表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/27

再会のネット越し

インターハイ京都府予選、初日の体育館。

会場に充満するのは、数多くの高校の熱気と、張り詰めた緊張感、そして大量の汗が床を湿らせた独特の匂いだ。


鳳凰学院の初戦の相手は、県内の古豪。監督は涼しい顔で戦術ボードを叩いている。


「リードブロックで相手の癖を絞りなさい。ボールが上がった場所を追うのは素人。相手の肩の向きを見て、ボールが来る前に壁を完成させるのよ♡」


私はコートの最後尾に立ち、深呼吸をした。

中学時代の仲間、美咲みさき優子ゆうこも、今頃どこかの会場で戦っているはずだ。同じバレーボールというパズルに挑んでいる仲間として、離れていても気持ちは通じている――そう信じることで、心拍数を一定に保つ。


ホイッスルが鳴り、試合が始まった。

相手のアタッカーは鋭いスパイクを打ち込んでくる。しかし、監督の教え通りに肩の向きを読み、ブロックが完璧な位置で壁を作る。私はそのこぼれ球を、正確なレシーブでセッターへと繋いだ。


『繋げ!』


自分の中で、姉のピアノの旋律が静かに流れる。一音一音、確かめるように。

父が教えてくれた、あの力強い蹄の音のように。


その時だった。隣のコートで試合をしていた他校の選手たちが、私たちの試合を横目に通り過ぎた。その中に、見覚えのある顔があった。中学時代のチームメイト、佐藤さんだ。彼女は今、別の強豪校のジャージを着ている。


目が合った一瞬、彼女が少しだけ悔しそうに、でも誇らしげに微笑んだ。

ネット越しに戦うのが、次か、その次か、あるいは全国への決勝か。場所は違えど、私たちは同じ道を進んでいる。


「清水、集中! 次のローテーション、パイプ攻撃のサインよ!」


先輩の鋭い声に、私はすぐに現実に引き戻される。

パイプ――前衛のアタッカーを囮にし、後衛から中央を突き抜ける速攻。

私はバックアタックの助走に入る。床を蹴る力、空中で静止したような一瞬の感覚。


ボールが私の掌にジャストミートし、相手コートの真ん中を射抜いた。


「よしッ!」


チームメイトが駆け寄り、私の背中を叩く。

中学の三年間では味わえなかった、強豪校ならではの組織的な勝利の感覚。

私は心の中で、小さく姉と父に呟く。

見てる? 私、ちゃんと自分の場所で戦えてるよ。


試合後、汗だくのまま控え室に向かう廊下で、また玲司さんにすれ違った。

彼は彼で、先ほどの試合で圧倒的なパフォーマンスを見せたばかりのようだった。額の汗を拭いながら、私を見て軽く手を振る。


「……ナイスプレーだったね、清水さん」


「えっ、見てくださってたんですか?」


「ああ。君のレシーブ、凄く綺麗だったよ。……京都の夏、まだまだこれからだね」


彼はそう言って、爽やかに笑って去っていった。

胸が、また少しだけ高鳴る。

この高鳴りも、全国へのプレッシャーも、全部私の一部だ。


「恋なんて知らへん」

そう言い切る強がりな私が、少しだけ塗り替えられていくような、そんなインターハイ予選の午後だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ