インターハイ予選、その温度
七月半ば。京都の夏は、本格的な湿気を帯びて身体にまとわりつく。
鳳凰学院女子バレー部にとって、最も重要な季節――インターハイ予選が目前に迫っていた。
体育館は朝から異様な熱気に包まれている。
監督の指示出しにも一層熱が入り、先輩たちの掛け声は喉から血が出るのではないかと思うほど鋭い。
「清水、トスの回転。お姉さんたちの打ちやすい『無回転』を意識しなさい。あなたの指先は繊細でしょ♡」
私は頷き、トスを上げる。
中学時代、自分はアタッカーだった。打つ側の気持ちは誰よりも分かる。だからこそ、自分の指先から離れるボールの一ミリのズレが、どれほど攻撃を台無しにするかも理解している。
練習の合間、ふとスマホを覗くと、中学時代の友人たちからのグループメッセージが通知されていた。みんなもそれぞれの高校で、予選に向けて死に物狂いで練習しているようだ。
『頑張ろうね』。短いが、その言葉には中学三年間で培った信頼が詰まっている。
午後、予選会場となる体育館へ向かうための最終調整に入った。
ふと、通りかかった校舎の渡り廊下で、九条玲司さんとすれ違った。彼は男子バレー部の練習着姿で、手にスポーツドリンクのボトルを二つ持っている。
「お疲れ、清水さん。……インターハイ予選、いよいよだね」
「はい。……緊張と、楽しみが半分ずつです」
玲司さんは優しく微笑むと、片方のボトルを私に差し出した。
「これ。差し入れ。……僕らも同じ会場で試合があるんだ。お互い、悔いのない夏にしよう」
「……ありがとうございます。頑張ります」
冷えたボトルの感触が、掌を通じて全身に伝わる。
ただの差し入れかもしれない。でも、この重みが今の私にはとても温かい。
「恋なんて知らへん」と言い切る自分の中に、誰かが入り込む余地なんてないと思っていた。だけど、彼からの応援が、強張っていた私の筋肉をわずかに緩めてくれる。
翌日。予選初日。
体育館に入った瞬間、張り詰めた空気に足がすくみそうになった。
京都府内屈指の強豪とはいえ、この緊張感は何度経験しても慣れることはない。
コートに足を踏み入れる。床の冷たさと、空気中に漂う熱気が、中学時代とは違う「勝負の匂い」として鼻腔をくすぐる。
「……行くよ」
私は小さく呟き、ユニフォームの裾を整えた。
姉がかつて弾いていたピアノの音色のように、凛として、それでいて誰かの心に響くプレーを。
父が教えてくれた馬たちのように、ゴールだけを見据えて全力で駆け抜けるプレーを。
試合開始のホイッスルが、体育館に高く鳴り響く。
私の青春が、京都の夏と共に、全国への扉をこじ開けようと動き出した。




