ファースト・アタック
合宿最終日。再び相まみえた聖華女子とのコート。
昨日あれほど完璧に叩きのめされたというのに、私たちのコートに悲壮感はなかった。むしろ、心地よいピリピリとした緊張感が皮膚を刺す。
「昨日であきらめて帰ると思っていたけれど。少しは良い顔になったじゃない、宗子」
ネット越しに、怜がいつもと変わらない優雅な微笑みを向けてくる。
けれど、その目が私の泥だらけの膝と、結衣たちのギラギラとした視線をとらえた瞬間、わずかに細められた。
「……始めるわよ」
ホイッスルが鳴り響く。
先制のサーブは聖華女子。昨日、幾度となく私たちのレシーブを弾いた、鋭く重い無回転サーブが美咲の前に落ちる。
「拾う――ッ!」
美咲が体ごと床に滑り込んだ。綺麗なフォームなんて二の次。顎を床に打ち付けながらも、執念でボールを上に跳ね上げる。
「美咲、ナイス!」
上がったボールは、ネット際へルーズに流れる、昨日なら「ミス」と呼ぶべき不揃いな軌道。
聖華のブロック陣が、私のスパイクに備えて一斉に跳び上がる。その動きは相変わらず完璧で、隙がない。
しかし、私の頭の中は驚くほど静かだった。
完璧な楽譜なんて、もういらない。
「結衣、走って!」
空中でボールに触れる直前、私はあえてトスを『低く、速く』、そして結衣の利き手とは逆の方向へ放り投げた。常識外れの、乱暴なパス。
「だと思ったよ、宗子ぉ!」
だが、結衣は最初から信じて突っ込んできていた。
崩れた体勢のまま、空中で無理やり体をねじり、左手でボールを引っ叩く。
ドォン!
ボールは聖華のブロックの手のひらを掠め、彼女たちのコートの隅、誰もいないデッドスペースへと突き刺さった。
「……!」
静まり返る体育館。
聖華のレシーバーたちが、呆然とした表情でボールの落ちた場所を見つめている。完璧な位置取りをしていたはずの彼女たちの守備陣を、結衣の「歪な体勢からの強打」が完全に置き去りにしたのだ。
「よしっ……!」
結衣が叫び、美咲と拳を合わせる。
ネットの向こうで、怜の眉が微かに動いた。
「なるほどね。綺麗に崩れるのをやめて、泥臭く牙を剥くことに決めたわけだ」
怜の目が、初めて冷徹な「捕食者」のそれに変わる。
「いいわ。その不協和音、どこまで私たちのテンポに耐えられるかしら」
私たちの進化したカオス・アンサンブルが、絶対王者のメトロノームに小さな、しかし確実な「狂い」を生じさせた。
運命の第2ラウンド。ここからが、本当の戦いだ。




