兵庫だったが、春江の説得で、そうなれば間接的に自分を助けたことになるのか…、と若干の心理変化を見せた。

 そうなることを願いながら、少しゆっくりとしたペースでブルペンへ行く準備を始める。




キィン!


『一塁線痛烈な当たり、良く捕った大津!』

 ダイビングキャッチの後、今度は一塁ベースへ駆け込んでからスライディングタッチ。


「アウト!」

『自分でベースタッチ、3アウト! ランナー2塁に残塁!』




―もうマウンドかよ…。

 結局ブルペンに行けず、そのままマウンドへ。好守に阻まれたとは言え、折角のアシストも得点には繋がらなかった。




「ナイスプレー!」

「このまま攻撃に繋げるで!!」

試合(ゲーム)ひっくり返したれー!」


『ライン際の打球でしたので抜ければ長打で追加点が入る場面でした。多奈川に続き大津も見事なファインプレーを見せて泉州ナイツピンチを凌ぎました!』


 立て続けの好守に湧く泉州ナイツを、黙ってじっと見る兵庫。


「切り替えて今は投球(ピッチング)に集中しよう。マウンドへ行くの、ゆっくりで良いから」

 春江は兵庫にそう言うと、ベンチのほうを向いて、こちらも準備を始めた。




『この回下位打線でチャンスを作りましたが、再三の好守に阻まれたこともあり坂井スローパーズ、6回の表は無得点に終わっています』

 ヒットの枠には10が灯っているが、6回の表の得点は兵庫にとっては恐らく一番空しいであろう0が灯った。


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