再会のネット越し
インターハイ京都府予選、初日の体育館。
会場に充満するのは、数多くの高校の熱気と、張り詰めた緊張感、そして大量の汗が床を湿らせた独特の匂いだ。
鳳凰学院の初戦の相手は、県内の古豪。監督は涼しい顔で戦術ボードを叩いている。
「リードブロックで相手の癖を絞りなさい。ボールが上がった場所を追うのは素人。相手の肩の向きを見て、ボールが来る前に壁を完成させるのよ♡」
私はコートの最後尾に立ち、深呼吸をした。
中学時代の仲間、美咲や優子も、今頃どこかの会場で戦っているはずだ。同じバレーボールというパズルに挑んでいる仲間として、離れていても気持ちは通じている――そう信じることで、心拍数を一定に保つ。
ホイッスルが鳴り、試合が始まった。
相手のアタッカーは鋭いスパイクを打ち込んでくる。しかし、監督の教え通りに肩の向きを読み、ブロックが完璧な位置で壁を作る。私はそのこぼれ球を、正確なレシーブでセッターへと繋いだ。
『繋げ!』
自分の中で、姉のピアノの旋律が静かに流れる。一音一音、確かめるように。
父が教えてくれた、あの力強い蹄の音のように。
その時だった。隣のコートで試合をしていた他校の選手たちが、私たちの試合を横目に通り過ぎた。その中に、見覚えのある顔があった。中学時代のチームメイト、佐藤さんだ。彼女は今、別の強豪校のジャージを着ている。
目が合った一瞬、彼女が少しだけ悔しそうに、でも誇らしげに微笑んだ。
ネット越しに戦うのが、次か、その次か、あるいは全国への決勝か。場所は違えど、私たちは同じ道を進んでいる。
「清水、集中! 次のローテーション、パイプ攻撃のサインよ!」
先輩の鋭い声に、私はすぐに現実に引き戻される。
パイプ――前衛のアタッカーを囮にし、後衛から中央を突き抜ける速攻。
私はバックアタックの助走に入る。床を蹴る力、空中で静止したような一瞬の感覚。
ボールが私の掌にジャストミートし、相手コートの真ん中を射抜いた。
「よしッ!」
チームメイトが駆け寄り、私の背中を叩く。
中学の三年間では味わえなかった、強豪校ならではの組織的な勝利の感覚。
私は心の中で、小さく姉と父に呟く。
見てる? 私、ちゃんと自分の場所で戦えてるよ。
試合後、汗だくのまま控え室に向かう廊下で、また玲司さんにすれ違った。
彼は彼で、先ほどの試合で圧倒的なパフォーマンスを見せたばかりのようだった。額の汗を拭いながら、私を見て軽く手を振る。
「……ナイスプレーだったね、清水さん」
「えっ、見てくださってたんですか?」
「ああ。君のレシーブ、凄く綺麗だったよ。……京都の夏、まだまだこれからだね」
彼はそう言って、爽やかに笑って去っていった。
胸が、また少しだけ高鳴る。
この高鳴りも、全国へのプレッシャーも、全部私の一部だ。
「恋なんて知らへん」
そう言い切る強がりな私が、少しだけ塗り替えられていくような、そんなインターハイ予選の午後だった。




