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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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154/156

リフレッシュ

「さっき好プレーで守れたから。そのままの勢いで、同点に追い付くで!!」

「「「おー!!」」」

「じゃ、大樹」

「ん」


 円陣を組んだ後、大津はヘルメットを被りながら一塁側コーチャーズボックスへ向かう。前の回の攻撃は和泉で終わったが投球練習をする関係から、その前の大津がこの回の一塁ベースコーチャーを務める。




 マウンドでは、いつもよりゆっくりと兵庫が足場を均していた。次にマウンド後方にあるロージンバッグを手に取りつつ、ゆっくりと呼吸を整える。


「何時でも捕れるぞー! てきぱきいこー!」

―おい。…ウチの主将(キャップ)には気遣いってもんが無いのか。そりゃアンタ控え捕手(キャッチャー)だから何時でも行ける準備はできてるんだろうけどさあ。


 18.44m先で構える控え捕手でもある竹田にツッコミを入れつつ、兵庫は投球練習を始めた。




『6回の表まで坂井スローパーズは10安打を放ちながらチャンスで中々得点できず3点止まり。泉州ナイツの和泉投手が再三のピンチを招きながら春江以外はピンチの場面で抑えている粘り強い投球(ピッチング)が続いています。しかし粘り強い投球(ピッチング)は兵庫投手も負けていません。先制を赦しましたが2回以降は3塁を踏ませていません』




「1ボールピッチ!」

…に、なったにも拘らず、未だに正捕手が来ない。


「手伝わないで良いの?」

「全部1人でやるからって言ってたけど…」

 控えの選手たちも準備が遅いことを気にする中、


―あれ…。

春江は右足のレガースの紐が捻じれていたことに気付き、外してから付け直す。


「ちょっと捕手(キャッチャー)急いで! 投球練習とっくにほぼ終わってんで!」

「はい!」


 結局、田部球審に促され、漸くグラウンドへ向かった。




『さあ春江が漸く守備に就きました…』

『いつもより丁寧な準備でしたね春江選手…』


 二塁へのスローイングを終えて、春江が守備陣全員に檄を飛ばす中、こちらもちょっと間を置いた岸田が打席に向かう。




『6回の裏、泉州ナイツの攻撃は―5番 サード 岸田』

「プレイ!」

『1点を追う泉州ナイツは5番の岸田から。今日は5番6番が当たっている泉州ナイツ』




―バントが巧いからな…。下手に巧く決められたらまた内野安打だ。

―バントでもヒッティングでも、フライ上げちゃえばその可能性は減るでしょ? それに万一決められても、十介、お前にはフィールディングっていう武器があるだろ?

―ああそっか。

―絶対打たせない、チャンスを作らせないぞっていうボールを、腕を振って思い切り投げろ。球種は任せる。

―OK。


 春江のサイン通り、兵庫は思い切り腕を振って初球を投げる。




カキ―ン!


『初球、センター前ヒットー!!』

「やった!!」

「浩平ナイスバッティング!!」


―あれ!? あの~打たれたんですけど…。


 ベンチにいる泉州ナイツの選手たちと兵庫の意見が分かれる中、岸田は1塁ストップ。


『フィールディングの良い兵庫の足元を鋭く抜けて、岸田今度はヒッティングで今日2本目のヒット! チームとしても7本目のヒットでノーアウトランナー1塁』


「ちゃんと起きとったな」

「やかましいわ」

―起きとったから打ったんやろうが…。それにあの2点、オレのせいで取られた様なもんやから…。


 大津にツッコみながらバッティンググローブを渡す岸田、その脳裏には同点に繋がった3回の表の守備での失態(ボーンヘッド)が過っていた…。




―ちょっと来てよ…。

「え、何…。タイムお願いします」

「タイム!」


 兵庫に手招きで呼ばれた春江、マウンドへ向かう。






「何?」

「あの~あなたのサイン通りに投げて打たれたんですけど…」

「さっき進塁打まで打ったのに追加点入らなかったから、気分良くなかったよな?」

「うん」

「ゆっくり準備する様言ってオレも付き合ったけど、オレのほうがゆっくりし過ぎたな。そこは謝る」

「いや、そこじゃなくて…」

「うんわかってる。でもこれでシャキッと試合に戻れたよな? リフレッシュするのも大事だけど、あまり休み過ぎるのも良くないから、腕を思い切り振って投げて体の感覚を起こして、打たれれば尚起こせる、気が引き締まる。気持ちが落ち着いた状態で、もう1度試合に集中する上では、抑えれば尚良い、打たれたとしてもその後を確り抑えるぞという気持ちになれるわけ」

「あ、抑えても打たれても良かったってことか、今のは…」

「そ。ノーアウト1塁だから、3塁行くまでは1個ずつアウト重ねよう」


 そう言うと、春江は駆け足でキャッチャーズボックスに戻った。






『バッターは 6番 セカンド 多奈川』

「6回裏、ノーアウト1塁。プレイ!」

『同点のランナーを1塁に置いて、今日左右両打席で合わせて2安打と当たっている多奈川。左打席に立ちます』

『今日は彼の色々な技に翻弄されているだけに、バッテリーとしては最も厄介だと思っているであろう彼をどう抑えるか見ものですね』

『第3打席ではどんな技を見せて後続へ繋ぐか…、ランナー1塁ですがバントの構え無し』


バシィ!


「ボール!」

『初球は見て来ました』

 お互い様子見か…、多奈川が見送ったならば野手陣も兵庫の投球と同時にダッシュして来なかった。

『セットポジションから2球目…、バントの構え!』


バシィ!


「ストライーク!」

『から引いて来ました。外角(アウトコース)に決まって1ボール1ストライク』

 多奈川がバントの構えを見せたが、三国、中庄ともにダッシュせず。只ダッシュができなかったのにも理由があって…。


『第1打席でバスターを決められてますからね…。それが脳裏にある以上、特に中庄選手としては構えを見ただけですぐにダッシュというのは難しいでしょうか』

『多奈川は第1打席でバスターを決めましたがその時シフトを敷いていた中庄とショートの長畝がその逆を突かれてしまいました。横岡さんの仰る通りこれがあると中々ダッシュも躊躇(ためら)ってしまうか。3球目は早くからバントの構え』


『今度はダッシュして来た!』

バシィ!


「ストライクツー!」

『しかしここも引いて見送ってカウント1ボール2ストライク。ボールから入りましたが一転、追い込んだのは坂井スローパーズバッテリー』




―バスターかスリーバントか…、それだけありそうな程巧いもんな多奈川。まあでもさせてもアウト取れれば良いもんなここは。十介にもランナー3塁まではアウト1個ずつ取る様言ってあるから。

―外野を破られさえしなければ追い付かれる可能性は低いから、アウトを取れるボールを投げろ―そういうことでしょ?

―そう。お前の制球力を活かして、まずはアウト1個を確実に。

―わかった。


 先程話し合った通りの内容に基づいて、4球目のサインを決める。




『バント…、から引いて!?』


ギィン!


『高いバウンドはサードの頭上! 中庄ジャンプして捕って1塁へ!』


「アウト!」

『ここは中庄のフィールディングが勝りました! ダッシュしてそのままジャンプ、空中で捕って見事な1塁スローでした』


 中庄の素早いフィールディングによりヘッドスライディングを試みた多奈川は1塁間に合わず。只ランナーは2塁に進んでいる。


「OKOK!」

「ナイス進塁打!」

「最低限打てたから、どんどん繋ぐでー!」


『7番 センター 田尻』

『同点のランナーは2塁に進んでいます。先程第2打席では送りバントを決めている田尻、今日は守備でも1つ良いプレーがあるだけに攻撃面でもキッチリ繋げられるか』


―守備で良いプレーがあったからこそ攻撃面でももっと活躍せなアカン…。皆はナイスファイト言うてくれたけど、せやから悔しいねん…。

 5回の表の守備でのダイビングキャッチミス…、記録は二塁打(ツーベースヒット)になったが勝ち越される遠因となったプレーを、本人は悔いていたからこそ、静かに気持ちを燃やしていた…。




キィン!


『速い当たりはファーストの正面! 三国捕ってベースを踏みます、2アウト! 2塁ランナーは3塁へ』

 一塁ベースを駆け抜けた後、ヘルメットを脱ぎながら悔しい表情を見せる田尻。


「ナイスバッティング!」

「チャンス広がったからなー!」

「ここ絶対に同点にするでー!」


 そういう味方の声も、悔しさを拭い切れていない田尻にだけは響かなかった。


 その田尻をじっと見つめてから、津久田が打席に向かう。

『8番 ライト 津久田』

『岸田がヒットの後進塁打が2つ続いて2アウト3塁と一打同点のチャンス。泉州ナイツとしては1回以来ランナーが3塁を踏んだという状況で8番、今日は2打席ノーヒットの津久田』

『決して派手ではありませんが確実にチャンスを広げたので、ここは打って同点にしたいですね』




―雄輔は悔しがってたけど、打球は芯を喰って低く飛ばしとった…。2アウト3塁、1ミスでも、1ヒットでも…、内野安打でも同点になる。フライを上げずに低く打てばええ場面やから、このチャンス必ずものにするで。

 田尻の打撃(バッティング)を見て分析した津久田、たとえ彼程で無くても今どうすべきかを考えた上で、バットを短く持つ。




―ストレート…、あっ!!

パコッ!


『低目のカーブ、これは打ち取った内野フライ!』

―やってもうた…。でも1塁まで走らな…。

 完全なミスショットでも1塁へ走る津久田をよそに、ピッチャー兵庫、ファースト三国、セカンド滝谷の3者がその打球を見る。


『3人が落下地点…、おっとっと!?』


「誰か声掛けて!」

 見合い過ぎてボールが落ちる寸前、3者が一斉にグローブやミットを差し出す。打球は。




「キャ、キャーッチ!」


『セカンド滝谷が捕っていました! 3アウトチェンジ、ランナー3塁に残塁!』

『グラウンドに落ちる寸前で良く間に合いましたね。只今の様に複数の選手が打球を追っている時は、声を掛けるなり大きくジェスチャーするなり、3人とも打球に集中していたとは言えもう少し誰が捕るかはっきりわかるとスムーズに捕れたかもしれません』


―良かった…。最後ちょっとヒヤッとしたとは言え、リフレッシュ作戦は成功したか…。


 あわやというプレーはあったが、どうにか6回の裏の守備を0で抑えたことに安堵の一息を吐いた春江、他の選手共々ベンチへ戻る。




 2アウト3塁、ランナーはどんな打球でも打ったらGOという場面(シチュエーション)なので、万一捕れなければ同点であった。結果的には0で、坂井スローパーズのバッテリーのリフレッシュ作戦も成功したとは言え、大きな課題が見つかったイニングでもあった。

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